タマゴのカラを割らないでっ!   作:すうどんたくろう

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3-1-2 ぼっち先生

 7月20日 月曜

 

 怜は結局放課後になっても登校してくることはなかった。これはきっと、しばらくは帰ってこないのだろう。それなら、早く帰って竜崎と話をしたりする必要とかもないわけだ。なら、気兼ねなく部活に行こう。俺はそう考えて、部室へと向かった。部室のカギはあいていて、ドアを開けると、そこでは珍しく全員が勉強していた。部長がまじめに勉強するなんて……珍しいこともあるもんだ。

 「こんちわっす。珍しいですね、部長が勉強してるなん…………て………って」

 俺は部長のもとへ歩み寄って、カリカリペンを走らせている先…つまり部長のノートを覗き込むと、そこに書かれていたのは決して英文や数式などではなく…

 「そりゃ、来週の日曜のフルドの大会の作戦練らなくちゃね。」

 「あーなあるほどな。そりゃそうだよな、うん、むしろ何故そう俺は思わなかったのか。」

 「ほんとそうだよ国広!大会近いんだよ!頑張って勝たなきゃならんのだよ!」

 バンバン机をたたく部長はやかましく、ハムや柄谷も嫌そうな視線を部長に向けていた。

 「それよりもテストの方が近いんですがね…」

 「うっ…!」

 テストという単語を聞いた途端、バンバン机をたたいていた手はそのまま前方へスライドし、部長は机に突っ伏した。

 「テストの話はやめろ…」

 突っ伏したまま、部長はうめき声をあげていた。そう、テスト、テストなあ…うん。よくよく考えると、こんなことをしていていいのか、家に帰ってさっさと勉強した方がよかったのではないかなどと深く考えすぎてしまって鬱になる。だから、今は考えないことにした。

 「来週の大会勝てば全国か…」

 「ほんとね、頑張らなきゃ。それに、あのときの司会者さんの言ってたことがちょっと引っかかってさ。ほらあの、決勝チームは仲よくしとけみたいな?」

 「あーそんなこともありましたね。俺はあの司会者に見とれてそれどころじゃなかったからよく覚えてねえや。」

 「先輩……さすがに引きますよ………」

 「気持ち悪いことこの上ない。」

 「ごめん。」

 「クソな国広は放置して、実際問題どういう意味だと思う?」

 部長は起き上がって…というか立ち上がって、ホワイトボードの前に立ち『司会者の謎の言葉…真相は如何に』と書いた。

 「大型アップデートに一票」

 「私も」

 「私もそれに同調しておこう。」

 「だあぁーーーーんなことはわかってんの!問題はその内容なの!おわかり!?」

 部長はホワイトボードをダムダムたたいて、またやかましくなってしまった。

 「ボーダーブレイクみたいに8vs8じゃないっすかね。」

 「あっ………え、絶対それじゃないですか。」

 「私もそれに同調しておこう。」

 「あああああああもう話終わるの早いよ!てかハム!あんたやる気あんの!?さっきから同じことしか言ってないよね!?」

 「やる気はない。だからもう勉強に戻っていいか?」

 「ハムェ…」

 「ハム先輩さすがです。では会議は終わりでいいですか?私も勉強に移らせてもらいますね。初めての学力テストなので気合入れたくて…」

 「栞ェ…」

 「もはやなんて発音してるのかよくわかりませんね。じゃ、会議は終了!閉廷!解散!」

 「国広ェ…」

 部長はみるみる元気をなくし、ダムダムボードを鳴らしていた腕はだらんとしたに垂れていた。そして、もう会議派は始まりそうにないと思ったのか、椅子に座ってペンを走らせていた。教科書がテーブルの上にあったから、本当に勉強をし始めたのだろう。

 

 

 あたりがしんとしてから数分立ったころ、部室の扉が勢いよく開かれ、一人の女性が入ってきた。

 「聞いてよ龍華ちゃん~」

 「あら、梓ちゃんどうしたの。って、いつもと大して変わらないじゃん。」

 梓ちゃんなんて言っているが、彼女はここの教員である。担当は今は三年の倫理だったはずだ。

 「職員室に私の居場所がないんだけど。」

 さっきまで勉強モードだった部長はもう完全に梓先生の子守に入っていた。ああやって泣きそうになるのはよくあることで、そのたび部長が相手になってあげている。たいてい愚痴で、話し切ったら切ったで今度は机に座って寝てたり仕事してたりするもんだから何とも。職員室か社会科準備室で本来やるはずなのだが、たった今ぼやいたことからわかるように、居場所がないらしい。いや、無いわけではない。本人が言うことには、非常に居づらいらしいのだ……って、それが居場所がないってことじゃなかろうか。

 「今度は何が理由でさ。」

 「それがね~実は……」

 

 ………

 ……

 …

 

 「あーすっきりした!それじゃ、仕事するね!」

 ここまでくるのに30分。ああ長かった。女性って長話が好きなんだなあとまた思ってしまった。(勉強に集中しようと思ったが、やっぱり教師の愚痴は気になるもので、ついつい耳を傾けて、手がしばしば止まってしまうのである。)やっと勉強にありつける、そう思ったが、また部室の扉が開けられた。今度はノックをしていたので、礼儀正しい人だなあとは思ったが、それでもせわしなさを感じずにはいられなかった。空けた人は灯里先生であり……

 「またここにいたんですか布良先生……」

 「ゲッ灯里ちゃ……ああいや、兼元先生……」

 「ほら、行きますよ。」

 「……無念だ。」

 梓先生を呼びに来ることはよくあることだ。というのも、よく行方をくらますから、前は何度もアナウンスをかけて呼び出していた。けれど、あまりにそれが多すぎて、生徒に示しがつかないとかかんとか。だからこうして、友達のよしみで灯里先生が呼びに来てくれるのだ。

 「じゃ、また今度ね先生。」

 「お疲れ様です」

 扉が再び閉められた時、もはや勉強する気などなくなっていた。それは周りも同じのようだった。

 「えー………勉強……まだするの?」

 誰もイエスとは言わず、首を横に振るだけだった。

 「じゃ、今度は作戦会議をしましょうか!」

 部長は元気はつらつと立ち上がった。それから俺たちの会議は大いに盛り上がりを見せた。そう、その時の俺は、怜のことなんて……昨日の糞みたいな別れ方をしておきながら、忘れていたのだった。




宮永龍華…ゲーム部部長。セミロングのパーマのはずだが最近ちょっと髪が伸びてきて、いつもよりは長め。いつもテンションが高い。アーケードゲーム(通称フルド)では上から二つ目のランクのSSであり、緋色会長の親友。

柄谷栞…一年。ゲーム部部員。有希の中学来の親友。基本おどおどしているが、好きなことに対してはぐいぐいきたり饒舌になったりする典型的なオタ。雷に過剰なまでの恐怖を感じていて、一人で眠れないほどである。

ハム…本名武士道(たけ・しどう)ゲーム部部員。OOガンダムのグラハムに強い影響を受けているため、ハムと呼ばれるようになった。刹那のことを少年と呼び、恋焦がれている。

布良先生…社会の教師でゲーム部顧問。職員室と社会科準備室に居場所が無いらしく、ゲーム部部室によく入り浸る。独身。
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