7月18日 土曜
ぼくらが向かう総合娯楽施設には、目玉施設として巨大なプールがある。非常に長いウォータースライダーや飛び込み台など、あらゆる客層の目を引くもので埋め尽くされているのだ。勿論、ラウンドワンやスポッチャのようにスポーツなども楽しむことができるが、大々的に宣伝しており、誰かしらに刺さるプールがあるのだから、当然そこにいこうという流れになる。(刹那も会長の水着姿を心待ちにしているらしい。加えて、これは後から聞いた話なのだけど、緋色先輩が来ることは確定事項で、彼女もプールを楽しみにしていた。)となると水着が必須となるわけで・・・。一昨年のは全体的にきつくなってしまっていたので、新しいのを買うことになったのだが・・・
有希 「あ、これは刹那さんに中々よさげな感じですね!」
結衣 「確かに…この色合いは刹那に合ってますね…」
竜華「まあ青と白だからね~。あ、紐?紐なの?しかも布面積せっまwwwなかなか大胆だね~」
栞 「部長…かるくセクハラですよ…」
怜 「でも実際これは破壊力あると思うわ…」
刹那 「いや、まだ私買うなんて一言も…」
とまあ、こんな感じに、にぎやかなショッピングとなってしまった。もともと最初はぼくと刹那と怜で買いに行く予定だったのだけれど、向かう途中で有希と栞を発見して、店内で宮永先輩と緋色先輩に遭った。そして、現在に至る。高校生7人は、さぞ店員には圧になっているだろう。
「でもまあ…とりあえず着てみなよ?色合い的には最高なんだからさ。」
「…えぇ………じゃあ…静乃がそういうなら…」
刹那はその水着を持って試着室へと向かった。
ちなみに、刹那以外は既に水着は買い終えていていた。
「…確か、ハム先輩来るんでしたよね…?」
「あ~そういやそうだね~……悩殺されるね…きっと。」
「制服の時でさえあんなだから…ましてや水着、しかも肌色多目ってのは…想像するのが恐ろしいわね…」
「ハムさんはおろか一般のナンパもすごそうですね…」
なんて会話をしていた時、シャっと試着室のカーテンが開かれ、水着姿が露になった。
…やばい、この破壊力。同じ性別のぼくでさえも息をのんだ。そもそもの素材の完成度が高いのに、その素材をさらに際立たせる鮮やかな白と青のコントラスト。水着に目線が吸い寄せられれば、そこには抜群のプロポーションがあるのだ。出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる。身長がそこまで高くないからモデル体型とまではいかないものの、いわゆる”キレイ”なスタイルだ。どんな人でも魅了されてしまうに違いない。
「刹那さん!!すごくいい!すごくいいですよ!!」
「こんなの誰でも見とれちゃいますよ!」
「エクシアを彷彿させますね…いや、ツインテールがオーライザー部分とすればダブルオーライザーでしょうか……」
「…結衣。いいの?素が出てるよ?」
「…!ああ、いまのは聞かなかったことにしてください…」
緋色先輩は顔を真っ赤にして手をあたふたさせていた。普段は澄ましているのに、そのギャップが可笑しくて、思わず笑いがこぼれる。刹那も最初はもじもじしていたけど、そういったのを見かねてなのか、それとも褒められすぎたことによりテンションが上がったのか、恥じらいから自身のある顔つきに代わって、リラックスしているように見えた。
「…ふぅ。ねぇ?刹那ちゃん。ちょっと白ニーハイ履いてくれない?あ、水着姿はそのままで。」
「え?まあいいですけど…」
…察した。だけど、あえて黙っておこう。
普段ならこんな突拍子もないことは聞き入れないはずなのだが、今はみんなにたくさん誉められたこともあり、テンションが上がってたからこそできたことだろう。
宮永先輩がカメラを構えているがそんなことは気にしない。
「ちょっ、竜華!何してるんですか!」
「結衣…こんな写真、激レアだよ…?今ならタダでプレゼントするよ!」
「…今ならってことは、後で売りさばくんですね…」
「刹那ちゃんのファンが拡大するよ!私はその後押しをするだけっ!!刹那ちゃんに貢献しようとするだけなんだから止めないでっ!!」
「竜華さん、私にもその写真一枚。」
「私も欲しいです…」
「え、皆さん!?」
「ほらほらぁ?三対一だよ~?」
「待った待ったぁ!さすがに私は反対するわよ!」
「それでも三対二、敗色濃厚だね!!」
「…私抜きでとんでもない話してますね…」
「い、いつのまに!?」
刹那は腕組みしてじとっとした目でこちらを見ていた。…白ニーハイを履いて。「写真とらせてくださいっ!!」
宮永先輩は流れるように土下座を決めた。あまりの早さと、潔さと、女性が土下座をしていることに、まわりはドン引きしていた。無論ぼくもだ。一般客もいるんだからさ…
「嫌です。」
「そんなぁ!!」
「即答とかきっついなぁ。」
「でも中河先輩!三対二ですよ!」
「え?そういう問題?」
「刹那さん!!潔くなってください!」
「……わかりました。」
え?わかっちゃっていいの?
「今、誰が賛成しているんですか?」
「竜華、栞さん、有希さんですね。そして反対が私と刹那。」
「…つまり、まだ未定の人が一人いるんですね?」
一斉にぼくに視線が向けられた。
「静乃ちゃん?わかってるよね?」
「常識的に考えてください。」
「静乃さんなら私たちに賛成してくれます!!」
刹那は何故か得意気な顔をしている。ぼくが否定派に回ると決めつけている。信頼されているのは悪いきはしないけど…
「…刹那。」
「なんですか?やはり静乃は私を選―――――――――」
「ごめん。」
「…え?」
「宮永先輩、私にも一枚。」
「キッタアアアア!!」
「な、どうしてなの…」
刹那はショックのあまりその場にへたり込んでしまった。
「だっておもしろそうじゃない。」
「四対三。決まりだね!!じゃあ早速…」
宮永先輩がカメラを構えたその時、
「お客様、店内での撮影はご遠慮してください。」
店員からのストップがかかった。
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「じゃ、今から結衣の家で撮影会しようか!!」
「その理屈はおかしいと思うのだけれど。」
店を出て、とりあえず落ち着けるところに行こうと言うことで、近くの喫茶店に入った。私はブラックコーヒーを注文した。
「いや、だって広いじゃん。」
「その理屈はおかし――。」
「みんなも会長の家にお邪魔したいよね?」
「行けるのなら行ってみたいです!!」
刹那、素直すぎだろう…さっき撮影会って言ったんだぞ?自分の写真とられるのに…羞恥心より会長への愛が勝ったんだな。
「………じゃあ、わかりました。」
あ、折れた。
「じゃ、今から向かおうーと思ったけど、もうちょっとゆっくりしてからいこうか。」
私はブラックコーヒーに口をつけ、椅子の背もたれによしかかった。苦味が全体に広がる。椅子にぐったりと寄りかかった際、ぼくは遠くの方を見ていた。みんな経験ある…というか、無意識にしてると思うんだ。意味もなくどこかを見つめることなんて、漠然と見ていることなんて。まさに今のぼくがそれ。そんなどうでもいい理由のないことをしたおかげで―――――――あることに気づいた。なにやら隅の方に座っている男性二人組が、こちらをじっと見てくる。ぼくは全身を舐め回されているような嫌悪を感じた。こちらもじっと見返すとあちらに気づかれて変なことになりかねない。だからぼくは横目でチラチラと様子を伺った。気付いていたのはぼくだけだったように思えた。なら、黙っていよう。折角の楽しい雰囲気をぶち壊したくないしね。————―ぼくは気づいてしまったから、もう純粋に楽しむことはできないけれど。
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「ウホッ!!いい女!!」
「やべーっす、あのテーブル、全員可愛すぎだろ…」
俺は敬愛する先輩と出かけており、ちょいと歩き疲れたのでこの喫茶店に来た。男二人で遊ぶことは楽しくはあるのだが、なにゆえ花の無い男二人、浮いた話も全く生まれないというすごく悲しい現状であったが、とんでもなく極上のものを目にすることができた。
「先輩。あの中で誰が一番かわいいと思います?」
「そ、そうだなあ…。俺はあ、あの髪を二つ縛りにして、頭に白いヘ、ヘアピンつけてる娘かな…。な、直紀はどうなんだ?」
「俺っすか?俺は黒髪ロングストレートのお姉様がいいっす。あの澄ました顔はそそります。グレーの髪の娘は…そうですね、目が終わってますが、体は良さそうですね。めっちゃシコれますよ。」
「はぁ…あんな娘とお近づきにな、なりたいものだな…」
「…実際にアタックしてみます?」
「な、直紀!正気か!?」
「ナンパは犯罪じゃないっす。ダメもとで言ってみましょうよ?」
「だが…はっきりいって俺はブサイク…」
「そんなことないっす!!先輩のそのがっしりとした体つき!いけますって!」
「そ、そうか…よし!じゃあ行くぞ!!…店内でやる勇気ないから、彼女たちが店から出てからにしようぜ…」
「ですね。もっとみていたいですし。」
もちろん先輩のナンパなんてうまくいくわけない。普通の女の子とろくに会話すらできないんだから、水から話しかけ、さらに相手に興味を持ってもらうトークなんてできるわけがない。だから先輩、利用させていただきます!
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変な野郎たちに見られていたことは最後まで伏せ、店を出た。幸い、最後までその事実にみんな気づいていないようで、よかった。駅に徒歩で向かう途中、前方のショーウィンドウの前で、にどこかで見たことがあるような人が立ち止まっていた。
「あれ、あそこにいるのってハムじゃない?」
「ひぃ!!」
「大丈夫。まだ気づかれてないわ。」
「いつ気づくかわからない、そんなスリリングなことはしたくありません。私は別の道で向かいます。あの男がなにか言ってきても、適当にはぐらかしておいてください。頼みましたからね!!」
刹那は来た道を急ぎ足で少し戻り、左折した。
「あ、刹那、ちょっとまってください!!」
続いて緋色先輩も刹那の後を追いかけ、別ルートに走っていった。
「あらら…警戒しすぎだっちゅーのに…」
「そうだよね…」
刹那が入っていった通りの方を見ていたら、視界に不吉なものが入った。
「あれは…さっきの男…」
どこか急いでいた様子だった。…まさか…
確証はないけれど、もしぼくが想像している通りのことなら、これはぼくにはどうしようもない。
「おお!宮永ではないか!それに柄谷も!榊に萩原!こんな多人数でいったい————————————————はっ!少年、少年はいないのか!!」
いつの間にかグラハムがこちらに向かっていた。
「ハム…落ち着きなさいよ…。残念ながら刹那ちゃんはー」
「そこを左に曲がっていったよ。ちょっと急ぎ気味だったから、走れば間に合うんじゃないかな。」
ぼく以外の女性陣は、みんな眼を見開いていた。無理もない。さっき刹那が言ったことをまるっきり無視したことなのだから。
「なるほど!恩に着る!うおおおお!!少年!!待っていろ!」
グラハムは刹那の通った道を走って辿っていった。
「静乃…一体あなたは何をしているの?」
「そうです!!刹那さんが嫌がるようなことをするなんて…」
「————————ちょっと待って。そんな酷いことするわけがないよ。」
「いや、ハムを鉢合わせようとするのは十分酷いことだよ。」
「それが今回だと“いいこと”なんだよ。」
「…意味がわかりません…」
みなぼくにマイナスの言葉を投げ掛けてくる。まあ、仕方がないか。
「さっきの喫茶店、おそらくそこで目をつけられ、私たちはある男達に跡をつけられていた。」
「…!」
ポカンとしている人もいれば、眉を潜める人もいた。
「まさか…角に座ってた男の人二人ですか…?」
「そう、その通りだよ栞。彼らはずっとぼくたちのことを見ていた。それで、その男たちが、刹那が向かった道と同じ道を辿った。しかも、急ぎ足で。全部偶然でかたづけられる?」
「つまり、あいつらは刹那ちゃん目当てだったってこと?」
「そうなるんじゃないかと思ってる。だから、あえてあいつを向かわせたんだよ。」
「私たちが助けに行くんじゃ無理だったの?」
「ナンパに女が助けにはいっても無駄だと思ったんだ。無駄じゃないかもしれないけど、男の方が強いでしょ?こういうとき。」
「でも、ハム先輩が助けるって保証は……はっ!」
「『少年は私と運命の赤い糸で繋がっているっ!お前らのような雑兵では話にならんっ!今すぐ少年から離れろっ!!』ってな感じになりそうじゃない?」
「これはあり得るね…。普段のハムの言動からしてさ。てか静乃ちゃん、真似上手いね。」
「あ、あはは……でもまあ、そういうこと。でも万一のことがあるから、ぼくたちも刹那のところにいこう。ハムを邪魔しない程度の距離でね。」
ほんとは面白そうだからってのあるけど、それは黙っておこう。