7月9日 金曜
「えー……貴方達は合格率の低い面接を見事にクリアし、2週間の研修期間をこなし、本当にご苦労様でした。よく頑張っていたと思いますよ。……では、本日をもちまして、2人の研修期間は終了し、正式な生徒会執行部役員となることを承認します!」
採用率が本当に低い生徒会、それを突破できたのは、今回は2人。いや、今回も、というのが正しい。何故ならば私とカトルの3年、朱鳥と刹那の2年、どちらも2人ずつだからだ。……まあそんな事情はひとまず置いて、新しい役員を紹介するとしよう。まず一人目が……
「はい!ありがとうございます!これで会長の下で正式に働けるとなるとまことに嬉しい限りです!」
この、無駄に爽やかで、丸坊主の彼の名前は林鹿夫。彼は身長が187センチメートルという高身長で、今まで執行部内で身長がトップだったカトルを軽く越した。あと、野球部に所属している。運動部の中でもとりわけ忙しい野球部に所属しているから生徒会活動がおざなりになってしまうのではないかと不安は生じてくるのだが、なんと彼は生徒会活動の後に野球部の練習に参加し、家に帰って足りない分をトレーニングするという素晴らしい人間……………らしい。後半は本人から聞いた話なので、ほんとうにそうであるのかはわからない。
……にしても、彼、生徒会役員に採用された割には厨二度合が低いような気が………
まあ次に移ろう。もう一人の新しい役員は、
「…有難う御座います。」
神前鬼道(こうさききどう)という名の彼は、無表情を維持したまま挨拶をした。緑色の髪をしていて、男子学生にしては珍しく肩に達するほどの長髪である。しかし、彼はいつも制服の下にパーカーを着こんでいて、そのパーカーについているフードをよくかぶっている。(つまり、制服から常にフードがはみ出ている)そのため、後ろ髪はいつもパーカーに巻き込まれ、故にサイドだけが露わになる。この外見的特徴のみをみれば女性に見えなくもない。さらに、身長は私よりほんの少し小さいから167cmほどで(私は170cm)、中世的な顔立ちであり、声のトーンも女性に近い……ようなきがする。だが男だ。……まあ私がそう考えるの理由は、単に学ランを着ているからという簡潔なものだけど。仮に、キドが女性だったとする。そしたら、性別を偽ってこの学校に入学してきたということになる。そんなの、非現実的だから、男で間違いないだろう。
とまあ、このように見た目からして特殊な彼であるが、なかみも特殊だ。変わっている。面接の際、生徒会執行部への加入を希望した理由を問われた時、『内心をよくしたいから』とストレートに答えたのだ。普通はそういった本音は隠して建前を話すのが常識だとは思うのだけれど、彼は違った。当然、こんなふざけた回答なら落とされても当然なのだが…ケフェウス先生の難語を完全に理解しているということで、一応残された。こんなおかしいやつだが、仕事に関しては…素晴らしいの一言に尽きる。言われてもいない仕事をこなしたり、言われた仕事についての作業スピードがとにかく速い。この部分だけ見れば、キドという青年はなんてまじめで勤勉な人なのだと思うだろう。だけどちがう。面接の件のように。
なぜこんなに仕事をまじめにこなすのか、考えてみた結果、読書時間の確保のためではないかと推測した。彼はとにかく本を読む。仕事をしていないときは必ず読んでいる。無口無表情なのはそのためかもしれない。読書に集中しているから。
…でもまあ、まったく言葉を発しないというわけでもない。
とまあ、彼についてはこれくらいしかわからないけど…これから知っていきましょう。役員を深く知ることも会長職の務めでしょうし。
鹿夫「ところで会長、僕たちはこれから生徒会という名の家族、つまりはファミリーですよね?」
結衣「は?ええ…まあ…いきなりどうしたんですか林君?」
鹿夫「フッ…ファミリーなら親しみを込めてファミリーネームで呼び合うのが世の常ってやつじやつじゃないっスかね?」
急にグイグイ来る林、いったいどうしたのでしょうか。
鹿夫「オレは『Emperor Buck Deer』故にオレのことはディーアもしくはRinって呼んでくれても構わないっスよ?」
一人荒ぶる彼を残して、生徒会室内にいるほかの人間はすべて、彼の言動や行動に引いていた。あの常に無表情を崩さないキドでさえも顔をしかめていた。
朱鳥「おい林、ちょっと落ち着けってーの。」
鹿夫「なんですかアスカ先輩?俺のreal partに何か問題でも?」
刹那「り、りあ…なに?急に流暢な英語で言われても…」
鹿夫「リアルパート、真実の部分。すなわちこれがニュートラルなオレってことッス。」
一同「(う、……うぜええええええええええええええええええええええええええええ)」
この鹿夫とかいった男、厨二要素がないかと思いきや実はバリッバリの厨二で、しかも甚だしくダサくて周りに害しか及ぼさないダメな方の奴じゃないですか!!
カトル「じゃ、じゃあ…なんで君は今までそれを隠していたんだい?」
鹿夫「知り合って間もない人にはこんな姿見せられないッス」
カトル「は、はあ…(どうせならずっと隠したままでもよかったんだけどなあ)」
鹿夫「ともかく、オレのことはディーアもしくは…」
結衣「・・面倒なので鹿って呼びますね。」
朱鳥「賛成~(笑)」
刹那「リンはともかくディーアはありえませんよ。ダサすぎです。」
カトル「僕もそう呼ばせてもらうかな。鹿君には悪いけど。」
立て続けに言われてしまい、鹿夫はあからさますぎて見ていてイラつくほど大きなリアクションをとってorzと崩れた。
鹿夫「そ、そんなぁ!……キド!キドならわかってくれるよな!?」
キドの足に縋り付くが、
キド「…五月蠅い、離れろ馬鹿。」
鹿夫「ファッ!?」
つかまれていた足を乱暴に振り払い、とどめの言葉を鹿夫に吐き捨てた。
結衣「(ふんふむ…言葉遣いは荒いと。)ま、まあそんなに気を落とさないでください。そういうこともあります。」
鹿夫「会長…ありがとうございまっス!こんなオレを唯一庇ってくれる…さっすが相思相愛なだけあるッス!」
結衣「………… はい?」
彼は今何と言った?相思相愛?寝言は寝てから言ってほしいものですね。もっとも、寝言でも言ってほしくはありませんが。
鹿夫「面接のときにオレ、気づいたんス。誰かが俺にホットな視線を送ってくる人がいるって。それがいったい誰なのか、ずっと考えていたんスけど、今やっとわかった。視線の正体は会長なのだって!」
朱鳥「お、おい鹿……自意識過剰も程ほどに……。」
鹿夫「じかじょう?フフッ、まさか、寝言は寝て言ってほしいッス!」
刹那「は、はあ!?」
結衣「・・・・・・」ニッコリ
カトル「(ま、まずい!結衣君のこの無言の微笑みは……)……じゃあ、相思相愛名君らの為に、二人だけの空間を作ろう。刹那君、朱鳥君、キド君、ちょっとテーブルを動かすのを手伝ってくれないかな。“わかったかい?”」
刹那朱鳥キド「…はい〔あいよ〕[………]」
鹿夫「せ、先輩方……ありがとうございまッス!これから先輩と、熱く愛を語らせてもらうッス!」
結衣「……」ニッコリ
カトル「じゃあ、僕らはいったん席を外すとしよう。」
朱鳥「鹿……強く……生きろよ……」
キド「・・・・・・・ウィナーさん。」
カトル「(おや、キド君から話しかけられるなんて珍しい。)ファーストネームでいいよ。鹿君も言っていた通り、僕らは一種の家族。堅苦しさなんていらないさ。」
キド「・・・・・・じゃあカトルさん、さっきのあれは・・・・・・」
朱鳥「あ、それは俺も気になる。大体は察してるけど、やっぱり詳しく知りたいじゃん?」
刹那「え?朱鳥わかったんですか?私にはさっぱり………てかそんなことよりも!鹿君はいったいなんなのですか!ましてや会長と相思相愛とまで言い始めて……………これは駆逐する必要が………奴の歪みを………」
朱鳥「せ、刹那さ~ん、青い方が滲み出ていますよ~。」
カトル「まあまあ落ち着いて。少し時間がたてばわかるよ。もしかしたら音が聞こえてくるかも。」
刹那朱鳥キド「……?」
鹿夫「緋色会長は裏表のない素敵な人です。緋色会長は裏表のない素敵な人です。緋色会長は裏表のない素敵な人です。緋色会長は裏表のない素敵な人です。緋色会長は裏表のない素敵な人です。緋色会長は裏表のない素敵な人です。緋色会長は裏表のない素敵な人です。緋色会長は裏表のない素敵な人です。緋色会長は裏表のない素敵な人です。緋色会長は裏表のない素敵な人です。緋色会長は裏表のない素敵な人です。緋色会長は裏表のない素敵な人です。緋色会長は裏表のない素敵な人です。緋色会長は裏表のない素敵な人です。」
朱鳥「うっわ……」
刹那「なにこれ気持ち悪い……隅っこでぶつぶつぶつぶつ……」
キド「(…あんなに無駄にテンションの高かった鹿がこうもおかしくなってしまった……この原因は会長にある……)」
結衣「さ、では机を戻して会議を始めましょう!」
カトル朱鳥刹那キド「(うっわ…すっごい笑顔…)」
「…では以上で会議を終了します。」
私が会議をしめると同時に集中の糸が皆ほどけていく。なんとなくだけれど、私にはそれがわかる。一年近く会長職を務めてきただけはあるのかな。
「この後は普通に解散っスか?」
鹿夫がこちらに疑問を投げかけてくる。…研修期間中、会議終了までずっと彼は生徒会にいたのだから聞くまでもないのだけれど……あ、何か期待しているのでしょうか?そう考えると、彼の瞳は輝きに満ちている気がする…。確かにまだ言うべきことはあるんですけど……やっぱ来週でいっか。今日は何かと疲れましたし…主に頭が。
「会議はこれで終了ですが、生徒会室にまだ残りたいのなら残っても構いません。むしろ今までの役員は用事がないときは大抵残って勉強なり雑談なり読書なりしていますよ。ただし、最後に生徒会室から出る人は必ずケフェウス先生に施錠を申し出てくださいね。
「…自由にしていていいのですか?」
キドは依然無表情のまま私に質問を投げかけてくる。彼は最後まで残ることはしていなかったから知らないのですね。
「ええ、かまいませんよ。会議が終わってすぐ解散ってのも寂しいですし。」
私がそう答えると、キドは嬉しいのか、どこか笑みを浮かべている…ように見えた。
…こうして改めて神前鬼道という人を見てみると、感情を全く顔に出さない人ではないんだということに気付かされる。半年程度しか彼と一緒に行動はできないけれど、彼の内面の部分を理解していきたいですね。
「なるほど・・・了解っス!この後ここに残り、皆様方と親交を深めていきたいと思う気持ちもありますが…オレは部活に参加するッス!皆さんまた明日!」そうして、鹿夫は早々と生徒会室を出ていった。部屋に残ったのは鹿夫を除く生徒会の面々。カトルは勉強、朱鳥はゲーム、刹那は…今日は白い方なので寝ていますね。そしてキドは、制服からはみ出ていたフードをかぶり、読書に没頭。足を組み右手で本を手に取り、左手でページをめくる。なかなか様になっていますね。
各自が各々と好きなことをやっているから、私も勉強しましょうか。受験生ですし。
「ねーかいちょー?」
「はい?」
数十分後、朱鳥はPSPでゲームをしながら声だけこちらに向けてきた。
「ライブってどうなんの?あ、ボーカルは刹那でいいかなって昨日思ってたじゃん?けど、あいつらのこと完全に忘れて話してたからさあ。それに、みんなやる前提で話してたけど、まだ全員の意思確認もしてなかったし。」
「あー…。すいません、私の落ち度です。……なんで昨日そう思わなかったんでしょうね?」
「君は見るからに疲れていたからね。主に目安箱のせいで。それに眠そうだったし。」
「ハハッ、違いねえ。」
「ありがとうございます……。じゃあ話をしましょうか。」
私は立ち上がると、爆睡中の刹那のもとへ寄った。
「ほら刹那……起きてください。」
肩を揺さぶり、ほどなくして起きた。さすがに数十分程度だと眠りが浅いですよね。
刹那はあからさまに不機嫌であったが、私に起こされたということに気付くと、ハッと目を見開き、赤面して顔を下へ向けてしまった。
「バンド……?」
本にしおりを挟み、フードを脱いでこちらをじっと見てくる。
「我々生徒会執行部では文化祭の時、余興でバンド演奏をすることになっているんだよ。何十年も続いているから、いつの間にか伝統化されてしまったんだよね。」
「で、今年も皆さん、やりますよね?」
「僕は賛成だ。観客との一体感……あれは普段のピアノのコンクールじゃ絶対に味わえない。すっごく楽しかったしね。」
続いて、朱鳥、刹那と賛同した。
「キドはどうお思いですか?別に私たちを気遣って無理に賛成ってことは――」
「自分も賛成……です。」
キドは私の言葉を遮り、確固たる意志を感じさせる発声に、私たちは思わず面を食らってしまった。そしてキド自身こんなに大きな声を出すつもりはなかったのか、だんだん言葉尻が小さくなっていった。それが面白くって、ちょっと笑ってしまった。
「わかりました!じゃあ全員参加でいいですね?」
「おいおい鹿は?」
「司会でいいんじゃないですか?あの無駄テンションは司会にしてこそ生かされますよ。さらに彼は野球で忙しいし。あと、鹿野郎には悪いですが、あの濃い顔と丸い頭はバンドのコンセプトにはそぐわないです。」
「うっわ、中河ひっでえなあ。まあわかるけども。」
「えーじゃあ次の話に移っていい?」
「いいぜ。」
「では遠慮なく。……んんっ、では誰がどこを担当するか決めましょう。キド、貴方はどの楽器を演奏することができますか?」
「……ドラムです。」
ドラムとはちょうどいいですね。ドラムできる人はもう卒業してしまいましたし、人がいなかったんですよね。
「おおドラムか!ちょうどそこはいなかったんだ。だから、頼むぜ!」
と、キドの肩を強引に組む朱鳥。キドはあまりこういったスキンシップを好んでいなかったのか少し顔をしかめ「朱鳥さん……ちょっと暑苦し……」とぽんぽんと朱鳥の腕をタップした。
「にしても、ドラムができる人ってなかなかいませんよね。キド君はいったいどこでその技術を?」
「………自分で………」
「お、自己流ってやつか!今度見せてくれよ!」
「じゃあ明日にでもあそこに行きますか?」
「って話が早いよ。キド君の都合も聞いていな――」
「……自分は構いません。」
このキドという男、意外とノリノリ(?)である。
……私は分かっているけれど、みんな大切なことを見落としていますね。カトルは話を合わせているだけなのでしょうか?それはそれでいやらしいですね。挙げて落すってことですから。…まあ、面白そうだから黙っておきましょう。
「…でも場所って」
「あ、私があとで教えますよ。」
「中河助かるぜ!」
どんどん話が勝手に進んでいくのを、私はただ見ていた。ちらりとカトルに視線を送ると、こくりと彼は頷いた。どうやら彼は、すべてを分かっているうえで話を合わせているようだ。
「じゃあ11時くらいに……」
「ちょっと待った。」
トントン拍子に話が進んでいるところを、さっそく彼はさし止めた。
「朱鳥君、君は重要なことを見落としているよ。しかも、とっても単純なことをね。……そもそも明日はあの場所を使える日なのかい?」
「あっ……」
なるほど、と嘆息する朱鳥と刹那、そしてキド。
「……で、結衣君、明日は使える日なのかい?」
……実は使えないんですよねー…
私は首を横に振り、カトルから目をそむけた。
「…だそうだね。」
「だぁぁぁ畜生っ!まじかよ……じゃあせめて、曲だけでもきめようぜ。曲が決まったら練習もできるしさ。じゃあ明日、パルフェに4時集合ってことでおっけ?」
「また私のバイト先ですか……まあいいですよ、いつもの事ですし。」
「あ、場所は私があとで教えておきますね。」
こうして、生徒会バンドの曲決めの日時と場所が決定したのである。
そのあとは他愛のない雑談をした後、皆で解散した。