7月18日 土曜
有希は水着を買いに行くとか何とかで出かけて行った。叔父さんは締切が近いから仕事部屋にこもりっきり。そして俺は……
「ってまたジェラセンバかよ!いいかげんにしろ!」
一人孤独にゲームに耽っていた。現在プレイしているのはファンタシースターポータブル2∞、武器収集、レベル上げ、コスチュームチェンジなどなんともやりこみ要素の高いアクションRPGであるので、長く遊ぶことができる。といっても、ひたすらレア武器ドロップするまでミッション周回するのは非常につらい。
意志の弱い俺はアイテム狩りをあきらめ、PSPをベッドに放り投げ、椅子に乱暴に座った。ギシッと椅子の軋む音が閑静な部屋に響く。
「あー…だるい。」
「なら…やらないか?」
机の上の方から危険なワードが聞こえてきた。一瞬某くそみそを連想させられるが、そんな汚いものではなく、実にさわやか。うん、見た目はさわやか。というのも・・・
「まさか藤田ボイスでその言葉を聞くことになるとは思わなかったぜ…。」
「え、今の言葉、何かおかしかったのかい?」
そう、俺と現在会話している相手は竜崎。初音ミクのフィギュアに憑依しているから、見た目はミクさんがしゃべっているように見えるが、中身は男。つまり、さっきのやらないかは本質的にはヤヴァイのだ。
「ああいや、気にしないで…てか、やらないかって、なにやんの?」
「そりゃあもちろん告白け――」
「却下だ。」
俺は竜崎の言葉を無理やりにでも断ち切った。理由としては、竜崎のこの後に続く言葉を俺は知っていて、それは明らかに俺が面倒なことになるのがわかっていたから。それは“告白券”というものである。いうなれば“恋人ごっこのための手段”だ。
「なんだと?私にはその理由を理解しかねる。なぜ使いたいと思わない?好みの女性とかかわることができるチャンスなのだぞ?」
「……俺が嫌がる理由を教えてやるよ・マジ一つ目、相手の名前・処女かどうかを知る手段がない。二つ目、一週間という期間が長すぎる。三つ目、知り合いに見られたくない。その三つの条件をクリアできないから嫌なんだよ。後面倒くさい。」
「絶対一番最後が本音だろ……でもまあ……なるほどな。確かに最後の一言以外には同意できるな…。」
竜崎は短い腕を組み、机の上の竜崎用のチェアに腰かけた。
「では逆にいえば、その障害を無くすことができれば・・やってもいいと?」
「いや、面倒くさいから嫌だ。」
「なるほど、やってもいいんだな、そうかそうか。了解したぞ・」
「っておい!・・・・・・・・・・・はぁ、わかったよ。」
渋々肯定してしまった。そして、すぐにそれを後悔することとなった。竜崎は俺の肯定の言葉を聞き、口元をにやりと歪ませた。
「残念ながら、一つ目はどうしようもできないな。」
「って、大切なところがダメってどういうことなんでしょうかねえ…。」
「あたりまえじゃないか。この世界にプライバシーというものがないとでも?」
「…告白券はおもくそ人権侵害していて、それは許すのにプライバシーがどうのこうのって言われても…いや、プライバシーの侵害もある意味では人権侵害…あれ?じゃあ……やべえ、こんがらがってきた。」
「…君はいったい何をやっているんだ。」
気付けば竜崎は呆れ顔でこちらを見上げていた。そんな顔に俺はほんのちょっとほっこりしてしまった。こんなときでもぶれない俺はある意味すごいと思う。自分で言うのもなんだけどね。
「話を戻すけど、三つ目の問題…すなわち知り合いに見つかりたくないという問題はなんとかできる。」
「…バスや地下鉄で移動ってのはお断りだぞ?」
「まさか。ちゃんとこれからそれについて話す。」
竜崎は左右の肘掛けに肘を載せ、短い指を組んだ。可愛い。可愛いよおこの姿。少女が大人ぶっているように見えてさあ!
「・・・・・・でへへ。」
「・・・・・・・はあ。」
「…すまん。」
「わかればよろしい。では話に入るぞ。移動の件についてだが…簡単にいうとワープだ。指定の場所まで転移することができる。どうだ?三つ目の問題はこれで解決だろう?」
竜崎はまた非現実な話をしているわけだが……こいつの存在自体が非現実だし、なにより、これまでに渡されてきた告白券、ナーヴギアαという、どうにもこの時代の科学じゃ説明できないような代物を目にしている。だから、にわかに信じがたいが、今回の件も本当なのだろう。
「……なにやら腑に落ちないことでもありそうだね。まあしょうがないか。この世界じゃありえないもんな。」
「……竜崎のいた世界……神界じゃ、ワープってのは当たり前なのか?」
「ん?ああいや、そうでもない。転移を行うことができるのは一部の奴らだけだ。これが一般化されてしまうと問題も多くてね。」
「ん?問題?てことは…………超電磁砲でいう黒子とか、シュタゲでいうSERNのタイムトラベル実験みたいなもんか?指定された座標へ物体を移動させる。仮にその座標に障害物があれば、それを無視してさ。だから、人がいる座標にワープして自分の体が相手の体、建物にめり込んだりとかさ。つまりは座標計算の失敗みたいな?」
このとき、過去のアニメ、ゲームの例をもとに、俺は軽いトーンで自らの持論をぺらぺらと喋っていたのだが、竜崎は明らかに見てわかるほど驚いていた。組まれていた指も解かれていて、立ち上がってこちらの方に駆け寄ってきた。
「……なんでお前がそのことを知っている!」
「へ?」
呼び方も“君”から“お前”に変わっていて、妙に迫真だった。
「ちょっ、どうしたの?」
「怜か?怜が漏らしたのか?」
「いったん落ち着こうぜ、なんでそんなすごい剣幕で来るのか、俺には理解不能なのだが。てかそのことってどのこと?超電磁砲?シュタゲ?」
「【座標計算】だっ…!なぜそこまで詳しい?それに事故の件だって――」
「だああああああ落ち着けええええええ!!!!」
俺は怒鳴り声をあげて、無理やり竜崎を黙らせた。
「さっきの俺の言葉は全部アニメから知ったんだよ!とある科学の超電磁砲というな!それ以上のそれ以下でもないわ!」
すると竜崎は自分の思い違いに気付いたのか、腰が抜けたようにその場にへたり込んでしまった。
「そっか………すまん、今のは忘れてくれ。」
「ん?あ、ああ…。」
こいつはどうして俺の座標計算の持論について、こんなに過剰反応したんだ?神界での機密事項?そう考えるのが妥当なのかな。座標計算の話は大体当たりなのか。そして体がめり込むくだりもきっと本当のこと……。神界で事故が起こったのかあ。神様が死ぬってこともあるんだな(笑)
「えっと、どこまで話したかな。」
「転移は一般化されてないみたいなところまでじゃなかったっけ?」
「ああそうだったな、でもまあ、その件はいったんおいておくとして、どのように転移するかという話になるのだが……冷静になって考えてみたら、君の言っていることと私がこれから説明するものとは微妙に違っていた。完全に私の早とちりだったな。取り乱して本当にすまなかった。では説明に入る。ひとえに転移と言っても、物体を地点から地点へ瞬間移動させるというわけではない。というか、この世で瞬間移動できるものなんてないだろう?どんなものでも、移動するための経路がある。それが長いか短いか、そもそものスピードが速いか遅いかで伝達までの速度は変わってくる。先ほど言った転移というのは、その経路の大幅なショートカットといっていい。たとえば、君の今住んでいる神戸から、北海道までどのくらいの時間がかかる?飛行機を使っても数時間はかかるだろう?私の説明する“転移”は、それを一分ほどに短縮できるのだ。それはいったいどのようにして?簡単なことだ、神戸と札幌の“空間をつなげるのだ”。」
急に説明口調になり、饒舌な竜崎の難しい話が耳から入り耳から抜けていたのだが、最後の一言だけは脳内に残った。空間をつなげるって……なんだよその超常現象。
「私や怜がこの世界に来ることができたのも、私たちの住む世界と君の住む世界の空間をつなげたからなのだよ。」
「な、なるほど……」
「信じることができないのは分かっている。だから、告白券を使いに行くとき、実際に経験することになる。楽しみにしていろ、この世界で空間を飛び越える最初の人物になるのだから。」
「おおー…だけど、告白券を使いに行くのはいつになるんでしょうかねぇ……。」
「今だね。」
「嫌だね。」
「早速怜に連絡を取って準備を始めようか。」
「話を聞けよおおおおおおおおお!!!」
瞬間、竜崎の眼前にわりと大きなサイズのモニタが出現した、A4用紙ぐらいかな……って、プロジェクターもなしにどうやって出したんだ?というか、すごい近未来的だな……
あまりの出来事に、俺は竜崎を怒るのも忘れ、すっかり見入ってしまった。ビデオ通話みたいなものなのかなあ。
ほどなくして、モニタには怜の顔が映し出された。
『あー…怜、私だ。』
『んなの見りゃわかりますよ。で、何の用ですか?』
『今から告白券を使いに行くぞ。勿論国広君がね。』
『え?今からですか?それはちょっと難しいというか……というか無理です。』
『なんだと…?』
『今、ちょうど出かけているんです。それで………その……………。』
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なるほど、言いたいことは分かった。それなら明日はどうだ?』
『あ、それは全然大丈夫です。』
『よし、では明日に決行しよう。時刻はそうだな………10時半に怜の家に集合ということでかまわないかな?』
『了解しました。』
そこで、モニタは視界から消えた。
「すまない、明日になってしまった。」
「お、おう…………って、だからなんで行く前提!?第一最大の障害の相手の名前と処女を知ることと時間の問題は達成できていないからな!?」
「あ、後者においては簡単に解決できるぞ。というか、君は知らないのかい?」
知らない…?いったい何についてだ?告白券というのは、2週間相手が自分の事を好きでいるのように洗脳する代物………で、あってるよな?
「……まさか怜から聞いていない………よな、君のその顔を見ていると。じゃあ説明するが、なあに、簡単な話さ、告白券の【一日】ヴァージョンを使えばいいのさ。」
………そんなもんあったのか。
「まあこれは記憶操作の関係で非推奨…いや、お勧めはしないな。」
「言い方を変えているところで言っていること変わってないからな?てか、そんないい代物があったなら6月時点で教えてくれればよかったのに、怜も気が利かないなあ。」
「すまないな、本来なら私の口から説明するはずだったんだけどな…予想以上に脳へ干渉できる時間が短くてな…。」
「ちょっ、そんな深くとらえなくていいって。」
「…すまない。」
謝る必要なんてないんだけどなあ、そこまで気にしてないし。
しばらく無言の状態が続き、ふと、竜崎が口を開いた。
「もうここまで話が決まったんだから、君も腹をくくってくれよ?」
「…………ああわかったよッ!不本意だが、決まってしまったものはしょうがない。やってやるさ!……って最大の障害が未解決だろおおおおおおおお!!」
「大丈夫だ、策はある。もう話し疲れた、おやすみ。」
「って寝るなよおおおおお!!!」
結局俺も寝ることにした。今二時だし、六時まで寝よう。
目が覚めると、まだ外は明るかった。六時にしては明るすぎるよな……
そして、何やら携帯がガンガン鳴り響いていることに気付いた。開いてみると、相手は宮永部長だった。
『…はい、国広ですが。』
『あ、国広?今アンタ暇でしょ?』
『…いえ、俺には睡眠という重大な使命が……』
『じゃあ暇なんだね。今からフルドやんない?』
『フルドですか……ランダムマッチですか?それともフレンドマッチ?いずれにしても今じゃなくてもいいんじゃないでしょうか……』
『ああもううるさいなあ!今じゃないとダメなの!』
『…部長、わがままな女は男に嫌われますよ。』
『ぐぬぬ…………相手が刹那ちゃんと結衣だと知っても、同じことが言えるの?』
『……なんだって?』
部長の返答はあまりに予想外であった。会長と刹那が相手?彼女ら、家庭用のフルドもってたの?
『今回は私と国広タッグと、刹那ちゃんと結衣のタッグが戦うのです。』
『……早急に準備しますね。』
こんなレアなこと・・・・・・逃すはずないでしょ!
会長の機体【ウイングゼロ】の持ち味は、中距離からの砲撃。だけど、発射までに数フレームかかってしまうから、ただやみくもに撃ってくるだけなら目測でかわすことができてしまう。まあ会長のプレイングは神かがっているからそんな甘い考えは簡単に打ち砕かれるわけだが……それでも、地上戦ならまだ俺でもギリギリ対処できる。だけど空中戦はそうもいかない。ただでさえウイングゼロは空中での移動に長けている。そんなMSを相手に空中戦を挑んだところで勝てるわけがない。だから、普通は挑まない。会長も以前は挑ませようともしなかった。だけど、今回は違った。その理由が、会長が勝負の終盤で用いたワイヤーだ。ワイヤーで相手を括り付け上昇、そして上空で放り、そこを狙い撃ち。会長はこの一連の流れを実行したかったのだろう。幸い調整に不備があり、その穴を突くような形で俺は対処した。もし穴がなかったら、俺と部長は負けていただろうよ。会長はWガンダムのファン、特に自分の名前と同じヒイロに肩入れしているから、彼の愛機のウイングゼロになぞった武装を会長は自分の愛機にもしていた。その中にワイヤーは含まれていない。だから、会長が今までのポリシーをまげてワイヤーを使用してきたときには本当に驚かされた。
「ナイスファイト…だったのかな?」
対戦の最中、竜崎は小さな椅子に座り、小さな机に頬杖を突きながら俺の対戦を見ていた。
「うーんどうだろ、俺のプレイングは無難だったかな。とりわけ危険な行動をとったわけでもないしね。部長も相変わらず。ただ、刹那が本調子じゃないというか白い方だったというか、それのせいであんまり強くなかったし、会長にもミスがあったしね。まあでも、そんなミスがちっぽけに見えてしまうほど上級生二人の戦いはすさまじいものだったな。だから総評としてはまあまあかな。」
「なるほど……。ま、なんにせよ、これで好感度も多少なりとも上昇しただろうよ。」
「まさか、リアルはそんなに甘くはないよ。」
そもそも、実感がわかないってのもある。好感度を数値化ってこともそうだが、三次元を二次元に見立てるってこともな……
対戦を終えた俺は、今度こそ眠りにつこうとベッドに倒れこんだ。
「じゃあ竜崎、起こすなよ?」
「重大なことが起こりでもしない限り起こさないから安心しろ。」
「ははは、止めてよね、そういったフラグ立てるの。」
俺は竜崎を笑い飛ばした。
「まあでもフラグメイカーだからなあ。」
「ちょっと……怖いこと言うなよ……。」
「ごめんごめん。――じゃあ、おやすみ。」
「ああ、おやすみ。」
目が覚めると、部屋はかなり暗かった。携帯で時刻を確認してみると、画面には7時と表示されていた。3時間くらい寝てたことになるのかな?ずいぶんと長い昼寝だ。
「竜崎はどこだ…?」
体を起こして、ベッドから降りる。ハウスを見てみると、彼もすやすやと寝息を立てていた。
「おーい、飯近いから起きろー」
…起きない。熟睡か?
「起きない奴にはオシオキしなきゃだめだなあ。」
俺は指にありったけの力を注ぎ、竜崎の額にめがけてデコピンをかました。
「~~~~~~~~~~~!!!!!」
あまりの衝撃に竜崎は悶絶し、ハウスのベッドの上で体をよじっていた。ほどなくしてから、額をさすりながら上体を起こした。
「…痛いじゃないか。」
「飯だ、降りろ。」
「…会話になっていないじゃないか。」
「じゃ、俺は先に降りてるからな。」
「あ、待て待て!俺一人じゃ降りることなんてできないから!」
あ、一人称がまた変わってる。