「—————————とまあ、これがこれまでのいきさつだよ。」
静乃の自分語りを、俺は黙って聞いていた。今月に入って、そして静乃の記憶が封印されて以降、静乃の過去を突き止めていくたびに、何とかしなければならないと強く思っていた。”昔の静乃を知っているのは自分しかいないから”なんていう、なんて傲慢な思考だろう。そして今、静乃の過去を静乃自身から聞いた時、自分のスタンスを恥じた。凄惨さ、不条理さ、そして野心、様々な感情が混ざりあっていたことを、当時の俺は全く知らなかった。というか、当時の俺は、3次元に興味がなさ過ぎた。もっとリアルに興味を持っていれば、記憶封印解除の手がかりをスムーズにみつけられていただろう。
「—————————当時の俺はさ、二次元に全力だったから、中学に上がっての陰キャっぷりも、中学後半に見た目がガラリと変わったことも、さほど気にしてなかったんだ。だからさ、もしそういうことを気にかけられていたら、今回の騒動もさ、もっとすんなりいったのかなって・・・」
俺は沈んだトーンでそう呟いた。すると、静乃は呆れてこちらを見た。その眼が死んでいたのは言うまでもないが、どことなく柔らかさを含んでいるように感じた。
「そう思うなら、これから変わればいいんじゃない?ぼくなんか、2年間で落ちるところまで落ちて、今の状態になるまで3年かかったんだし。それにね、ぼくの変化なんかお構いなしに、雑に絡んでくれたことって、かなり助かってくれてたんだよ?悪いことだけじゃないんだから、そんなに気にしないでよ。」
「静乃・・・そうだな。長くなるかもしれないけど、これから変わっていけばいいんだ!」
俺はそう強く決意し、思わず立ち上がった。静乃はそんな俺をやれやれといった風に見た。そうした後、大きく伸びをして、俺のベッドにうつぶせで寝転がった。ちょっと静乃さん!?さすがにそれは俺も恥ずかしいんだが!?
「—————————すっごい男の人のベッドって感じ。」
「いやなんか恥ずかしいからできればよしていただけると・・・」
「今日はとんでもなく疲れたんだもん。遼は疲れてないの?」
その質問をされた瞬間、自覚してなかった疲れがどっとやってきた。立ち上がったはいいものの、立っていられなくなって座りなおした。静乃がいなければ、シャワーもさぼってさっさと寝ていただろう。
「そんな質問するなよ、忘れてた疲れがめちゃくちゃ降ってきたじゃないか。」
常に敵から襲われるかもしれないということが脳裏にちらつき続けた状態で、レジャー施設で遊び倒した後、レイプ魔に襲われ、その車を止めに全力で走り、最後は神前と緊迫したシチュエーションで対峙・・・ただの文化系男子の体力も精神力ももう限界だ。
「やっべ、かなり眠くなってきた。ちょっと寝ていい?だからどいてくれ。寝たいなら有希のベッドを使ったらいいよ。」
「・・・いや、やめとくよ。多分有希ちゃんのベッドで寝たら、多分朝まで寝るね。」
そういうと、彼女は寝返りを打った。仰向けになると、彼女の2つの大きな山のすそ野が広がったのがわかった。エチエチすぎる。それに服もちょっとはだけてるし・・・。
「いや、それは俺のベッドで寝る理由にならなくね?」
「遼がいるから、起こしてくれるよね?」
そういわれると弱い。いつもなら小言を呟きつつ突っぱねているが、今日は彼女のメンタルケアもしないとならないんだ。
「いやまあ、起こすけども・・・」
「ふふ、じゃあおやすみ。遼には色々助けられたし、ぼくが寝てる間に胸くらいなら触ってもいいよ。あ、でもリアルに興味ない遼にはどうでもいいか。それにリアルに興味あっても生身の女に手を出せるほどの度胸ないだろうし(笑)」
なんてけらけら笑って煽った後、彼女は目を閉じた。本格的に寝に入ったみたいだ。念のためアラームを1時間半後にセットしたあと、俺は気を紛らわすために、ゲームで時間をつぶすことにした。フルドにログインするのも久しぶりな気がする。そんなことないはずなのに。ただ、勝率はてんでダメだった。ただでさえ眠くて集中できないのに、横で女の子が寝てるんだぜ。
俺はゲームをやめ、静乃の様子を見た。呼吸のリズムが非常にゆっくりだった。10分くらいしか経ってないのに、しっかりと眠りに落ちていた。よほど疲れていたんだろう。にしても、レイプ魔への提案しかり、今のこのやり取りしかり、いろいろ吹っ切れたのか煽りに下ネタも交じってくるの、普通にチンコに良くない。自分語りを聞いた限りでは、きっとこいつはかなりのオナニストだろう。ストレス自体はたまり続けているはずだ。未成年だしタバコを日常的に手に入れるのは金銭的にも立場的にも難しい。となると、もう野郎並みに盛るしかないだろ。
「————————いやまて、セフレがいるという可能性は?」
————————いやないか、男を避けるために俺を昼飯に呼ぶくらいだ。特定の男を作るのは面倒と考えているはずだ。いやでも、セフレを作る人たちって、恋人より割り切った関係を好んだ結果な気がするし、全然いそう。
「————————いやパパ活か!?」
————————それもないかな。もし昔からそんなことしてバレでもしたら、悪い意味で噂が広がってしまうはずだ。そんなリスクを彼女がとるだろうか?いやないだろう。それを考えたら、セフレの線もないか。タバコだけは、家の中だけに限定すればばれることもないだろうから、バレリスク低と考えて、続けてるのかな。ストレス発散できればいいんだ。オナニーとタバコで十分発散できるなら、セックスしなくてもいいんだろう。てか、レイプされたんだし、セックスがただ嫌いなだけかもしれん。
「やっぱりオナニストなだけか・・・。」
俺はそう呟いて、改めて彼女を見る。こいつが寝てる姿は何度も見てきた。ただ、それは机に突っ伏している姿だったので、寝顔を直接見たわけではない。今回初めて寝顔を見たが、あまりに美人でたじろいでしまった。ほんと、目が見えなければとことん美少女だな、写真くらいとっとくか・・・。
彼女に近づき、スマホのカメラ音を可能な限り抑えて寝顔の写真を撮った。ふと視線を落とすと、二つの大きな山が、呼吸に合わせて上下しているのがわかった。
————————そういや、こいつ胸くらい触っていいって言ってたよな?しかもさんざん煽ってきたよな?やられても文句言えないよな?
左手を彼女の右胸に伸ばす。
————————あれは誘い受けというやつか?据え膳か?俺は試されているのか?俺なら触ってもいいってことか?
胸に触れる直前で、動きが止まる。
————————待てよ、レイプされた過去がある女性に、同意なしに手を出すのって完全アウトじゃないか?告白券のチャームはもう切れてるから、記憶封印は起こらないにせよ、過去のトラウマ穿り返すことにならないか?
そう思い、俺は左手を引っ込めようとした。だが――――――――
「やっぱりそうすると思った。」
俺の左腕は彼女にがっちりとつかまれ、そのまま引っ張られた。全く想像していなかったことだったから、抵抗できず、そのまま倒れこんだ。だが、痛くはなかった。なぜなら、俺の顔は谷間にダイブしていたのだから。これが女の子のおっぱいか・・・なんて思ったのも一瞬だった。左腕はがっちりホールドされて動かせなかったので、右腕を使って体を起こそうとした。ただ、名残惜しくも谷間から顔を話した瞬間、支えとなっている右腕を払いのけられた。支えるものがなくなり、またも倒れこんでしまう。さっきより上に倒れこんだことで、俺の顔は静乃の真横にきた。胸板では、彼女の柔肌をダイレクトに感じ、興奮が加速した。胸の鼓動が彼女に伝わらないことを祈るばかりだった。
「ちょ、え?起きてたの?」
「起きてたよ。あれだけ煽ったのにぼくを放置してゲームするんだもん。ほんとにリアルに興味ないんだなーって思ってたけど・・・女体には勝てなかったのかな?」
耳元で静乃から囁かれる。吐息がこそばゆく、どうにかなりそうだった。
「お、お前がいけないんだぞ。誰も邪魔の入らない状況で無防備になるんだから・・・」
これ以上この状況が続くとチンコが暴れそうだったから、何とか起き上がろうとしたものの、両腕共にガッツリホールドされて、なかなか立ち上がれなかった。
「そういうわりには、今頑張って抜け出そうとしてるね?手を出したいの?出したくないの?どっちなの?」
「————————レイプされた過去をもつ相手に、合意なしで手は出せないよ。静乃、自分を安売りしないでくれ。」
彼女に破滅願望があるのは、自分語りの時から感じていた。気を許した相手へのお礼を身体で支払うなんて、やっぱりよくない。
「安売りか————————確かにそうだね。ちょっとぼくも反省するよ。いろいろあった、いろいろやったせいで、どうにかなってたのかもしれない。」
静乃はそういうと、俺の両腕のホールドを解いた。俺は立ち上がって、椅子に座りなおす。チンコも落ち着いていた。ここでテントを張っていたら、格好がつかないから。
静乃も起き上がると、衣服の乱れを整えてベッドから降りた。
「遼の言う通り、有希ちゃんのベッドで寝ようかな。有希ちゃんに起こしてもらえば、寝すぎることもないだろうし。だから、遼は自分のベッドで寝ていいよ。」
「そ、そうか。じゃあ遠慮なく寝るわ・・・。」
俺は自分のベッドに寝そべった。すぐさま、疲れがどっと押し寄せて、眠気が襲い掛かってきた。だけど、このまま言われっぱなしやられっぱなしは我慢ならない、という気持ちはあったので、
「てか、そんなに寝たいなら、なんなら一緒に寝てもいいんだぜ?」
俺は自分の体を壁側に寄せて、おもむろに手前側を開けてそう静乃を煽った。手を出したわけではない。主導権が俺なだけであって、相手に行動を選ばせているだけだ。だからセーフ。
「驚いた。遼がそんなセクハラかましてくるなんて。自分から手は出せないけどやられっぱなしも癪だから煽っただけとみた。」
俺の浅知恵は簡単に看破されていた。
「そんなにぼくと寝たかったのか。遼もきちんと男の子だったんだね。」
なんて言いながら、彼女はこちらに近づいてベッドに上がり、俺が空けたスペースに寝転がった。
「ほわわ!?」
「じゃ、おやすみー」
すると彼女は部屋の電気を落とした。彼女は俺の煽りを真正面から受け取った。ここで俺が拒否したら、ヘタレ煽りが加速する。受け入れたら、オトコノコ煽りが加速する。どっちに転んでも煽られる運命に変わりがないのなら、俺は役得をとることに決めた。とはいえ、非常に疲れているのは本当のことなので、ドキドキして眠れない、なんてことはなく、物の数分で意識は落ち、結局あまりうまみはなかったのであった。