3-1-1 ぼっち先輩
~静乃side~
“日曜日の10時半頃から出かけていた”
“家が隣だったことが救いだった”
ぼくは遼のこの言葉には首を傾げずにはいられなかった。
「えー、ですから角加速度を持つ物体は…」
千歳先生は壇上に立ち、黒板にチョークを走らせているが、ぼくはぼんやりとそれを眺めていた。どうも授業が頭に入ってこないのだ。
土曜日、ぼくは水着を買うために刹那と怜と一緒にでかけた。そして、店で緋色先輩やら栞やらと逢った。結局一緒に行動することになり、なし崩し的に緋色先輩の家に上がらせてもらうことになった。夕飯をご馳走になっていた時、テレビの報道があった。強姦魔が近辺をうろついているということで、外に出ることはできなく、泊まらせてもらうこととなった。そして次の日、普通に解散した。………問題は、解散した時刻だ。全員が‘10時’に緋色先輩の家を出たのだ。緋色先輩の家はぼくや遼の住んでいる西区からは遠い。最速で家に帰ろうとしても四十分はかかる。つまりだ、怜が10時半に遼と自宅で会うことは“不可能”。極め付けは遼の態度だ。ぼくがカマかけたとき、遼は嘘を言っているようには見えなかった。奴は場に流されて口を滑らせてしまうことが多く、嘘をつくときは少し白々しい。今回は完全に流れに任せて喋っていた。てことは、遼の言っていることは全部正しいってことになる。また、親族が迎えに来たという線もない。だって本人が一人暮らしと言ったのだから。普通高校生が一人暮らしなんて、寮生活か親と何か問題でもない限りあり得ない。てことはつまり…………なんて思い悩んでいたとき、ふと、誰かがぼくの名前を呼んでいる気がした。前を向くと、千歳先生が困惑を浮かべてこちらを見ていた。
「……珍しいね、君が本当にぼーっとしている時があるなんて。」
「あ、はい……すいません。でも、少し言い方が引っかかりますよ?いつものぼくはどんな風に見えてるんですか。」
「瞳にっ……ハイライツがっ……無いっ……!」
「カイジ、今に始まった事ではないだろ?」
バカ二人が変なことを言ったがために、教室が朗らかな雰囲気になってしまった。いやまあ、自分の目には活力が感じられないことは自覚はしてるよ?元に戻そうと小学時代に努力はしたが、諦めた。だけれども、そんな自分の瞳についてむしろ気に入っている。こんな目になってから、変な人に話しかけられることもなくなったもの。……とはいえ、クラスで目立っちゃうのは別問題なんだよなあ。
「…そういや、萩原のその目ってどうして変わった……ああいや、生まれつきなのか?」
千歳先生が不意にそんなことを聞いて来た。いいからあなたは授業を進めなさいよ。あとしれっとまずいこと言ったね。昔のぼくを知っているアピール止めてよね。まあ途中で不味いことに気が付いたのはいいけど。
「あー…いや、小さかった頃はそんなことなかった気がします。いつの間にかに変化していたって感じですね。」
「ふうん、なるほどなあ。……って、いい加減授業に戻るぞ。ではこの問題の物体に働く力について萩原に聞こうかな。」
なっ…授業聞いてなかったからなんの話か全くわからない。
「…すみません。どのページの問題でしょうか。」
「おいおいそこからか。○○ページだぞ。…ああでも、そこがわかってなかったら解けないか。じゃあ萩原にはその次の問題を頼もうかな。じゃあカイジ、この問題をとけ。」
「なっ………俺がっ……?何故だっ……!」
「文句言わない。」
「ぐっ………」
「ざまぁww」
「カイジが解けなかったら国広に聞くからな?」
「ファッ!?」
「千歳先生っ……!俺じゃこの問題は解けませんっ……!だから遼にパスッ………!」
「おい」
「じゃあ国広。」
「……α=……あるふぁーいこーる……」
「解らなさそうだな……じゃあ仕方ない、この問題はーー」
「ちょ、ちょっと待ってください!解らないわけじゃないんです!ただちょっと…ごにょごにょがいいところでしてね?」
「……お前またライトノベル読んでたのか…次ばれたら没収って言ったよな?」
「へ?ちょっ!よってきちゃらめええええ!」
千歳先生は遼の読んでたラノベを取り上げ、ぱらぱらとページをめくった。
「………国広、お前これ………年頃の男子だからこういうのを読みたくなるのはわかる。ただな、時と場所を考えろよ?どうしたらエロ小説を学校で読もうと思うんだよ……」
「」
「」
「先生、ちょうどできました。円の接線方向の加速度と反対向きに慣性力、中心の反対方向に遠心力、その合力とつり合う形に最大の静止摩擦力ですよね?」
「……(´・_・`)」
「……(゜o゜;;」
「さすが萩原。じゃあなぜこのような答えになるのか説明するからな。まずーーーーー」
うーん、わからない。わからないから、この件は放置でいいや。あとハルキさんに連れてかれる遼のことも。とりあえずご飯食べよう。
午前の授業が終わり、だいたい半数の人が昼食を取り始める。(半数は早弁)それは私も同じだが、今日は困ったことに弁当がない。ぼくの弁当は母がいつも作ってくれるのだが、母がサボった。故に、今日は購買か食堂に行かなくちゃならなかった。購買に行こうという気分にはなんとなくならなかったから、食堂へと向かった。
「ガールズランチBになります。」
ぼくは料理を受け取ると、手頃な2人席へと座った。1人席というものがないためである。なんでないんだろう。
にしても、GLB(ガールズランチB)はいいよなあ。ピラフにサラダ、スープ、そしてデザート。主にピラフがいいね、うん。これは単にぼくの好み。そして、このラインナップで400円しかかからないのは破格だよ。量も一般女性にちょうどいいし。非の打ち所がないね。
とまあ、ここまでが食堂に来た時の流れだ。GLBの素晴らしさに感激し、黙々と食し、チャイムがなるまで席に居座って本を読むのだが、割と頻繁にあることが起こる。それは……
「あれ、静乃さんじゃないですか。」
「こんにちは、緋色先輩。今日もぼっちですか?」
緋色先輩が真向かいに座ってくるのだ。
「ぼっちって……事情分かってて聞いてくるなんて……厭らしいですね。」
緋色先輩の事情…ようは一人になることが多い、一人で食べざるをえないということ。その理由として、まず第一に、彼女は学内のファンが非常に多いことがある。一時期は追っかけがひどくて、とてもじゃないが平穏に食事を取ることなんてことはできなかった。唯一生徒会室内なら大丈夫なのだが、そうしない。
「ああ、すいません。つい癖で口が滑っちゃいました。今日も弁当は作って来れなかったんですか?」
「そうですね……。昨日ーいや、今日は4時に寝て7時に起きたので、流石に無理でした。」
…つまりそういうことだ。先輩は朝に弁当を作っている余裕がないのだ。(ちなみに、正確な睡眠時間まではついこの間まで知らなかった。)弁当を持ってくることができないから、購買でパンを買うか、食堂にいくかしかないから、平穏が保たれている生徒会室を頻繁に利用することができない。故に、昼休みは先輩の周りにおっかけが蔓延し、ひどい有り様であった。教師側もそれをみかねて、おっかけ達に迷惑行為をやめさせようとしたのだが、先輩がそれを止めた。この前聞いたら、私のせいでこのようなことになってしまったから、自力でなんとかしたかったそうだ。で、あの手この手を使っておっかけを消して、現在に至る。ファンの間では神格化して、誰も近寄ろうとはしなくなったのだ。皆平等、抜け駆けは禁じられたのだ。(これがぼっちたる所以。まあ、宮永先輩や刹那、他の生徒会のメンバーと一緒に食べている場合もあるけどね)。なぜ沈静化したのか、流石に聞くことはできなかった。聞いても教えてくれなさそうだし、知らない方が身のためかもしれないしね。………ちなみに、ぼくは刹那経由で生徒会の仕事を手伝ったりしているから先輩を含めた生徒会の面々とは面識がある。だから彼らとはそれなりに話すが、なかでも緋色先輩は特別で、プライベートな時間でも会っていたりする。偶然遭ったことで今のように皮肉を言ったりするような仲になったのだ。
「あー…確かに無理ですよね。最低限の睡眠時間は確保しなくちゃなりませんしね。にしても、そんな生活でよく肌とか保っていられますよね。ほんと、それでいてとくに何もしていないってのがすごくもあるけど憎らしい。」
「あはは……。ああでも!流石に毎日こんな生活していたらからだがもたないので、一週間に2、3回はたくさん寝てますよ。日曜日なんて昼くらいまで寝ていますし。」
「それでもすごいですよ。……ちなみに、授業は大丈夫なんですか?そんなに寝てないのならずっと起きているのは厳しいと思うのですが…」
「…………授業は起きていますよ。」
先輩はぼくから目を逸らし、GLC(パスタ等のイタリアン)のパスタをフォークでいくらかとり、スプーンの上でくるくると巻いていた。にしても、先輩もいつも同じの食べてるなあ。パスタにパスタ、時々ピラフ…ぼくと完全に逆だ。
「…てことは、休み時間は爆睡なんですね。」
「否定できないのが悔しいです。」
「宮永先輩とかに邪魔されたりしないですか?」
「ああ、それは大丈夫です。私の生活スタイル知っていますし、そこは気遣ってくれてます。クラスメイトは、きっと生徒会活動で疲れているのだろう、と勘違いしている……いや間違いではないんですが、まあともかく、そのおかげで誰も話には来ませんね。嬉しいことこの上ありませんね。」
………それ、完全にぼっちじゃないですか。ただでさえ美しすぎて近寄りがたいのに、これじゃあ誰も近寄らないよね。………そんなバリケードを突破してくるのがおっかけってことか……なんか納得してしまった。
「……?どうかしましたか?」
「いえ、緋色先輩ぼっち説を再認識したんですよ。」
「……いやほら、竜華やカトルと話したりしてますから。というか、クラスメイトとも話さないわけではないですよ。」
「普通休み時間で机に突っ伏して寝るなんてぼっちくらいしかしませんよ。」
「……じゃあ聞きますが、貴女はどうなんですか?私が来る前まで貴女は一人でしたよね?クラスメイトと一緒に昼食をとったりしてませんよね?とる相手がいないからじゃないですか?」
「…」
「その顔……その目の逸らし……誤魔化そうったってそうはいきませんよ。ぼっちはぼっちを見つけやすいんです。」
「なんかサラッと自分がぼっちであることを認めましたね。」
「薄々気づいていましたから。」
「なるほど。」
「で、貴女はどうなんですか?」
「別にぼっちとかじゃらありません。ただ一人が好きなだけです。」
「……と、言い訳をするのであった。ふふっ、私たちは仲間ですね。」
「…これは喜ぶべきなのか悲しむべきなのか……」
やれやれとぼくは手を額に当てた。
国広遼:主人公。エロガキ。年内中に彼女を作らないと殺されるという重たい使命を背負っているが、本人はさしてそのことを気にしていない。
萩原静乃:遼の幼馴染。遼をなじることが好き。昔は澄んだ目をしていたが、今はうって変わって常時レイプ目。『Raretsu』という名義のボカロPとして活動していたりする。
緋色結衣:生徒会長。表面上普通に見えなくもないが厨二病をかるくこじらせている。『base-on』という名義のボカロPとして活動しているが、そのことを知る人は数少ない。
カイジ:オタで変態のバカ。
千歳先生:本名は千歳春希。物理教師。静乃の従姉の夫であり、一応親族。