なんやかんやいろいろあって、時間がもう12時をまわってしまったので、みんな布団に入ろうと…いや正確にいえば布団は暑苦しいので使っていないが、まあともかく寝ようとしたわけ。しかし…
~12時半頃~
結衣「私はソファの上で寝ますので、皆さんで私のベッドや予備の布団を使ってください。」
龍華「じゃあ私が結衣のベッドを使お―…」
刹那「使お―…じゃないですよ!宮永先輩こそ、これまでのいきすぎた行動を反省してソファの上で寝るべきです!ベッドは宿主である会長と、会長を皆さんから守るために私が一緒に寝ます!」
怜「なんかさらっと刹那の欲望がにじみ出ているんだけれど……。というか、寝る場所って具体的にはどんな感じになっているの?」
結衣「私のベッドに1人、もうひとつのベッドに2人、予備の布団に3人といった感じですね。まあ、私のベッドはつめれば2人入れないこともありませんが、客人に窮屈な思いをさせるのは申し訳ないので……」
有希「いや、せっかく泊めさせてもらってる身なんですから、窮屈だなんてそんなことは気にしないですよ!」
結衣「皆さん……」
栞「で、ソファを除いて、誰がどこに寝るかですよね…」
~回想終わり~
で色々話し合った結果、
結衣「じゃあおやすみなさい。」
緋色先輩と一緒に寝ることになった。理由は、”このメンバーの中で一番緋色先輩にとって安全だから”、である。ちなみにいまぼくがいる部屋は、緋色先輩のものではなく、多分両親のものだろう。まあダブルベッドだし、部屋に入った時から枕二つ置いてあったし…。
横になって、今日あったことを思い出してみる。
・水着を買いにいったら、店内で緋色先輩やらに偶然出くわした
・水着姿の撮影をめぐってもめたあと、喫茶店で一息ついた
・帰り道、喫茶店にいた変態たちから刹那たちがナンパに遭い、緋色先輩とハムが返り討ちにした
・緋色先輩の家でゲームをして、水着撮影して、夕飯をご馳走になった
・Twitterでこの近くに変質者がいることを知り、このまま解散することを危険に思って、泊めさせてもらうことになった
・先輩の闇が垣間見える部屋や楽器の鎮座する部屋を覗かせてもらった
…こう振り返ってみると、学校では見えてこなかった先輩の一面をたくさん見てしまったがために、先輩への印象が大分変わった。刹那とぼくは一緒にいることが多いから、生徒会繋がりで先輩とか関わることは少なくなかった。以前は眉目秀麗、生徒の規範であるクールな完璧超人(の厨二病患者)のように見えていた。しかしながら、そのクールな表情は、無数の表情の一つでしかなかった。そして、その無数の表情の中にはブラックな一面もあり、怒らせてはいけない恐ろしい人間であるということを思い知らされた。そして、厨二病患者であるのは私の思い過ごしなどではなく、日常生活の中にその影響が組み込まれて取り除けないレベルになるほどであった。そりゃあんな学校生活を送っていたらばれることなんてないけど、修学旅行とかでよくぼろを出してこなかったな…
そんな彼女の性格というか、キャラクターはある程度知ることはできたのだが、プライベートの部分では謎が深く、その深淵をのぞこうとすると、その深淵に取り込まれてしまいそうな―――――――――。まず、家に入れさせてもらうとき、父親が出張で家を空けていると先輩は言った、出張のタイミングとぼくたちが来たタイミングがよく合ったなと最初は思ったが、いざ家に入ってみたらわかった。この家からは“父親”の存在全くが感じられない。夕飯を作る手伝いをしたとき、食器棚には“小さいご飯茶碗しかなかった”のだ。いくら少食だとしても、男の大人があんなに小さいものを果たして使うだろうか?少なくとも、ぼくの父はその二倍くらいの大きさのものを使っている。出張中だからといって、わざわざ茶碗を奥にしまうってことは考えがたい。―――――――――仮に、先輩が少しでも使わないものはしまっておく人間であったとすれば、納得できなくもない。しかし、いまぼくがいる父親の部屋を見て確信した。この部屋にはスタンド式のカレンダーが置いてあり、そこには仕事のスケジュールがびっしり書かれていた。問題なのはその日付。“去年の11月”だったのだ。もしぼくの考えが正しいなら、先輩の父親は半年近く家を空けていることになり、先輩はその間独り暮らしをしていたということになるのだ。母親はいないらしいからね。
―――――――さっさと寝てしまおう。……ただ、寝る場所が場所だし、隣には先輩自身が寝ているから、なんとまあ眠り辛い。しかし、起き続けているのは先輩にも迷惑をかけてしまう。さっさと寝てしまおう。
……緋色先輩についてそう思った“昨年のあの晩”の事を思い返して、ぼくは眠りについた。
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横になって15分たったが、睡魔に全く襲われない。
「…はぁ…やっぱこんな時間じゃ眠れないなぁ…」
思わず呟いてしまう。まあでも、しょうがない。頑張って寝よう……としたが、できなかった。その理由はね…
「…貴女も遅く寝る人だったんですね…」
ま…まさか先輩…さっきからずっと起きてた…のか……
「ええまあ…いつもは2時過ぎに寝てます。先輩は?」
「…引かないでくださいよ?」
「え、ああはい。」
3時とか?まあそれはそれで吃驚だけど別に引くほどじゃ…
「…4時寝なんです、私。」
…これは想定外だよ…。寝不足はお肌の大敵ではなかったのか?先輩だけは寝不足と仲良しなんですか??その固有スキル、ぼくもほしいぞ。
「あー、今引いてますね、そうですよね、普通引きますよね…」
「いやその…さすがに想定外でしたすいません。でもそんな時間まで起きて何してるんですか?」
すると先輩は身を起こし、その質問を如何にも待っていたかのようにこう言ったのだ。
「知りたいですか?そりゃ知りたいですよね。今からそれをやりに行くのですが…静乃さんも来ます?」
それをみてれば寝るのにいい頃合いになるだろう。時間潰しと割りきってぼくは先輩についていくことにした。
「まあその前に…ちょっと様子を見に行きましょうか。というか、彼女等が起きていたらちょっと不都合なので。」
うーん、なんだろう…勉強ってことはないだろうし、じゃあゲームか?でもなんでこんな時間から……てかぼくには知られていいのか?
みんなは夜行性ではないのか(まあぼくらが夜行性かと問われても微妙ではあるが)深い眠りについていた。宮永先輩と有希と栞は予備の布団で川の字になって寝ていたし、怜と刹那は…刹那がタオルケットを独占して寝ていた。怜はタオルケットを奪われて寒がっているのかと思いきや、納品されているマネキンのように、体を真っすぐにして微動だにしていた。なんとまあ、可愛くない寝方だ…。彼女らの就寝を確認し終えて、ぼくらは一階に移動し、ある一室に移動した。その部屋はぼくにも見覚えがあった。なぜなら、水着に着替えるときに使わせてもらった楽器のしまってある部屋だった。
「ようするに楽器の練習ってことですね。あるいは……」
先輩は部屋に入るなりベースを手に取り、パソコン前の椅子に座ってパソコンの電源を入れた。ぼくもその辺の椅子にこしかけた。
「後者の方です。こんな時間からって思うかもしれませんが…この部屋防音なので、ギャンギャンならしても平気なんですよ。」
しばらくして、先輩はハッとしてこちらを向き、
「でもさすがに今日はそんなことしませんよ。」
騒がしくしたらぼくに悪いと思っているのだろう。まあ確かに、今から爆音を聞く元気はないかな。
「まず、私は皆が寝静まったころを見計らって部屋を抜け出そうと思っていたんですよ。」
「そうした場合、素性を知っている人間の方がいろいろ都合がいいということですか。」
「まさにその通りです。…有希さんや刹那に明かしてしまうことも少しは考えました。けれど、そうした場合、少々面倒なことが危惧されるんです。」
「…まあ何となく想像はつきますよ。」
「口が固くないんです。有希さんは軽い、刹那はボロを出しかねない。今日も一回彼女はボロを出しましたから。」
ああーそれはわかるかも。なにぶん2人とは長い付き合いだからね。ぼくだって、変に目立つことは避けたい。だからずっと、“顔を隠して活動してきた”んだから。
先輩はあるソフトウェアを起動して、ベースを弾き、録音し始めた。ぼくもよくやるからよくわかる。
「ただ………」
先輩はベースを弾きながら、こんなことを口にした。
「今年は最後ですので、全部明かして目立ってしまってもいいかなって。」
「……へえ?なら、SNSが騒がしくなりますね…」
「ああいや、そういうことではないんです。」
先輩は引く手を止め、ぼくのほうをきっと見据えた。
「今年の秋です。何があるかわかりますか?あ、学校での話ですよ?」
「秋ですか………普通に文化祭とかじゃないですかね?………え?まさか?」
「考えてることはおそらくあたりです。この話、すでに龍華とはしています。あなたにも協力してほしいんです。『嘔吐』『吐血』『暴動』などのヘヴィメタル楽曲を制作しているRaretsuさんに。」
「……なかなか面白い話をしますね。ロック楽曲を制作している“base-on”さん。」
これは……今年の秋は………荒れるぞ…………
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7月19日 日曜 ~静乃side~
密度の濃い一日を終え、目が覚めると…あれ、いつのまにか寝ていたのか。上体を起こそうとして…あれ、もう起き上がってる。…ああそうか、座ったまま寝ていたのか。結局ベッドの上では寝なかったなあ。
「…あれ、先輩は…」
あ、いた。パソコンラックに突っ伏して寝てた。頭を横に傾けるタイプの突っ伏し方だったので、こちらからは寝顔が丸見えなのだが…、やっぱり学内で最高峰の顔面偏差値を持つ故、綺麗だった。女のぼくでさえそう思ったんだから、男が見たらすごいことになりそう。
そのとき、ぼくは何を思ったのか、ポケットから携帯を取り出し、写真に納めてしまった。
「…何やってんだろぼくは…」
そのとき、ふとあることに気づいた。画面右上には現在の時間を表示している訳なのだが…
「8時半…まあ休みの日だからこんな…も…………」
①皆が起きる
②刹那や宮永先輩が寝起きを狙ってぼくたちが元々いた部屋にいく
③居ないことを知り、さらに布団が全然温かくないことを知り、二人がどこにいったかを疑う
④ここにいることがばれ、夜何をやっていたかを問い詰められる
って、やばくね?昨晩先輩がぼくにいったこと、全部無駄になるんじゃないか?
「先輩!起きてください!もう8時半です!」
ぼくは急いで先輩の肩を揺さぶった。先輩は重苦しく頭をあげ、後ろに大きく伸びをした。
「あー…静乃さん…おはようございます…。って、どうしたんですか?そんなに焦った顔をして…」
「時間!時間を見てください!」
まだ眠いのか、欠伸を隠すため手で口を覆いながら自分のスマホに手をつけた。そして状況を把握したのか、眠そうな顔はみるみる蒼白になっていった。
「…ど、どうしましょうか…」
「皆が起きてたらもうアウト。刹那あたりがきっと寝起きを狙って部屋に入ってくる可能性が……」
「いや、部屋には入って来ないでしょう。昨晩、どこで寝るかで話し合っていたとき、静乃さんはお手洗いで一旦場を離れましたよね?ちょうどそのときに、竜華が不穏なことを言ったものですから、私、皆に言ったんです。『変なことをしたらどうなってもしりませんよ』と。だからそれについては大丈夫なのですが…」
あ、そんなことがあったのか。じゃあさっきはいらぬ心配だったのか。…いやでも不味いことは確かだ。
「もしこの部屋から出るところを見られたら…ですよね?」
「ええ…」
数秒間の沈黙の後、生み出された解決策は、
「まず私からでます。誰も起きいてなかったらすぐ呼びます。だけど誰か起きていたら、タイミングを見計らって静乃さんに電話をかけるので、その時に出てきてください。」
やっぱそうなるよね。
…待てよ?
「宮永先輩やらが部屋漁りを始めたとき、この部屋には入ったんですか?」
「いえ、竜華はしていません。そう彼女から聞いています。」
成る程、宮永先輩もこの部屋を皆に見せるのは避けたということか。
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先輩が部屋を出て数分たっているわけだが…
「連絡が来ない………」
防音仕様のせいで、こちらの音は漏れないが、あちらの音も漏れない。だから、外が今どうなっているのか全く見当がつかない。先輩はうまく誤魔化せたのだろうか。…先輩ならなんとかするか。問題はぼくだ。万が一失敗したときどう対応するか……そうだなあ…
①寝起きを装いトイレと間違って部屋にはいった
②鍵盤を見たら弾きたくなってしまった
③そこに部屋があるからさ
まず③はないな。自分で考えておきながら、次に②は宮永先輩があいてならいいが、他はダメだ。となると…①だよな…でもこれは相手がアホじゃないと引っ掛からないよなあ…怜には見破られそう。色々考えながら部屋内をぶらついていたら、カツンと音が鳴った。どうやらなにか蹴ったらしい視線を下に落とすと……「…そりゃあ…こんなことになってるなら連絡なんて来ないよね…」
なんと先輩のスマホだった。パソコン周辺を歩いてたらぶつかったんだから、きっと寝てるときにポケットから落ちたんだな。
だったらどうする?連絡手段は途絶えたし……いや、むしろこれはチャンスだ。ぼくは先輩のスマホをと持って、堂々と重い扉を開けた。
扉の前には人はいなかったが、部屋から出るところはバッチリ見られた。そこには宮永先輩と、刹那と怜がいた。
「あれ?なんで静乃はそんなところから出てきているんですか?」
「先輩と一緒に寝てたんだから、普通なら二階からおりてくるわよね?」
「……」
疑いを持ち始めているのが二人、そして…無表情で何も言わずにこちらを見ているのが一人であった。でも、それには理由があるんだよ。今からそれをいってあげるよ。
「…緋色先ぱ―――」
「あ、私のスマホ見つかったんですね!」
ぼくの言葉を遮って緋色先輩が駆け寄ってくる。
「…ええ、どこにあるかわからなかったから電話を掛けて、そしたらあの部屋からかすかに着信音が“聞こえ”ましたので…」
そこでぼくはあえて宮永先輩の方を見てみる。すると目があった。上瞼がかすかに動き、そこで目線を逸らされた。
「なんだそんなことですか~…」
「聞いてみたら存外普通なことだったわね。」
2人は納得した表情を見せ、テレビに視線を戻した。一方宮永先輩は緋色先輩に視線を向けていた。それはほんの数秒で、すぐに先輩ら二人もテレビを観始めた。
じゃあぼくものんびりテレビでも観るかな。
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「ではみなさん、気を付けて帰ってください。」
午前10時くらいかな?各自帰り支度を済ませ、全員が外に出た。太陽が眩しく、気温が高くて暑い。まあぼくの髪は灰色だから、頭に光を集めないだけちょっとましかな。…そんなの大した差じゃないか。
ぼくは自分をあざけった。
「昨日今日と会長には酷い迷惑をかけてしまって…本当にすいませんでした!そしてありがとうございます!」
「謝罪と感謝を素直に言う刹那ちゃんである(笑)」
「会長の意外な一面がみれてなかなか楽しかったわ!」
「…トラウマも植え付けられましたがね…」
暗い顔つきで呟く栞と、それに連動して有希も、まるで黒い靄がかかっているかのようにみえた。
「あはは……」
まあ笑うしかないよね(笑)
「では、そろそろ行くことにします。」
「また明日学校でね~ノシ」
「はい。皆さんまた明日。」
先輩はひらひらと手を降ってぼくたちを送り出す。
こうして、長い長い激動の二日間は幕を閉じたのであった。
さて……家に着いたら……楽曲制作を進めようかなあ。