中東のとある紛争地帯。
世界樹との契約により魔力に不安はなくなったが、それでも吸血鬼の
「そろそろ次の村か?」
地図によると、次の村は近いようだ。
そこで一泊してから、本格的にドンパチやっているところに向かおう。
「と、思っていたんだが」
村中から漂う、流れてから数日程度経ったであろう血の臭い。
そして焼かれて炭になった家々の残骸が、ほんの最近までここに村があったことを教える。
「内乱に巻き込まれたみたいだな」
幸いと言うかなんと言うか、若干焼け残った建物もあるから、野宿になることはないだろう。
それよりも、
「何で死体が見つからないんだ?」
どれほど歩いても、一向に見つからない死体。
数日経って薄れているとはいえ、ここまでハッキリと血の臭いがするのに死体がどこにもないなんてのは、ありえない。
よく見れば砂埃で隠れてしまっているものの、引きずったような血痕が伸びている。
死体を引きずった後があるということは、少なからずこの先には人がいるはず。
血痕を辿って歩くと、その先には、
「………おいおい」
村を出てすぐの所に広がる荒野に、家の残骸で作ったのであろう、簡素な作りの墓標がいくつも立っていた。
その墓標の群れの真ん中で、二つの墓を前に座り込んでいる少女がいる。
「お嬢ちゃん」
「…………………」
近づいて声をかけると、無言でこちらを振り向く。
その眼には、光がなかった。
「この墓を作ったのは、誰か分かるか?」
「…わたし。ぜんぶ、わたしがつくったの」
「………そっか」
こんな子供が重い死体を運び、これだけの数の墓を作ったのには驚きだが、今俺がするべきことは、そんなことを気にすることじゃない。
背負っていた鞄から聖書を取り出し、聖句を読み上げ最後に一言。
「Amen」
「…ありがと。…しんぷさんだったの?」
「いんや。ただの長いこと信仰している信徒さ」
しかし、中東はイスラムが幅を利かせている地域だから、この子供が俺に敵意を持ちやしないか危惧したが、大丈夫そうだな。
「さて」
「…?」
俺が後すべきことは、
「お前が取れる道は三つある。一つは俺と一緒にまだ無事な町まで行き、孤児院に入ること。二つ目は赤十字か国連に保護してもらう。で、三つ目だが」
いい加減一人旅も寂しくなってきたから、できればこれを選んで欲しいところだが、
「今日会ったばかりのお兄さんの寂しい一人旅に、娘として一緒についていくこと」
「…娘?」
「そう。パスポートを偽造するにしても、そっちのほうが色々と都合がいいしな」
少女は黒髪褐色肌だが、俺は黄色人種。
俺の外見年齢は17のときで止まっているから、本当は兄弟にしたいところだが不自然すぎる。
それならば親子にして、母親と同じ肌の色で生まれたことにしたほうが、後々便利だ。
それに、500歳も過ぎて新しく妹ができるのはなんか嫌だし。
「で、どれにする?」
「………………………」
長く、長く考えた後、少女が出した結論は、
「…みっつめ」
「本当に、それで良いのか?」
「うん」
何を思って、どうこの結論を出したのかは知らないが、それで良いのなら俺も良い。
「俺は『水無月 六禄』。お前は?」
「『マナ・アルカナ』」
「そうか。じゃ、今日からは『水無月 マナ』………いや、親子なのに、娘がカタカナなのはおかしいか」
そうだな。
「…『真名』、がいいな。よし。『水無月 真名』が、今日からお前の名前だ」
「…真名」
その名前を確かめるかのように繰り返す、真名の手を握り歩き出す。
少し歩いてから首だけで振り返り、そこに眠る人たちに誓う。
あんたたちの娘は、俺が嫁に送ってやる。
と。
て、こいつ原作キャラじゃねえか?
まあ、そんなことは、どうでもいいか。
あれから数ヶ月が経った。
拾ったときは四歳だった真名も五歳になり、俺にも随分と懐いてくれた。
真名の学校のこともあるし、そろそろどこかに腰を落ち着けることにした俺は、とりあえず故郷の日本に戻っていた。
そしてまた京都。
港に着いたときに、一番早い船の便で来たがなぜまた京都。
俺は京都に、ずいぶんと縁があるらしい。
「おとーさん!おとーさん!」
「ん~?どうした真名?」
会ったばかりの頃は暗かった真名も、この数ヶ月でだいぶ明るくなった。
たぶん、元々こういう性格だったのが、戻ってきたんだろう。
「おだんご!おだんごほしい!」
「宇治茶味で良いか?」
「ももがいいー!」
で、今いるところは鹿苑寺、通称金閣寺だ。
その敷地内の団子屋にいるんだが、
その言葉、後悔するなよ?
「………あみゃい」
「知ってた」
あそこの桃味は、めちゃくちゃ甘いから正直きつい。
中学の修学旅行で、学んだことだ。
さて、後は銀閣寺でも見に行くか。
「おとーさん。そのおちゃのちょーだい」
「残念ながら、既に串だけだ」
「あうー」
我が娘ながら、可愛いなチクショー。
「で、こうして道に迷ったわけだが」
「ちずみなかったもんねー」
まあ、だからって山で迷うってのもおかしな話だが。
市街地からどうやってきたんだ、俺よ?
というか、これは遭難というのでは?
「しょうがない。分体を飛ばして、道を探すか」
「とりさんー!」
よっと。
とりあえず、30もあれば十分だろう。
「コケ?」
久しぶりだが、お前は戻れ。
「………お?」
「どーしたの?」
目を閉じて、分体と視覚共有をしていたが、これは………。
「真名。兄弟ができるかもしれんぞ?」
「おとーさんがいればいー!」
嬉しいが、それだとお前の将来が心配だ。
で、
「おー、いたいた」
「っ!?」
山中を、藪を掻き分けて進んだ結果、10分ほどで出会った。
分体が見つけた者。
それは、羽の生えた白い幼女と、その腕に抱えられた犬耳の赤ん坊だった。
「お嬢ちゃん。その犬耳は、あんたの弟か?」
「…だれ?!」
おぉう。
話が噛み合わない。
「んー?水無月 六禄ってんだけど、お嬢ちゃんは?」
「………せつな」
ちゃんと名前を言えたか。
素直でよろしい。
「で、話を戻すけど」
「………弟やない。でも、似たようなものや」
「ああ。お前ら、捨て子仲間か」
「っ!」
白い羽に、白髪赤目。
この子、忌み子か。
たしか、原作でいたな。
それと、この犬耳も狗族とのハーフか?
どっかで拾ったな?
「ま、どうでもいいか。ほれ、着いてきな」
「え?!」
え?!
て、ガキが何を驚く。
「どうせ行くとこがないんだろ?じゃあ、着いてきな」
「………なんで?何でそんなことを言ってくれるん?」
俺の言葉を疑いもしないよ、この子。
今遭えて、本当に良かったな。
おい。
「ククッ!俺も混ざりもんだからな」
1、2体だけ、分体を開放してみせる。
原作突入の10年前。
俺は三児の父になった。
というわけで、三児の父になりました。