6月17日 水曜
テストが金曜日に迫っている中、本来なら今は部活動停止の期間中なのだが、俺を含め柄谷、ハム、部長の四人は部室に集まっている。理由は簡単、27日のFLDの大会に向けた打ち合わせであった。
「火曜日は国広がバイトだったから集まらなかったけど、今日は存分に対策を練るよ!練りまくりだよ!」
部長はホワイトボードの前に立って黒マーカーのふたを開け、《FLD県予選対策☆》とでかでかと書いた。
ちなみに、竜崎は俺のポケットから顔を出している。ただこの場を見守っているという感じだ。
「部長!国広隊員は一つ質問がしたいのであります!」
「よおし!どんと来い!」
「本来なら今は部活動停止の期間なのでは?というか昨日からすでに停止期間は始まって――――――」
「だまらっしゃああああい!」
「ひでぶっ!」
手に持っていた黒マーカーを漫画とかでよく見るチョークとばしのようにこちらに額に飛ばしてきた。ちなみに、マーカーの蓋は開けられていて、先端をこちらに向けて投げてきたので、俺に額には第三のほくろが出来上がってしまっているだろう。とりあえず水性でよかった。
「国広ぉ・・・空気読めよ・・・。こんなとき、だからこそ、だろ?」
親指立ててこちらにさわやかスマイルを部長は送ってきた。白い歯がキラリと光ったように見えた。・・・その無駄にさわやかなところが、ちょっといらいらするんだお!
とりあえず、反射的に謝ってしまった。これ、何に対する謝罪なんだ?
「はっはっはー、わかればいいのだよワトソン君」
わかった。今日の部長、きっとテストのストレスでが溜まっているんだろう。精神的にまいっているんだな・・・哀れだな・・・
「あと、どうやってこの部室に?鍵は梓先生が管理してるんだから、普通は借りれないんじゃ・・・・・。」
「ああそれ?…・・・鍵はかかってなかったんだよ、かけわすれだったんだよ。うん。」
かけ忘れ?そんなこと有り得るのか?
・・・・・・まあいいや、突っ込んだところで何か教えてくれる気がしないし。
「茶番は終わったか?ならさっさと本題に入ってくれ。正直言って今回の試験は大丈夫とは言い難い。少しの時間も惜しいのでな。」
ハムは俺と部長のくだらない会話に割って入った。ハムはこちらをみず、視線は手元の単語帳に向けられていた。
「ハム、あんたも少しは空気を読みなさいよ・・・。でもまあ、時間は惜しいね。じゃ、本題に入りますか。」
部長は俺に投げつけてきたマーカーとは別のマーカを取り出し、ホワイトボードに《戦略》と書き足した。
「じゃ、まずは各機体について聞きたいんだけど……みんなは何で出るつもり?」
「えっと……国広先輩は分かると思うんですが……私はケルディム、ガナーザクαでいきます。狙撃と中距離射撃でいきます。」
「あるふぁ?てことは何?改良ってこと?今まででも十分強かったのに?」
「あのままでは駄目だということに気付いてしまったので。ちょっと方向性を変えてみます。」
「ふうん・・・・・・・方向性を、ねぇ・・・・・・。では次!ハムはどんな感じにした?」
「私はスサノオ、武御雷。」
「相変わらず変わらないな、お前は。」
彼はランクが低いころからずっと同じMSを改良し続けている。俺や柄谷、部長のように紆余曲折して現在の戦闘スタイルが出来上がったのではなく、最初からあの戦闘スタイルのまま、近接格闘のままであるからすごい。
ちなみに、各MSにこうやって名前を付けるのは、判別するのに役立てるためだ。何せ自由度の高いゲームだから、一々武器の説明なんてしてたら日が暮れてしまう。それを簡略化したのがこれだ。
「国広は何で行くの?やっぱグフカスタム?アリオス?」
「まさにその通り!・・・・・・と言いたいところですが、ちょっと違いますね。今回は違ったベクトルなのを一機入れます。」
「ほう・・・珍しいではないか。どういった事情でだ?」
「ちょっと、今のままでは勝てないと悟ったからな。」
「なるほどにゃ~国広がそう言うってことは、よほど強い相手とぶち当たったのかな?そうだねぇ・・・大方オンライン対戦でぼこぼこにされたとか?」
部長にみごと言い当てられてしまった俺は、思わず顔が引きつってしまった。そして隣の柄谷は体をこわばらせていた。
「二人そろって・・・御愁傷様です・・・。」
部長がこちらに慈愛の目、そう、例えるなら、書道で自信満々に書いて、それをドヤ顔でみせつけられて、正直に下手とも言えずとりあえず褒めておく、そんな時の表情だ。ちっとも心がこもっていない。
「慰めないでっ・・・・・・!悲しくなるからっ・・・・・・・・・!そんなに憐れまないでよぉ!」
「いや先輩、まだあきらめるのは早いです!私たちはまだ本気を出していないだけ、ですよね!」
「ああ、そうだな柄谷!俺たちはまだまだやれる!あんなのは油断していただけだ!」
「・・・でも、ぼこぼこにされて、次の日放心状態になっていた君たちが言うのかぁ?」
「竜崎は少し黙っていろ。」
俺は竜崎の頭をポケットの奥深くまで押し込んだ。そして、部長とハムはその光景を見て苦笑いをしていた。とりあえずこの話題にはスルーしていただきたいところだな。
ちなみに、このフィギュアがしゃべることはすでにみんなに伝えてある。以前は知られたらまずいとか思っていたが、もうそんなことはどうでもよくなっていた。
「それで?その機体というのは?」
「それは・・・あえて言わないでおきます。情報は、後出しした方がかっこいいじゃないですか。」
柄谷もそれには頷いていた。おどけて笑って見せたが、俺はガチで言っている。どうせ手の内を明かそうがあかさまいが、部長とハムにデメリットがないなら、サプライズ性を優先したかったのだ。
「――――――――わかったよ。楽しみにしてるね。ちなみに私はアルケーとストライクを予定しているかな。」
「部長さんはいつもと変わらないんですね…。」
「ん?あぁ・・・いやその、さすがに改良はするよ。」
なんかちょっと歯切れが悪かったが、まあいいか。そんなのいつもの事だろう。部長だし。
「では次に、いつアドアーズに乗り込んで練習するかを考えようか~。」
あれ?戦術について考えるんじゃ・・・・・・?
「テストは今週の金曜日から始まって、来週の水曜で終わる。土日はさむけど―――――――その土日にやる?ちなみに、私はやってもいいよ。失うものなんて何もないしね!というかもう全部失ってる!」
堂々と情けないことを言う部長は逆に勇ましかった。とても受験控えた人のセリフとは思えない。
「部長さん・・・悲しいですね・・・もう高3なのに・・・。私はこうならないようにしないと・・・」
「宮永、そんなので受験は大丈夫なのか?」
「浪人確定不可避。」
「ってーおい!私を同情してどうするんだ君たち!今は日時の決定だろう!それと国広!お前のは煽ってるよねそうだよね!?」
「まあ俺は部長と違って普段から勉強してますし。」
俺は得意げに鼻を鳴らし、部長を見ると、彼女は握り拳をつくって、プルプル震えていた。そして大きく深呼吸をして、手をだらんと下におろした。
「・・・で、土日どうなの?てか国広、あんた勉強できるんだから一日くらいやんなくても大丈夫でしょ。普段から勉強してるんでしょ?なら一日フルで使っても問題ないよね?だって勉強できるんでしょ?(笑)」
部長はじと目をこちらに向けている。
いやいや、暴論もいいところだろこれは。あと最後の言葉、皮肉混じってないですかね・・・
「俺がテストで点を取ってるのはテスト前の休みをフル活用してるからこそなんですよ。したがって無理っす。来週の水、木、金曜日にしましょう。それならみんなの都合もいいでしょうし。水曜日はテスト終わるのが午前だから、午後はたんまりとできますし。」
「たしかに、国広先輩の案が理にかなっていると思います。というか、それしかありません。」
「あーもうわかったよぅ。じゃあ水木金でいい?」
「すまない、私は木曜日に用事があっていくことができない。」
「なら水金で決定!異論は認めない!」
部長はホワイトボードに《水金突撃!》とでかでかと書いた。
「それで、次はタッグの出る順番を――――――――」
その時、部室のドアが突然にあけられた。
「やはりいましたね。部活動停止期間中、無断で活動し、さらに部室のカギを許可なく持ち出して・・・。」
緋色会長であった。後ろには彼女でけではなくほかの生徒会の面々が見えていた。
「あ、あはは・・・結衣、いや、緋色会長ではあ、ありませんかぁ~。こんなところで会うなんて奇遇ですねぇ~~・・・。」
部長は、額に汗をにじませ、目は泳ぎ、言葉も歯切れが悪くなっていた。
てか、部長、鍵、盗み出してたんですか・・・
「ええと・・・君たちは、部長に呼ばれてここに来たのかい?」
カトル先輩が俺たちに質問を投げかける。
・・・…なんとなくわかる、わかるぞ、これは何を言わんとしているのかが。
これはおそらく、『もし自発的にここに来たというなら、反省文は君たちにも書かせますよ?』ということだ。もう部長の反省文確定は免れない。なら次は俺たちというわけだ。ただ、俺たちには前科がない。よって言い方によっては免れることもできる。これは部長と共犯者になるか、それとも見捨てるか、小さくはあるけれど分岐点のようだな。
試しに視線を下げてみると、竜崎はグーサインをだしていた。つまり、そういうことなのだろう。
ギャルゲ風に選択肢を出すなら、
A 「いいえ、みんなで部長と相談して今日来ようと思って集まりました。」
B 「いいえ、実際に集まろうと言い出したのは俺で、鍵の件は俺が部長に頼んだんです。」
C 「はい、俺たちは部長に呼ばれてきただけです。ほぼ強制的につれてこられました。」
さて、どうしたらよいのか。