タマゴのカラを割らないでっ!   作:すうどんたくろう

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最終段落のみ本編に関係しているため、そこまではよみとばしても本筋は追えます。


2-3-4 晒されたのは誰?

 遼《なるほど、ようは部長とのタッグで戦えばいいんですね?》

 

 龍華「そそ、相手は結衣と刹那ちゃんだから本気でやってよ~。あ、IDはそっちからしてみれば2つしか映ってないだろうけど、一つは私ので、もう一つは結衣の垢だからね。」

 

 遼《…は?これって部長のサブアカじゃないの?》

 

 結衣「いえ、私のアカウントです。」

 

 遼《会長…家庭用でもやってるなら、早く言ってくださいよ~w》

 

 結衣「すいません…」

 

 龍華「あと、私たちは今結衣の家にいて、そこからインしてるから…ってそんなことはどうでもいいか(笑)」

 

 有希「兄さん、本気で勝ちを狙ってね。」

 

 遼《え、有希いたの?柄谷と水着買いに行くとか言ってた気が…》

 

 栞「そうしたら、なんとお店で会長たちと榊先輩たちに会ったんですよ。そして今に至ります。」

 

 遼《なるほどな~…てかなんで柄谷フルド対戦からはぶられてんの?面子足りてるから俺を呼ぶ必要ってなかったんじゃないの?》

 

 龍華「まあ話せば長くなるから聞かないでくれると嬉しいかな。」

 

 遼《はあ……》

 

 龍華「じゃ、対戦を始めますか!!」

 

 刹那「うぅ…遼君が相手は辛いです…」

 

 栞「そういや国広先輩、部長とタッグ組むのって一番少ないんじゃないですか?」

 

 遼《いわれてみれば…確かにそうだ。柄谷とは中学からやってたし、グラハムはなにかとネタプレイでやってたし、少ないなあ。》

 

 有希「おお、栞ちゃん…『やっぱり国広先輩は私とじゃないとダメですね!!』みたいな嫁宣言かぁ!?」

 

 栞「ちっ…違うよ有希ちゃん!そんなあり得ないこと言わないで!」

 

 遼《はっはっは。あり得ないとど真っ正面から言われるとさすがに傷つくなぁ(笑)》

 

 栞「!ああいえ…あり得ないは言い過ぎました…でもそんな風にみてないのはたしかで…」

 

 龍華「あんな夜を過ごしておきながらその発言はないよ栞ちゃん~ww」

 

 栞「あの夜って……」

 

 結衣「それこそ有り得ませんって。」

 

 怜「(でも、栞の顔がみるみる赤くなってる…。妄想して…なのか、それとも…)」

 

 龍華「まあ茶番は置いて、さっさと勝負しようか。私はハラオウンでいくから、国広はグフカで来てね。コスト的に(笑)」

 

 遼《お、最初っから本気ですね。》

 

 龍華「負けられない戦いがあるからね。もし負けたら…アンタ、ただじゃおかないよ?」

 

 遼《な、何でそんなに本気…?》

 

 龍華「事情があってね。まあそのぶん、勝ったら報酬は弾むよ生写真だよ生写真。」

 

 結衣「ちょっ竜華!?」

 

 静乃「……」

 

 遼《ん?緋色先輩どうしたんすか?》

 

 結衣「あ、いえ…気にしないでください。ともあれ、私も最初から全力でいかせてもらいますよ?」

 

 

 私の愛機はウイングゼロ。コストは3000で、体力強化、装甲強化を施している。高火力なバスターライフルを二丁携え、ロボットでありながら背中に大鷲のような巨大な翼をもち、滑らかに動くことができるのが特徴だ。逆に言えばそれ以外の特性は平均以下。基本的な戦闘スタイルは、中距離から射撃しててけん制しつつ、敵が接近してきたら翼で回避し、攻撃の後隙にビームを撃ち込む。長距離なら長距離砲を撃ち込む、といったものだ。シンプルでしょう?勿論近接格闘できないことはないが、メインはあくまでも射撃。さらに、空中戦においての自由度が異常なまでに高い。相手が狙撃機ならば、立ち回り速度の差で蹂躙されてしまうが、味方に近接特化の機体がいれば、相手の動きをより制限できるため、逆に一方的に蹂躙できる。

 次に刹那の機体。彼女の機体名はダブルオー。体力強化を施し、コストは3000。二本のブレードでの斬撃を主とし、機敏に動けるようバーニア面が強化されている。この機体の特徴はなんといっても、外部ユニットとのドッキングによる自身の一定時間強化だ。ドッキング後は、新たに射撃技を使用することができることに加え、機動性が底上げされる。さらには一定の確率で相手の攻撃を無効化するという、相手に運ゲーを仕掛けられることもできる。極めつけは、ドッキング中のみ使える、一度限りの必殺技がある。これは言ってしまえばビーム砲をそのまま剣にしたといったらよいのか。体力強化、装甲強化をつけていなければ、一撃で相手を仕留めることができる。圧倒的な破壊力ゆえに、攻撃速度は非常に遅く、相手をステージ角に追い込む、味方がバインドをかけて行動を封じるなどしなければよほどの初心者でない限りまず当たらない。とまあ、凶悪な性能を誇るわけなのですが、当然ながらドッキング時間には制限があり、ドッキング後は全ての機体性能がダウン。一部の攻撃が使用不可となり、機動力のも低下するため、まさに諸刃の剣。ドッキング中に相手を確殺できなければ、かえってこちらが不利となってしまう。

 …まあ、この前の大会では相手機体との相性が悪く、実力が拮抗していたと言うこともあり、負けてしまいましたが。

 

 

 「にしてもグフカできますか…」

 

 

 グフカ。国広くんが某アニメから名前を借りて自機につけたようです。移動はバーニアで飛び回るのではなく、歩行で動く。しかしながら、腕に取り付けられたワイヤーの射出により、建物間を動き回る。ターザンのように弧を描くように動くこともあれば、射出と回収によって直線的に動くこともできるため、動きが非常に読みづらい。私もこのワイヤーには苦しめられました。

 

 

 《まあよくよく考えてみれば、この機体でしか緋色先輩に勝てませんでしたしね(笑)》

 「今回は意地でも勝たせませんよ。徹底的に潰します。」

 

 

 私たちが負ける。それはつまり水着撮影を意味する。なぜなら、龍華は私に水着を着せる気しかないのでね。それだけは避けなければならない。

 

 

 「じゃ、始めるよ~。一本勝負で、ゲージは6000、制限時間無しのAサイドだから。」

 

 

 Aサイドとはステージの名称で、傾斜と平地が織り混ざる初期ステージだ。都市のように広く、背の高い遮蔽物がないので、攻撃しやすくされやすいといったのが特徴だ。

 

 

 「会長、必ず勝ちますよ!」

 「勿論です。」

 

 

 …話し方で気が付いた。今の刹那、青のヘアピンをつけていませんね…

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 グフカは中距離で牽制しながら戦えばよいが、気を抜けばワイヤーで一気に距離を詰められて斬り込まれてしまう。ハラオウンは武器が見えないから攻撃の予想がつかない。でもわかることは、遠距離攻撃を主としているわけではない。コスト的にはハラオウンを狙った方がいい。だから…

 

 

 「刹那、グフカを相手をしてください。なるべく私から離れないようにしながら。」

 「了解しました!」

 

 

 刹那を国広君に向かわせたのは実力差と相性を考えてのこと。私はグフカは相手にしたくない。刹那が龍華とやりあうと悲惨な結果になる。相手が強すぎり。それを踏まえると、まだ実力差の少ない国広君と闘わせた方がまし、ということだ。

 刹那が国広君のところへ向かったため、必然的私は一人になった。私も敵を追いかけようと加速したとき……後ろでエネルギー弾が不時着した。……まあ近くにいることはわかってましたよ。

 

 

 「相変わらず当たらんなあ…」

 

 

 反転すると、ハラオウンが背後からエネルギー弾を撃ってきていた。エネルギー弾主体ってことは…今はザンバーフォームですか。

 彼女の機体、ハラオウンは武器が四種類という変則的な装備、しかも全て光学兵器であり、移動時は武器をしまっているため、端から見ればどの武器を運用しているのかがわからない。(まあ、そのせいでコストは上がり、武器ごとの技の数は減ってしまっていますが。)装甲を薄くすることで軽量化し、移動速度・攻撃速度をあげているのが特徴である。故に、全ての行動において後隙が少ない。それが非常に厄介だ。

 

 

 「当たらなければどうってことありません…ねぇっ!」

 

 

 私はあえてヘッドバルカンで牽制しつつ、ハラオウンに“近づき”、そしてビームサーベルを取りだす。

 

 

 「……あ~。」

 

 

 ハラオウンも私に向かってきた。そしてミドルレンジ、私は攻撃モーションに入ると、相手はガードモーションに入り…

 

 

 「まずは後ろですっ!!」

 

 

 私は格闘モーションを“キャンセル”、彼女を中心に背後へ大きく旋回した。そして砲撃モーションに入ったとき――――――――

 

 

 「そんなのモロバレだっ!」

 

 

 ハラオウンはモーション終了後、前方へ山なりに跳んで斬りかかる“攻撃”を行った。瞬間的速さはヘタに移動するより速いからである。ちなみに、その攻撃はハーケンフォームの時のみ。しかしガードがとけたあとすぐさま攻撃に移った。つまり、私が砲撃をすることを予測してガード前に武器変更をしていたということになる。…まあ…それは予測していましたし、そのあとも、ね。

 私は砲撃を放つ。ただそれは、ちょうど彼女が山なりに跳んだ最高点、頂点に“直通する高さ”で、さらにその左右、つまりV字になるように放つ“二丁放射”であった。中央は砲撃の端が軽く当たる程度だけど、それでも装甲の薄い彼女には十分である。これをかわすには、上昇もしくは落下、前方へ加速しかない。横にかわそうとしたら直撃、というわけだ。

 

 

 「…っ!!」

 

 

 ハラオウンは斬りかかりモーションをキャンセルし、縦方向の回転斬りモーションに入った。もちろんこのままだと砲撃にはぶつかる。だがちょうど全身が逆さまになったときにモーションを“キャンセル”し、武器を変更し、逆さまの状態で彼女視点での右斜め上、つまり私の右側の砲撃の“下”に潜り込んで、

 

 

 「…え?」

 

 

 私にミサイルが直撃した。それは、私の砲撃の下という死角を通って。

 

 

 「成功するとは思えなかったけど…奇跡だよ。まあ完全ではなかったけど。」

 

 

 みると、彼女の体力ゲージは減っていた。私の砲撃を完全には避けきれなかったというわけだ。

 

 

 「まさかかわされるとは思いませんでしたよ…」

 「ダメージはイーブンなんだ。まだまだいくぜぇぇ!!」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 栞「あ…圧倒的すぎます…部長さんってここまで強かったんですか…それに会長さんも…」

 

 静乃「うーん、いまいちぼくには何がすごいのかがさっぱり。」

 

 栞「ええと、まずですね、会長の斬りかかり。これはあからさますぎて誰でも予想がつき、そのあとのモーションキャンセル、これはフルドでは基本テクニックのひとつなのですが、問題はそのあとの二丁放射です。」

 

 怜「同時発射の何がすごいわけ?私にはさっぱり。」

 

 栞「皆さん、中河先輩の画面をよく見てください。どこに向かって射撃してるかわかりますか?」

 

 静乃「そりゃあ中央…ああ、わかった。何がすごいのかが。」

 

 栞「さすが萩原先輩です!!理解早すぎですよ!!」

 

 有希「???要するにどういうことなの栞ちゃん?」

 

 栞「画面中央が銃口となっていて、そこに向かって発射されるわけですよね?ならどうして…砲撃が二本同時に撃てたのでしょうか?しかも中央ではなく左右に逸れて。」

 

 有希「!なるほど!!…でもどうやって?」

 

 栞「これはリザベーションファイアといって、要するに画面の数ヶ所をロックして一気にそこに向かって射出というわけです。会長さんは部長さんの背後に回り込んだ後すぐ二ヶ所をロックして砲撃を行ったんです。」

 

 怜「なかなか難しいことやってるのね…。でもさ、何でわざわざそんなことしたわけ?それに上の方に撃ってたし…ミスったの?」

 

 栞「ミスなんかじゃないですよ!会長さんの銃口は上を向いていた。これは、部長さんが上方へ回避すると見越しての行動なんです。しかもそれだけじゃなくて、上方回避の手段も読んでいました。さらに、情報回避の後さらに横に回避するだろうと見越してリザベファイアをしたんです。もちろん、回避しなかったことを考慮してV字の幅は狭めていました。」

 

 怜「よ、読みすぎじゃない!?」

 

 栞「さすがSSランクですよまったく…。だけどSSランクはもう一人います。」

 

 静乃「最初に誰もいないところへ斬りかかったのはただ移動していたんじゃ直撃を避けることはできなかった。だから、攻撃動作の一部で特殊な回避をしたってところ?」

 

 栞「萩原先輩…まさにその通りです…ほんと理解が早すぎる…。まあそれはいいとして、そもそも、部長さんはガードにはいる前は長剣を装備していました。だけど、ガード終了後は鎌に持ち換えていました。つまり、長剣のモーションでは回避しきれないと予測して、武器を変更したということです。」

 

 怜「なるほどね…それで上に避けたわけだ。なら、空中で回転斬りしたのはどういうわけ?」

 

 栞「この先の回避のためですね。V字砲撃を回避するためにはさらに上に跳ぶか落下する。あるいは斜めへ避けるという方法がありました。だけど、普通は急上昇や急降下というコマンドはありません。なので、斜めにかわすしかなかったわけですが、斜めに飛ぶことは地上ならそういったコマンドがあるので可能ですが空中ではできないようになっています。だから、斜めへの移動が含まれている攻撃動作をするしかない。ここまではいいですか?」

 

 有希「おっけーだよ!!」

 

 栞「よかったです…。それで、鎌にはそんなコマンドはなかった。だから別の武器に持ちかえる必要があったんです。長剣ではそれがあって、あのミサイル発射が斜め上に移動しながらの攻撃なんです。ただそれなら、回転斬りはする必要があったのかという話になりますが、もしあのコマンドをしなかったら、V字砲撃を上にかわしたことになり、そのあとは相手に背を向けて落下する。せざるを得ないんです。なぜなら、ガードや度重なる動作キャンセルで部長さんのブーストゲージがかなり消費されていて、そのあとの攻撃をかわしきれると思えなかったから。」

 

 静乃「だから、あえて回転斬りをして、相手と向き合ったところでミサイル発射に移った方が、長い目でみると被弾率が下がると見越した、といったところかな?」

 

 栞「もういっそ萩原先輩もフルドやります?(笑)」

 

 静乃「いや、ゲームは苦手だから。」

 

 栞「そうですか…。で、ミサイルのことなんですけど、なぜ直撃したのかわかりますか?」

 

 怜「うーん、単に見えなかったからとか?」

 

 栞「まさにその通りです!部長さんのミサイルは砲撃の真下。つまり会長さんにとっては完全な死角なんですよ。」

 

 有希「なるほどなるほど…。とりあえずどちらもスゴいというのはわかったんだけどさ、そもそもそんなに動き回れるほどの時間があるの?いくらなんでも砲撃遅くない?」

 

 栞「まず、いくら会長さんが凄いと言えど、リザベファイアの為のロックオンの時間はとられます。次に、会長さんはただの砲撃じゃなくて、二発しか装填できない高火力の方を使ってます。発射は通常と比べて少し遅いわけです。だから、かわすための時間はあったんですよ。」静乃「つまり、あえて発射の遅い方を撃って直撃するよう誘導したということ?」

 

 怜「ほ、本当に恐ろしいわね…。……てあれ?ひとつ疑問があるんだけど、いいかしら。」

 

 栞「なんですか?」

 

 怜「いま、普通に砲撃したらかわせなかったって言ったわよね?なんでそうしなかったのかなって。」

 

 栞「ううんと…これは私にもわかりません。モーションキャンセルからの射撃は体力削るための定石です。セオリー通りじゃダメだと気づいたんでしょうか?あえてセオリー画意のことをすれば大ダメージが見込めると思ったとしか…」

 

 怜「あの二人見てるとそうとしか思えないわ…」

 

 静乃「(……本当にそうか?いや違うな、二発しかない砲撃を使いきってしまっていいわけがない。普通に撃ってたらあたってたんだ。わざわざ火力の高い方を撃つってことは…短期決戦か?焦っているのだろうか?でも相方は刹那だろ?この前の決勝を見る限りでは息ぴったりだし、そんな焦る必要は……いやちょっと待て、確か今の刹那は………やっぱり、青のヘアピンをつけてないばかりか白のヘアピンをつけている。もし性格変化が鍵を握っているとしたら……、まあそれでも黙っとこう。面白そうだし)」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 早く勝負を終わらせたい。ハラオウンの体力は順調に削れているが、ゼロの体力もそれなりに削られている。おそらく、ハラオウンが再出撃したら倒されてしまうだろう。私たちが勝つためには、まずグフカの破壊、できれば二度。それからハラオウンの破壊。この時点で相手は5000コストが削られ、残りは1000となる。この状態でコスト3000のハラオウンが再出撃するとなると、コストオーバーが起こり、体力が大幅に削られた状態となる。そうなれば、装甲の薄いハラオウンを容易く破壊できるだろう。そして考えたくない事態は、刹那がハラオウン、グフカを破壊する前に墜とされること。今の刹那はヘアピンが違うから万全じゃない。集中力が全然違う。もっと早くこの事態に気づいていれば…いや、過ぎたことを悔やんでも仕方がない。私が何とかするしかない。

 私は刹那の援護に向かおうと、翼を展開させた。龍華には背を向けることになりますが、ハラオウンは長距離射撃はできないので、気にせず向かった。刹那のところに追い付いたとき、ちょうど戦力ゲージが動いた。相手のが、だ。よかった…破壊してくれたんですね…

 しかも刹那はまだトランザムを使っていませんし…

 そう安堵の溜め息をついたが、安心は一瞬で、絶望も一瞬であった。ダブルオーの体力は無いに等しかったのだ。いつもの彼女ならここまで削られはしなかった。やはり青をつけてないから…。

 

 

 「とりあえずこの場から逃げ――」

 

 

 その言葉を遮るかのように、刹那にミサイルが着弾した。いや違う、着弾と言うよりは爆風に巻き込まれたといったところか。幸運にも首の皮一枚残ったのだ。

 飛んできた方向を見ると、まだ遠いながらも、ハラオウンが向かってきているのが見えた。

 

 

 「刹那!!ドッキングして逃げて!!」

 「え?でも敵が…」

 「いいから早く!!」

 

 

 刹那の機体は外部ユニットとドッキングしたことにより、機体が紅く発光した。私はハラオウンへ砲撃をしたが、ことごとくかわされた。

 

 

 「生猪口才っ!」

 

 

 ミドルレンジに入った龍華は刹那にプラズマパイルを乱射した。

 だが、弾は全て“すり抜けた”。

 

 

 「よしっ…なんとかかわしたっ…」

 

 

 ドッキング後のダブルオーは一定確率で相手の攻撃を無効化することができる。この機能は、残力が少なければ少ないほどその確率は上がる。ましてや、残力が0に等しい今の状況なら、かなりの確率で躱すことができるが、結局は運次第であり、その後の機体性能低下を踏まえれば、割に合わないと思ったから、刹那は一瞬思い止まったのだろう。

 マップをみれば、二人の距離がみるみる引き離されていくのがわかった。そしてハラオウンは追うのをやめて、此方に向かってきた。一先ずは安心ですね。

 だが私は一つ忘れていた事があった。それはマップを見ていたときであった。刹那の移動する方向には…………

 

 

 《やられたらやり返すのが俺の主義なのでね。》

 

 

 国広君の操るグフカが陣取っていたのだ。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 「ここまでくれば大丈夫ですよね……会長強いですし…なんとかなりますよね…」

 

 

 刹那には疑問があった。それは、普段通りのプレイができていないということだ。遼を相手にするとき、いつもならこんなに削られはしない。

 

 

 「何かが違うんですよね…なんなんでしょうか……あ、ゲームセンターじゃないから?でもこのコントローラーは実物さながらですし…」

 《やられたらやり返す主義なのでね。》

 「っ……!」

 

 

 急いでマップを見ると、ひとつの機影がこちらに向かってきていた。いつのまにか通り越していたらしい。だが、まずい、そう彼女は思った。もうすぐドッキングのリミットが来てしまう。そうしたら、もう破壊されるのは目と鼻の先だ。すべての機能が低下するから、満足に逃げられない。

 

 

 「………もう、いいです。」

 

 

 刹那は“柄のみの”剣を取りだし、横に構えた。瞬間、剣の先端から、結衣の砲撃とは比にならないほどの巨大且つ広範囲且つ高密度のレーザーが放射され、横凪ぎに振り払った。

 

 

 《ちょっ…近づきすぎて避けれな…うわぁぁぁぁぁぁぁ!!》

 「へ?再出撃どうなっても……ああ当たるぅぅぅぅ!!」

 

 

 それはあらゆるものを破壊しつくす悪魔の一撃。刹那はグフカを通り越してから、グフカに対面するように放ったため、龍華も巻き添えを食らった。直撃した龍華と遼は粉砕した。グフカは体力が前回だったのにも関わらず、である。この結果、相手の戦力は残り1000となった。結衣の理想の状況のように思えるが、むしろ最悪の状況だった。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 「はぁぁ!?」

 

 

 隣で刹那から恐ろしい言葉を聞き、思わず変な声が漏れてしまった。龍華は幸いヘッドフォンをつけていたため、気づいていなかった。…いや他の人には聞こえてる恥ずかしい……。この場所はスロープから大分離れている平地だ。だから上に無理矢理飛ぶしかない…。私は急いで上方へ飛んだ。だが、間に合わなかった。

 

 

 「ちょっ…そんな…嘘でしょ…?」

 

 

 モロには喰らわなかったが、下半身には当たった。

 それだけでも、十分問題であった。

 

 

 「残りの体力300、ですか……」

 

 

 それは、元々の体力量と比べると、ものすごく少ない。刹那はもうじき落ちる。しかも、ライザー使用後であるため能力が大きく削られた状態でだ。普通に考えたら絶望しかないが…だけど…こんな悲惨な状況なのに、私は可笑しくてたまらない。龍華は破壊された。それだけじゃなくて国広くんも墜ちた。しかも先に。私が最初に思い描いていた通り、龍華がコストオーバーでの再出撃。これならまだ勝機はあります。あとは、いかに私が破壊されないか、ということにつきますね…。腕のみせどころです。

 再出撃した龍華は、真っ先に刹那を狙い、早々に破壊した。これで私たちの戦力は半分。刹那の再出撃地点が私から大きく離れてしまっているのは痛いですね。

 私はあえてスロープに上がり、そこから飛翔した。柄谷さんがもしこの場にいたら、絶好の的ですね。

 彼女らはきっと、パワーダウンして再出撃+本調子でない刹那と、まだ少し体力が残ってるSSランクの私とだったら、狙うのは前者でしょう。私は眼中にはないはずです。だから……撃ち抜きましょう。隙だらけの彼女らを。

 上空から見る限りやはり彼女らは刹那の方へ向かっていた。私は装甲の薄いハラオウンの進行方向に照準を定めた。光が二丁のバスターライフルの発射口に集まる。未だに彼女は動きを変えず走っている。

 フルチャージが完了し、あとはトリガーを引くだけ…なのだが、一つの疑問が浮上した。“あまりにも上手くいきすぎている”と。もしかすると彼女はこれすらも予測して、私が弾切れになるのを待ち、安全になったら刹那を狙おうとしているのかもしれない。この勝負で何度も技の読み合いがあった。だから彼女なら十分に有り得る。だったら…この長距離砲撃はあまりに危険ですね。

 私は発射を止めて、刹那の元へ加速した。

 

 

 「無難に、堅実にいきましょう。」

 

 

 翼があったがゆえに、ハラオウンより速さが劣るグフカスタムには追い付いた。途端、国広君は反転し、私にガトリングを撃ってきた。反転速度、発射、どちらも素晴らしい速さですが…

 

 

 「その速さが命取りですよっ!!」

 

 

 私は彼が反転する直前に、さらに加速した。彼からしてみれば、反対側にいるはずの敵が消えているように見えるでしょう。当然彼は一瞬困惑する。そしてもう一度反転するでしょう。たとえその速度が速くとも、困惑するその一瞬さえあれば、全ては事足ります。

 私はグフカの背後に回り、“ワイヤー”を飛ばして絡ませて、上方へ飛んだ。必然的にグフカは宙吊り状態になる。昨日導入したばかりですが……なかなか、新装備は役立ちますね。ポリシーには反しますが。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 栞「会長さんいいいいつのまにそんな装備を!?」

 

 有希「栞ちゃん、ちょっと落ち着いて。」

 

 静乃「でもまあ…決勝戦であんなのは使ってなかったよね。」

 

 栞「それはおろか、ちょくちょくやる練習試合でも使ってませんよ!?」

 

 怜「ふうん…でもさ、そんなにすごいものなの?」

 

 栞「ええと……まず会長さんは背中に巨大な翼があるのはわかりますよね?」

 

 怜「そりゃ、見ればわかるわよ。」

 

 栞「その翼によって、加速減速、飛行が自由自在になっています。まあブーストは消費されるのは当たり前ですが…飛行による消費はかなり低いです。会長はそんな特性を持ち味とした闘い方を得意にしてます。」

 

 有希「ふんふむ。」

 

 栞「普通の機体なら、空中に留まることはできませんし、空中を飛ぶのには結構ブーストを消費します。……さっきの新装備は、この差を利用しているんです。」

 

 静乃「空中戦に持ち込む。」

 

 栞「その通りです!仮に、空を自由に飛び回る敵を相手にするとき、皆さんはどうします?」

 

 有希「ううんと…、こっちは空中だと動きづらいから…地上から狙うかなぁ…。」

 

 怜「飛んでる鳥を捕まえるとき、自分自身が飛んで直々に捕まえるなんてあり得ないしね。」

 

 栞「そうですよね?だから会長を相手にするとき、空中戦なんてしないんです。ですが、あのワイヤーがあれば無理やり空中戦に持ち込むことができるんですよ。」

 

 静乃「ワイヤーで相手を引っ張り空中で放る。そこから相手を狙い撃つ。回避するのにはブーストが必要だけど、ブーストが0になると回避はおろかろくに動けずただ落ちるだけ。そしたらなおのこと的になってしまう。」

 

 栞「もう解説業に走った方がいいんじゃないでしょうか?」

 

 有希「栞ちゃんそればっかだね…」

 

 静乃「(これがオタク特有の早口というやつか・・・)」

 

 栞「あはは…。だからまあ、国広先輩にとってはすっごく悪い展開ですね。回避する方法もなくはありませんが…」

 

 怜「例えば?」

 

 栞「会長さんは先輩の胴体にワイヤーを絡ませて、手でそれを支えつつ上昇しているんです。だから、先輩が振り向き撃ちを成功させるか、前や後ろにブーストして会長さんをぐらつかせて、そこを狙うとかですね。この地形ならそれしかありません。会長さんのワイヤーはみたところ先輩のワイヤーよりは性能が劣るようですし、ワイヤーを出しながら砲撃は撃てないみたいですし。」

 

 怜「なるほど…」

 

 静乃「……ひとつ質問いい?」

 

 栞「え?ああ、なんでしょうか。」静乃「さっき振り向き撃ちがどうとか言ってたけど、ということは、吊るされた状態でも動けるってこと?」

 

 栞「そうですね。先輩のワイヤーは強化しまくってますから、相手に当てるだけでダメージも与えられますし、ダウン状態になります。ですが基本は動けます。」

 

 静乃「なら、遼が先輩に向かってワイヤーをうったら?」

 

 栞「…あ!!」

 

 静乃「遼のワイヤーはダウン効果もついてるんだろ?なら、もしヒットしたら先輩のワイヤーが解除されるだけでなく逆に拘束させることができる。もしそうなった場合、先輩は空中に留まり続けることってできるの?」

 

 栞「えっと、空中の敵の場合、まず倒ダによって一瞬空中で硬直して、そのあとは普通に落下します。この間は無敵状態です。」

 

 静乃「じゃあ、このゲームって高いところから落ちたらダメージとかってあるの?」

 

 栞「はい、そこら辺は…」

 

 静乃「仮に、遼が先輩にワイヤーをあて、身動きとれなくなった時に会長を地面に向かってぶん投げたら、ダメージはどうなるの?」

 

 栞「そうですね…叩きつけは最低でも300はいくんじゃ………ハッ!?」

 

 静乃「つまり……そういうことだよ。」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 結構高い位置まで飛んだ。国広君は振り向き撃ちをしていましたが、私を見ずに撃っていたため、当たりはしなかった。

 ……そろそろいいでしょう。

 私は拘束を解除しようとしたその時、

 《…これを待っていたぜ!!》

 国広君は拘束された状態で、蹴り上げるように“回転”をした。

 …まずい…

 私は急いで拘束を解除し、逃げようとしたが、もう遅かった。国広君のワイヤーが、既に私を捕えていた。彼は回転蹴りをキャンセルして私と対面し、ワイヤーを発射したのだ。数少ないブーストを犠牲にして。

 国広君のワイヤーには攻撃判定がある。よって300が250に減らされた。

 まだ残ってるけど…もう…駄目ですね。

 国広君はワイヤーを引き、私の真後ろに乗った。ダウン状態の私には、それを防ぐことはできなかった。

 そして…そのまま私を…

 

 地面へ叩きつけた。

 私のHPは0になった。

 私と刹那は、負けた。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 龍華「て な わ け で、私たちの大勝利いやっふぅぅぅぅ!!!!」

 

 有希「いぇいいぇぇぇい!!」

 

 栞「羞恥プレイですねwwww」

 

 結衣「…はぁ。」

 

 刹那「」プルプル

 

 静乃「ほら、部屋の隅で縮こまってないでさ…諦めも肝心だよ。諦めも…ねぇ…」

 

 怜「なんかごめんね…私が代理頼んじゃったせいで…」

 

 結衣「いえ…許可したのは私ですから…」

 

 龍華「じゃあほら、奥の部屋に行った行った!」

 

 静乃「…遼に本当に送るの?」

 

 龍華「いや、そんなことするわけないって(笑)万一男子間で流出、なんてことになったらたまったもんじゃないしね。まあ適当なやつを送っとくよ。」

 

 有希「川越シェフのコラ画像でいいんじゃないですか?」

 

 龍華「ナイスアイディアだね。」

 

 結衣「待って。」

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