書くかは悩みましたけど、書くことにしました。
「Scenes of my childhood arise before my gaze~♪」
1888年11月8日。
ロンドン、イーストエンドの薄汚い路地裏。
酒の空き瓶や紙くずが道端に転がり、空は工場の排煙が覆う。
そのお世辞にも人が住む環境としては適切とはいけない地域を、一人の売春婦が仕事を終えて流行り歌を歌いながら帰路を歩く。
「Bringing recollections of bygone happy days~♪」
その足取りは軽く、歌もどこか調子が良い。
今日は上客でも入ったのだろうか。
「When down in the meadow in childhood I would roam~♪」
だからだろうか。
今この町には、後の歴史に名を残すほどの殺人鬼がいるというのに、これほどまで無警戒なのは。
「No one's left to cheer me now within that good old home~♪」
ボロボロのアパートの扉の鍵を開け、取っ手に手をかけ中に入る。
ダッ!
と、その瞬間に駆け出した小柄な影が、その閉まるか閉まらないかのわずかな影に身を滑らせようとする。
女はまだ、それに気づかない。
そして、その身が部屋の中に入るかはいらないかのその瞬間。
「ちょぉっと待ちな、お嬢ちゃん」
「ッ?!」
その
それが現れるまでその存在に気づかず、そして何より
パタンッ
「…あ」
その目の前で、無情にも閉じられる扉。
「…なんで?」
「あん?」
「なんで邪魔したの?」
自分の目的が妨げられたためか、少女は抑揚のない声で訊く。
それに対して男は、
「………歌がな」
「歌?」
「俺の幼馴染が好きだった歌を、あの女が歌ってたからかなぁ」
ただ、それだけ。
まるで気まぐれとでも言えるかのような理由で、自分の目的は邪魔をされた。
「ふざk「俺はふざけてないし、ふざけてんのはお前だ。『ジャック・ザ・リッパー』」
「…私は、ママを探しているだけ」
「で、違ったら殺しているってわけか」
男の眼が、冷めたものになる。
少女はその眼光に怯みながらも、
「…そう」
と答えた。
それを聞いた男は、
「…まあ、俺がお前のことをどうこう言える立場じゃないが、殺すのはやめておけ」
「地獄行きになるから?」
女王も信仰するほど盛んなこの国では、キリスト教的な考え方が重く見られている。
少女も、男が言いたいことが、そういうことかと思った。
「母ちゃんに逢ったとき、泣かせるからだ」
「っ」
でも、男はそんなことは言ってなかった。
ただ、少女と母親が逢った時のことだけを言っていた。
「………ママ」
ポツリと、少女が呟く。
それを聞いた男は、
「………ククッ。…Scenes of my childhood arise before my gaze~♪」
どこか安心したように笑ってから、小声で歌いつつその場を立ち去る。
後に残された少女も、いつしかどこかに行ってしまった。
その日以降、ロンドンのガス灯の明かりが陰るような事件は、起きることはなかった。
この話における『ジャック・ザ・リッパー』は、『Fate/apocrypha』のジャックです。
だから少女でした。