2-1-1 生徒会の日常
7月2日 木曜(other side)
長く辛い授業が終わり、生徒達に活気が戻ってくる。そう、今は放課後。多くの生徒は部活動に勤しみ、それ以外の生徒は各々の趣味に没頭したりする。そんな中、私はみんなと同じような放課後を送ることはできない。まあ、部活動の生徒と似たような立場ではあるけれど。結論を言ってしまうと、私はこの学校の生徒会の人間なのだ。その中でも、頂点、長に準ずる役職である生徒会長、それが私、緋色結衣なのである。だから、放課後の時間を固定された人と過ごすという点では、部活動の人と似ているというわけだ。
ホームルームが終わり、私のいる3年の教室にも活気が戻ってきた。いや、戻ってくるどころか有り余っていると表現した方が正しいかもしれない。この時期は運動部は最後のインターハイが控え、それ故に皆気合いが入っている。
それにしてもものすごく眠い…授業中寝なかったのは奇跡だったけど、これから生徒会の会議かと思うと…気が重い…でも行かないと…会長だし……じゃあ生徒会室に向かいますかー
そう思ってよろよろと席を立ち、教室から出た。生徒会がある階に向かおうとした時、
「結衣ー!ちょっと待ってー!」
後ろから声をかけられたので、足を止めた。だから振り返ろうと――――せずにそのまま向かおうとした。
「ウェイウェイウェイ!一瞬止まったのにスルー?悪意しか感じないよ!」
渋々振り返ると其処には茶髪のパーマがかったロングの女性が笑みを浮かべて駆け寄ってきた。制服は着崩してはいるがスカートだけはむしろ規定より長めである。そんな彼女は宮永龍華。私のクラスメイトであり親友である。
「…あ、すいません。気付きませんでした。」
「足を止めておきながらそう言うかっ!?」
「…………じゃあ私はこれで。」
「ちょっ、まだ私何もしゃべっていないんだけど!?」
「……なんかようですか?今私、すごく…すごく眠くて、正直これから会議に行くのもだるくて、だけど会長だから渋々向かおうとしてた私のこの気持ちをへし折ったからには…さぞ重要な話なんでしょうねえ?」
「そりゃあんな時間まであんなことしてたら眠くもなるわ。何時に寝たの?」
「今日は寝ていません。」
「ファッ!?」
「……前々から思っていたのですが、女性が淫夢厨ってどうなんですか……」
「実際あれは濡れた。」
「その情報は要りませんでしたね……まあいいや、本当になんですか。」
「すっごく重要!実は、フルドの事なんだけど…」
「そうですか。分かりました。ではまた明日。」
「に が さ ん」
踵を返して立ち去ろうとしたらがっしりと肩を捕まれた。
「なんで逃げようとするん?そんな不味い話題だった?」
「…とりあえずこっちに来てください。場所をかえましょう。」
私は龍華の手をとって半場強引にこの場から離れようとした。
「ちょっ…積極的…やだ…私これからなにされちゃうの……」
龍華はわざとらしそうにもじもじしてみせた。無視無視、相手になんてしてられません。外野が「さすが会長!俺たちにできないことを平然とやってのけるッ!!そこにしびれる憧れるゥ!」とか「百合ップルキタァー!!」とか「会長はレイパー…ごくり…しかも百合…ふおおお!!」とも言っていて、制裁してやろうかと思っていましたが、「つーか相手は宮永だからそんなんじゃねえだろ」「あーそっか。残念。」言っていたので、まあよしとしましょう。
「ここなら大丈夫ですね。」
龍華を生徒会室に引き連れた。早々にあの場から立ち去り、一直線にこの場に着たので、まだ誰も来ていなかった。一番乗りである。「そりゃあ、生徒会室には一般生徒は入れないからね~…ああ、生徒会室に来るのもなんだか久しぶりだよ~」
「…先週来たばかりでそれを言いますか。」
「細かいことはほっといて。にしても、いつもは呼び出し食らって来る事ばかりだったけど、今日のような完全に私的な用事で来るのは初めてだなぁ。今思えば、メールでもよかったんだけど、まさかここまでしてくれるなんてね~」
……思えば、ここまでする必要があったのだろうか。メールで事足りたのではないか?いや、間違いなくそうだ。ここまでする必要はなかった。まあでも、連れてきてしまったのだ。後に引くことはできない。
私の表情を窺ったのか、龍華は、
「あぁー…今気付いたっぽいねー…」
とこぼした。
「…まあ、今から追い出すのもあれですし、直接言った方が早いですし、大丈夫なことにしておきましょう。」
にしても、どうやってこの場にいることを正当化しようか…
「会長、早かったですね。…あれ?宮永さん?どうしたんですか?」
その声を聞き、ドア付近で立ち止まっていたことに気づいた。カトルである。彼は何やら手に紙束…いや、書類らしきものを抱えていた。
………!!この書類…!!これなら…!!
「ああすいません。連絡し忘れました。彼女には“用事があった”ので、私が呼んだのです。どういうことかはもうすぐわかりますよ。」
隣にいた龍華は私の想定外の言葉に驚いたのか私に何か言いたげであったが、察したのか口をつぐんだ。一方、カトルの頭にはまだ疑問符が浮かんでいるように見えたが、特に問い詰めることもなく自席に座った。そして手に持っていた書類の整理を始めた。カトルが書類整理を始めたのを見計らって、龍華は私に耳打ちをしてきた。
「(何?用事?そんなの聞いてなー)」
「(いいから黙って話を合わせてください。)」
長々と話して怪しまれても困るので、早々に話を終わらせた。
「そういや、さっきの話が途中でしたね。」
私がそう話を切り出したら、龍華はきょとんとしていた。全く…もう“私の素性を知っている人”しかいないこの場でなら“フルドの話をすることはなんてことない”のに…
「…自由度の高いTPSゲーのことですよ。」
「…ああ!なるほど!!そういやそうだったね!!」
「まあとりあえず、私たちも座ってからその件について話しましょうか。」
「おーきーどーきー!……で、私はどこに座ればいいの?」
「ええと…」
二ヶ所は固定されてるけど…まあいいか。いつもの場所じゃなくたって。
「どこでもいいですよ。」
「りょーかい。」
龍華は会長の席、つまり私の席の隣に腰かけた。そこは幸い指定席ではなかった。私も自席についた。
ああ、それにしても、一度座ってしまうとどうしてこうも眠くなるのだろう。
「んで、フルドのことなんだけどー」
龍華がそう話を切り出したとき、
「ちぃーっす。……てあれ?宮永先輩?またなんかやらかしたんすか?」
「真、またってなんだよまたって!今日は事情があるんだよ!」
いま生徒会室に入ってきた彼は生徒会書記である真朱鳥という。彼はいまの挨拶からわかるように、結構先輩にたいしてもフランクなのである。一応敬語らしきものは言葉尻に残ってはいるけれど、そのなけなしの敬語でさえ外れることが合ったりする。これは客観的に見れば問題ではあるが、言い方なんて、仕事ができれば別に大した問題でもないので私はこの件は放置している。ちなみに、学年は私やカトル、龍華の一つ下の二年である。
「事情?呼び出しを事情と言いかえてるだけじゃねえのか?」
朱鳥は小馬鹿にするように龍華に目を向けている。…これが上級生に向ける態度なのだろうか。いや、絶対にそんなことはない。
「違いますよ、朱鳥。彼女は本当に事情があってこの場に来ているのです。」
「ふーん。ま、会長さんが言うならその通りなんだろうな~」
そういうと朱鳥は自席に乱暴に座り、鞄からPSPを取りだしてゲームを始めた。端から見たらいきなり何やっているのこいつと思うのは間違いないだろう。かくいう私も最初は注意しましたよ。だけれど、私が注意しているのにも関わらずずっとやり続けているため、私も呆れて放置。もうみんなすっかり慣れてしまったのである。周知の事実なのだ。
「我と血の盟約を結びし者共よ、待たせたなっ!」
扉が勢いよく開かれ、一人の女性が入ってきた。ブロンドの髪を一つに束ねた彼女は私達生徒会の顧問、ケフェウス先生である。彼女は、身に“黒衣”を纏い(というかマント)、眼はオッドアイ、そんな彼女は生粋の中二病だ。話によると、彼女は高校生の時に発症させ、そして現在ずっと患者らしい。(我が悪魔と血の契約を結んだのは17の年~って言っていたからおそらく。)
「いえ、そんなに待ってません。というか俺はほんの数分前来て、ゲーム始めたばかりですから!」
朱鳥は先生に理不尽な不満をこぼしていた。しかし先生はそれを華麗にスルーして私の斜め後ろの椅子に座った。脚を組み、マントのなかから本を取り出して読み始めた。ちなみに、その本は厚さがかなりあり、確か最近読んでいるのはニーチェの『ツァラストラはかく語りき』のドイツ語版だったか。これをきっかけで、先生は英語教師だけれどドイツ語もできると知ったのである。
「えー…あとは刹那だけですね。」
中河刹那。それが彼女の名前だ。学年は明日かと同じ2年。彼女は髪を肩の少し下辺りまでのツインテールで前髪にはヘアピンが留められている。黒ブレザーをかっちりと着こなし、だけれどスカートは短め。それには理由があって、それは、彼女はニーハイをはいているため、それを目立たせるためだとか。ようは絶対領域のことだ。(そうやって自分を可愛く見せる工夫をしているのに、男が寄ってこないよう国広君や伊藤君を変な男子がよりつかないよう魔除けにしているんだからよくわからない。)そして、ニーハイの色は白。一二年は制服の色が黒なので、白ニーハイは目立つ。さらに美人であるのだ。故に生徒会副会長であることと相まって有名…下級生からは主に女子、同級生からは主に男子から人気がある。なぜそんな限定的なのかは、後々にわかるだろう。
そんな刹那はまだこの場に来ていない。刹那は真面目な人間なので、遅れることはあまり無いのだけれど、つきに一度か二度は必ず遅れる。そしてその理由もすべて同じ。だから、今遅れているのも大体察しがつく。まあ焦っているわけでもないし、この件は放っておいてもいいでしょう。
「中河が遅れるってことは、またアレっすかね?」
「まあ、そう考えるのが妥当でしょう。」
「さて、今日はどっちかな?」
朱鳥は勿論、カトルまでもがこの状況を楽しんでいる。まあそれくらい恒例なものだということだ。唯一理解できていないのは、まるで頭の上に疑問符を浮かんでいるかのように首を傾げている龍華だけだ。おさらく、私に何かしらの質問をしてくるでしょうにしても、彼女が生徒会室に来るときはいつも全員が揃ったあと。こんな集まる前から来ることなんて初めてだし、それに刹那のアレが重なるんだもの、すごい偶然ですね。
「?アレとは何なの?」
予想通りの反応であったので、思わず笑いがこぼれてしまった。
「え?今の笑うとこ?」
「ああいや、あまりに想像通りだったもので…。まあ見てればわかりますよ。ところでさっきの話はいいんですか?」
「それなんだけど…実は生徒会の面々に頼みがあって…」
「するってーと何かい?俺にも関係がある話なのか?」
「そうそう。シンやカトルにも頼みがあるんだ。」
まあ、“この前の日曜日”の出来事があり、フルドの話を今持ち出してるってことで、大方の予想はつきますね。
「なんとなく察してると思うけど…この前栞ちゃんの家で祝賀会をやったとき、今度再戦しようって言ってたじゃない?それについてなんだけど、まず、いつやるかって話と、再戦というか、今後ずっとマッチ組まない?って話。もう一回やるだけじゃ満足できないし、何回もやれば双方のレベルもあがるし!」
フォースレイドライブ。先週日曜、私たち生徒会はこのアーケードゲームの大会の県予選に出場した。順調に勝ち進み、そして決勝、相手は龍華の率いるゲーム研究会であった。かなりの接戦で、私たちの勝利が目前となったが、ほんの少しの隙を突かれて敗北してしまった。結果私たちは準優勝。だけれど県大会には優勝チームだけでなく準優勝チームも行くことができる。そして表彰式の時、開発主任兼解説者の方が「真冬は決勝出場者同士で再選することを推奨するのです!県大会に向けてのレベルアップのためにも是非とも再選することをお勧めするのです!」とかいっていた。やけに強調していたから、嫌でもその言葉を覚えてしまっている。
「おお、いい提案じゃねえか!!俺は賛成だ。遼と柄谷へのリベンジどころか叩き潰すこともできるしな!カトルさんも賛成だよな?」
「この受け入れを拒否する理由もありませんし、むしろこちらからお願いしたいところですよ。」
「…だそうですよ、龍華。」
刹那の意見が出ていないけれど、まあいいでしょう。彼女ならきっと賛成してくれます。
「みんな…ありがとう!私はっ…嬉しいっ…!」
龍華は感極まって泣いていた。…いや、泣いたフリか。鼻水をすする音がいかにもわざとらしい。まあいいや、突っ込むのも面倒だし。
「ちなみに聞いておくけれど、この事は部員には伝えているのですか?」
「いや、伝えてない。」
「てことは、サプライズってことだな?ようし、いっちょ驚かせた流れで勝利もいただくぜ!!」
「簡単に言ってくれちゃって…。わが部員は鋼のメンタルをもっているっ!故にちょっとやそっとじゃやられない!」
「……」
鋼メンタル?少なくとも一人は豆腐メンタルのような気が…
準決勝直前、ゲー研の柄谷さんがプレッシャーに負けたのか突然フロアから逃げ出していたのを見かけたのですが…そのことは黙っておきましょう。そんな彼女に私たちは負けたのですし。
それから程なくした頃、
「すいませんっ!遅れましたっ!」
遅れていた刹那が扉を勢いよく開けて生徒会室に入ってきた。少し息遣いが荒い。まあ走って来たのでしょう。
私は遅れた理由など聞かずにさっさと会議を始めようとした。が、
「刹那ちゃん。どうして遅れたの?みんなに理由聞いても教えてくれなくて…あ、もしや誰かにコクられた?やっだーもう、刹那ちゃんもなかなかすみにおけないねぇ~」
龍華は、その事が前提で話を進めている。そんなことは一言も言っていないのに…
…だけれど、これがまさにその通りだから恐ろしい。刹那にチラリと目を向ける。刹那は苦笑いでいて、「ええっと…」とたじろいでいた。否定をしないその態度から、事実を肯定してしまっていた。
「って、あれ?まさかドンピシャ?」
刹那は暫し動揺し、それから、こくり。頷いた。
龍華と言えば、自分から言い出したのにも関わらず、驚きで開いた口が塞がっていなかった。
まあいいや、放置しておきましょう。
「あの、会長。どうして宮永さんがここに…?」
「後でわかりますよ。えーはい。じゃあ刹那も来たことだし、木曜の定例会議を始めますよー」
刹那は背筋も伸びていて、キリっとしていた。朱鳥とカトルはまあ普通に。龍華はまだ硬直していた。……龍華というイレギュラーがいて意識の外にあった睡魔が再び歌劇の攻撃をしてくる。非常に、非常に眠い。今にも机に突っ伏して寝てしまいたい。もし私が書記や会計ならなにも考えず寝ていたけれど生徒会長であるためそのような態度はとれない。辛いですね。でもたまにはいいかな…。
「会長さん…今日はいつにもましてダルそうっすね~。」
いつにもましてって…いつもだるい訳じゃないのに…あぁでも、一々反応するのもめんどくさい…ここは触れないのが一番でしょう。
「ちょっと…夜更かししちゃいまして…今とても眠いんですよ…」
「……いつにもまして、という言葉に無反応…よほど眠いと見受けられるっす…」
いや、敢えて反応していないだけですから。
「どうしてそんな風になるまで夜更かししていたのですか?」
「バイト終わって、やることやってから勉強してやることやったら…結局朝でした。」
「…こんな時期に徹夜とは、結衣君もなかなかにやるねえ。」
「…ちなみに、勉強時間はどれ程なんすかね?」
朱鳥は軽く皮肉めいた顔で聞いてくる。勉強ばかりしていると思っているのでしょうか?まったく…それは見当違いですよ。
「にしても眠い…ソロを頑張りすぎたからでしょうか…」
「質問をスルーされた上に意味不明な言動を供述しております。」
「…!ああいや、すいません…うとうとしていました…勉強は二時間くらいしかしていません。受験生としてはあるまじきことなのですが…学校やバイト先でそれなりにやっていましたのでまあいいかなっていう妥協ですね。」
「バイト先でも勉強してるんですね…さすがです!」
「それはまあ、時間は有限である以上、有効に作り出さないとなりませんからね。」
龍華は事情を知っているので必死に笑いをこらえていましたが、それは放置。意味不明な供述って言うのは些か不満がありますが。…別に知られたからといって私にそれほど不都合はないのだけれど、やっぱりなんか嫌ですし…。
「てことは、2時から勉強し始めたってことかい?」ただ黙って私たちの他愛もないどうでもいい話を聞いていたカトルがこの場において始めて口を開いた。
「そうなりますね…それまで何していたの?って質問はしないでくれると嬉しいです…」
「それはわかったよ。…じゃあいい加減会議に移ろうか。」
どうやら話を終わらせるために話にわって入ったようですね。まあいつものことなのですが。
ここの生徒会の会議は、まずはカトル以外のメンバーの雑談から入って、ほどよく時間がたったらカトルが話を終わらせにはいる。そして、会議が終わったあとはまた雑談が始まるのです。今度はカトルも含めて。カトルはきっと、やることを先に終わらせてからのんびりするタイプなのでしょう。もっとも、カトルに直接聞いたわけではないから、私の憶測にすぎないのだけれど。…あと、普通このようなことは顧問であるケフェウス先生の仕事なのですが、先生はなんていうか…放任主義?なのかな。前に一度カトルが先生に【先生もさっさと会議を始めるようになんとかみんなにいってくれませんか?】と聞いたら、先生は身に纏っている黒衣をバサッとたなびかせ、【フッ…この程度のことを収めるのにわが左腕に宿りし冥王のを使うわけにはいかない…故に己でこの場を打開して見せろっ…!】なんてことをポーズも決めて言っていた。職務怠慢である。であるが・・・・・・下手に厨二な言動を振りまくくらいなら黙っていたほうが楽なのである。これいる意味あるかな?まあ美しいからいいか…
あと、カトルの言動を文字にしてみればけっこうウザい用に見えるだろう。しかしカトルは超がつくほどの美青年である。しかも話し方も美しい。そんな彼だからこそ、そういったウザい言葉も感じ良く聞こえてしまう。
にしても、本当に優しく諭すような口調は素だから凄いですよ…もしその能力に名をつけるとしたら………いや、今はそんなことは考えないようにしましょう。
「そうですね、いつまでものんびりしてはいられません。早々に会議を終わらせましょう。そして私に睡眠時間をください。」
「…最後の一言は要らなかったかな(笑)」
カトルはやれやれと言うかのような顔をしていた。そして龍華の方に視線を向け、
「ところで…彼女はどういったわけでここにいるのかい?」
「ニ週間前、彼女は部室の鍵を盗みだし、さらには部活停止期間中にも関わらず活動をしてました。普通なら反省文を書かせて終わりだったのですが、テストの前日ということもあり、処遇はまた後日、ということになったのは覚えていますね?」
「あ、あはは、そういえばそんなこともあったね~てっきり忘れてくれてたと思ったんだけどな~…」
「忘れるわけがないでしょう?まあその件は一旦置いておくとして、一週間前、目安箱に<生徒会の人達は本当に真面目に会議をやっているのか。噂ではただ喋っているだけというのが流れている。真偽を確かめたい。>っていうのが投書されていたこと、覚えていますよね?」
「ああ知ってる。まったく、たいした野郎だぜ。俺らに喧嘩吹っ掛けてくるなんてよ。投書が匿名制じゃなけりゃ直接潰しに行ったんだがな。」
「真…恐ろしい子…」
「ほんと頭イカれ―――じゃない、おかしい人ですよ。」
「あの、緋色さん?ちょっと言葉遣いが…」
「気にしたら負けです。…て、そこで私は思い付いたのですよ。この投書への対処を。」
「なるほど…ちょっと読めてきた。ようは、“第三者に会議を見せる”事が必要だと思ったんだね?そこで、ちょうど処遇を考えていた宮永さんに白羽の矢がたったと。」
「その通りです。彼女にはこれから私たちの会議に参加して、それについてのレポートを書いてもらいます。それを新聞部に渡して、記事にしてもらえばこの件は解決でしょう。新聞部には私が話をつけておきます。」
「そうそう、その通りなのだよ皆の衆!私は罰としてこの場にいるのだよ!」
「罰なら罰らしくしおらしくしてやがれwwww」
「はっはっはー相変わらず真は口が悪いなあー・・・・・・・いい加減にしろよ?」
龍華の凄みのある声色は、朱鳥を完全に黙らせた。
「それならそうと言ってくれればよかったではないですか。なんで勿体ぶっていたんだい?」
そんな彼女らをスルーして、カトルは私に質問をしてくる。表情からして、何かを疑っているというより、ただ純粋な疑問だろう。
「あー…順を追って説明しないとって思ったのですよ。」
毎回説明するのも面倒くさいですしね。
「なるほど。じゃあ会議に入ろうか。あまり気乗りはしないけれど。」
「まあ会議といっても、今日は目安箱に入れられた生徒の要望について検討することですが。」
「目安箱ですか…」
刹那は見るからに表情を曇らせていた。いや、刹那だけではない、カトルは苦笑いを隠せていなかった。その一方朱鳥は目を輝かせていた。
「毎回思うのですが…飛鳥、そんなに目安箱って面白いものですか?取締関係の仕事はけっこう好きですが…生徒の要望を聞くってのはどうも気が乗らなくて…しかも大抵ろくな意見書かれてないですし…」
そう刹那が飛鳥に聞いたとき、私には軽く違和感があった。なにかいつもの刹那と違うなって。だがその違和感の訳はすぐに気付く。そう、いまの刹那の髪には白のヘアピンしかつけられていなかったのだ。
去年、刹那は生徒会に入会した。最初に言っておくと、この学校の生徒会役員になることはかなり難しい。というのも、基本的学力が高いことは絶対条件であるが、それ以外にも重要な要素がある。それは、ある潜在能力があるかどうかだ。簡単に言うと、ケフェウス先生のような人しか採用しないのだ。理由は主に二つある。一つは、この生徒会が発足されたときのメンバーが全てあちら側の人間であったこと。二つ目は、ケフェウス先生の話についていくためである。見てのとおりケフェウス先生は現在進行形の厨二病患者だ。だから、会話全てにおいてフィルターがかかっている。よって一般人には理解しかねるのだ。故に、先生が重要な案件を話す際、それを理解できる人材が求められるというわけだ。なぜそんな日常生活において支障をきたすような人が教職につけているのは…採用した人にでも聞いてください。教師として終わっているのでは?
刹那も最初は普通の人のように見えた。だけど、ケフェウス先生を含め当時のメンバーでの面接の際、先生の言葉を唯一理解できていた。それだけでも採用は決まったようなものであった。極めつけは、仮採用期間(仮委員は刹那と朱鳥、それにもう一人いた)、私が気まぐれで買ったヘアピンがあったのだが、自分じゃ似合わないということを悟り、刹那に試しにつけさせてみたら…
「私は…私は!この世界の歪みを破壊する!!その為にもっ!!校内の歪みを駆逐する!!」
と、急に厨二に覚醒したのだった。厨二病であること。もう片方の採用条件を満たした瞬間であった。あとから知ったことであったが、どうやら刹那はヘアピンの色によって人格が変化するらしい。
まあそんなことは置いておいて、それ以来刹那は生徒会の活動があるときは私があげた青のヘアピンをつけてきている。それが日常であったのだが、今はそれをつけていないのだ。
「中河、ヘアピンつけ忘れてるぜ~」
刹那は朱鳥に言われて手を前髪にあて、そして少しまさぐったあと、次はスカートのポケットをまさぐった。そして、青のヘアピンを取りだし、前髪につけー
「お待たせしました。では、今日のCBの活動を始めましょう」
痛々しい会話はいつもの事。ああ、今日もテンション高い会議が始まるなあ!なんて、無理やりそう思ったが実際はそんなことは一切なく、私は気乗りしないまま、目安箱を開けた。