タマゴのカラを割らないでっ!   作:すうどんたくろう

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4-6-4 ボーダーラインの

 人の目を引く手段はわかった。ただ、それでも面倒毎は避けたいという気持ちもある。この後ろ向きな気持ちは二年間培われてしまったものだから、変えるのは難しいし、なによりそこを変えたいとは微塵も思っていなかった。だから、冬休み明けの登校日、ぼくは多少髪を整え、多少メイクをし、多少スカート丈を短くした。制服も少し着崩した。ブレザーのボタンは全てあけ、ワイシャツのボタンは一つ外した。別に不良になったわけじゃない。まわりの女子生徒なんてもっといろいろやってるさ。ただ、ぼくもやりたいことをやるだけだ。両親は多少驚いていたが、前と比べたら前向きな変化なわけだから、止められはしなかった。そうして登校したところ、早速その効果は現れた。今まで見向きもしなかったまわりの学生たちが、こちらを一瞥しているのがわかった。もっとも、背筋を伸ばして歩いてるわけでもない。相変わらず、暗い雰囲気は消えていないだろう。けれど、冬休み前の”近寄りたくない”陰キャから、”近寄りがたい”陰キャにはなったと思う。

 目立ちたくないから、すっと教室に入った。ただ、クラス最底辺の陰キャが変貌している姿が大変目を引くようで、談笑していたクラス内が少々静かになった。今までのぼくなら、席に着くとすぐ机に突っ伏して寝たふりをしていたのだが、もうそんなことやりたくなかったから、カバンから小説を取り出して読書をすることとした。そうして時間をつぶすこと十分、刹那が登校してきた。刹那の登校はすぐわかる。周りへの挨拶は欠かさないそれこそ、机に突っ伏して寝たふりをしていたぼくにもしてきたくらいだ。だから、やけに挨拶が聞こえてくるときはだいたい刹那なんだ。そんなお節介さんが、いつも机に突っぷしてやり過ごしているダメな生徒が更生している姿を見たのなら、そりゃ驚いて近づいてくるよね。

 

 

 「萩原さん!?今日はなんか印象全然違いますね・・・いったい何が?」

 「・・・いつも挨拶を欠かさない委員長さんが、挨拶を忘れるくらいなんだから、そりゃ大きな変化なんだろうね。」

 「た、確かに忘れてました・・・。というか、気づいてたんですね。やっぱり寝たふりしてやり過ごしてたんですね!なんでそんなことを・・・」

 

 

刹那は多少声が大きい。だからこそ、クラス内でぼくと刹那のやり取りは聞かれているだろう。サッとあたりを見渡すと、何人か、少なくない人数がこちらを見ているのがわかった。

 

 

 「陰キャは陰キャなりの考えがあんの。そんなことよりほら、さっさとコート掛けてきたら?雪が溶けてちょっと濡れてきてるじゃん。」

 

 

ぼくがそう指摘すると、刹那は慌ててカバンを置いてコートをかけに行った。さて、読書の続きをしよう――――――――

なんて思っていたが、ものの数分でその行為は邪魔されることとなった。

 

 

 「で、いったい何があったんです?」

 

 

刹那はカバンを置いた後は他の同級生と談笑することが多く、こちらを気にかけることはまずなかったのだが、今回に限っては真っすぐこちらに向かってきた。そして、ぼくの前の席に座り、面と向かって話しかけてきた。さすがに読んでいた小説を閉じた。そして頬杖をつき、刹那の方をゆっくりと見た。するとどうだろう、刹那と目が合うと、彼女はかなり驚いているのがわかった。

 

 

 「・・・初めてまともに貴女の目を見た気がします。」

 「言われてみれば、今までのぼくは前髪も長かったし、目を合わせようとしなかったからね。」

 「なるほどですね。—————————にしても、今日の萩原さん、今まででダントツにいいオーラ出てます。や、委員長的には前のきちっとした恰好から、いろいろ着崩したり、メイクしたりしてる今をほめるのはどんなんだって気持ちもあるっちゃありますけど・・・それを強く指摘するのは私の役目ではないですから。」

 

 

さすがカースト上位の女子、いろいろしてるのがこうも簡単に見抜かれるとは。でもそんな大声で指摘するんじゃない。余計目立ってしまうじゃん。—————————これ以上彼女とここで話すのは余計目立ってしまいそうだ。

 

 

 「やっぱり冬休み中に何かありましたね?」

 「いいじゃんなんでも。」

 

 

ぼくは立ち上がると、教室の後ろから抜け出した。さっさと離れたい気持ちで、足早に。とりあえず、トイレにでも行くかな――――――――

なんて思っていたが、これもまた邪魔が入った。

 

 

 「まったく、話の途中でいなくなるなんて・・・」

 

 

こ、こいつ・・・今日はやけにしつこいな・・・。

ぼくはあきらめて、廊下の壁によりかかった。腕組みをして、じろりと刹那の方を見る。

 

 

 「・・・今日はやけに話しかけてくるね、そんなにクラス内で浮いてたやつが変わったのが驚き?学級委員も大変だね。」

 「まあそれもありますけど・・・メインは純粋な好奇心でしょうか?正直、萩原さんが夏ごろからちょっとずつ変わっていったのは知ってました。最も、その事実に気づいていたのはクラスで私だけみたいでしたけど。萩原さんに対して周りが、そしてあなた自身も、誰とも交流取りませんし・・・そんなあなたが、急にいい方向に変わったんです。気になりもしますよ。」

 「・・・驚いた。まさかそんな少しの変化も気づいていたなんて。」

 

 

それにぼくの皮肉も華麗にいなされた。人間的にいい奴なんだな。

 

 

 「萩原さんと同じクラスになって、あなたが保健室に向かおうとするたびに、付き添いましたね?正直、最初の頃はただの正義感から動いていましたよ。けれど、何度も繰り返すうちに、話を繰り返すたびに、あなたの内側が気になってきたというか・・・。あなたは自分のことを陰キャと卑下してますが、私には無理やりそのレッテルを自分に貼り付けて、意図的に立場を落としているように感じたんですね。根っからの陰キャじゃないんだろうなってのは、これまでいろんな方々をみて気づいていたので。」

 

 

このとき初めて、この中河刹那というクラスメイトを、ただのお節介美少女学級委員から、洞察力に長けた強い女子と認識を改めた。

なんて女だよ。敵に回したくないな、仲良くしておくか・・・という打算的な思惑が、その時芽生えた。

それと同時に、あることに気づいた。廊下に出ればクラスメイトの視線が外れるから、多少目立たなくなるかなと思っていたが、やけに四方から視線を感じた。今の時間は登校ラッシュと重なっている。人がいないから目立っているわけではない。人が多すぎるからこそ、一旦目を引いてしまった人が大勢いるんだ。

 

 

 「・・・まあその辺の話はおいおいで。ところでさ、やけに視線を感じるんだけど、気のせい?」

 

 

そうぼくが尋ねると、彼女は笑ってこう答えた。

 

 

 「鈍感な一般人でさえもわかってしまうくらい、非常にスタイル良い美人だってこと、これから自覚しないとなりませんね。」

 「・・・そんな目立つかな?」

 「まあ、もともと目立つ私と一緒にいるってのもあります。そんな私の隣に見たことない美少女がいるんですから、誰だって一度は見ますよ。それに、スカート膝上ですから、足の長さがよくわかりますし、ブレザーのボタン外してシャツ丸出しで腕組みしてるんだから、同級生でトップレベルのその胸が強調されるでしょ?薄々わかっていましたが、正直うらやましいですよ」

 

 

ただ、近寄ると、あなたの瞳の濁り具合がわかってしまうから、離れていくでしょうね、と彼女は付け加えた。

―――――――――これまで、姉さんの美的基準で物事を考えていた。だけど、その基準はとんでもなく高く、もはや中学レベルではないことをこの時はじめて自覚した。どうやらぼくは、目立たないように努めていたつもりが、すっかりやらかしてしまったようだった。

 

 

 

 

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 今日の体育の授業は体育館でバレーだった。クラス内でチームを分けるわけた時、小学時代のクラスメイトと一緒になった。昔はよく話した仲である。悪い奴では決してない。自分らの試合を待っているときに、珍しく彼女がぼくに話しかけてきた。

 

 

 「今日はいったいどうしたの?正直、昔の静乃を思い出した。あの時の静乃がそのまま成長したらこうなるのかーって。」

 「・・・まあ、心境の変化ってやつだよ。それに、あの頃と比べたら今のぼくは随分な陰キャになったから、性格面では真逆だけどね。」

 「・・・確かに、小学校の後半からは酷く近寄り難くなってたね。中学入ったらより話辛くなってたし、周りも話そうとしないから、私も流れに乗っちゃってた・・・。」

 

 

彼女は酷く申し訳なさそうにぼくにそう語りかけてきた。でも、こっちも殻にこもってたから、お互い様なんだよな。————————―いや、拒絶をしたのはぼくからか。僕がまいた種なんだ。

 

 

 「そこはほら、きにしないでというか、むしろ人と話さないように距離取ってたのはこっちだったし。けど、もうそういうのはやめようって思ったんだ。だから、今まで放置してたことをきちんとやろうって思ったんだ。今までごめんね。」

 

 

すっと言葉が出た。小6で止まった時間を進めようという気持ちは本当なんだ。

 

 

 「ただ、2年間人と関わらないでいたから、めんどくさがりが板についちゃった。もうそこは直せそうにないなあ。」

 「あはは。」

 

 

久々に学校で笑って話せた気がする。ここから、カースト最底辺から、中くらいまでは引き上げることができるようになった。

 

 

 

 

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 その日の帰り道、一人で帰路に就くと、ばったり遼と会ったわけだ。今日一日、今までかかわってこなかった人たちからずっと質問攻めを受けていたから、もうへとへとだった。

 

 

 「お、静乃じゃん。なんだか元気ないね。」

 「・・・まあ今日はいろいろあったから・・・。」

 「そっか、確かに雰囲気がいつもと全然違うもんなあ。」

 

 

そう話すと、それきり彼は何も言わなかった。あまりに何も言わないから、こっちがしびれを切らして質問してしまった。

 

 

 「――――――――雰囲気が違うわけを聞かないんだ?」

 「ん?まあ何かあるんだろうなあとは思うけど、イメチェンなんてよくあることじゃない?中身まで入れ替えたわけじゃあるまいし。」

 「いや、中身は中身でいろいろ変えたつもりだったんだけど・・・。遼、流石にリアルに興味なさ過ぎてしょ。キモオタ加速してんなー」

 「今オタク関係なくない!?!?――――――――まあそのセリフ聞いて確信したわ。静乃、根本は変わってなさそう。」

 「・・・まあ、そうかもね。」

 

 

そうしてまた会話がなくなった。しんしんと降り積もった雪をザクザクと踏みつぶす、実に聞きなれた音だけが、その場に響いた。

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