タマゴのカラを割らないでっ!   作:すうどんたくろう

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1-3-3 この中にひとり、皮かむりがいるっ!

 この後部長はいろいろ敵についての情報を話していたようだが、頭には入ってこなかった適当な相槌を返し、何も考えずパンを口に運ぶ。運ぶ。運ぶ。俺の飛んでいた意識が戻ったのは、パンに噛り付こうとしたら空を切ったときだった。そこでやっとパンを食べ終わっていたことに気付き、意識が覚醒した。見ると、周りは食べ終わっていた。柄谷に視線を落とすと、彼女は、まるでそこにパンがあるかのように、噛みつこうとしていていた。―中に何もない紙袋をもって。

 「――てなわけで――ってあれ?栞ちゃん、どしたの?なんかさっきからエアイーティングしてるけど…気は確か?」

 返事はない。どうやら聞こえてないらしい。カチッカチッと柄谷の歯の音が聞こえる。――ついさっきまで、俺はあんなだったんだよなぁ……てか、俺はすぐ気付いたのにこいつ…全然気づく気配がないな…。しゃーなしだな、起こしてやるか。

 「おい、柄谷、現実に戻ってこーい。」

 俺は柄谷の肩を揺さぶると、そこで彼女はハッと意識を取り戻した。彼女は手に持っていた紙袋を見て、恥ずかしさからか顔を赤くさせていたが、それもつかの間。みるみる表情は暗くなっていった。

 「大丈夫?体調不良?」

 「え……ああいや……別に大丈夫です……。」

 「とても大丈夫そうには見えないがな……。だがまあしかし、皆昼食は済んだようだし、ここでおいとましよう。長居は迷惑だろうからな。」

 ……本当に空気の読めん奴だなグラハムは…。

 あと、柄谷は大丈夫だろうか…?朝は俺を励ましていたのに…。あれは虚勢を張っていただったのか…?

 

 

 「さ、いよいよ開始15分前になったんだけど、なんと肩慣らしをすることができるんだってさ!」

 昼食後、部長は「野暮用がある。みんなはその辺でぶらぶらしてて。この時間にビル内で集合ってことでよろ!」とかで抜け出して、3人が残されたわけだが、特にすることもなかったのでその辺をぶらついてからビルの中に戻った。集合場所には部長がすでにいて、係員から指示を受けたのか、俺らにそう告げた。

 「う~ん……俺は別に大丈夫なんだけどな…」

 「まま、そういわずにさ。折角そう言った待遇してくれてるんだから、あやかろうよ?」

 「そうだぞカタギリ。常に万全を期すのは重要なことだ。」

 「…まあ、確かにそうか。」

 俺は筐体の椅子に腰かけようとしたその時、

 「あ……あの、すみません。ちょっと花摘みに行かせてもらっても……」

 「ん?ああいいよ。いってらー」

 柄谷は踵を返して、駆けて行った。

 「まったく…こんな直前で柄谷は何をやっているのだ…。しかも彼女はぬけ作か?彼女が走っていった方向には何もないぞ?正反対ではないか。」

 ………グラハムに言われてみれば確かに。

 いくら柄谷がドジッ娘だとしても、通いなれているこの場所で、このタイミングで、間違えるか?

 「あ、栞ちゃんエスカレーター乗ってったね~。しかも走ってさ。危ない危ないだよ~…。途中で間違ったことに気付いて、だけど戻るのが恥ずかしいから、下の階のトイレで……いや、下の階はパチンコ屋だから、トイレはあの中、つまり入れないか…」

 いやな、予感がする。

 「ちょっと様子がおかしいな…。」

 「確かにだ。思えば昼食時もどこか上の空であった。…私が思うに、彼女はこれから対戦する相手を知っているのではないか?彼女の様子がおかしくなったのも対戦相手についての情報を宮永が話していた時であった。」

 「……まさにグラハムの言うとおりだ……。」

 俺は重苦しく口を開いた。まさか自分の仮説がそのまんまであったのに驚いたのか、仮面越しのグラハムの瞳には疑念の色が見えていた。

 「俺と柄谷は一度奴らと戦った。そして、………完膚なきまでに叩き潰された。」

 「……なら、花摘みは嘘だね。現実逃避ってやつかなぁ…。栞ちゃん、メンタル強そうに見えて結構もろいから。」

 「同感だ。もっと精神的にも強くなってもらわなきゃならんな。」

 部長はまるで他人事を話しているかのようだった。グラハムは淡々としていて、挙句の果てには柄谷の事を非難していた。そんな態度は………俺を苛つかせるのには十分だった。

 「……部長、何故そんなに冷静なんですか?柄谷は逃げ出したかもしれないのに。それにグラハム、お前もこんな状況でそんなこと言うような奴だったのか?」

 見るからに俺が苛ついているのにもかかわらず、奴らは鼻で俺を笑った。

 「だってねぇ…見つかるから。いや、見つけるといったほうがいいか。だから―――」

 部長は一拍おいて、大きく息を吸い――

 「――探して来たら?」

 「言われずともなっ!」

 俺は筐体の椅子をはねのけ、エスカレーターへと駈け出して行った。

 

 

 「……これでよかったのか?」

 「素晴らしいね。『奴らは何もわかっていない。彼女を何とかできるのは俺だけだ!』みたいな?栞ちゃんと国広は去年からの知り合いらしいし、これを機に2人を親密にさせるのもありかなって。これで2人のトラウマ克服、連携アップ間違い無しだね!」

 「……いくら勝ちを狙っているとはいえ荒いな…」

 「まあいいじゃない。――よし、5分後に種明かししようかな。後味悪いし。」

 

 

 すぐさま後を追おうとしたが、

 「真冬たんにあいたいですのだ!」

 「真冬たんの控えめなおもち……ブッヒィ!」

 「見た目は美少女、中身は腐女子、だがそれがいいっ!」

 「真冬たんのむれむれお靴をくんかくんかしたいですぞ!」

 変な輩が群がっていて、とてもじゃないけどエスカレーターは使えなかった。

 「チッ……非常階段使うか…。」

 俺はしぶしぶ階段で降りることにした。途中、汗臭さとイカ臭さに頭が痛くなったが、そんな自分のことに構っている余裕はなかった。

 電話をかけたが出ない。メールを送ったが返信が来ない。…………ったく、あいつはどこにいるんだよ!きっと一人になりたいだろうから、ビルの中には居ないだろうし……だとすると、中央公園か?

 俺はビルを出て公園へ向かうと、想像通り、あるベンチに少女が一人、うつむきながら腰かけていた。彼女は俺をちらりと見たが、またうつむいてしまった。

 「隣、座るからな。」

 俺は柄谷の返事を待たずにベンチに腰かけた。

 「………怖くなったのか?」

 「………はい……。」

 こちらの方は見ずに、返事だけした。

 「俺も同じだ。怖い。だがな、お前今日の朝、俺を励ましてたじゃねえか。それのおかげで俺はなんとかやっていけそうだと思えている。お前自身は違ったのか?あの時のお前は虚勢を張ってただけなのか?」

 「…………」

 返事はなかった。俺は小さく嘆息し、空を見上げた。心をリフレッシュしたかったが、残念ながら空は少し淀んでいた。柄谷の心も今このように淀んでいるのだろうか。

 「……じゃあ柄谷、お前は俺が奴らに勝てると思うか?」

 返事はないだろうし、求めてないので、俺は話題を変えた。数秒彼女は沈黙、そして、

 「それは……先輩は上手ですから……きっと…でも私は下手だから……。」

 「てことは、お前は俺なら勝てると信じているわけだ。あってるよな?」

 「……それはそうですけど…」

 「なら俺は………お前ならやってくれる、お前となら…必ず勝てる。そう信じている。俺を信じてくれているのなら、この……そんな俺の…この言葉を信じてくれ。」

 「・・・・・・・・・・・」

 「それにな、俺はお前と組むのが最強だと信じている。去年からの付き合いだろ?長いキャリアがあるんだ。油断や慢心がなければ・・・・・・・そう簡単には負けないさ。そうだろ?」

 そのとき、柄谷の瞼がほんの少しだけ動いた。それを皮切りに、今までの悲しみや絶望に暮れていた柄谷が、徐々に明るさを取り戻していくのがわかった。

 「確かに……そうですね……。私ひとりじゃ勝てなくても・・・・・・・先輩とならいけそう気が、いやいけます!」

 「よし、その意気だ!ようやく元気を取り戻したな。」

 「すいませんでした先輩、迷惑かけて…。」

 「いや、気にしなくていい。気にするところはそこじゃない。早く戻らなきゃ不戦勝になるぞ。」

 「そ、そうでした……。じゃあ先輩!急ぎますよ!」

 そういうと柄谷は、俺の腕をつかんで走り出した。

 「ちょ、ちょいまち、そんなに引っ張られると走り辛いって!」

 まったく、数時間前とは構造が逆転してるぜ。

 

 

 「さっきはごめんね国広。」

 「すまんカタギリ、宮永の策略で仕方なく先のような言動を―」

 「そんなことより目先の敵をぶちのめすぞ!」

 「そうです部長さん!グラハム先輩!話はよくわからないですけど……今は勝つことだけを考えましょう!」

 俺らが戻るなり、すぐに部長たちは頭を下げた。冷静になって思い返してみれば、あからさまに俺を煽ってたよな。冷静さを欠いていた俺をあえて逆上させた。・・・・・真意は分からないけど、きっとこれも勝つために必要なことだったのだろうと、無理やり解釈した。

 「そいじゃま、軽く蹴散らしてきますかっ!」

 「「おう!」」「はい!」

 

 

 「さあ、Bブロック準決勝の火蓋が……今っ!切って落とされるっ!この戦いを征したものが…決勝へ進出並びに関西大会への切符を手にすることとなりますっ…!」

 「このゲームは参加人口が多いため、地区予選の決勝戦出場チームが次の大会への出場権が与えられる。ちょっと特殊ですけど、それのおかげで大会がいつも白熱したものとなっています。」

 「ちなみに椎名さん。今後の大会の日程は如何程となっているのでしょうか?」

 「えっと、まずそれぞれの地域で地区予選を行ってもらいます。まさに今がそうです。そして次に地区大会。北海道、東北、関東、中部、関西、中国、四国、そして九州。さらに、関東関西はとりわけ出場チームが多いため、地区大会での決勝出場チーム+第三位が全国大会の出場権を手にします。そして、最後に全国大会が締めとなっています。」

 「わかりやすい解説有難うございます。では次に、準決勝のチーム紹介とまいりましょう。まずはっ……!圧倒的火力で全ての敵を薙ぎ払うっ…!Fate選手を中心とするのはっ………チーム「vibrio」だぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 Audience「うおおおおおおおおおお!!!!!!」

 

 「次にっ……!鉄壁の守りに堅実な攻撃っ!美味しい名前がトレードマークのっ・・・・・・・ 「Nameless」だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 Audience「Fooooooooooooooo!!!!!!!!!!」

 

 

 「さあ、第一試合、「vibrio」からはNorris選手とcarat選手。「Nameless」からはペペロンチーノ選手と広東麺選手がスタンバイしています。」

 「carat選手は狙撃を得意とし、Norris選手は相手を攪乱しつつダメージを与えるのを得意としています。これまでの戦闘スタイルは、まずNorris選手が敵の注意を引き、隙を見せたところをcarat選手が打ち抜く、といったものでした。対してペペロンチーノ選手は防御を得意として、広東麺選手は相手の隙を突くのを得意としています。戦闘スタイルは、ペペロンチーノ選手にひたすら攻撃を受けさせて、攻撃に意識が向きすぎてるその隙をついています。どちらも、一人が囮となる戦法です。似たようなスタイル、さらに、真冬の見立てでは、両チームの個々の能力は同等。したがって、チームワークがこの戦いのカギとなるでしょう。」

 「対戦ステージは火山っ……!不安定な足場に、触れるとダメージが発生するマグマっ……!それではっ……!第一試合1セット目、開始っ!!」

 

 

 1セット目、最初から勝ちを狙いに行きたいが、ステージがステージなので、グフカスタムで出撃することにしたグフカスタムは右にサーベル、左にはガトリングを装備した歩兵機体だ。このゲームには移動タイプが二種類ある。一つはアリオス、ケルディム、スサノオのようにバーニアによる移動。つまり移動中は常に地面から浮いているのだ。それに対し歩兵機体は自分の足で移動する。これにはメリットとデメリットがあり、メリットは、バーニアを使わないためブーストゲージが長持ちする。デメリットは、脚で移動するため、足音が必然的に響くことになる。つまり相手から自機の居場所がわかりやすいのだ。これは致命的のように見えるが……実はそんなことはないのだ。それは、サブ射撃、特殊格闘、特殊射撃にあてられているワイヤーである。このワイヤーは移動と攻撃両方において大いに役立つ。まず攻撃の面だが、このワイヤーを相手に当てると、相手は立ダ状態になる。つまりは攻撃のチャンスである。さらに、相手に当たると任意でワイヤーを巻き戻すことができる。つまり相手に接近することができるのだ。しかしガードを突き抜けることはできないため、ガードされたら終わりである。だから、より相手にワイヤーを当てやすくするために、ワイヤーを移動の手段として使うのだ。サブ射撃にあてられているワイヤーは、進行方向に対して発射される。特殊格闘は、照準通りに発射される。そして特殊射撃は、照準とか関係なく、真上に発射される。これで相手を攪乱するのだ。しかもこのワイヤーは、建物などに当たると、その建物へ接近することができる。そうなると、都市ステージならば猿のような身のこなしでビルを駆け上がることだってできる。さらに特殊なことに、真上に発射のワイヤーだけ、上に障害物がなくても上昇することができる。……ゲームってすごいよね(笑)コストは1000。だが火力は高い。次に柄谷だが、彼女はAT(アーマードトルーパー)で出撃している。理由は簡単。カラーが黒いからだ。背景と同化することで、相手へ地味にいやがらせをするのだ。……そんな単純な理由じゃないよ?まずATはグフカスタムと同じ歩兵機体で、基本はAR(アサルトライフル)での射撃が主だが……武装が多いのが特徴で、名無し戦の為に隠し玉をいくつも用意してある。イメージとしては、メタルギアなどの普通の兵士が重装備になったと思ったらいいかもしれない。まあ機体は人型といえども全体的に太いし……いやそれはどうでもいいか。ともかく武装についての説明は後にするとして、コストは2000。正直これらの機体は都市ステージで生きるのだが……都市ステージはアリオス、ケルディムで臨みたい。だからやむを得ない。

 対する相手は……やっぱりそうか。前に家庭用の方で対戦したのと似た――いや同じ機体だ。おそらく低コストで低下力、だけどもこちらの動きを止めるうざい攻撃ばかり……。そう簡単にやられてたまるかっ!俺らは前回とは違うっ!

 《まずは一戦、勝つぞ!》

 《はいっ!》

 これにて、戦いの火蓋は切って落とされた。

 

 

 今回も所詮同様、最初敵はマップに表示されない。こちらが発見しなければマップ上に載せることはできない。だから、まずは敵を探すこととなる。ここで、柄谷と別々に行動をとってしまうと、敵チームの袋叩きに遭うかもしれないので、一緒に行動する。俺がアリオスなら速く移動できるため、単独行動もとれるのだが、いかんせんグフカとATは基本の移動速度は速くない。敵には発見されやすくなるが…破壊されるよりかはましだろう。

 俺の背中を柄谷に預け、火山ステージをひたすら前進するのだが……敵がいない。どこにもいない。足音すら聞こえない。

 《やつら……まさか上にいるのか…?》

 このステージは荒地部分と火山部分とで大きく分けることができる。前者は。岩石などがごろごろ転がっていて、遮蔽物が多い。後者は傾斜になっており、岩石などの遮蔽物はあまりないが、触れるとダメージとなるマグマ、火山灰による視界不良などがある。

 《こんな複雑な地形ですから、わかりやすいところにいてくれればありがたいんですけどね~探すの辛いですから。》

 《ああ、そうだな――》

 空気が変わるのは一瞬だった。

 ダァァァァン―――と、ちょうど真横からミサイルが飛んできて、柄谷に直撃した。しかもそれは、倒ダではなく立ダ状態にさせられるものだからたちが悪いものだった。

 っ……!やられたっ……!先に見つけられたか…。反射的にガトリングを撃つ――が、それはすべて受け止められ、フリーになった一機が立ダ状態の柄谷へバルカンを撃った。だが敵のコストが低いことが幸いし、甚大な被害、というわけではなかった。

 《相手も二人いるっ!先に俺らが墜とすぞっ!》

 《もちろんです!》

 立ダから回復した柄谷はARでまずは応戦。ただ、これもことごとく防がれる。だが、これは計算通り。格闘攻撃を防御されると、こちらは仰け反り、大きな隙が生まれるが、射撃を防御されたところで、こちらへの大きなデメリットはない。もっとも、フレーム数が多い攻撃ならおもくそ隙を与えることになるが、それを考慮して、こちらは連射できる武器を用意してある。連射できる武器は一発一発のダメージは少ないが、モーションは短い。乃ち、隙を作りづらいということだ。

 つまり、

 ① AR等で連射し、敵にガードさせる。

 ② 頃合いを見て連射を止め、敵に接近する。

 そして三番目は、

 《この前はよくもぉぉぉぉぉぉ!》

 柄谷が敵1(としよう。2機とも似たような感じだから。)に接近すると、敵1は柄谷へバルカンを撃つ。かなりの近距離だったので、敵1はHSを狙いに来た。――だがな、その判断は大間違いだ。むしろありがたいね。銃弾は“避けられた。”柄谷が直前で機体を屈ませたのだ。そしてそこからの――

 ドゴッ――っと柄谷の右のアッパー敵1がヒットした。このアッパーが当たる直前、柄谷は右腕を伸ばしていたため、直前の機体の加速、腕の伸びで敵は宙に浮かされた。その隙を逃さず、柄谷はATの武装の中で最も火力のある<ロッグガン>、エネルギー弾をブチ込んだ。これが三番目、『敵を一定時間行動不能にする攻撃をブチ込み、その隙に攻撃を叩き込む。』だ。

 一方俺は敵が打ち上げられたのを見て、DBを狙おうと試みたが、さすがに間に合いそうもなかったので狙うのをやめた。

 

 

 「きいいいいいまったああああああああああ!!!carat選手の鮮やかなアッパーからの高火力砲弾がペペロンチーノ選手にきまったああああああああああああああああ!!!!」

 「え、えっと、椎名さん?実況は私の仕事――」

 「連射、速射ともに高水準のARで相手のガードを誘導させ、そこから一気に距離を詰め、敵の懐へもぐりこんで打ち上げ、そこからの砲弾……ペペロンチーノ選手はHPを半分削られました。HPに補正をかけていなかったのは痛いですね。」

 「私、まんまと見かけに騙されました。あんなガタイのいい機体がこんな機敏な動きができるなんて…。屈みこんだのだって、あんなの屈んだというより“無理やり足を押し曲げた”という風にしか見えませんでした。」

 「あれは脚部に特殊な細工を施しているんでしょうね。奇襲や回避にはもってこいだと思います。ただ、見栄えは悪いですけど。」

 「そういうのを気にする人にとっては致命的ですよね。」

 っておいおい解説者たち、感想はいいから実況解説しろよ。

 …でもまあ、確かに、栞ちゃんのアッパーには驚かされたなあ。以前の栞ちゃんのATは格闘技なんてなかった。だから、ちょっと攻撃パターンが読みやすいかなって思ってたんだけど、これ一つ加わるだけでぐっと戦術が広がるね。これが栞ちゃんの言っていた改良――いや、あれはガナーザクだったか。対策会議した時は単に言い忘れてただけ?それともあのあと追加したとか?まあいいやどっちでも。

 

 

 柄谷がいい感じなんだ。俺だって負けてらんねえな。俺はガトリングで牽制しつつ、ワイヤーで相手を攪乱している最中であった。弱い相手ならあっさりワイヤーに引っかかってくれるのだが、やはり敵はうまい。ことごとくガードをしてくる。グフカは柄谷のATのような格闘技はない。だから、とにかくワイヤーがヒットするか否かが戦いの肝だ。

 《っ……埒が明かねえ!何なんだよこいつら!》

 と、敵の防御率の異常な高さにイライラしてきたころ、敵2が俺がワイヤーで移動し、その時の着地を狙ってエネルギー弾を放ってきた。冷静さを欠いていた俺は当然直撃する。威力は低かったにしろ、立ダ状態にさせられるまたも厄介な攻撃。勿論敵は身動きが取れなくなっている俺を逃すわけはなく、敵の攻撃をすべて受ける。結果、俺のHPは三分の一ほどもってかれた。

 《先輩!落ち着いてください!焦ったら負けますよ!》

 ……確かにその通り、その通りなんだがな柄谷……。これはイラつかずにはいられないぜ……。

 《・・・・・押してもだめなら引いてみるか。》

 俺はあえて敵2を放置し、柄谷に加勢した。なあに、一瞬だけ、一瞬だけさ。一回手助けしたらすぐ戻――

 ――ズガガガガガガガガッ――

 俺が敵1の方向を見た瞬間、敵2は容赦なく俺を狙い撃ちにした。急いで敵2と向き合い、ガトリングで応戦するが、それはガードされる。

 ……畜生っ…俺の凡ミスだっ・・・・・・・・・・・

 ――ドシュドシュッ――

 さらに畳み掛けるかのように、こんどは敵1が柄谷の猛攻の合間から俺を狙ってきた。威力が高かったため、俺は撃墜されてしまった。すべては俺の招いた結果。コストは1000だとしても、敵も1000で、なおかつ体力はあまり削れていない。なんてひどいんだこれは………

 

 

 「ペペロンチーノ選手と広東麺選手のコンビネーションでNorris選手撃墜いいいいいい!!!!先に戦力ゲージを減らしたのは、チームNamelessだああああああ!!!!」

 「かんとん選手が一瞬の隙も見逃さなかったのも素晴らしいですが、ぺぺろん選手がcarat選手の攻撃をかわしつつNorris選手に一撃を入れる技術もなかなか素晴らしいです。」

 「にしてもNorris選手……今までの試合と比べてちょっと不調のように見えるのですが・・・・・・・椎名さんはどうお考えでしょうか?」

 「真冬から見てもそう思います。ちょっと焦っているといいますか……。ここからの立て直しに期待です。」

 「おっしゃる通りですね。――おおおおっと、また戦局が変化したぞおおおおお!!」

 

 

 俺が墜ちてから、柄谷に多大な負担がかかる、だから急いで合流しなければ――と思っていたら、戦力ゲージが変動した。それは予想していたのとは違い、敵のゲージで、さらに“2連続”で削られた。つまり、柄谷一人で敵1、2を撃破したことになる。……え?柄谷すごくね?こんなに強かったっけ?たちなおりから変なブーストかかったのか?てか3000削れたぞ?相手は1000と1000だと思っていたら、片方は2000だったのか。

 現場に合流すると、そこには首の皮一枚繋がっていた柄谷がいた。

 《すごいなお前……本当に助かった。俺が不甲斐無いばっかりにこんな…》

 《いいです、そんなこと。調子が悪いことなんて誰にだってあります。だけど今は――》

 とその時、柄谷は真横にスライドした。そして、柄谷がもともといた地点にミサイルが着弾した。クソッ…レーダーさえ見ていないとは…俺はなんでこんなにクズなんだよ……

 《先輩!敵機が来ます!》

 ――ああわかってる。もうあんなへまはしねえ。堅実に行く。

 

 

 数十秒後、柄谷は撃墜され、俺もだいぶ体力は削られた。だが、それは相手も同様。撃墜とまではいかなかったが、両機共々の体力は削った。大体半分といったところか。そんなとき、敵にある動きが見えた。撤退し始めたのだ。現在は荒地で戦っていたわけだが、敵機は火山部分へと移動し始めた。

 《何を考えているんだ……?》

 《遮蔽物の多いところで戦うのに飽きたからじゃないですか?なんにせよ、追わなきゃならないです。》

 考えても仕方がない。自分の反射神経と直感を信じて向かうしかねえ。

 

 

 ・・・・・・さすがにこの結果には驚きを隠せない。“柄谷が先に撃墜された”のだ。結果、俺らの戦力ゲージは残り1000。柄谷のコストは2000なので、再出撃する際にはコストオーバーといって、体力が通常より削られた状態で出撃となっている。相手は已然3000。どうしてこうなってしまったのか。理由は単純、奴らが集中砲火してきたのだ。さらに奴ら、火山部分で戦闘するのが慣れているらしく、あっという間にやられた。ならなぜ最初からこの場所で戦わなかったのか…。おそらくぬか喜びをさせるため、だったらひどく嫌気がさすわ。

 《……ここで俺ががんばらなくちゃだめだな。》

 さっきは柄谷一人で二墜としたんだ。柄谷にできたなら、俺にだってできるさ。

 奴らは俺へ銃弾を浴びせる。これを最小限かわしながら、ワイヤーを敵1に撃つと・・・・・・・・・・なんとヒットした。

 ・・・・・・!奴ら、一機でさらに俺がへたくそだと思って油断してるのか?ならここがチャンスだっ!

 俺はワイヤーを巻き戻して敵1に接近し、真後ろに回った。そしてサーベルを敵の背中へ突き刺した。

 《ここで屈辱を晴らすっ………!》

 突き刺した状態のまま、そのサーベルを真上へ引き上げた。そしてこの攻撃がきっかけとなり、敵1を撃墜することができた。敵ゲージは残り2000。つまり墜ちたのはコストの低い方だったか……相手はコストオーバーなしで復活ってのは痛い。

 敵2はすぐさま俺に斬りかかった。今までこんな露骨に切りかかることはなかった。罠のようにも見えたが、俺は構わずワイヤーを撃ったら・・・・・相手は格闘モーションをキャンセルして横にスライドし、右側から俺を狙い撃ってきた。俺はワイヤーモーションをキャンセルし、ガードモーションに入る。全弾防ぐことはできたが…敵に接近を許してしまった。急いで俺は銃を向け……いや待て、なんかデジャビュだぞ?まずい、銃はまずいぞ。

 とっさにワイヤーを上に放つ。そして敵は、元板俺の地点で投げモーションに入った。

 《いまだっ!》

 俺は今度は“真下”にワイヤーを撃ち、敵に命中させる。敵に急接近し、俺は真上からサーベルを敵頭部に突き刺した。

 そしてそのままっ!ぐりぐりとっ!ほじるッッッ!!!

 俺が通称脳天ぐりぐりと呼んでいる(そんなことはどうでもいい)技がおもくそ命中した。この技は威力が高い。だからこれで終わりっ……!

 

 

 にはならなかった。敵機は首の皮一枚繋がったのだ。そして敵が倒ダ状態になったので、技は自然と解除される。そしてそのタイミングを見計らったのか、真後ろからミサイルが飛んできた。直撃した俺も首の皮一枚つながった。だけど……こんなの絶望的だ。2対1、しかも俺は死にかけで、一撃で墜ちる。

 ………柄谷っ!なんでお前のほうが先に墜ちたのに敵1より来るのが遅いんだよっ……

 なんて絶望を抱いていた最中、

 《―――狙い撃ちますっ!》

 まったく予期せぬ方向から、ビームライフルが飛んできた。そしてそれは、俺と同じで死にかけの敵2に直撃した。

 

 これにより、俺らはNamelessに勝利したのだ。

 

 

 「第一試合一セット目、最初からハイレベルな戦いを繰り広げました。そして勝利を飾ったのは…………チームvibrioのNorris選手とcarat選手ですっ……………!」

 Audience「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!」

 「いやあまさに激闘でした。どちらも一歩も譲らぬ戦い。どちらが負けてもおかしくありませんでした。椎名さんはこの局をどう思いますか?」

 「そうですね……まずはcarat選手のめまぐるしい活躍ですね。チームNamelessの戦力ゲージのうちほとんどは彼女が削りました。あの動きはAのものではありません。AAAからSはあります。次にNorris選手、彼は序盤は不調のように見えましたが、後半で敵機を撃墜、撃墜寸前まで追い込みました。コスト1000の機体にとっての十分な活躍だったと思います。そしてぺぺろん選手とかんとん選手は終盤でちょっとミスが目立ちました。そのほんの少しのミスを狙われてしまったことでこのような結果になってしまったのではないでしょうか。」

 「なるほど…ありがとうございます。とはいえまだ1セット目です。2セット目でvibrioが価値を決めるか?それともNamelessが巻き返すか?さあ、これから第一試合二セット目の準備を開始しますっ……!」

 

 

 二戦目、調子づいた俺と柄谷と、出鼻をくじかれて焦りが見えていた奴ら、結果はもうわかるよな?もちろん、俺らが勝った。俺はわざわざお前らの為に用意した“エレミア”と、柄谷はガナーザクαで挑んだんだぜ?負けないって普通。ぼっこぼこにしてやったよ。それらの機体についてはまたおいおい。

 

 

 「クッ……!遼っ……!ナイスファイトだったぜっ……!」

 「確かに後半の追い上げはすごかったわね。」

 カイジと私と”彼女”で遼の試合を見届けていた。カイジはまるで自分の事のように大喜び、一方彼女は黙って遼たちを見ている。……はたから見てると、何がすごいのか私にはよくわからないが、歓声の大きさと遼たちの表情を見ていると、きっとすごいことなのだろうとおもった。おそらくここにいる私胃が二のすべての人たちは、試合に対して熱くなっているのだろうが、私は申し訳ないが違う。私が気になったのは試合開始直前の国広遼と柄谷栞について。途中から私は遼の前から姿を消した。それは彼を影から観察するため。(まあ試合中は別の用事があったのだけれど。)準決勝直前、彼らに動きがあった。後をつけてみたら、彼らの間でなにやらイベントが発生していた。しかもこれは肯定的なものとみえる。先ほどの試合から察するに。これは……結構重要なフラグが立ったんじゃないかしら……

 「ねえ“静乃”?あなたもそう思わない?」

 「・・・・・・・・・・・・」

 彼女は黙ったまま、彼らの方を見ていた。

 

 

 「確かに宮永の言った通りの結果になったな。」

 「でしょう?……でも正直、ここまでうまくいくとは思っていなかった。まさか圧勝できるとは…。」

 「むしろ圧勝できないと踏んでいたのか。」

 「ええ、それほど相手のプレイングが上手だったからね。身内びいきなんかしないで、客観的に見たらそう思ったんだよ。」

 「ほう……。ところで、俺はいつになったらスサノオを使えるんだ?」

 「だから言ったじゃない。私が文脈に関わらず“気合”って言ったときだってさ。…そうだね……私の見立てでは三セット目になるかな。」

 「……それはつまりどちらか片方は私たちが負けるといいたいのか?」

 「うん。ただ、グラハムがスサノオを使うとき、私たちに絶対負けはないから大丈夫。私が保証する。」

 決勝の為に、できる限り温存しておきたい。

 

 

 さて次は……

 「部長、頑張ってください!」

 「ふぁいとです!」

 台へと向かう部長とグラハム。どちらも相当な実力者。まあ今の俺よりは劣るかな(笑)そんなことはあまり関係はないか。勝つものは勝つし、負けるものは負ける。まあ…きっと勝ってくれるだろ。

 「カタギリ、私に任せろっ!」

 「軽くボコッちゃうね~!」

 

 

 ………あれ?

 ………あれ?

 ………あれ?結果が予想と大きく違うぞ?

 ええと落ち着こう。一セット目は武御雷とアルケーでいって、勝った。二セット目はオーバーフラグとストライク(近距離、中距離、遠距離用と、武装を切り替えることができる機体)って……部長はまだしもハムは完全に二セット目は舐めプだよな?なんでスサノオ使わないんだよ!

 俺は疑念を向ける……だが台についている部長とハムには当然それには気づかない。疑念を向けたところでどうしようもないので、部長の事だから何かしらの対策はあるのだろうと無理やり思い込むことにした。

 「……ってあれ……?部長がなんか係員と話してるぞ……?」

 そのことは解説者たちも取り上げていた。

 『おや、Fate選手がなにやら係員と話していますね・・・・・あ、係員がこちらに来ました。………ふむ・・・・・・・なるほど、どうやらFate選手は別のIDカードの使用の許可を求めているようです。椎名さん、こういったことはありなのでしょうか?』

 『結論から言いますと、ありです。一枚のIDに登録できる機体数は限られています。故にたくさんの機体を抱える人はIDカードを何枚も持っていますので。』

 『ですが・・・・・IDの統一はしていないらしいのですよ…』

 『統一をしていない?これは不思議ですね……統一をすればわざわざログインしなおす必要がなくなったり、パーツのデータを共有できたりするんですが……。でもまあ、別のIDカードの使用は認めていますので、このような例でもありです。』

 なるほど………でもなんでわざわざそんな面倒なことを?素直に統一すりゃあいいのに……って、あのIDのイラスト、遠くから見てもわかる。このゲームが稼働したての頃のやつじゃないか。

 「私…部長さんのやりたいことがよくわかりません……部長さんが別のIDカード持っいてたなんて初耳ですし…」

 「安心しろ柄谷、俺もだ。」

 部長のログインが完了したらしく、機体選択に入った。そこで部長は、俺らにも聞こえる声でこう言ったのだ。「さあ、“気合”いれていくかっ!」と。

 

 

 俺は唖然した。柄谷も唖然した。会場の盛り上がりはさらにすごいこととなった。なぜか。その答えは巨大スクリーンに示されている部長のランクにあった。なんと別IDの部長のランクは…

 「「SS……だと[ですか]………?」」

 それって、A+の何ランク上だっけ…?

 A+   ←今まで

 AA-

 AA

 AA+

 AAA-

 AAA

 AAA+

 S-

 S

 S+

 SS-

 SS  ←別ID

 SSS

 

 「本家ID今まで隠していたのかよおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 「先輩、声が大きいですから!観客が好奇の目でみて……ませんね…。部長の方に皆意識が向いちゃっているんでしょう。……叫びたい気持ちもわかります。今まではSSクラスのプレイングなんてしていなかった。だから、国広先輩が部内で一番強いみたいな雰囲気が広がっていた。でも……それは間違いだった。雰囲気はわざと作り出されていた。今まではわざとへたくそにプレイしていた………んですよね………?」

 「今まで舐めプだと………そんな・・・・・・・そんなことって・・・・・・・」

 今の今まで、部内で一番強いのは俺だと思っていた。そんな自分自身が恥ずかしくて恥ずかしくて嫌になる。玄人の皮を被った上級者だったのかよう……

 「でも……これで私たちの勝利はほぼ確定したようなものです。」

 「ほんとだよな。今まで舐めプで勝ち上がってきたんだ。本気のMS、本気のプレイングで挑めば…そりゃ勝てるよな。」

 「じゃあ、本気となった部長がどんな戦い方をするのか、じっくり観察しましょう!」

 

 

 グラハムの本気のMS“スサノオ”の特徴について触れたいと思う。基本は二本の刀による格闘攻撃だ。ほかは、装填数1で装填速度が遅いが動作モーションが無く、立ダ状態にさせる、奇襲にもってこいなエネルギー弾(巨大)。CSで、威力は低いが相手を怯ませることができ、これもまたモーションが無く撃てるエネルギー弾(クリリンの気円斬みたいな形状)。あとは一時的な身体強化が二種。これがスサノオに備わっている装備、能力である。シンプルイズザベスト。先陣を切って相手のHPをゴリゴリ削るMSである。HPは1500、コストは2000である。対して部長のMSは……

 「なんだこれは…?」

 MSの型は俺のエレミアと同じヒューマンタイプ(余分なパーツがないため被弾率は少し減り、移動速度があがるが、装甲が薄いため防御力が低い)でコストが3000、装備は……全体図では手には光学の斧が握られていて、それ以外は何もわからない。これは装備と言えるのか微妙なところだが、漆黒のマントをまとっていることくらいだ。

 「ミサイルやARを積んでいたら全体図で表示されるはず。だけどそれがない。てことは……どういうことなんでしょう。」

 「あのマントの中身に何か仕込みをしてるんだろどうせ。」

 「なるほど~」

 

 

 『思わぬ展開となりましたっ……!なんとFate選手のランクはSSっ……!この地区予選では2人目のSSっ……!』

 『しかし、真冬が見る限りは彼女の実力はSSほどではないと思うのです。ですが・・・・・彼女が今まで本気を出していなかったという可能性も考えられなくもないです。ともあれ、この戦い、非常に楽しみです!』

 『それでは第二試合3セット目っ……!対戦ステージは月面コロニーっ……!暗黒な宇宙空間の元、月面上に構えられている巨大コロニーっ…!遮蔽物は大きいブロック状のものがいくつかあるステージっ………!Fate選手&Graham選手VSざるそば選手&餡かけ焼きそば選手っ………!レディィィィィィィゴオオオオオオオオオオウ!!!!!!』

 

 

 敵のコストは両方とも2000。つまりは3回殺せばいいってことだ。開始直後、グラハム、部長は敵めがけてそれぞれ突撃。視界を遮るものがあまりないので、敵の居場所はすぐ分かった。なんとまあ、敵も別々に行動していた。こりゃあそれぞれが一騎打ちになりそうだな……そしたらなおさらこちらの勝ちが決まったようなものだ。部長は知らないけれど、ハムは単独が強いからな。

 ・・・・おお、ビジョンにはハムと餡かけの一騎打ちが映し出されているなあ。

 

 

 「ぬおおおおおおおおおおお!!!」

 即座に敵に斬りかかるハムだが、当然丸わかりであるため、ガードモーションに入られる。

 …まずは先手を打てたな。ガードってのは、正面にしか効果はないんだ。“頭上”は守れないんだぜ。

 ハムはその攻撃動作をキャンセルし、敵上方へと“斬りあがった。”そしてその回転斬りをしている状態のまま、敵頭部へ斬りかかる。

 これがスサノオの特殊格闘、兜割である。山なりに回転切りをするため、縦方向に容赦なく斬撃を加える。…まあ横からの攻撃で簡単に落ちるけどさ。

 敵も頭がいいから、すぐさまガードモーションをキャンセルして兜割を回避――したけれど、もう遅かった。スサノオの二撃目をもろに受けることとなる。

 「おおおおおおおおりゃあああああ!!!!」

 ハムが、兜割を回避されるのを想定して次のモーションに入っていたのだ。左側から弧を描くように相手に斬りかかる。

 これがスサノオの特殊格闘の2つ目、連続回転切りである。スティックでの入力に応じて右側、左側と自由に斬りかかることができるのだ。…まあミサイルやビーム兵器で簡単に落ちるけどさ。

 ズガガガガガガガっと相手に斬撃が入る。さすればほら、ヒット&アウェイだ。ハムは敵からの距離をとり、身体強化をかける。このペースなら大丈夫だろう。

 ・・・・・・おっと次は部長の方が映し出されたぞ。

 

 

 ざるそばはARをひたすら部長に撃ちまくるが、なんと部長のMSの体力はあまり減っていない。弾数の多いARを防ぎ続けるなんて…すごいなあ。

 ハムの方の映像を見ていたら、瞬間、部長側の映像に変化が見えたのがわかった。防戦一方であった部長が突如加速したのだ。本当に急激な加速。敵も驚いたのか、あっという間に距離を詰められる。そして手に握られた斧で斬り上げ――の後、空中の敵を、マントに隠されたビットで1発撃ち、怯んだところを斧での三回転斬り。これで敵のダメージボーダーをこえて倒ダになる……と思ったが、なんと、三回転切りの三週目の攻撃を当てずに――手に握られた“鎌”を大げさなモーションで相手の首元にあて、そのまま急降下し、敵を地面にたたきつける。…お分かりいただけただろうか、部長は一瞬で斧から鎌に持ち替えたのだ。そんなことが可能なのかって?可能だ。格闘武器チェンジなんてことは普通にできる。ただ、貴重な技スペースを埋めることになってしまうが。

 ともあれ、一連の攻撃で相手の体力は半分持って行かれた。多分ビットはボーダー調整、限界値の直前まで削れるよう調整して、最後の断頭で一気に持っていったのだろう。

 ・・・・・恐ろしい。

 

 

 『なんということでしょうっ……!今まで防御に徹していたFate選手がっ……!突然っ……突然加速しっ……!ざるそば選手に痛烈なコンボを叩出したっっ……!!!』

 『真冬もこれには驚きです。ボーダー調整も細密にされていました。ものすごくこのゲームをやりこんでいるんですね……真冬は嬉しくて涙が出そうです!』

 『椎名さん、一つ質問いいでしょうか?なぜFate選手はビット攻撃を入れ、三回転切りの3発目をキャンセルしたのでしょうか?私から見れば、ビット攻撃をするまでもなく3発目の攻撃を当てるだけで事足りたのではないでしょうか?』

 『たとえば、ボーダーが500、切り上げ攻撃が200、三回転切りの一発が100、ビット攻撃が90だとします。一条さんの話通りで行くなら、3発目を当てた時点でボーダーの500に達し、敵は倒ダ状態になるでしょう。しかし、ビットを入れ、三回転目をキャンセルすると総合威力は490、すなわち、ボーダーの500には到達していない、よってもう一撃相手にダメージを与えることができるのです。なら、何故Fate選手は三回転切りの三発目を入れなかったのか。これについては単純な話で、それより大きなダメージを与える技があったこと、それと技を当てた後の立ち回りを考えたのでしょう。まずは威力ですが、あのモーションの長さから察するに、さっきの威力と比較すると250くらいじゃないでしょうか。基本的にモーションの長さと威力の大きさは比例しますからね。次に立ち回りなのですが…Fate選手は敵に急接近、そして動作キャンセルを重ねていたため、ブーストをかなり消費していました。とてもじゃないけど、三回転切りを当てた後機敏に動ける分はありませんでした。だから、攻撃を当てた後、操作不能になるも同然なのです。切り上げ、三回転切りをしてかなり上に上昇していました。地面に着地するには少々時間がかかります。このゲームは着地の瞬間が一番の攻撃チャンスだったので、そのチャンスを消すためでしょう。下手に動いてブーストをすべて使い切り、オーバーヒート状態になるなんて、それこそ悪手です。故にあの急降下攻撃というわけです。』

 『あ、ありがとうございます(今日一番の説明の長さだったんじゃないか…?)』

 

 

 “もうやめて部長!とっくに敵のライフはゼロよ!もう勝負はついた(も同然である)のよ!”

 ああ……今の俺の脳内には杏子が出てくるよ……なんだよこれは。もはや蹂躙じゃないか。敵の起き上がりのタイミングを完全に読んでビット連射、怯めば切り上げ、三回転切り、斬り落とし、これをひたすら繰り返す。敵が対策をとる隙も与えずにだ。グラハムはグラハムで圧倒的手数、スピードで敵に攻撃を与えていた。結果なんて目に見えている。

 

 

 

 ―俺らの勝利だ―

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