「あ、あぅ…。『せんひ すみれ』…です」
「そっか!じゃあ、『すーちゃん』ってよぶね!」
修学旅行が終わった翌日の、麻帆良教会墓地庭園。
真新しい、石を砕いて作ったかのような十字型の墓石。
「まったく、おかしなもんだな」
墓石の前には穴が掘られ、そこに納められた棺は、
「先に死んだはずの俺が、何でお前の葬式をしているんだ」
菫が眠っていた。
「で、とりあえずは参列の礼を言っておこうか?『超 鈴音』、『絡繰 茶々丸』」
「いや、それには及ばないネ」
「『家族』の葬儀なのですから、当然です」
「そうか」
この場の参列者は俺だけではなく、『超 鈴音』と『絡繰 茶々丸』の二人もいた。
子供たち?
あいつらは菫と接点らしい接点がないから置いてきた。
「しかしまあ、お前たちが朝方に来た時には驚いたぞ」
「仮にも家族ダたからネ。それが亡くなったとあれば、葬儀を行うとあれば駆けつけるヨ」
まあ、そうだよなぁ。
「で、どうやって知り合ったんだ?」
「研究に行き詰ってた時、北極圏で氷漬けのおかしな死体が発見されたネ」
「おかしな?」
「その死体は、間違いなく死んでいるはずなのに心臓が動いていたヨ」
「ほう」
「そして私はその死体をあらゆる伝手、手段を持って手に入れ、調べつくしたネ」
「その研究の結果生まれたのが私です」
なるほどね。
何で茶々丸がいるのかが気になっていたが、そういうことか。
ん?
待てよ?
「てことは何だ?茶々丸ちゃんは『人造人間』なのか?」
菫を調べた結果というならば、その可能性もある。
「いy「いえ、私は『人造人間』の技術を基に100%機械で作られたガイノイドです」あれ?茶々丸!?」
なるほどねぇ。
確かに、死体がベースとはいえ『人造人間』は科学の産物。
機械で応用し、転用することは可能、か。
「まあちなみに、フランケンシュタイン博士は魔法使い、中でも『
さすがネギ魔世界。
『人造人間』創造にまで魔法が食い込んでやがった。
まあ、そんなことはどうでもいいが。
「ああ、それと菫サンに特化能力を付け加えたのは私ネ。あまりにも意欲が掻き立てられてしまったからネ」
マジか。
こいつ、本当に天才なんだな。
「さて、後は土を被せて埋めるだけだな」
死人の前で、長話をしてしまった。
もう、こいつを眠らせよう。
「お手伝いします」
「いや、スコップが一つしかないからいいよ」
茶々丸が申し出てくれるが、それを断る。
酷く独善的だとは思うが、これは俺の役目だろう。
そう思っていたが、明らかに手伝いたいといった感じの茶々丸を見ていると、どうにも気になってしまい、
「…とはいえ、俺一人でやっても時間がかかる。倉庫にまだあったはずだから取りに行くが、その間頼めるか?」
「…は、はい!」
そう言ってちょっと離れるが、離れ間際に見た茶々丸の作業効率を見た限りでは戻る頃には終わっているだろう。
茶々丸さん、パないです。
茶々丸が埋め終わる前に即行で戻り、棺を埋める。
さて、と。
「軍隊式にはなるが、葬式は人生の最後のセレモニー。黄泉路の道先が安寧であることを願ってやりますか」
「キリスト教の教義において、黄泉という概念はなかったはずですが」
「日本神話ネ」
気にするなよ。
ま、この二人の前だが、言いふらしたりすることはないだろう。
「分体665解放」
俺の言葉とともに、墓地庭園が大小種類様々な黒い獣たちで埋め尽くされる。
それに驚き圧倒されたのか、周りをキョロキョロと見る二人。
ま、どうでもいいな。
さて、これは本来銃で行うことなんだが、
「「「「「「「「「ガアアアァァァァアアァアアアアァァァァッッッッッ!!!!!!!!!!!!」」」」」」」」」
665の獣たちによる、一斉の遠吠え。
「666の混沌の吼え声だ。悪魔も裸足で逃げ出すさ」
だから迷わず、真っ直ぐに逝け。
今度は生まれ変わって、そして逢おう。
「なあ、二人とも」
「「何ですか?」」
あいつを『家族』と言った二人だからこそ、言えること。
「俺とあいつは幼馴染でな?三歳の頃からの付き合いだ。だから、お前らがあいつを『家族』って言ったみたいに、俺もあいつのことを」
初めて会ったときは、俺から自己紹介したんだったか?
「『家族』だと思っていたよ」
あくまでも兄妹だけど、な。
「では、ご参列の皆様ありがとうございました。これにて葬儀は終わりました」
形式的に、終わりの言葉を口にする。
「から帰れ」
「「おい」」
女の子が「おい」とか言うんじゃありません。
「ま、どっちにしろここは墓地。死者の眠るとこであって、生者が騒ぐとこではないのは確か。やることやったらさっさと帰れ。俺は神父として、最後の仕事があるから残るけどな」
「「はい」」
パンパンと手を叩き、帰るのを促す。
で、二人が見えなくなるまで待ち、墓と向き合う。
色々と言いたいことはあるが、それはいいか。
俺は神父。
どうせ明日もまた、管理で来るんだから。
目を閉じ、少しの間黙祷する。
そして目を開け、家に帰る。
ああ、そうだ。
「また明日も来るよ。………『すーちゃん』」
そう言って、立ち去る。
「ん?」
ふと、風に乗って聞こえたような気がした、あの歌。
「『violetは菫だから、この歌は私の歌なんだ』、か」
今はもう聞こえないが、その代わりに俺が歌う。
そうすると、よくは分からないがすーちゃんが笑ってるような気がする。
…ククッ。
俺がなんともセンチメンタルなことを。
まったく持って似合わんな。
俺が立ち去り、誰もいなくなった墓地のとある墓。
その墓には、白い菫と蓮華草の花が供えられていた。
帰路の途中、いつの間にか隣に来ていた真名と話す。
「なあ、俺はいったい何時死ぬんだろうなぁ?」
「…父さんが死にたくなった時じゃないか?」
「………それもそうだな」
だとすれば、それはまだ先だろう。
最低限、娘二人の花嫁姿を見るまでは死にたくはないしな。
だからジャンヌ。
そっちに俺の兄妹が逝ったから、二人で話しながら待っていてくれないか?
いつか俺も逝く、その日まで。
蓮華草
マメ科の二年草。
花言葉は『あなたは幸福です』、『私の幸福』。