で、麻帆良小学校体育館。
の、保護者席。
「あー、どっこいせっと」
自分でも爺臭いと思うような台詞を吐きながら、用意されていた椅子に座る。
む、この椅子、パイプ椅子の癖に随分とふかふかしているな。
麻帆良め、やるじゃないか。
「ま、そんなことはどうでもいい」
今はとにかく、小太郎を撮影する準備をしなくては。
ここからなら、小太郎がよく見える。
しかし、俺はもっと早く気がつくべきことを、この段階になって気付いてしまった。
ここからじゃあ、小太郎の後頭部しか見えない。
クソッ!
俺としたことが、これではガチガチに緊張した小太郎とか、学園長の話を聞いて眠そうにしている小太郎とか、隣の席の子供と仲良くなった小太郎とか、女子と手が触れ合って思わずお互いに紅くなる小太郎とかが映像に納められないじゃないか!!!
「よし、移動だ」
あ、奥さんちょっとすいません。
前通ります。
「ここならば良いだろう」
ここからだったら、小太郎の顔もよく見える。
あ、おっさん。
俺の前に座るんじゃない。
小太郎が見えないだろうが。
「しょうがない、立つか」
椅子の上に、カメラを構えて立ち上がる。
これで準備h「ちょっとお兄ちゃん!立たないでよ!」………大人しく座るか。
まあとにかく、三脚を設置してビデオカメラをセット。
一眼レフを構え、小太郎の顔にズームアップ。
パシャッ、パシャッ
と、シャッターの切れる音がする。
ああ、こうやって子供の写真を撮る時間は、正しく至福の時間だ。
パシャッ、パシャッ
しかし小太郎、あまり緊張してないようだな。
と、式が始まるか。
あ、小太郎の表情が変わった。
一気に緊張した顔になったぞ。
「あー、終わった終わった」
あれから一時間ほどして、ようやく式が終わった。
まったく、前世からどうにもああいう式典は苦手だ。
まあ、子供ができてからは、だいぶ悪くはなくなったが。
「父ちゃん」
「何だ?小太郎」
手を繋いで、一緒に帰路を歩く小太郎が話しかけてくる。
「刹那姉ちゃんに、俺の写真渡さんといて欲しいんやけど」
「えー、もう約束しちゃったんだけど」
そういうことは、もっと早く言ってくれよ。
「………刹那姉ちゃんな、こないだ風呂空いたって伝えに部屋開けたら、俺のパンツに顔埋めて臭い嗅いでたんや」
………おぉう。
自分の娘が、そこまで筋金入りの変態だったとは。
お父さん凹む。
まあ、俺に実害がないからいいが。
さて、そろそろ家に着くな。
真名と刹那は、今日は始業式だからもう帰っているはずだ。
よし、自宅に着いた。
「「ただいまー」」
「「おかえりなさーい!!」」
玄関を開けると、真名と刹那が出迎えてくれる。
「早く早く!ご飯冷めちゃうえ!」
「今日は私が作ったんだ」
おー、そうかそうか。
真名が昼飯を作ったのか。
「じゃあ、早く飯にしよう」
「「「おー!」」」
あ、そうだ。
「おい、小太郎」
「なんやー?」
「「「小学校入学、おめでとう!」」」
突然のことに、ポカンとした表情をする小太郎だが、すぐに、
「………へへっ!ありがとっ!」
嬉しそうに笑顔を見せる。
まったく、ジャンヌにも見せたいもんだ。
幸せだからこそ、そう思う。
子供が日々成長するのを実感して、嬉しく思うお父さんでした。