次は愛していました。
最期は狂ってしまいました。
でも、私はあなたを愛しているのです。
槍と血液が衝突した結果は、
「槍、壊れちゃったね」
「みたいだな」
粉々に砕けた槍と、
「まあ、お前にくれてやるよ。667個目の、俺の命みたいなもんだったしな。冥土の土産に、持っていけ」
「アハハ………。うれしぃ…」
壊れた槍の穂先が当たり、頭部の電極を破損した菫だった。
「…そっかぁ。私、また死んじゃうんだね」
「………ああ」
電極が破損したせいか、フラフラとする菫。
その身体を抱き寄せ、支える。
「大丈夫か?」
「…大丈夫に見えたら凄いよね?」
そりゃそうだな。
もしそう見えたら、眼科か脳神経関係の科に行ったほうがいい。
「ねえ、まーくん」
「なんだ?」
俺の胸に顔を押し付ける菫。
「私が生まれた時、お母さんの病室に菫が飾ってあったから、『菫』って名前にしたんだって」
「そうか」
「菫の花言葉ってね、『小さな幸せ』なんだって」
「らしいな」
「…私は、小さな幸せで我慢しろって、神様が言ってるのかなぁ」
「………………」
「…まーくんと結婚して、子供もたくさん作って、たくさんたくさん幸せになりたかったなぁ……………」
「………そっか」
「ふぇ…うっ……うええぇぇぇ……………」
嗚咽。
どうにもそれが、ムカつく。
こいつに泣いて欲しくない。
頼むから、笑っていて欲しい。
「花言葉ってのは、花の色が変わるとその意味も変わるんだが」
「……………?」
密着したまま、顔だけを上げて俺の顔を見る。
「お前の親父からガキの頃聞いたんだがな、お前の母ちゃんの病室にあった菫は白だったらしい」
「……………え?」
「知っているか?白い菫の花言葉は、『無邪気な恋』なんだと」
「!」
ガキの頃、何で花を名前にしたのか気になって、菫の親父に訊いた時に言っていたことなんだがな。
「お前の親父がこの名前にしたらしいぞ?【無邪気に恋をして、たくさんの幸せを抱え込んで欲しいから】ってな」
「…………そう、なんだ」
死後、その身体は売られたかもしれない。
だが、お前は間違いなく祝福され、幸多かれと望まれて生まれてきたんだ。
「だから、親父さんを怨むなとは言わない。呪うなとも言わない。ただ、憎まないでやってくれ」
「………うん」
家族を憎しむのは、悲しすぎる。
まあ、結婚して、子供ができてから思ったことだがな。
「………ごめんね」
「…気にすんな」
何に対して謝っているのか。
泣いたことか、気を使わせたことか、殺そうとしたことか。
「お前に謝れると、調子が狂いそうだ」
「………アハハ」
泣いたせいでめちゃくちゃな顔を、グシグシと指で拭いてやる。
「めちゃくちゃだな」
「…はずかしぃ」
「ガキの頃から見てきただろ?今更過ぎる」
「………デリカシーなさ過ぎるよ」
ククッ。
それでいいじゃねえか。
男にそんなことを求めても、無駄なんだからよ。
「…もう、眠くなってきちゃった」
「そうか。じゃあ、子守唄くらいなら歌ってやる」
「………リクエストは?」
「応相談」
「………『A violet from mother's grave』」
子守唄としてはアレだが、お前の好きな歌だったしな。
地面に胡坐をかき、菫が寝やすいように体勢を変えてやる。
「Scenes of my childhood arise before my gaze~♪」
「…まーくん」
菫が話しかけてくるが、歌い続ける。
「…私ね」
その髪を指で梳きながら、歌う。
「…まーくんの…優しいとこ」
菫の顔に、ポツリと水滴が落ちる。
「………大…好きで」
その滴を指で拭うも、それはとめどなく菫の顔に落ち続ける。
「…デリカシーの………ないとこが嫌いで」
落ち続けるそれを拭いきることを諦めて、ただ、歌う。
「…そんな…まーくんの………」
歌う。
「……全…部を………愛してい…たんだよ?」
そう言った菫の目が、閉じる。
「This small violet I pluck'd from mother's grave…♪」
少し遠くで、膨大な魔力の奔流が起こる。
どうやら、原作通りにリョウメンスクナノカミが封印から解き放たれたようだ。
菫の身体を置き、立ち上がる。
「…父さん?」
「ちょっと、行って来る」
「…なんでだ?」
怪訝そうな、戸惑った感じの声を出す真名。
普段、自分と家族のこと以外はどうでもよさそうな俺が動こうとしているのが、不思議なんだろう。
理由は、とても簡単なんだがなぁ。
「ただのやつあたりだよ」
すまないな、リョウメンスクナノカミ。
哀しくて、辛い、ぶつけ所のないこの感情をぶつけさせてくれ。
唇をギニィッと曲げ、無理やり笑顔を作る。
どれだけ泣いても、あいつを心配させないために。
ここに来て気づいてしまった。
主人公が女と絡むと、ハッピーエンドになっていないという事実に。