タマゴのカラを割らないでっ!   作:すうどんたくろう

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2-4-4 催眠デート

 とにかくその場から離れたい一心でトイレから駆け出して、気がつけば眼前には109があった。渋谷…つまりは東京ってことだ。

 俺は近くの喫茶店に入り、コーヒーを適当に二つ注文し、ゆったりと腰掛けた。この間、怜の硬直状態は続いていた。

 「……乱交ではなかったけど、ゲイには会ったね。」

 「………」

 よく見ると、彼女の瞳には光がなかった。口は半開き。どこからどう見ても、今の彼女には生気がなかった。

 「………おい、大丈夫か?」

 「……!…あれ、ここはどこ?」

 あたりをキョロキョロと見渡し、周りがコーヒーをなどを飲んでいたことから、ここは喫茶店なのだと察したのか、俺に「何を注文したの?」と聞いてきた。

 「コーヒー、種類はアメリカンだな。」

 「了解したわ…。」

 怜は大きなため息をつき、椅子にもたれかけた。それは俺も同様、だって異常に疲れたんだもん。……そういや、この前アドアーズでフルドの大会が開催された時、ゲイが非常階段でケツを掘りあってたって部長から聞いたな。部長も知り合いから聞いた話だって言っていたけど……本当かどうかは俺にはわからない。でも、もしそうなら凄い遭遇率だよな。……俺の行く先にはホモばかり集まる……なんて能力でもあったりして(笑)

 ……いややめよう、そう考えるのは。変にフラグは立てたくないぜ。ただでさえ竜崎にフラグメイカーとか言われてんだし。…いや、あれは皮肉か。てかそんなことはどうでもよくて!

 「…ハッとしたらにやけて、そして首を横に振って…ちょっと挙動不審なんだけど…」

 ダニィ!?顔に出ていたのか!?

 「気にしないで頂戴。」

 「はあ…」

 ちょうどその時、店員がコーヒーを二つ運んできた。その店員は綺麗な黒髪をもち、ふたつのお下げを肩に垂らし、黒基調の制服に身を包んだ清楚系美少女であった。ご丁寧なことに、胸元にはネームプレートをつけていて、【平松妙子】と記してあった。

 おお、これゾンの平松と激似じゃないっすか。平松の三次versionはこんな感じなんだな、十二分にアリだな。

 「お待たせしました、アメリカンコーヒーになります。砂糖とミルクはいかがいたしましょうか?」

 「じゃあ一つづつください。」

 「私は結構です。」

 「かしこまりました。」

 平松店員はそれを怜に渡した。手、綺麗だなあ…と、俺は見とれていた。

 「当店ではコーヒーはおかわり自由となっておりますので、そちらを希望する方は我々スタッフにお申し付けください。それでは、ごゆっくり。」

 彼女は俺らに背を向け、その場をあとにした。さっきまではテーブルが邪魔で見えなかったが、今は見える。膝丈スカートから伸びる黒パンストがたまらない。細めの脚に俺はただただ見とれていた。

 「……なあ、怜……俺さーー」

 「じゃああの娘の名前を早速書いてみたら?」

 むう…俺の考えなんてお見通しか。

 「そりゃあ、あんだけ鼻のしたのばしてたらわかるわよ。」

 「こいつ…直接俺の脳内にっ…!」

 「は?」

 「………いやなんでも。」

 「で、私たちがここにきたのって、要は告白権を使うためだから、別に相手なんて誰でもいいのよ。さっき打ち合わせをしたのは、それを成功させるための手段でしかないわけだし。」

 「確かにその通りだな。……よし、彼女が近くにいる時に書いてみるか!」

 

 

 コーヒーを飲み終え、おかわりをいただこうとした時、まさにベストタイミング、平松店員が反対通路にいるのが見えた。

 「怜っ!彼女を呼んでくれ!」

 俺はすぐさま渡されていた告白権を取り出し、彼女の名前を連ねた。

 平松……妙………子っ!

 よし、書いたぞ!確か書いた瞬間反応がわかるとか言っていた気が…

 俺は彼女に視線を向けたが、変化が見えない。

 「おい!どういうことだ!何も変化がねえじゃねえか!てか呼べっつったろ!」

 「あんなに離れてちゃ呼べないわ。常識的に考えて頂戴。」

 「……もういい、俺があの店員に直接お代わりを頼みに行く!」

 「周りの客の迷惑になりかねないからやめなさい。」

 「……それもそうか。」

 

 

 「コーヒーのお代わりはいかがでしょう?」

 「ああ、じゃあお願いします。」

 「私も。」

 「かしこまりました。」

 平松店員はコーヒーカップをトレイに乗せ、この場をあとにした。特に俺に気を取られているというわけでもなく、告白権が作用しているようには見えなかった。…非処女だったのか、残念。

 「……あれは……」

 「いや、怜、言わなくていいんだ。あんなに可愛いんだ、彼氏の一人や二人いて、そしてヤってるのなんて、目に見えてるじゃないか。きっと彼女を大切に思っているかっこいい彼氏さんがいるだろう。俺みたいに一事な私利私欲で手を出していい代物ではなかったんだよ…」

 「…むう、告白権をそんな言い方するのはあまりいい気はしないわね。」

 「え、そこっすか?そこは俺を慰めるところじゃないんすか?」

 「アンタ慰めて欲しかったの?慰めてもらおうとしてまさかあんなこといったの?ねえー」

 「すんませんもう勘弁してください私が悪うございました。」

 「……だいたい、私さ、まだ話の途中だったんだけど…」

 「それはわかってる。でも、どうせ…」

 「はあ…アンタって、ほんとフラグメイカーの名に恥じないことをしてくれるわね。」

 「え?それってどういう…」

 と、俺と怜の会話を断ち切るように彼女はやってきた。やってきたという言い方はおかしいか、コーヒーを運んできた。

 「では、ごゆっくりどうぞ。」

 俺は彼女に目を向けると、彼女と一瞬目があった。彼女は頬を赤らめ、そそさとその場を去った。

 そして気づく。おれのコーヒーカップ、皿との間に何かが挟まっていることに。

 「これって紙ナプキンじゃないか。」

 テーブルの上にも紙ナプキンは置かれている。じゃあいったいなぜ?

 とってみたが、別段何もない。裏表ともに真っ白。ほんの少し期待していたのだが、残念だ。

 俺は口周りのコーヒーを拭おうと、紙ナプキンを開いた。するとそこには…

 

 【13時、会ってお話できませんか?】

 

 と、彼女のメールアドレスと思われる英数字の羅列と共に、記してあった。

 「…………これってまさか………」

 紙ナプキンを持つ手が震える。

 「私はその事について話そうとしてたのに、話の腰を無理矢理折ったのはあなただからね?」

 「……まじか。まじか!やったぜっ!」

 その場でガッツポーズをとる俺。そして怜はそんな俺をみて、「恥ずかしいから、周りがみてるから!」と宥めた。

 俺も気恥ずかしくなって縮こまり、彼女が運んできてくれたコーヒーに口をつけた。何故だか、あまり美味しいとは思わなかった。

 「ほんと、あれだけ可愛いのに彼氏がいないってのはビックリだぜ。」

 「でもそういうのって、ゲームとかだと当たり前なんでしょ?」

 「特にエロゲはな。攻略対象ヒロインが非処女とか、そういうのってあまり望まれていない気がする。抜きエロゲならいざしれず、萌えエロゲではあまりみないなあ。」

 「ふうん、そうなんだ。」

 「現実はそんな事はない。可愛い子は大抵彼氏がいるし、ヤってる。この学園の生徒はその俺の論理から外れている気もするけど……まあお前とか?でも大概はそうだ。」

 「さ、さらっとあんたなに言ってんのよ…」

 気づけば、怜はほんのり頬を赤くしていた。そして、何やら複雑な顔をしていた。いったいなぜ?と疑問が脳裏をよぎったが、そうだ、つい先ほどさらっとこいつのこと可愛いって言っちゃったなあ。さらには処女だとも言ってしまった。なるほど、褒めと辱めが入り混じってたから複雑な顔をしていたんだな。

 「おおっと、すまんすまん。」

 「いや、いいけどさ…」

 場になんとも言えない空気が流れる。

 何か、何か話さなきゃ…

 だが、何も思いつかない。なんか面倒臭くなってきたので、この空気の処理を怜に任せるとして、俺は再びカップに口をつけた。…やはりあまり美味しいと感じない。なぜだろう。

 これまでに起こったことを振り返って見る。まずは朝早く、竜崎に嫌がらせをしようとしたが、逆に俺が有希に酷い目に遭わされた。その後、怜の家から東京へ転移する際、天界を経由した。天界に足をつけたのなんて、人類初だろうな。そして、その転移先は公衆トイレの個室。そこに現れるゲイカップル急いでその場から離れ、喫茶店に駆け込み、今に至る。

 「これでまだ午前中とは……しかもこの後デートだろ?なんて濃い一日なんだ。」

 「確かにね…こんなシチュエーションは初めてよ。告白権を使うとこういう定めになると思っていた方がいいかもしれないわね。」

 「ほんとよ。それもこれも告白権に関わったから引き起こった結果。しかも午後に関しては告白権が“成功”した……か………ら…………。」

 「………ん?どうかした?」

 「ああいや、なんでもない。なんでも……」

 「…そう?まあいいわ。じゃあ、1時までまだ時間あるし、デートプランでも練りましょうか!」

 「……ああそうだな。」

 しかしこのとき、俺は嬉しい反面情けなく感じていた。彼女のメアドを知り得たときは嬉しさのあまり浮き足立っていたのだが、デートできるのは【告白権が成功した】おかげであると認識してしまった今、つい先ほど俺が行ったのは告白権を使っての相手の洗脳にすぎない。俺は下劣な行為をしている……そう気づいてしまった今の俺は、彼女とのデートを楽しむことができるのだろうか?……だが、自分の内側から、細かいことなんて気にしないで好き放題やっちまえよ、と、悪魔の囁きが聞こえてくるのも確かだ。

 

 

 俺は………………

 

 

 

 

 時刻は夕暮れ、太陽は既にビル群の中へ沈んでしまった。そんな風景を、俺は公園のベンチに座り、隣にいる彼女………榊怜と共に眺めていた。

 「………アンタって、ヘタレなのね。」

 吐き捨てる言葉が俺の心に突き刺さる。もう慣れたと思っていたのに。

 「……………」

 俺は無言。怜の方を見向きもせずに、只々無言。

 「……あのさ、アンタ…今日なんのために東京に…わざわざ転移まで使ってさ…きたと思ってんの?」

 言葉が進むにつれ、語気がどんどん高まっていく。怒りの感情がはっきりと伝わるほどである。

 でもそれも仕方が無い。

 

 俺は放棄……いや、逃げ出したのだ。

 それもデート直前になってな。

 

 1時前、喫茶店でデートプランを練り終えた後、近くのデパートの中のベンチに座り、俺は待機していた。そこで、本当に直前に、聞こえてくる怜の言葉も、竜崎も無視して、俺は逃げ出した。逃げ出して、街の中をぐるぐるぐるぐる走り回り数時間、気づいた時には、最初の公園に戻っていて、ベンチにもたれかかっていた。そしてそこで、怜に発見されたのだ。

 怖かったってのもあるし、申し訳なかったってのもあった。その他の感情もふつふつと沸き起こり、俺の心はもうぐちゃぐちゃになっていた。だから、あんな行動をとってしまった。今思い返せば、もっと他にやりようがあったのに。そうしたら、怜がこうも怒る事もなかったのに。

 「……せめて理由を聞かせて頂戴。突然逃げ出すなんて……私には理解できないわ……」

 理解できない…か。なんでこんな簡単なことがわからないんだ?

 「………やっぱり俺は告白権を使えない。使ってはならない。そう気づいたからだ。」

 「…………ッ!」

 それからしばらく、怜は黙ったままであった。俺は俯いていたから、その時怜はどんな顔をしていたのかはわからない。だけど…暗い顔をしているのは間違いないだろうな。

  場に重い空気が漂う中、変化を起こしたのは俺の内ポケットがもぞもぞし始めた時…そして中の物が外に出た時、空気は換気された。そう、竜崎によって。

 「いつまでもここに居座ってるつもりだい?」

 そこで俺ははっとして、竜崎を見た。てか、やけにこいつがおとなしかったことに、なぜ俺は気づかなかった?

 「…そうね、そうよね。今となっては、ここに居座ることに意味なんてないものね。」

 怜は呟くと、ゆっくりと立ち上がり、俺と向き合った。

 「じゃあ、帰るわよ。ついて来なさい。」

 そういった怜の顔は酷くて、目は充血していて、それ以前に生気が抜けているかのように見えた。…こんな風になってしまうほど、俺の言葉は心に突き刺さったってことか。

 「ああ……わかったよ。」

 

 

 それからの事はあまり覚えていない。ぼうっとしていたのだ。覚えている事といえば、転移したと思われるとき、頭が割れるように痛かったこと。転移先が怜の部屋ではなく、俺の家の近くの公園であり、そのまま家に向かったこと。怜はなぜか神界にとどまって、一緒に帰らなかったということ、そして、帰宅途中俺に話しかけて来た輩がいたことくらいだ。あの時の俺はただただ本能的に家へと足を向け、頭痛の余波にやられ、他のことなんて全く考えていなかった。あの時話しかけて来たのは誰だったのだろう。

 家に戻り、有希に驚かれたのは言うまでもない。

 俺は部屋に戻ると、すぐさまスーツを脱ぎ、シャワーを浴び、寝た。深い…深い眠りに落ちていった。

 

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