俺が意識を取り戻し、真っ先に目に入ったのは、窓から差し込む夕焼けの赤色。日は沈みかけていた。1時ごろに怜の家に来て2時間勉強し、それから気を失って、日が沈んでいるとなると、3時間近く気を失っていたことになる。
あたりを見回そうと―――したのだが、体に妙な違和感があった。立ち上がろうとしたが、できない。体が思うように動かないのだ。寝ぼけた頭で必死に考えようとしたが、やめた。考えるまでもない。見ればわかった。俺は両手両足をガムテープで縛られていたのだ。いくら俺が柄谷相手にやらかしたからって、ここまでする必要ある?
体を芋虫のようにしてその場から移動してみれば、みんなはいなかった。大きなテーブルの上は片付いており(俺の勉強道具以外は)、テレビの傍にはwiiリモコンが転がっていた。なるほど、勉強終わったからきっとお遊びの時間に入ったんだな。そしてさすが任天堂、みんなでワイワイ遊ぶゲームにはwiiが選ばれるのもわかる。リモコンを振るだけの簡単操作だしゲーム下手の人も楽しめる
―――――――てか、怜の家にあったことが驚きだ。こちらの世界に来たばかりなのだから娯楽のたぐいのものはないと思っていたのだが・・・。ん?ちょっとまて、このリモコン、どこかで見覚えが・・・あ!これは俺のリモコンじゃねえか!有希あたりが家から持ってきたのか?やつめ・・・俺の許可も取らないで・・・
てか、なんで誰もいないの?さすがに俺を放置して帰ったりはしないよね?
リビングにいないとなると・・・・・・・怜の部屋か?なるほどね、ガールズトークの真っ最中というわけですね、わかります。わかったことにしよう。
なら、ここはおとなしく一人で勉強でも・・・
するわけがないよな!
俺にした数々の仕打ち!いくらなんでも過剰防衛だ!謝罪を要求する!謝罪がなければ、俺の好きなようにさせてもらうぞ!すなわち・・・この部屋の探検だ!
俺はもがきながらもなんとか手首に巻かれていたガムテを剥がし、足首のガムテも剥がした。
もしみんなが買い物にでも出かけた―――――――――すなわち外に出ている可能性もあったので、一応玄関に向かった。玄関には俺を含め皆の靴が置いてあった。どうやら外には出てないみたいだな。となると、やはり怜の部屋、もしくはそれに準ずる部屋に集まっているに違いない。
俺はみんなが集まっていると思われる怜の部屋に忍び足で向かおうとした。俺がまだ動けていないと思わせたい。まだばれたくないんだ。どこに行ったらまずいかを、把握しておきたかった。
俺は一階にある部屋を片っ端から調べた。一人暮らしにはあまりに不適なほどこの家は広い。故に部屋の数はそれなりにある。だからこそ、きっとこれには意味がある。神の何かがあるんじゃないか?そんな好奇心をもとに、過剰防衛への対抗を言い訳として、突き進んだ。
二部屋調べてみたが(荷物が積まれているだけであったり、空き部屋であった)怜たちはいない。積まれた荷物を一つ開けてみたら、衣服が詰まっていたので、罪悪感で満ち、他の箱は開けずにすぐ部屋をでた。そしてさらに奥の廊下へと進むと、隅の方に部屋がポツンとあった。
静かにその部屋を開けると、部屋の中は暗く、当然のことながら怜たちはいなかった。空き部屋のように見えた。が、しかし、空き部屋ではない。なぜなら、正面にはデスクがあり、その上にパソコン、プリンターが一台ずつ鎮座していた。近寄ってみると、パソコンはデスクトップ型で、かなりのサイズであった。プリンターも最新式のように見える。
俺は踵を返して部屋から出ようと、扉を閉めようとした――が、その瞬間、いや、そう言うと語弊があるな。扉を閉めようとした瞬間、後ろから機械音が聞こえてきた。いきなり聞こえてきたものだから、あわてて振り返った。
俺は何かいけないことを――――――いやこれはいけないことか。ともあれ、俺の行為がばれた・・・・・・?
そうおもったけれど、どうやらそういうわけではなさそうだ。機械音の根源はプリンターであった。オートで動いていたんだろう。プリンターは一枚の紙を印刷し、その紙は床にはらりと落ちて行った。プリンターのへりの部分が取り付けられていなかったからだ。
好奇心から、俺はその紙を拾い上げて書かれている内容を見た。書かれていた内容は………
A54C
A, 35→20
B, 30→15
C, 35→30
D, 30→10
E, 25
F, 25
G, 20→15
のみであった。
「・・・・・・・・・・・・・・・?」
A4サイズの紙に、小さい文字で書いてあって、なんて紙の無駄遣いなんだと思わされた。
そして紙を拾い上げるときに屈んだ際、俺は机の下に一つの棚が鎮座してあったのを発見した。
棚の中身はなんだ?
今印刷されたのと何か関係が?
そう思ったが、さすがにそれ以上漁るのは失礼だと思い、なんとか思いとどまった。印刷された紙はもともと落ちていた場所に戻し、俺は今度こそ部屋から出た。
にしても、あの文字列はなんだったのだろう。
二階に上がると、ある部屋から何やら音が聞こえてくる。女性の声だ。案の定、怜たちはそこにいた。いや、いると思われる。
さあ、文句を言ってやるぞ――
其の時、俺にある考えが浮かんだ。
―――まてよ
―――常識的に考えて、俺の意識を吹っ飛ばすことであいつらが持っていた不満は解消されたはずだ
―――それでいて、気絶していた俺にわざわざガムテを張る・・・・・・明らかに行き過ぎた行為
―――だが、そうしないとならなかった理由があるのではないのか
―――たとえば
―――女子同士で話したいとき
―――男子がいてはまずいこと
・・っ!まさかっ!!
百合ん百合ん
これはっ・・・妄想が掻き立てられるっ・・・!
だが、もしそうなら、男の俺がいてはまずい・・・ここは扉を開けない方が・・・、もし開けて、ほんとうに百合ん百合ん時間だったら、それを目撃した俺は今度こそ葬られるだろう。
ここでドアノブを回すのはミクさんが言っていたフラグ建てである気がするぞ!
つまり選択肢を出すと、こんな感じになるはずだ。
A 「ぐへへww
B ここは慎重に、部屋から聞こえる声を観察してからだ。そのあと、ノックして入ろう。
C ドアノブを回さないでこの場から立ち去る
常識的に考えたら、Aはない。部屋の中が百合空間にしろ、そうでないにしろ変なこと言いながら男が割って入っていったら・・・想像するだけでも恐ろしい。
Bの場合は・・・もし聞き耳立てているときにふいにドアが開いたら・・・・・・・これも恐ろしい・・・
てことで、みんなが自然に出てくるのを待つか。
俺はリビングに戻った。ゲームはあったが、一人でパーティーゲームをするのはあまりにもさびしいので、勉強で時間をつぶすことにした。
数十分したら怜たちが仲好さそうに二階から降りてきた。
「おう、長かったな。」
「兄さん・・・」
有希は俺の顔を見ると、ひどく申し訳なさそうな顔をしていた。そうなるなら、始めからするんじゃないよ。
「ごめん!さすがにガムテはやりすぎた・・・でも――――――」
「まあ俺も悪かったし・・・どっちにせよ、そうしなきゃならないことがあったんだろ?」
「ええと・・・」
「・・・どうした有希?」
俺にはどうして有希が困惑しているのかわからない。
「いやだって・・・兄さんがそんなに的確に答えるとは・・・思ってなくて・・・逆にキモイ。」
「・・・まあ、考える時間がいっぱいあったからな。」
俺は思わずひきつった笑いをしてしまった。最後の一言は余計だろ。
「まあそんなことは今はいいや。それよりも―――――」
俺は柄谷の方を向き
「柄谷、さっきはすまん。ぼーっとしていた。」
素直に、普通に謝った。
「い、いえ!そんな・・・大丈夫です!気にしないでください!もう過ぎたことですし。」
「柄谷・・・君はなんていい奴なんだ・・・」
俺は感動に打ち震えた。陽キャならノリで抱き着いていたのかもしれないが、それはかつイケメンであるからできることであって、陰のものの俺には到底できることではなかったし、したらきっと取り返しのつかないことになっていただろう。
そのあと解散し、俺と有希は家に向かった。
今日は波乱万丈であったなぁ・・・・・初めての女子の部屋(厳密にいえば違うのだが)、初めての男子一人での勉強会、初めての踏みつけ、初めての拘束・・・あれ?俺は勉強しに怜の家にいったんだよな?
一日にあったことを振り返ってみると、とても勉強しに来ていたとは思えなかった。
自室に戻ると、竜崎は俺の机の上でトランプタワーを作っている最中であった。ちなみに、サイズはねんどろサイズ、つまりミニチュアである。
「ずいぶん暇なことやってんだな・・・」
「やめろっ!今の私に話しかけるんじゃない!」
真剣な眼差しをこちらに向けた。その目は血走っているように見えた。
「後2段・・・後2段・・・・・・・・集中しろ竜崎・・・俺の信じる俺を信じろ・・・!」
完成するまで見届けようと思い、俺はベッドに腰掛けた。
数分後竜崎はラストから2番目の段を完成させ、残りは二枚をてっぺんに置くだけとなった。
「ラス1・・・ラス1っ・・・!」
すごいな……こうしてみるとさ……。計8段のトランプタワー。俺も一度挑戦したことがあるが、一段目すらもうまくできなかった。
「おれはやるぞ!うおおおお!」
気合の入った声とは真逆に、手の動きはこまやかであった。はたから見たらシュールな光景だよな・・・・・・
そんなことを思っていたそのとき、尻に言葉に表せないような波がやってきた。
ヤバイ――――――――
屁 が で そ う だ
ウソだろwwこんなタイミングでwwwwこんな静まり返っている部屋でこいたら大変なことにwwwあああああああでちゃうううううううううでりゅうううううううううううwwwwwwwwwwww
我慢できなくなり、部屋に号砲が轟いた。
竜崎は驚きのあまり手に持っていた二枚のトランプをタワーの足場の部分に落とし、その衝撃によって上からぱらぱらと崩れていった。
「あ・・・・・・・・あぁ・・・・・・・・・・・・・・。」
竜崎はその場にうなだれてしまった。
「わ、悪い、我慢、できなかったんだ。許しておくれ。」
竜崎は無言でこちらを見つめ、ゆっくりと立ち上がり、ミニルームへと戻っていった。
机に散らばっているミニトランプを見つめ、心苦しいばかりである。ここまで積み上げるのにどのくらい時間を費やしたのだろうか・・・・・・・
まあ、どうでもいいか。