ジルと別れてから数日後、ジャンヌの家族に訃報を告げた。
全員が泣き、ジャック義兄さんには殴られた。
で、それから大体40年が経った頃の話。
1476年の、ルーマニアはワラキアでのこと。
「あー、血が欲しい」
血液を欲して、戦場を渡り歩く。
幸い、この時代の欧州は戦場に事欠かない。
肉体の維持に必要な血液を得るのに、身を隠したりといちいち気を使わなくて済む。
最近、この近辺でデカイ戦があると聞いて、ブカレストまで来たのだが。
「ま、この規模なら申し分はないな」
両軍から轟く怒号。
無数に蠢く人の群れ。
獣の因子を、200程度解放する。
ああ、腹が減った。
「コケ?」
だからなんで、お前が出るんだ。
「…………そこな魔法使い、ここで何をしている?」
「何だっていいだろう?てか、お前よく俺が魔法使いって分かったな」
「先刻、使い魔を召喚したのが見えたからな」
ちょっと時間が過ぎ、夕暮れ時の時間。
手に禍々しい槍を携え、血濡れの黒い鎧を着た中年の男が、食事中に話しかけてきた。
つーか、戦場はどうした、おい。
「しかし、これは困った」
「何がだ?」
顎に手を当て、なんか言い出す男。
「お前が魔法使いならば、俺が神の元に送ってやらねばならんだろうよ!」
「一応、あんたと同じキリスト教徒なんだがな」
俺の首からかかっている、ジャンヌの形見。
それが、今の俺の立場を表していた。
「それでもだ!ヌエィリャァッ!!」
「ちったぁ躊躇えよ!」
ガキンッ!
鎧の男の槍が大振りに降られ、人体と金属がぶつかったのでは到底出ないような音が周囲に渡る。
「ヌゥッ?!」
「お前じゃあ、俺を殺せない。なあ、ヴラドⅢ世」
対峙するは、狂気に堕ちた統治者。
後のドラキュラ伯の原型。
相手にとって、不足はない。
「ハアアァァァァッッッ!!!」
「熱いなぁ、おい」
無駄な攻撃を繰り返すヴラドⅢ世。
『十二の試練』による守りは、英霊になってもいないただの人間の攻撃を、完全に無効化している。
幾度攻撃を加えられても、この身が損なわれることはない。
「まだまだぁっ!」
「効かないって」
そう、効かないだけなのだ。
ゴキャッ
「ウゴッ?!」
「………むぅ?」
ヴラドの振るった槍による一撃が、俺の頭に叩き込まれる。
それだけならば、問題などなかった。
が、
「く、首があぁぁぁぁっっっ!!?」
俺の首の筋力が、その威力に耐え切れなかった。
「………死にはしないようだが、……………むぅ」
………同情されちまったよ、おい。
止めて、そんな目で見ないで。
見た目17から変わってないけど、とりあえずあんたより年上(今年で62歳!)だから。
ああ、そうだ。
「契約しよう。お前は生きたまま、溶かすように咀嚼してやる」
「………それは八つ当たりか?」
「痛みに対する、正当な復讐だ」
うん。
傍から見たら、完全な八つ当たりだよね。
慢心してたわ、俺。
その夜。
「これでしばらくは、喰わんでも大丈夫だな」
腹は一杯になった。
まあ、300人強も喰えばな。
しかしまあ、
「あそこでオスマン軍が、大挙して来るとは」
あまり姿をさらしたくはないため、あの場でトンズラこいたわけだが。
ヴラドⅢ世は、無事だったのだろうか。
……………無理だな。
あの数に対して、単独で生き残ることは絶望的だろう。
「………しっかし、あれが英霊になると、ああなるのか」
前世で見た、ヴラドⅢ世の姿を思い浮かべる。
………そこまで狂っているようには見えなかったが。
あれか、後の伝承に影響を受けたのか。
「ま、終わったことだな」
さて、次はどこに行こうか?
死徒対ヴァンパイアの原点。
軍配は死徒に上がりました。