タマゴのカラを割らないでっ!   作:すうどんたくろう

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1-3-2 キンクリされた二回戦

 「―――とまあ、こんなもんでいいだろ。」

 10分程度、俺は柄谷と前回の試合の反省を、中央公園のベンチに座って行っていた。

 「じゃ、戻るか?」

 「はい!………と言いたいところですけど、降りてきてそんなに時間立ってないですし、もうちょっとゆっくりしていたいです。」

 「そうか、じゃあのんびりするか。幸いまだまだ時間はあるし。」

 俺はベンチの背に体を預け、空を仰ぐ。綺麗な青空だ。そんな空をまじまじと見ていると、背筋がむずがゆくなって、目線を前に向けた。こんな風にのんびりするのも悪くない。うん。悪くない――

 

 

 

 頭が、こくん、と前に揺れ、そこで俺は気づいた。どうやら寝ていたようだ。このまったりとした空間が眠気を誘っていたんだな…………って、あれ?寝ていた?眠っていた?

 俺は恐る恐るケータイを開いて時計を見ようと――したとき、なにやら右肩に圧力がかかっていたのを感じた。見ると、柄谷も眠ってしまっていた。俺に寄りかかるような感じで。

 こっ、これはっ………!よく電車とかでみかける恋人たちの戯れの一つではないかっ・・・!こんな形で体験することになるとは……。やべえ、いくら柄谷といえども、女子から寄りかかられるのって………いいね!この気持ち、形容し難いわぁ……って、そんなことよりも!時間だよ!

 俺は今度こそケータイを開いてみる。すると、30分前集合から20分も過ぎていた。

 「お、おい柄谷!起きろ!」

 俺は柄谷を激しく揺さぶる。

 「……ふぁ……。ぁあ、せんぱい……」

 「寝ぼけてる場合じゃねえ!もう試合開始10分前だぞ!」

 「………ふぇ?」

 柄谷は目をぱちくり開いて、ケータイで時間を確認していた。そして、彼女の顔はみるみる青ざめて行った。

 「いくぞ!」

 俺は走り出そうとしたが、柄谷がいつまでたっても走り出さない。彼女はカバンの中身を確かめていた。そりゃあ、二人そろって寝てたんだから、誰かが盗みに入ってもわからないわけで。だが、今はもう時間がない。

 「ああもうっ!」

 柄谷の腕を無理やりつかんでベンチから立たせて、ビルに向かって走り出した。

 「え、先輩!ちょっと待――」

 柄谷がなんて言ってるかなんて耳に入らなかった。今は一刻も早く6階にたどり着くことだけを考えていた。

 

 

 「…!国広と栞ちゃん!遅い!遅すぎだよ!」

 「すんません……」

 「す、すいませんでしたぁ……」

 エスカレーターは混雑していたから、止むを得ず階段で登る羽目になった。走って登ってきたから、体力的にしんどかった。

 「まあ、間に合ったからいいけどさぁ……。と、こ、ろ、で、いつまで君たちは手をつないでいるのかに

ゃ?」

 部長に指摘され、そこで俺はいつの間にか柄谷の手を握っていたことに気付いた。最初は腕をつかんでいたはずなのに……いつの間にっ!?

 俺は反射的に彼女の手から自分の手を離した。彼女もほぼ同時に離していた。

 「す、すまん…」

 「いえ、こちらもすいませんでした……」

 今の俺らの姿が面白いのか、部長はやけににやにやしていた。………そういや、久しぶりに女の子の手なんて握ったけど……やわらかかったなぁ・・・・・・・・

 「……茶番はいいから支度をさっさとしろ。もう5分前だぞ。」

 痺れを切らしたグラハムが、俺らに投げかけてきた。普段空気の読めないグラハムは今回ばかりは役に立った。あのままだったら、おかしな雰囲気になっていたな…確実に。

 「そ、そうだ、急いで準備するぞ!」

 俺はそそくさと筐体へ向かった。

 

 

 試合は何ともあっけなく、さくさくっと倒してしまった。二回戦は一回勝負3セットであるため、俺の出番は最低一回。これで部長達が勝ってくれれば俺たちの勝利が確定する。

 「あとは任せましたよ。」

 「ぼっこぼこにしちゃってください!」

 「任されました。いくよグラハム!」

 「承知した!」

 部長たちは俺たちと入れ違いで、筐体に向かった。

 「今回の相手は余裕でしたね。」

 「ああ、想像以上に弱かった。何があったんだってレベルだな。」

 今回の戦いは俺は今後の戦いの肩慣らしとして、グフカスタム、柄谷はアーマードトルーパー(AT)で向かった。詳細は後に回そう。まあ、柄谷との相性という点で考えると、初戦よりは手抜きと思ってもらってもいい。ちょっと苦戦するかと思いきや、圧勝であった。拍子抜けである。また戦力ゲージは減らさずに勝てた。

 「まあ、これなら部長たちは圧勝ですね!」

 「まあそうだろうなぁ。」

 選手の控えのためのパイプ椅子に座り、大画面モニタを眺めた。―――ってあれ?ハム、スサノオ使わないんだ・・・・・・

 

 

 「さあ、第4ブロック第二回戦、2セット目が始まろうとしています!1セット目はcarat選手とNorris選手の圧勝!一回戦で戦力ゲージ無傷を叩出しただけあります!さあ、<グラハム・イエーガー>選手と<Fate>選手はいったいどんな戦いを見せてくれるのかっ!」

 「チーム《ぺぺろん》は漁夫の利で勝ち上がったチームです。正真正銘の実力で勝ったとは言い難いですから……次の戦いは厳しいかもしれませんね……。まあ、一回戦に出場した選手ではありませんので、実力がどんなものかはうかがい知れませんが。」

 「ですね。―――さあ!時間になりましたので、いよいよ2セット目を開始します!」

 

 

 「確かに…グラハム先輩がスサノオ使わないなんて珍しいですね…。機種制限ある準決勝ならまだしも今回は1回きりの勝負でしょう?あらゆる敵に全力を尽くすグラハム先輩にしては……これは変ですね…。」

 「まあ武御雷でも十分強いけどさ……。部長はアルケーか。こっちは普通なんだけどね…。」

 まず武御雷。これについての説明なのだが、ロボットとは思えないくらい過敏に動く。メイン射撃はマシンガン、ただし、これはあくまでも形だけのもので、グラハムはあまり使わない。射撃武器はこれだけで、サブ射撃の部分には独自の格闘コンボを取り入れている。どんだけ格闘好きなのさってくらいだ。基本格闘には長刀。ただし、グラハムはなぜか武器破壊エフェクト(長刀の耐久度)を取り入れている。本人曰く「壊れない刀などあり得ない。」ということらしい。…まあ耐久度つけたおかげというのか、刀自体のコストが低くなり、他の部分に回すことができている。――ここで一つ疑問ができる。「破壊された後はどう戦うのか」ということだ。まさか格闘大好きのグラハムが射撃のみで戦うわけがない。ということで、彼は両前腕外側、両手首、両足裏に計6本の短刀を仕込んである。――いや、短刀と呼べるのは両手首に仕込んであるのだけで、残りは鋭利な物といったほうがいいだろう。格闘が長刀オンリーだったのが、短刀に、殴る蹴るが追加されるような感じだ。……ちなみに、これは長刀が壊れた時のみではなく、長刀がまだ破壊されていないときは特殊射撃コマンドで変えることができる。HPは1500、コストは2000となっている。

 次に部長の機体アルケーだが、これはファンネル(この場合、正しくはファング)攻撃を主としている。少し特殊なのが、この機体に装備されている銃剣だ。ただ、銃の先端に刃がつけられているのではなく、銃そのものが変化して剣になる。どうして剣と銃を二つ持たないのかと聞けば、「なんかかっこいいじゃん!」と返された。まあ、メリットもデメリットも特にはないからね……。これも武御雷と同じでHPは1500のコスト2000。

 「さ、部長たち、頑張ってくれよ!」

 

 

 やはり相手は弱かった。まず部長がファングで敵の足止め、乃ち立ダにさせ、グラハムが叩き込む。そのパターンで押し切ることができた。……まあ、最前線に身を投げていたグラハムは、さすがに一度撃破されたがね。ともかくこれで準決勝進出。次勝てば関西予選への切符が手に入る。……みなぎってきたぜ!

 「準決勝の相手ってどんなチームなんですかね?」

 「あれ?栞ちゃんたち見てたんじゃなかったの?」

 俺たちは昼食をとるために近くのファストフード店に寄った。グラハムを除いて、皆セットものを頼んだ。グラハムはゴハンスキーな人間だから、本来持ち込みは禁止なのだけど、おにぎりを食べていた。ちなみに、怜は居ない。「近くで静乃にあったから、試合まで彼女と時間をつぶしてるわね!」だとよ。自由なやつだなぁ…。てか、静乃とよく出会えたな。あいつも遊びに来てたのか~…。ってあれ?偶然会うにしてもどこで会ったんだ?怜ってこのビルから出たか?……ま、いっか(笑)

 「あ、そうしようと思ったんですけど、途中でプレイの反省会やることにしたんですよ。だから結局見てないです…すいません…。」

 「ちょっと何してんのさ・・・・・・・・・・・・・・・・・まあ、私がチェックしてるから大丈夫なんだけどね(笑)」

 「お、驚かせないでくださいよ!」

 「あはは、ごめんごめん。――で、次の相手についてなんだけど、相手のランクは全員Aね。」

 「俺と部長はA+、柄谷とグラハムはAだから、ランクだけで考えると俺らが優勢だな。」

 「確かにそうなんだけど、プレイ技術はAレベルではない。おそらくAAレベル。特徴としては、戦法2人は低コストの機体で細かく足止めする攻撃が多く、相手からの攻撃のガード成功率が非常に高い。」

 ・・・・・・・・・・・まるでNamelessみたいじゃねえか。

 俺と同じことを思っているのか、柄谷の方に目をやると、彼女の瞳に色があまりなかった。レイプ目寸前といえばよいのだろうか。

 「次に後半のチーム、彼らは前半とは正反対に高コストな機体を使っている。ただ、技術的には前半よりは劣るね。ガードもそこまで使えてなかったし…。だけど、火力が半端ないかな。前半は鉄壁の守りからちまちま相手にダメージを与える。後半は攻撃は最大の防御みたいな感じだね。わかりやすく言えば。」

 「……部長、彼らのプレイヤー名までわかりますか?」

 「ん?ああ、確か……なんだったかな。」

 部長は手を顎に当て、考え込んだ。そしてしばらくしたのち、突然吹き出し、

 「そうだったそうだった!確か、<ペペロンチーノ>と<ざるそば>、<広東麺>に<餡かけ焼きそば>だったね。名前めちゃめちゃふざけてるけど、実力はあるから、油断しないでね。」

 な、なんだよ・・・・・・驚かせやがって…。でもまあ、家庭用とアーケードとで名前が違うとかよくあるから、決して安心といえるわけではないが。

 俺は軽く安心していた。あのときのあいつらではないと。だけれど――早計だった。

 

 

 「そして、チーム名は確か…『Nameless』だったかな。」

 

 

 その一言で、俺と、柄谷は、絶望に墜ちかけた。

 

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