タマゴのカラを割らないでっ!   作:すうどんたくろう

105 / 105
4-7-2 クール系クソガキ後輩ギャル

8月31日 月曜

 

 

まず、静乃の記憶が戻った翌日、つまり先週金曜の話をする。当然周囲はみんな驚いた。可愛さ前面に振りまいていた愛されキャラから、昔のキャラへと変貌したのだから、当然距離は置かれるようになった。ただ、その時の記憶も残っているもんだから、その影響のせいなのか、陰鬱な雰囲気はなくなったように思える。以前がダウナー系毒舌陰キャだったとすれば、今はクール系毒舌キャラといえばいいのか。陽キャではないが、陰キャでもない。背筋は猫背からまっすぐになったし、化粧も割とちゃんとするようになった。静乃の話では、着飾ると男が寄ってきて大変だったと言っていたので、平日は抑えめにしていたんだろう。あんまり目立ちたくない思いもあったんだろう。でも、今はそんなこと何も気にしていないように思える。もうすっげー堂々としてるの。面と向かって悪態ついてるの。だからチャラい男はバッサリ切られるの。これまでが”空気”なら、ちょっと前が”姫”で、今は”ボス”になろうとしているの。男を切ってるとこだけ見れば、カースト上位の怖いギャルそのものなんだよな。けれど、同性や礼儀正しい奴にはしっかり優しいんだこれが。もちろんめんどくさがりの性根は変わってないので、話しかけられたら早々に切ろうとするが、その意図をくみ取って話しかけている人には真摯に対応しているように思えた。その時思ったね。これは同性にも惚れられるやつだと。

・・・これ誰かとキャラかぶってるか?と思ったけども、案外そうでもなかった。クールキャラっぽい会長、刹那、怜は似ているようで全然違う。会長は怒らせると怖いタイプのクールキャラでしょ?刹那は押しに弱い真面目系委員長キャラだし、怜は完璧なエージェントキャラに見えて煽り耐性ゼロのポンコツだし・・・。

なんてゲーマー的思考を久々にしてしまうくらい、その日は一日観察に徹していたわけだ。土日は栞たちとしっかりゲーセンでトレーニングをし、そして朝を迎え、食事をとって今まさに玄関のドアを開けようとしている。竜崎は、『彼女”ら”は外で待っているからな。』と念押しをしていた。今日は神前・・・もといルナとして会う初めての日だ。日曜、ルナを同じ高校に通わせると聞いたときはかなり焦った。まあそういったことがしれっとできてしまうのが、彼らのすごいことなんだろう。ただ、怜の顔は明らかに嫌そうな顔をしていた。なんか問題あるのかと尋ねたら、『月曜彼女を見ればわかるわ。』と返された。ちなみに、神前鬼道は金曜は欠席扱いになっていた。話によれば、住まいを変更するにあたって、榊家の従妹ということにしてしまおう、ということらしい。

 

 

 

 「にしても、静乃ちゃん変わったね~」

 

 

たまたま出るタイミングが同じになった有希とそんな話をする。

 

 

 「二つの人格がいい意味で混ざり合ったみたいだよな。」

 「そうそう!昔は昔で優しくていい人だったけど、陰のオーラが強すぎだし、最近は逆に陽のオーラが強すぎて、ちょっとおなか一杯になっちゃってたからね!」

 

 

なんて他愛のない話をしながらドアを開けると―――――――

 

 

 「あ!センパ~イおはようございます。」

 

 

ウルフカットの茶髪の女性がこちらに向かって走ってきて―――――

 

 

 「ちょちょ!兄さんに急に抱き着いて・・・え?兄さん彼女作ったの???」

 「し、知らんこんなやつ!俺の知り合いにこんなギャルはいない!」

 

 

そう。知らん女が急にこちらに向かってきて、俺に抱き着いてきたのだ。胸元のボタンはだらしなく開け、スカートも短く、ルーズソックスに・・・などなど、制服の改造点を挙げるときりがなく、スケベな格好をして・・・いや、ギャルもありかもしれんな・・・

 

 

 「・・・遼、鼻の下伸ばしすぎ。女ならだれでもいいわけ?」

 

 

ハッとして声のするほうに目を向けると、そこにはあきれた顔で腕組みしながら立っている怜がいた。明らかに疲れた目をしている。

 

 

 「・・・え?こいつ神前?」

 「そうですよ~。」

 

 

神前は俺から離れると、改めて自己紹介をした。

 

 

 「今日から怜センパイの家から通うことになりました。本名はルナ・カンフェスですけど、日本じゃなじみのない名前なんで、榊月って名前で行くことにしました。戸籍上は神前鬼道のままですけどね。」

 「・・・ちょっとあまりのキャラ変貌にビビってんだけど・・・」

 「え?神前君?え?どういうこと?は?」

 

 

俺以上に事態を飲み込めていない有希がパニくっている。そうか、こいつ同学年だもんな。普段の神前を知っているのか。

 

 

 「・・・説明長くなるから端折って言うと、神前君は神前”さん”なの。で、実は私の従妹で、訳ありで今まで男の格好をしていたんだけど、いろいろあってもう取り繕う必要はなくなったから、こうしてギャルになったのよ。」

 「なーにがこうしてギャルになったのよだよ!ついていけないよ・・・・・・」

 

 

そりゃ有希にはいろいろ言えないのはわかるけどさ・・・でも逐次説明するには時間がなさすぎるよな。俺もフォロー入れとくよ後で。

 

 

 「ちなみにさ、神前君は―――――」

 「自分のことはルナって呼んでくれると嬉しいなって。」

 「キャラの温度差で風邪ひきそうだよ・・・。で、ルナは結局男なの?女なの?どっちなの?」

 

 

有希、錯乱してるから直接的な表現になっちゃってるけど、それって結構デリケートな話題なんだぜ・・・なんて、思えるくらいには冷静になってきた。自分より焦ってる人を見ると落ち着くってのは本当なんだなって。

 

 

 「戸籍上は男だけど、いろいろあってチ〇ポは取ってマ〇コは後付けなんだよね。自分、心は女だから。幸いもともと男性らしくない体つきだったしね~。だから、自分のことは女としてみてくれると嬉しいなって。」

 「・・・・・・」

 

 

有希はその話を聞くと、ふらついて俺にもたれかかってきた。

 

 

 「ごめんなさい兄さん。ちょっと頭が痛くなってきたので今日休んでもいいですか?」

 「ああ、ゆっくり休め。何なら俺も休みたいくらいだ。」

 「センパイは自分らと一緒に登校するから駄目ですよ。ほら、さっさと行きますよ。」

 

 

神前・・・いや、ルナはそうやって俺の手を取ると、学校へ向かって歩き出した。

 

 

 「ちょ、おま、ボディタッチ激しすぎ。当たってんですけどいろいろと。」

 「当ててるんですよ。うれしいでしょ。だってセンパイ童貞ですもんね~。エッチで毒舌吐くJK大好きなんでしょ?役得じゃないですか(笑)」

 

 

助けを求めて怜に視線を向けると、彼女は彼女で頭を抱えていた。

 

 

 「これが理由なのよ。ほらね、一緒に行きたくないでしょう?」

 「ま、まあ・・・」

 「ねえねえセンパイ?童貞だからエッチな女の子好きなんでしょ?絞られたいんですよね?自分なら全然相手してあげてもいいんですよ(笑)」

 「ちょっと君は黙っててくれないか!?!?てかいい加減離れて――――」

 「なーんて言うくせに、下のほうが元気になってるんじゃないですか?」

 

 

そういって彼女は俺のズボンに手を突っ込もうとした。さすがに身の危険を感じて、急いで彼女を振りほどいた。もう心臓バクバクだ。

 

 

 「さ、サポートをするならなにもこれまでのままでいいじゃん!いったい何の理由で・・・」

 「真面目な話をするとね、神前鬼道の名前は彼女のバックについてた人間に割れているのよ。人となりもね。だから、思い切ってガラッとキャラを変えたほうが、彼らに再度補足されることは起こりづらくなるんじゃないかなって。もう一度彼らに接触されるのは彼女にとっても私にとっても本意じゃないのよ。」

 「そうそう。自分は榊センパイに飼い殺しされるほうが安全ですからね。それにセンパイはこういう趣味ですよね?竜崎さんが快く教えてくれましたよ。」

 

 

あ、あの男・・・

 

 

 「まあ百歩譲ってキャラ変えるのはいい。けど俺にすり寄ってくるのはなんでなんだぜ???」

 

 

そういうとルナはクスッと笑ってまた腕に抱き着いてきた。

 

 

 「センパイの目標は彼女を作ることですよね?」

 「ま、まあそうだけど・・・。」

 

 

どもってしまったが、それが最終目標なのは間違いない。その名目で怜や竜崎がいるわけだから・・・。けど、それを自分から肯定するのはちょっと気恥ずかしい。

 

 

 「なら、その相手は自分でもいいですよね?」

 「サポートってそういうこと!?!?」

 「むしろ榊センパイは手ぬるいんですよ。自分が体張ればいいのに割くどいことするから自分がこの前みたいな強硬策を―――――」

 「それ以上減らず口をたたくなら、喋れなくしてやってもいいのよ?」

 

 

怜がドスを利かせて告げると、ルナはしぶしぶ黙ることとなった。

 

 

 「おれ、これからどうなっちまうんだ・・・」

 

 

新たにクール系クソガキ後輩ギャルを加えて、また新しい一日が始まる。俺の恋はもう始まっているのか、まだなのか。自分の今の素直な気持ちに従うべきなのか、様子を見るべきなのか。正解はないのだろうけど、いずれは決着をつけなくてはならない。リミットである年末まであと3か月しかない。勝負を決めるときは、迫りつつある。

 

 

 

 

                          了

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。