魔法世界の混沌   作:逸環

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ギャンブルの恐ろしさは、一度勝つと次も勝てると思い込んでしまうこと。
まあ、今回の話とは関係ありませんが。


賭けと成長。

「賭け、ねえ?」

 

「そう。賭けじゃ」

 

 

いったい、何を企んでるのやら。

まあ、分からないでもないがな。

 

 

「ゲームとルールは?」

 

「おや?乗るんじゃな?」

 

「ゲームとルール次第だがな」

 

 

俺は自分が負けるような勝負はしないし。

負けると判断したら、絶対回避だからな。

 

 

「お主らしいの。では、ルールじゃが」

 

「おう」

 

 

いったいなんだ?

 

 

「明日のまほら武道会で、お主が優勝するかしないかじゃ。もちろん、妾はお前の優勝に賭ける」

 

 

……………………ん?

 

 

「……………………ん?」

 

「いや、心の中と同じことを言ってどうするのじゃ」

 

 

人の心を読むんじゃない。

何で俺の周りの人間は、こんなにも人の心を読むことが上手いんだ。

 

 

「まあ、妾も考えたわけじゃよ。どうすれば、お主にイカサマをさせずに、なおかつ勝つことができるかを」

 

「ほ、ほう?それで?」

 

 

ヤバイ。

なんだか知らんが、既に背水の陣な気がする。

 

だが、俺には秘策があったりする。

 

 

「お主、明日出るんじゃろ?」

 

「いや、出ない。俺が出たら優勝確定だし。ああいうのは若い連中に譲る」

 

 

そう。

ぶっちゃけ最初から武道会に出る気はない。

賞金の一千万は惜しいが、どうせうちの子供たちが取るだろうし。

そもそも、強さを競う大会に、最初から優勝が決まっているのが出て楽しいわけがないだろう。

今回は子供たちがどれだけ強くなったかを確認するのに、観戦だけする予定なんだ。

 

 

「ほう?『李 書文』最後の直弟子が、逃げるのかの?」

 

「いや、逃げるとかは違うでしょ。それに、直系の弟子は出るわけだし」

 

「負けるかもしれんぞ?妾が掴んだ情報によると、あのタカミチも出るらしい」

 

 

どうやら、俺は後方の川に飛び込むしかないらしい。

と言うかあのヒゲメガネ。

子供メインの大会に出るんじゃねえよ。

大人気ない。

 

 

優勝できなくても(負けても)いいのかのう?『李氏八極拳』が最強でなくて。師匠の名に泥を塗るんじゃないのかのう?」

 

「出ればいいんだろう!?出れば!?」

 

 

ふふん。といった表情のテオドラに、降参宣言をする。

こうなったらもう、出るしかないし勝つしかない。

わざと負けるだなんて、できようもない。

 

 

「………BETは?」

 

「妾が勝ったら、お主は妾の護衛として復帰。ヘラスに家族ともども移住してもらう」

 

 

俺の移住はもはや決定なのか。

いや待て。

 

 

「俺が俺の優勝に賭けたらどうなるんだ?」

 

 

それだと、賭けが成立しない。

つまりこの話はお流れだ。

 

 

「それも最初から考えてある。これでどちらがお主の優勝に賭けるか決めるんじゃ」

 

 

そう言ってテオドラがポケットから出したものは、一組のトランプ。

 

 

「お主がシャッフルするんじゃ」

 

「ん」

 

 

何がしたいのかは分からないが、言われたとおりにシャッフルする。

まあ、ついうっかり手癖の悪さも出てしまって、そこから何枚か袖に入れてしまったし、一番上のカードも操作したが。

 

 

「ほれ」

 

 

シャッフルし終わった束を渡す。

すると、テオドラはそれを半分にし、上下を入れ替えた。

どんだけ俺を信用していないんだ。

 

そして、その山の頂上の一枚をめくり、テーブルに置く。

めくられたカードは、スペードの8。

 

 

「それでは、High or Low?」

 

 

……………やられた。

これだと、俺が用意した仕込が、全て意味がなくなっている。

 

しょうがない。

久し振りに、純粋な運試しだ。

 

 

「High」

 

「……いいんじゃな?」

 

「もちろん」

 

 

こんなものは結局、直感に頼るしかないのだ。

だったら、一度決めたものを変えるのは、あまりにも馬鹿らしい。

 

 

「では、めくるぞ」

 

「おう」

 

 

出たカードは、ダイヤの7。

奇しくも、あの時決着をつけたのと同じカードだった。

 

 

「…はあ」

 

 

おもわず、ため息を一つ吐く。

この結果に満足している、テオドラのドヤ顔がウザイ。

 

 

「それでは、これでよいな?」

 

「…ああ」

 

 

結果は結果だ。

違えることはできない。

 

 

「では、念のためと証明として、『強制証文(ギアスペーパー)』で契約するのじゃ」

 

 

そう言って、強制証文を取り出すテオドラ。

なんとも用意がいい。

 

 

「『水無月 六禄』が明日のまほら武道会で優勝するほうに、『テオドラ・ バシレイア・ヘラス・ デ・ヴェスペリスジミア』は賭け、勝利した場合『水無月 六禄』は『テオドラ・ バシレイア・ヘラス・ デ・ヴェスペリスジミア』の護衛として復帰する」

 

「…『水無月 六禄』が明日のまほら武道会で優勝できないほうに、『水無月 六禄』は賭け、勝利した場合『テオドラ・ バシレイア・ヘラス・ デ・ヴェスペリスジミア』

は『水無月 六禄』に------」

 

 

BETを言いかけるが、何も思いつかずに言い淀む。

いったい俺は、こいつに何を求めるべきなのだろうか。

 

少しの間考え、そして思いつく。

 

 

「『テオドラ・ バシレイア・ヘラス・ デ・ヴェスペリスジミア』は、『水無月 六禄』が魔法世界で行動する際の全面的なバックアップをする」

 

 

次に行くのがいつになるかは分からないが、こいつの立場を最大限に利用できるとしたら、これだろう。

 

 

「…妾は財布か。都合のいい女か」

 

「都合のいい女なら、俺をここまで追い詰めらんねえよ」

 

 

まったく、何でここまで頭の回る、強かな女になっちまったんだか。

あ、俺が色々教えたせいか。

 

過去の俺をぶん殴ってやりたい。

 

 

「さて、妾の用事は終わったし、時間も遅い。これ以上はただの迷惑じゃから、お暇させてもらうのじゃ」

 

「ん?別に泊まっていってもいいんだぞ?」

 

 

からかう様な口調で、実際にからかいながら言う。

さてさて、どんな反応をするのやら。

 

 

「…その言葉はありがたいが、妾にも立場がある。今日はホテルに戻らせてもらうのじゃ」

 

 

一瞬の言い淀みこそあったが、笑顔で答えるテオドラ。

その姿に、子供だった頃を重ねることは、もうできない。

身体だけじゃなくて、精神も随分と大人になったらしい。

 

 

「…そうか。なら、送っていこう」

 

「…頼むのじゃ」

 

 

二人で外に出て、玄関の鍵を閉める。

どこのホテルかを訊いて、そこに向かって歩く。

 

 

「大きくなったな」

 

「お主のためじゃ」

 

「嬉しいねえ」

 

 

街頭の灯の下を、手を繋いで歩く。

こうしていると、こいつが子供の頃を思い出す。

 

 

「…いつの間にか、なぁ」

 

「お主が見ておらんかった間に、じゃ」

 

 

これは手痛い。

しかし、もう二十年か。

 

 

「なあ、何で妾の元を離れたのじゃ?それに、子供ができてからどこかに留まるにしても、妾を頼ってくれても良かったんじゃないのか?」

 

 

不意に尋ねられた問い。

それは、こいつが二十年の間、ずっと問い続け、俺に訊きたかったことなのだろう。

 

 

「そうだなぁ。まだ、死んだ嫁さんに見せたかったものが山ほどあったのと、あいつの墓がこっちにあったからからかなぁ?」

 

 

結局は、そういうことなんだろう。

テオドラのところでもここと同じように、いや、それ以上に子供を育てる環境としてはいいものになっただろう。

しかし、魔法世界と旧世界は遠すぎる。

定期的にしか通じないポートでしか行き来できない魔法世界よりも、すぐに参れる、あいつとの思い出があるこっちを選んだということなんだろう。

 

 

「………そうか」

 

 

俺の答えに、テオドラは一言そう呟くだけで、後は俯いて歩くだけ。

だが、その身体はさっきまでよりも俺の身体と密着してきた。

 

まるで、今この時だけは、甘えようとしているみたいに。

 

 

「ほら、着いたぞ」

 

「……ん」

 

 

ホテルの前に着き、手を離す。

 

 

「部屋の前まで、送ってはくれぬのか?」

 

「ダーメ」

 

 

それ以上は、俺の線引きの中でアウトだ。

 

 

「…それじゃあ、明日は頑張るのじゃぞ」

 

「おう」

 

 

別れを惜しむように握っていた、俺の服の裾から手を離し駆け足でホテルに入るテオドラ。

それを確認して、(きびす)を返し帰路に着く。

 

さて、明日はどうしようか。

あいつの気持ちは別として、このままあいつの思い通りになるのも癪だったりする。

あいつの思い通りにさせず、なおかつうまいこと賭けに勝つには………。

 

…ああ、良い手があったな。

 

ククッ!

俺を出し抜こうなんて、まだまだ早いよ。

 

 

 

 

 

 




………何で私が恋愛要素のある話を書くと、だいたい悲恋物になるんだ……………っ。







あ、主人公がいつまでもジャンヌを引きずってるせいか。



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