魔法世界の混沌   作:逸環

98 / 124
まほら武道会最終試合、終幕です。


絶招。

「ま、アルのやることだし、小難しいことは後でいいだろ」

 

 

お前が存在できるのは数分間だけだから、後はないだろう。

 

 

「とりあえず、『適当に右パンチ』!」

 

 

ラカンが腕を振りかぶり、それこそ適当に振る。

たったそれだけで、

 

 

ドゴォンッ!!!

 

 

「ッ?!」

 

「あり?避けられちまったか?」

 

 

俺の後ろの岩壁に、大穴があいた。

適当にやってあの威力。

避けなかったら、ダメージはなくとも確実に吹き飛ばされていただろうな。

 

 

「そんじゃ、もう一発っ、と!」

 

 

再び来た一撃を避けるが、まったく。

俺は溜めを作らなきゃあのレベルの一撃を出せないが、こいつはノーモーションでできるのかよ。

なんとも理不尽だねぇ。

70余年も人をぶっ叩く練習をしてきたけど、いまだにこの域には至れないとは。

これが兄貴なら違うんだろうが、才能のないこの身が恨めしいね。

 

 

「まあ、そんなことは、どうでもいい」

 

 

結局、こいつを負かすしかないんだ。

 

 

「フッ!」

 

「お?」

 

 

身体を横に向けた、急所を晒さない構えをとり、『活歩』で滑るように間合いを一瞬で詰る。

そして、

 

 

「『冲捶(ちゅうすい)』!」

 

「おぉっ!?」

 

 

身体を横に向けたまま、腰溜めに放った突きがラカンの腹を抉る。

そのまま肘を救い上げるように水月へと入れ、さらに横に向いていた身体を腰を中心に回転させ、『崩拳』を下腹部に叩き込む。

一連の打撃で岩壁までラカンは吹き飛び、そのせいで一帯を砂埃が覆い視界が遮られる。

 

さて、どれだけのダメージになっただろうか?

身長差のせいで三発中二発を腹部に入れることとなったが、それなりに重いものが入ったとは思っている。

これで足に来てくれればいいのだが。

 

 

「アッハッハッハッハッハッハッハッ!!!」

 

「どうやら、それは無理だったようだな」

 

 

粉塵の奥から聞こえる、ラカンの哄笑。

その声から察するに、ダメージはほとんどないらしい。

どんなタフネスだ。

 

そんなことを考えていると、

 

 

「ゼリャッ!!」

 

 

粉塵を吹き飛ばしつつ、『縮地』か何かを使いとんでもない速度で距離を詰めてきたラカン。

見た限り痣とかもない。

 

 

「おりゃっ!」

 

「『三迎不門顧(さんげいふもんこ)』!」

 

「ガッ!?」

 

 

ラカンの右ストレートを避け、米神、目元、そして腹部にカウンターを入れる。

が、

 

 

「捕まえたぜ~」

 

 

その攻撃を意に介さず、やつは俺の肩を掴んでいた。

 

 

「…セクハラで訴えますよ?」

 

「それは勘弁してくれや、っと!!」

 

「オォッ!?」

 

 

ゴガンッ!、という、およそ人体同士が接触したら出ないであろう音が、ラカンの拳と俺の顔面が衝突することで鳴る。

本来なら吹き飛んだであろう身体も、肩を掴まれているせいで飛べない。

しかも肩を掴まれているせいで、今の一撃で肩が外れたらしい。

骨折とかなら即時再生するこの身体も、なぜか脱臼は治してくれない。

ズキズキと、久し振りに感じる痛み。

 

だが、この距離は俺の間合いだ。

 

 

「おろ?肩が外れちまっt「『寸勁(すんけい)』!」なっ?!」

 

 

腕だけを使い、衝撃をその胸に叩き込む。

その衝撃でラカンが手を離した隙に、肩を嵌め、まだ叩き込む。

 

両手を揃えて前後に回し、充分な溜めを作って放つ。

 

 

「『双纏手(そうてんしゅ)』!!」

 

「ぐうっ?!」

 

 

胸に直にくらい、よろけるラカン。

 

 

「『裡門頂肘(りもんちょうちゅう)』!!」

 

「がはっ!?」

 

 

水月に、深々と刺さる肘。

 

 

「チィッ!これでもくらいやがれ!!」

 

「フッ」

 

 

胸に刺さった肘を意に介することなく、俺の顎に向かって膝蹴りを出すラカン。

それを腕と体全体を使い、大きく開いた腕を回して両腕で円を描きつつ敵の攻撃を包み込んでいく受け技の『大纏(だいてん)』で受け、カウンターに繋げる。

 

 

「『金鶏抖翔(きんけいとうしょう)』!!」

 

「オアァッ!?」

 

 

攻撃を受けざま、腕を掴んで上へとあげ、相手の胸に頭を付けるように踏み込み、両肩にのせて横担ぎにし、頭から落とすこの技。

受け技から繋げる技だが、こういう時に使い勝手がいい。

 

 

「てんめっ!」

 

 

頭から落とされたラカンが身体を起こして攻撃しようとするが、もう終わりだ。

これから使うのは、師匠の絶招。

これを使って立ち上がられたら、俺が師匠に殺されてしまう。

 

起き上がったその瞬間を狙い、牽制の一撃を入れ、

 

 

「グッ!?(この一撃、明らかに軽い!牽制か!?)」

 

 

体制が崩れたところに、ただ打ち込む。

 

 

「オオオォォッッ!!『猛虎硬爬山(もうここうはざん)』!!」

 

「グッ!ガァッ!アアアァァァァァッッッ!!?」

 

 

幾たびもの攻撃が筋肉の鎧を崩し、その身体にダメージを与える。

それまでに胸部を集中的に攻撃したことが功を奏したのか、肋骨の何本かを折った音もする。

 

そして、次の一撃こそが正真正銘、俺の絶招。

 

拳は握らず、開かず。

爪先、足首、膝、股関節、腰、脊柱の順に回転させ、さらに本来はない、腕の回転も加える。

その力の全てを、途切れることなく、澱むことなく拳に伝達させる。

 

 

「『絶招・崩拳』!!」

 

 

基本中の基本の中段突き。

それを毎日一万回。

70余年の歳月の中で繰り返し続けたそれは今や、俺の絶招とまで成っていた。

 

 

「オッ、ゴガァッ!?」

 

 

腹部を貫き、内蔵を蹂躙し、神経系を狂わす拳。

ただの『崩拳』ではなく、『絶招』であるからこそ成せること。

 

ラカンの身体が吹き飛び、岩壁を大きく抉って止まる。

その身体はもう、動かない。

それを見ている内に何時しか煙に紛れ、次に見たときにはイマに戻っていた。

 

と、そういえばカメラは…、ああ、あったあそこか。

斜め上に浮かんでいたカメラに向き、

 

 

「勝ちました!」

 

 

高く、高く、ガッツポーズをした。

 

 

 

 

 

 

 




主人公の勝因は、
・相手が『現在の』ラカンではなかったこと
・速度に勝っていたこと
・攻撃する部位を絞っていたこと
・経験の差があったこと
・ラカンのタフネスを上回る攻撃力があったこと
・ラカンが本当にやばい一撃を出すための、溜めの時間を与えなかったこと
といったところでしょうか。

兎にも角にも、まほら武道会はこれにて閉幕です。
次回からは超の計画と計略編。
そして、この『魔法世界の混沌』中、最大の山場に突入する予定です。

これからの展開を、お楽しみに!


追伸:『魔法混沌アニマルむろく』、復活しました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。