帰宅したのは6時過ぎ。俺は玄関の扉を開け、リビングに目も向けず自室へ戻ると……やはり竜崎はいな―――――俺の机の上にぺたんと腰を下ろして、ウィンドウを立ち上げて何か見ていた。鏡を立ててあるということは……どういうことなんでしょうかね。
「おかえり遼。今日も好感度稼ぎは頑張っているかな?」
「なんでいるんだよ。」
日曜一緒に帰ってこなかったじゃん。それって絶対俺の不甲斐無い態度のせいじゃん。それなら、愛想尽かしてしばらく放置が普通の事じゃないんか。
「ん?そりゃあ私の目的は――」
「いや、そうじゃなくてだな…」
きょとんとして、こちらに目を向ける。え?こいつどんなこと考えてんの?
「あんな別れ方したじゃん。それって、俺に愛想を尽かしたのかなあって。怜も今日来なかったし。」
「あーあれか、別にそんな重くとらえる必要はないよ。―――私の目的は果たせたわけだし。」
「え?そうなの?」
「まあ、その話はさておき、怜の事だが…」
竜崎は強引に話を終わらせると、また別の話を持ち出した。
「この世界から一度私の世界に転移しただろう?その際に、脳に甚大な負荷がかかってしまったんだ。……この転移、ある特定の条件を満たすと脳に過剰な負荷をかけてしまうんだ。怜はその餌食となってしまったわけさ。君も経験したんじゃないのか?東京から私の世界へ、そして私の世界からここへ戻るとき、激しい頭痛が起こったのを。」
………確かに、あの時俺は頭痛がひどくて、何も考えたくないほどであり、ここに戻ってからは意識がもうろうとしていた。この事態は怜にも起こっていたんだ。
「それに、この不可は何度もかけていいものではない。で、怜はこの負荷を一日に四度かけてしまった。これはもう、休養を取って脳を休ませるしかない。」
一日に四度?
俺は一度しか経験していない。でだ、怜はほとんど俺と行動を共にしている。転移も同じだけ行った。なのに、なぜ怜は二度も負荷をかけてしまった?考えられるとしたら、朝の転移しかない。……なぜ俺と怜とで状況が異なる?
俺はうんうん唸っていい考えを絞り出そうとしたが、ポッと浮かび上がることはなかった。竜崎に聞いてもなあ……
「なんで俺と怜とで症状が違うの?なんであいつの方が多く頭痛に悩まされていたんだ?」
「すまないがそれはまだ教えることはできないな。」
こう返ってくると思ったよ。だから聞いても意味ないと思ったんだよ。
俺はこれ以上聴いても何も得られないとあきらめて、ベッドに寝っころがった。
「まあなんだ、怜は明日にはこっちに戻ってこれるんじゃないか?というか、戻ってくるよ。」
「………また転移したら頭痛に悩まされるんじゃないの?」
「大丈夫だ。そこについては頭痛の発生条件に合致しないから問題ない。」
「ふうん?」
じゃあいったい何を問題として頭痛は発生するのだろう。朝に転移する?いや、ないない。夕方転移して頭痛くしてるんだから。じゃあ……ん?俺と一緒に転移すると頭痛が起こるとか?まさか、ないないそんなの。………いや待てよ?別世界の人間が世界観を移動することはイレギュラーだろ?そんなイレギュラーへの警告として頭痛が起こるとか?………いやないない。それなら、異世界人の怜は転移するたびに頭を痛めてしまう。………これはやっぱり俺が頭痛を生み出してるんだな(確信)
「よし、じゃあまた怜と一緒に転移して、奴の頭を徹底的に痛めてやろう。ちょっと俺がはしたないことをすると蹴りを入れたりしてくるんだ。それくらいはしてもいいよね。」
俺は完全にふざけて言ったのだが、竜崎はそれをまじめにとらえているのか、それとも調子を合わせているのかは知らないが、妙に引っかかる言い方をした。勿論俺はそのことについていったん深く考えたのだが、聞いても返事ははぐらかされるように気がして、言わないまま胸に秘めた。
「……君も悪趣味だね。そんなことをししたら、怜の脳はどろどろに溶けて馬鹿になってしまうぞ?」
「冗談に決まってるじゃん。つか、その話はいったんおいてさ、なんで俺の机の上にミラーが置いてあるの?」
「よくぞ聞いてくれた!」
竜崎は立ち上がって、電子パソコン(?)の電子キーボード(?)を動かすと、そこからある音楽が流れてきた。その曲は俺がよく知るところで……
「おお、ミッチーMの『アゲアゲアゲイン』じゃねえか。いったい何で……ハッ!」
曲が流れ始めると同時に、竜崎は曲に合わせて踊り始めた。そのダンスは、《初音ミクProject mirai2》に収録されているアゲアゲアゲインのそれと全く同じであった。
か、かわいい……
かわいいやんけ
ふおおおおおおおおおおかわええんじゃああ^~
最初はぎょっとしたが、すぐ顔がおころんでしまう。くそう!奴の中身はおっさんなのに!けど可愛い!たまらん!やっぱねんどろミクさんはたまんねえな。またフィギュア買うか。
踊り終わった後、竜崎は満足そうにこう言った。「ひまつぶしにいいねこれ!」と。
それ対して俺はこう答えた。「あんた何しに戻ってきたんだ?」と。
竜崎…怜の世界の人で、遼に恋人作りの使命を課した張本人。こちらの世界には意識だけを飛ばして、初音ミクのフィギュアに憑依する形で干渉している。だから、初音ミクが動いて話しているように見えるが、中身は20代後半の男性。