お待ちかねの、あのヒロインが出ます。
聖女とインスマウス。
フランス軍がテントを組上げた頃合を見計らい、陣に近づく。
さて、どうしたものやら。
「見つかると面倒臭えしなあ」
絶対に聖女さんは奥の方のテントだろうし。
獣の因子の中には鳥系統のものもあるが、できれば俺自身の目で見たいし。
「ん~~~~~。某蛇の如くダンボールでもかぶるか?」
※この時代にそんなものはありません。
「適当にいくつか獣を放って、騒ぎを起こすか」
これが無難だろう。
ちなみに、かつて忍者たちも同じ手を使って潜入していたらしい。
これを『虫獣遁の術』という。
「そんじゃあまあ、盛大にいきますかぁ!」
オオオオォォォォォォォォォォッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!
666の因子の内、300を解き放つ。
幾百もの獣たちが咆哮する。
さすがに、それだけの数ともなれば壮観だ。
「さあ!暴れろぉっ!!」
獣たちが駆ける。
人が逃げ惑う。
「な、なんだあ?!こいつらはぁ?!」
「剣も槍も、矢も効かないぞ?!」
「俺の斧もだ!」
どうやら、獣たちにも『十二の試練』はしっかり機能しているようだ。
今回出した獣たちは、とりあえず欧州に姿と名前が広まっているものをチョイスしておいた。
幻獣なんかはさすがに出せない。
まあ、なんにしろ当初の目的は果たせそうだ。
「さてと、この隙に」
さてさて、聖女さんはどちらかなっと。
と、これは、
「なんか立派なテント」
適当にぶらついていたら、なんか士官用っぽいテントが見えた。
ここかな?
俺が起こした騒ぎで逃げてなきゃいいが。
「じゃまするよー」
テントの入り口から普通に入ると、
「何者だ?!」
「イングランドの手の者か?!」
「この騒ぎは何だ?!」
めっちゃ騒がれた。
そりゃ当たり前だろう。
外がこんだけ騒がしいんだ、そこに見慣れない格好をしたやつが現れてみろ、十中八九敵だと思うだろう。
俺だって思う。
「早く答えよ!」
「そんなにカッカしないで。とりあえずあんたらの敵ではないよ」
騒ぎを起こしたけど。
「貴様は何者なんだ?!」
うるさいのは無視して、テントの中を見回す。
士官用というよりも、会議室になっているテントの隅に、わずかに震えている少女がいるのを見つける。
後、それを守るためにかそいつの前に立っているギョロ目の騎士。
…………どっかで見た気が。
少女は聖女さんだろ?
騎士は何者だ?
この既視感は何だ?
「ま、自己紹介しようか。『水無月(みなづき) 六禄(むろく)』だ。この地方だと『ムロク ミナヅキ』だな。あんたらは?」
「……………私は警護の『シリル・アルベール』。この方たちは」
「いい。名前は本人から聞くものだ」
祖母ちゃんからよく言われていた。
「人の名前は、ちゃんと本人から聞きなさい」って。
人との繋がりがどうとか言っていたが、もはや覚えてはいない。
「………『ジャンヌ・ダルク』。………『聖女』と呼ばれています」
「どうもー」
やっぱりこいつがねぇ。
ただの女の子にしか見えんが。
「私は、『ジル・ド・レェ』といいます」
「よろしくー」
………………ん?
『ジル・ド・レェ』?
ギョロ目、オルレアン解放、騎士、ジル・ド・レェ。
………………………………………………。
Fate/Zeroのキャスターか?!
たしかに、この時点ではまだ騎士だったけど!
百年戦争でオルレアン解放にいたけど!
まさか、この世界だとこの時点でギョロ目だったとは………!?
「なぜだか、非常に不愉快なことを思われている気がするのですが?」
「気のせいだ。ジル・ド・レェ卿」
気のせいだとも。
ああ、そうだとも。
けっしてギョロ目とか思ってなどいない。
「…………まあ、よいでしょう。それで?貴方の目的は?」
「噂の聖女を見物に来た」
嘘じゃねえよ。
だからそんな疑った目で見るな。
こら、そこの聖女。
一歩引くんじゃない。
「………私の見物って、何でですか?」
「興味本位」
いや、他に理由はあるけどね。
とりあえず、今のこいつの立場を考えたら、この説明で納得してもらえるだろう。
「………外の騒ぎも、貴方ですか?」
「おう。大量の獣たちを暴れさせている」
むしろ、それしかできないのだが。
「兵たちは皆、行軍で疲弊している!いい加減に騒ぎを収めてください!」
ジル・ド・レェが激昂する。
このころはまだ、きちんと騎士をしていたからまともな感性を持っているようだ。
「ん~。いいよ」
ピタリ。
と、外の騒ぎが止む。
そして、
ウゾゾゾゾゾゾ!!!!!!
300もの命の混濁が、テント下部、地面との隙間から這い出でて俺へと戻る。
「はい、終わり」
………………周りからの反応が無い。
見渡してみると、
「貴様!魔法使いか!?異端なる者め!!」
………剣を抜いて、構えられていた。
いや、まあ正しい反応だけど。
「異端もクソも、俺は吸血鬼。化物だぜ?」
能力と肉体の維持に、吸血行為が必要なんだよね。
それも兼ねて戦地に来たんだが。
「………ならば!神の下で許しを乞うがいい!!」
騎士たちが、剣を振りかざす。
「待ってください!」
「「「ん?!」」」
一触即発の空気の中、男ではない高い声が響く。
「……………貴方は私の『見物』にいらしたんですよね?」
「そうだな」
なんだ?
急に?
さっきも言っただろう。
「…………では、『見物料』をお支払い頂けませんか?」
「金はねえ」
………ククッ。
……………………いや、分かっているけどね。
何を要求されるかなんて。
しかし、この無一文状態はいつか解決せねばな。
「………だったら、私とともに戦ってはくれませんか?」
「ククッ!ああ、いいとも。それに、俺の能力を見てのその態度」
笑いが止まらない。
口元が歪み、どんどん気分が高揚する。
「俺はあんたが気に入っちまったらしい。ジャンヌ・ダルク、俺はあんたに着いていこう」
絶対に、惚れたとは言わない。
まだまともな青髭さんでした。