「……おい。」
すうすう。
「……おい・・・」
むにゃむにゃ。
「目を覚ませぇええ!!!!」
何者かに蹴られて、俺は目を覚ました。ところが、目に前には何もない真っ白な空間。そして、俺の目の前には一人のスーツを着た男が不機嫌そうな面構えで腕を組んで俺の傍に立っていた。見た目は割と若い青年である。27歳くらいか?なかなか荒々し髪型や顔のつくりをしているから、若くみえるだけなのか?まあそんなことはどうだっていい。俺は寝巻に着替えていたはずだ。それなのに今は学ランを着ている。そんな非現実的な事象が眼前に広がり、身に起こっているということは、どうやら俺はまだ夢を見ているようだ。レム睡眠だっけ?夢を見る方って。
「はぁ…やっと起きたか。まったく、手間をかけさせないでくれ。」
「……まずは俺を蹴り飛ばしたことへの謝罪を要求したいんだが。」
「時間がないからそれは省く。第一痛覚がないのだからそのくらい許容しろ。」
…言われてみれば、どこにも痛みが感じない。蹴られた衝撃はあったはずだが、どこも痛まないなんて何とも不思議な話だな。
「理不尽なことは変わりない気がするんだけど。てか、そもそもあんた何者?」
そういうと男はふんぞり返って
「私?私は……そうだな、神様だよ。だから君は私を敬わないといけない。」
どうやら俺は随分カオスな夢を見ているようだ。神だと自称する脳内お花畑の痛い人がいるとは……仮に神だったとしてもこんなスーツ着た男が神には見えんって。あとちょっと言いよどんだだろ。設定するならちゃんとやれよ…
「ちょっと、そこは呆れるところじゃないから―――まあいい、本題に移ろう。」
男はそのおどけた感じから一変、真剣な表情になった。
「唐突だが国広遼君、君は今の環境―人間関係に満足しているかい?」
本当に唐突だなあこの男。今の環境だって?それは・・・・・・・
「う~ん…別に普通としか言えないかな。改めて思い直すことでもないし。」
「本当にそう思うかい?今、ものすごく幸せだと感じないのかい?」
しつこいな、いい加減相手にするのが面倒臭くなってきたゾ!
「確かに幸せといっちゃ幸せだけど、別にものすごく恵まれてるってわけでは…」
「女性関係は?」
「う~ん……」
別に彼女とかいるわけじゃないしねぇ……
「普通じゃないっすか?」
するとこの男は軽く声に怒りを込めて、
「女の幼馴染、義理の妹のような存在、クラスメイトの女子、部活の先輩・後輩、生徒会の会長、そして教師陣。しかも、全員美人。普通、一般的な男子生徒はこんなに複数の女性と…こんなに可愛い女性と親密な関係を持つなんてことはありえない。イレギュラーなんだよ。それなのに君はどうだ?君は、こんなに恵まれた環境を特に幸せとも感じず…。」
……!確かに、会長と親しくしているのは結構レアなんじゃないのか!?
……まあでも、そんなことは個々の価値観にすぎないし、会長は多くの生徒と仲がいいからな、まあ、そう考えてみたら普通なことか。自意識過剰も甚だしい。
「そういわれましても・・・」
「君にとっては、それが常識なのかもしれない。が、しかし、そう思っているのは君だけだとまず理解してほしい。」
「はぁ……」
まあ確かに、時々周りの友達からそんなようなことは言われるけど、だからと言って主人公ハーレムみたいな展開なんて皆無だし…。そもそも、恋愛というのは見ることこそが素晴らしい。自分という汚い存在を可愛い子と一緒にいたらその子がかわいそうだ!
「でも俺、そうはいうけど別に知っているだけで誰と特に仲がいいってわけじゃないっすよ?」
すると男は、ニマリと笑い、
「そこなんだよ。複数の女性と関係を持っていながら、誰とも特別に仲良くなろうとしない。私が何を言いたいのかわかるかい?」
「さぁ……」
「要約すると、『爆発しろ』」
「……はい?」
「こんなに素晴らしい環境、これは男子の夢!その環境にいながらお前は彼女も作らず平々凡々と暮らしている…………日頃ひもじい思いをしている悲しいすべての男子生徒に詫びろ!」
もういやこの人。
「ということで、お前に呪いをかけることにした。」
さらっととんでもないことを言う。こいつ頭いかれてるんじゃないのか。呪いとか何とかさ…つかさー、すべてって何人?周りの男ら含めて五人とかそんなもんだったら笑えるな。まあ、夢の中だし、カオスなのは仕方ないか。デスゲーム風を装うなら、まず顔にかぶり物をしろ。顔が割れてるゲームマスターなんてありえんでしょうに。……もう目を瞑ろう。――いや現実の俺は今も瞑ってるか。
「理不尽だなぁ……つか、その呪いとやらはいったいどんなものなのですか」
「それは――――」
自称神は一拍おくと、
「『お前の周りの女性との関係をリセットさせる』――というものだ」
なんてことを言ってきた。
内容が想像通りぶっ飛んでいて、俺は妙な安堵を覚えた。
「きっとお前はこう思っている。『想像通りぶっ飛んでいる内容だ』と。だが、これは冗談で言っているわけではない。というかそもそも、こうして君と会話しているのは君の夢ではなく私が君の意思に干渉しているものなのだがね。」
……厨二病乙。
「はいはい、俺は呪いをかけられても、それでもかまわないよ。彼女なんて作る気ないし、俺の環境が悪くなろうがどうでもいいし。」
その言葉を聞くと男は含みがあるような顔つきで
「その行動が、君の周りの女性…すなわち、萩原静乃、天海有希、柄谷栞、中河刹那、宮永龍華、緋色結衣に影響するとしても?」
そういった。
「そりゃあまあ、リセットされるんだもの。当たり前だろ。」
「……周囲との関係をリセット…いいかえれば、まっさらな状態、まだあって話したこともない状態、赤の他人の状態……それは女性側にも言えること……つまり、女性側をぶっ殺してしまえば、“君”という存在は彼女らから消えるよね。あるいは君を殺すか。」
「・・・は?」
意味が分からなかった。正確には、文字どおりの意味はとらえていたが、何故こんな考えに至るのか、ということかな。頭には疑問符しか浮かんでこない。
「文字通りの意味だよ。君がこのままの態度をとり続けるなら、彼女たちには“死”という名のひどい目に遭うだろう。」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「まああくまでも、このままの態度をとり続けるなら、ね。」
「……そんな含みのある言い方をするってことは、それを回避する方法があるってことだな?」
すると男はにやりと笑って、
「ああそうさ。この事実を回避する方法。それは『君が年内中に彼女を作る』ことだ。」
「…はぁ。」
なんとなくそんな予感はしていたさ。彼女をつくってことをさ……。でも、だからといってすぐ実行できるものでもないし……。というか、できる保証はない。むしろ出来ない(笑)
「君はこう思っている。『そんなことできるわけがない』と。まあ、いきなり彼女を作れと言われて、それが難しいことは重々承知だ。だから、サポートはする。」
「……さんざんもげろなどと言っておいてサポートってどういうことだ?自己矛盾もいいところだぜ。」
そういうと男は真剣な表情だったのが一瞬曇り、そして
「私は人間の不快指数上げないようにするのを仕事とする神だ。最初に言ったではないか…………まあいい、そして、もっとも不快指数がたまりやすく、その数が多いのが、ひもじい思いをしている男子学生だ。彼らの不快指数は年々飛躍的に上昇している。二次元の世界にあこがれ、現実世界とのギャップに絶望し、自分に自信を無くしている。そんな彼らが不快になる最大の要因は君みたいな者が存在することなのだ。彼らは複数の女性と関係を持ち、それなのに誰も選ぼうとしないダメな方向の主人公を嫌う。二次元の世界ならまだしも、現実でそれを起こした時には、不快感と嫉妬心が大変なことになるだろう。だから私は、彼らの不快指数を下げなくてはならない。不快指数を下げる、つまりは『誰も選ばない主人公ハーレムという状況から脱する』ということなのだ。脱するために私はサポートをするってことなのだよ。……ああそう、けなしたのはただ単に君にイラついたから。これでおk?」
「……まあ、理屈は分かった。」
そのとき、ふとあることが脳裏をよぎった。
「一つ疑問なんだけど、神の力とかを使って不快指数を下げれないの?俺に呪いをかけるくらいなんだからそれくらいの事はできる気が……」
男は数秒黙った後
「まあ、こっちにも事情というものがあるのだよ。そんなことできたらそもそも君にこんなことはしない。―――とにかく、そのサポートの一つとして《告白券》というものを君に与える。」
「なんすかそれは?」
「それは――――おっと、もうあんまり時間がないようだ。君のサポートのためにエージェントを送っておく。告白拳についてはそいつから聞いてくれ。明日の夕方以降には会えるはずだ。」
「ちょっ……中途半端に終わらせ―――」
そして、男は俺の前から姿を消し、俺は意識を失った。