さて、子供を三人も持ってしまった俺だが、とりあえず定職には着けた。
麻帆良学園都市内の、麻帆良教会の神父だ。
学園長とか言う爺(ぬらりひょん)と、交渉(麻帆良の住人の命を盾にした脅迫)をして手に入れたポジションだ。
何で麻帆良かって?
学園長の命令一つで、どうとでもなるところだから。
後、子供たちをキチンと学校に行かせたかったし。
しかしあの後頭部。
脳が詰まっているのか、頭蓋骨なのか。
解せぬ。
「ま、どうでもいいが」
たとえなんであろうとも、俺には関係のない話だ。
で、麻帆良教会で神父を始めて五年が経ったんだが、
「水無月神父!ちゃんと仕事をしてください!」
「安心しろシャークティーちゃん。きちんと監督役としての職務は果たしている」
「ここは冬木じゃありません!」
だよねー。
毎日のようにこの教会の真の主、シスター・シャークティーに叱られる。
シスターに叱られる神父とは、果たして需要があるのだろうか?
「そういえば、そろそろガキ共が帰ってくる時間か?」
「あれ?私の話は無視ですか?」
もちろん無視だ。
しかし五年だ。
真名と刹那は10歳になって小四だし、小太郎も来年小学校に上がる。
今の時間は幼稚園で、友達と遊んでいるはずだ。
時の流れは速い。
この年になると特にだ。
えーと、1429年の時点で17歳で、今が1998年なんだから………、569歳か。
良かった。
まだ六百の大台には乗っていない。
て、あれ?
「懺悔室に、誰か入ってるのか?」
「?…そのようですね。明かりが点いていますし」
うちの懺悔室は、誰かが入ってるのが分かりやすいように、扉の窓から中の明かりが見える造りになっている。
まだ14:30くらいだぞ?
何でこんな時間から?
「ま、お仕事してきますか」
「頑張ってくださいね?」
「何を頑張れと」
いや、時々鬱な感じの人が来て、それに飲み込まれることはあるけどさ。
まあ、そんな感情はさっさと切り捨てているが。
「さてさて、どんな悩みを抱えているのやら」
ところで、シャークティーちゃんの方が、この仕事むいている気がしないでもないんだけど?
~Side千雨~
私の名前は『長谷川 千雨』。
10歳だ。
私には今、大きな悩みがある。
そこで、学校のクラスでなんか評判な、ここの懺悔室に来てみたんだが。
ガチャっ
あ、神父さんが来たな。
「迷える子羊よ、形だけでも神に祈っとけ」
…………なんか、おかしい。
え?
今の神父の発言?
え?
えぇ?
「いいかー。祈ったからって、神様が救ってくれるなんて甘えたこと考えんじゃねえぞ」
あの?
ちょっと?
「神様に祈るくらいなら、自分でどうにかしろ。でも、ここは教会だから、形だけでも祈っておくように。以上、懺悔終了!」
「ちょっと待てぇぇぇぇっっ!!!!」
終わった?!
私まだ、悩みとか言ってないよね?!
なのに終わるって、どういうことだよ?!
「………水無月神父?」
「あの、シャークティーちゃ……さん?」
「また懺悔を適当に切り上げようとしましたね?」
「いや、あの、そろそろガキ共も帰ってくるしね?」
「問答無用です!」
「ちょ!石を抱くのはやめ!トラウマが!トラウマがああアアァァァァッッッ!!!!」
………本当に、評判がいいのだろうか?
「で?悩みってのは?」
あれから10分ほどして、回復した神父さんが真面目に懺悔をする。
「………実は、私学校で虐められてるんです」
「………呪殺はうちの神様の領分外なんだが」
ちげえよ。
「そうじゃなくて、その理由が、皆と私が違うからなんです」
「まあ、大概の虐めの理由がそれだがな」
いや、そうなんだろうけど。
「皆と私の、常識が違うんです。皆、人がトラックに轢かれそうになっても笑って済ませちゃうし、それに、あんな大きな木があっても当たり前だみたいな感じで!」
「あー、なるほどねえ。うん。状況は分かった」
「………私は、一体どうすればいいんですか?」
返ってきた答え、それは、
「お嬢ちゃん、そもそも常識って何よ?」
私への、問いかけだった。
~Side六禄~
「常識、ですか?」
「そう。常識」
まず、この子は勘違いしてるわ。
とりあえず、そこから直すか。
「お嬢ちゃん、地球は平らか、それとも丸いか。どっちだ?」
「馬鹿にしないでください!丸いに決まってます!」
そうそう。
「うん、正解だ。でもね、それが常識になったのは、割と最近のことなんだぞ?」
「それが何だって言うんですか!?」
怒鳴るなクソガキ。
耳に響く。
「じゃあ、お嬢ちゃんの悩みはなんだったけか?」
「それは………」
「そう、『他人と常識が違うこと』だ」
常識なんて、ちょっと時代が変われば移ろう、儚いものなんだぞ?
「もう一つ、この地球の真裏には、毎日をゴミ溜めで暮らして、食べるものさえ満足にない、丁度お嬢ちゃんと同じ年頃の子供がうじゃうじゃいます。その子たちからすれば、毎日綺麗な場所で生活できて、食べるものに事欠かない生活なんて、常識の外。これも、お嬢ちゃんの常識的にはどうかな?」
「その………」
まあ、結局何が言いたいかっていうと、
「他人と違う?だからなんだ。常識?そんなもん違って当たり前だ」
生活環境や個性、他にも常識なんてもんを変化させる因子なんて、腐るほどある。
「顔を上げろ。常識が違うから虐められる?お前はお前だ。そんなもん、鼻で笑い飛ばせ」
「うっ、うぅぅっっ………」
顔見せ防止の格子の向こうから、嗚咽が聞こえてくる。
「まあ、それでも無理だって言うならよ」
一度外に出て、子羊部屋の戸を開ける。
そこには、うちの子供たちと同じくらいの女の子が泣いていた。
こっちを見るその顔は、可愛い部類に入るだろう。
「ほら、来な。三時のおやつくらいなら、いつでも出してやる」
カラーンッ
と鐘が鳴り、三時を告げた。
「「「ただいまー!」」」
ああ、うちの子供たちも帰ってきたみたいだ。
て、ん?
「おい。お前、学校サボったろ?」
「うっ!」
どうしようもねえな、おい。
神父になった主人公。
向いているかどうかは別にして、なんだかんだで仕事はします。