一夜明けてオルレアン門前。
「………なぜ来てしまった?」
必要とあらばジャンヌを掻っ攫うつもりで来ていたが、戦争に参加する気は若干程度しかなかったというのに。
「………こんにちは」
「おいっす」
声をかけてきた参戦の原因。
まあ、頼られたと思えば悪い気分ではないが。
「………申し訳ございません。……………本来なら、部外者の貴方にこんな」
「気にすんない。『見物料』を支払っているだけだ。それに、あの場はお前のおかげで穏便にすんだ。」
「!………分かっていたのですか」
あのままでは、俺の一方的な殺戮が始まっていた。
聖女はそれを防ぐために、あのような提案をしていた。
実際、契約は成立しているし気にすることは無い。
「………でも」
「俺は必要な血液が補充できる。お前らはオルレアンを解放できる。何一つ問題は無い」
「……………貴方は、戦うのが怖くないんですか?命を奪うことが、怖くないんですか?」
おおう。
まさかの質問だ。
まあ、答えならとっくに出てはいるが。
「戦うわけじゃない。俺の場合はただの食事だ。命を奪うって言われても、あんたらが豚やら何やらを食うのと似た感覚だしな」
「………………………………」
嘘だ。
確かに、戦うのは怖くはない。
喧嘩ばかりの人生だったから、行き過ぎて命のやり取りをしたことも多々ある。
だが、俺はまだ人間としての部分が強い。
吸血だけならまだしも、能力のことを考えたらどうしても『食べる』という選択肢しかない。
なのにどうして、家畜を食うのと同じ感覚になれるか。
なれるわけがない。
しかし、この世界に来て一ヶ月チョイ。
幸い、まだ吸血衝動は現れていないが、それも時間の問題。
肉体の維持もそろそろ限界だ。
人間としての部分は拒絶するが、それが必要であるならばするだけの話。
他人と自分なら、俺は何があろうとも自分を選ぶ。
まあ、そんな自分にムカついたりするわけなのだが。
「だから安心しろ。俺がお前の敵を喰らい尽くしてやる」
「………………分かりました。ですが、絶対にご無理をなさらないでください」
無理をするな、ねえ。
「阿呆。女の前でくらい格好付けさせろ。そのためなら、多少の無理くらいするさ」
惚れた女ならなおさら。
それが『男の子』ってもんだ。
さて、参戦が決定したが、ここで問題が生じる。
史実によれば、オルレアン解放は4月29日~5月7日の間に行われている。
俺が手を出せば、行軍の時間などを考慮して、実質三日あれば十分ケリがつく。
「でもなあ、それだと駄目なんだよなあ」
「……………何が、ですか?」
「ん~?全部俺が手を出すかどうかって話」
「………駄目、なんですか?」
「当たり前だ。戦争はな、一つの産業としての側面も持っている」
例えば、武器が当然必要になり、その手の商人が儲かる。
また、兵糧も必要だからその関係も儲かる。
まあ、兵糧に関しては臨時の税として取り立てるというパターンも多いが。
「兵士たちだって、手柄首を挙げて出世を狙っているし、俺が単騎で出れば被害は無いだろうがただでさえ薄い戦争の『意義』が消えちまうんだよなあ」
…………おい、そんなに驚いたような顔をするな。
なんだ?
俺がそんなことも分からない阿呆だとでも?
「…………驚きました。できるだけ人が死ななくてすむように、と思って行動してきたのですが。…………戦争に『意義』なんてあったなんて」
「ああ、戦争がくだらないいていう種類の人間だったか?まあ、実際くだらないな。悲しいことに、人が死ぬ条件、いや、『死のうとする』条件が整っているし」
「『死のうとする条件』ですか?なかなか面白そうな話をされていますな」
「ジル・ド・レェか」
いつの間にか後ろに立ちやがって。
見ろ、ジャンヌなんかビックリしすぎて顔が面白いことになっている。
「それで?『死のうとする条件』とは?」
「簡単だ。『護らなくてはいけない時』、これがその条件だ」
「………『護らなくてはいけない時』、ですか?」
「どういうことでしょうか?」
むう。
説明してもいいんだが。
……………面倒だな。
「俺も、俺の先生からの受け売りでな。答えはよく知らん。自分たちで考えてみてくれ」
「「………………………………………」」
うん。
問題を出すだけ出して、自分でもすごく無責任だと思う。
まあ、貴族なら分かってもらわなくては困る問題だが。
いや、片方は田舎娘か。
ちなみに、今の問題を出したのは中学の数学の先生だ。
因数分解の授業の最中に教えてくれたが、「本当は社会科の教師になりたかった」と言っていたのが記憶に残っている。
よく授業をサボって競馬をしている先生だった。
そのせいでPTAに訴えられて教師を辞めさせられかけたのを覚えている。
それも4回。
よく俺の卒業式まで残っていられたものだ。
「…………ある意味、聖女の奇跡を越えていたな」
「………え?」
「気にするな。こっちの話だ。まあとにかく、俺はジョーカーどころかワイルドカード。ここぞという時にしか出ない、と言うか出れないからな」
「………分かりました」
物分りがよくて助かる。
とりあえず、これで歴史が変わりすぎるのは防げそうだ。
「…………ところで、じょーかーとか、わいるどかーどとは何なのですか?」
「………カードしないの?」
「…………田舎育ちなので」
「………………………………………」
利己的でありながら、欲に塗れながら、矛盾を抱えながら、それでも答えを探し続ける、そんなどこまでも人間臭い主人公を目指しています。