ハムは刹那を連れて、静乃は一人でどこかにいってしまい、俺ら三人は取り残されてしまった。
「…なんかせつなさがあるな。」
「ああっ……」
「まあでもまだ先輩方、そして後輩達の水着があるぜ!」
朱鳥に励まされて、確かにそうだと思い直した。
「あー早く来ないかねえ」
なんてことをぽつりと呟いて数秒
「兄さん〜!」
と、どこからかそんな声が聞こえてきた。人が多く、正直俺に対して言っているものではないと思っていたので、スルーすると、
「なんで無視すんのさ!」
なんて言いながら俺の背中をビンタする奴がいた。
「…って、おいおいだれだよ!ーーーーなんだ有希か。」
そこには有希ともう一人、柄谷がいた。
有希の水着はショーパンのデニム、上はストライプの可愛らしい水着。だが盛り上がりはなかった。一方柄谷はビキニだったのだが、下はフリルのついたスカートっぽい形、水玉模様の可愛らしい水着。だが盛り上がりはあまりなかった。柄谷は自分の水着姿が恥ずかしいのか、有希の後ろに隠れ気味だった。
「ねえねえどう思う?なかなかいい感じじゃない?」
有希は俺を覗きあげるように顔を向けた。手は後ろに組んで、上体は少し下げて……
「まあいいんじゃないかな。似合ってるぞ。可愛いぞ。うむ。」
「だってさ!よかったね栞ちゃん!」
「え、ええ!?私の話だったんですか!?」
あたふたして縮こまる柄谷はさらに可愛さを重ねていた。
「いやまあ………うん、そうだな。」
可愛いかそうでないかと問われれば、間違いなく可愛い。ただ、なんだろう。あいつが可愛いと認めるのに、多少の抵抗があった。有希のことはためらいなく思えるのに…
「多少間があったけど…まあいいよ!ところで……刹那さんたちは?」
キョロキョロと有希は周囲を見回した。
「中河はハムに連れてかれてここにはいないぜ。」
「萩原はっ……一人でっ………どこかに行ったっ……!」
「あー…なんか想像つきました。にしても、大丈夫かなあ。」
有希は腕組みして唸っていた。こいつもこいつで思うところがあるのな。
「ん?刹那が?確かにハムのことを毛嫌いしてるから、今かなり辛い状況にあるとは思うが…」
「いや、そっちじゃなくて。」
「というと…静乃が?」
「そうそう!だって、静乃さんってサングラス持ってきてたじゃん?それであの目を隠したとなると…静乃さんの抱えるバッドポイントがなくなるわけじゃん?そうなるとさ、人寄せ付けない理由がなくなると思うのさ。」
「そうですね…静乃さんは…こういうのも失礼なのはわかっているのですが…あの目以外はパーフェクトですもん。スタイルも…ううっ…」
なるほど、あいつへの評価はみんな同じなんだな。男子の目から見ても女子の目から見ても…。目ねえ、そういやあいつ、目が濁る前はクラスの中心的存在だったりしたっけ。小学生の頃の話だから忘れてたけど……ん?じゃあ、いつから濁り始めたんだ?
なんてことを考えてたところをぶった切ったのは、朱鳥の一声であった。
「あ、榊に、宮永に会長さんじゃねえか!おーいこっちだぞ!」
俺は朱鳥の向く方向に目線を向けると、そこには水着姿の会長達がいた。男女を問わず視線を奪っているあたり、さすが会長とでも言うべきか。(それとも、部長と怜もいることで相乗効果を生み出しているのだろうか)
「あら、もう皆さんいらしてたんですね。」
にこやかな笑みを浮かべる会長はなかなかにすごい格好をしていた。長い黒髪は2つおさげにされ、黒いビキニという攻めの姿勢。やばいでしょ。紐だし。
「萩原たちはっ…いないけどっ…!」
「え?静乃ちゃんとか刹那ちゃんとかいないの?どこにいったの?」
宮永部長は軽く辺りを見回したが、いないことがわかると朱鳥に訳を聞いた。そして答えを聞いてすぐに「大丈夫かなあ」と声を漏らした。ここまで考えることが同じだと、むしろ驚き以外の感情が出ない。ちなみに、部長の水着は淡いピンクの水玉のビキニで、紐のタイプではないので、完全に泳ぎ意識のものだろう。また、怜はビキニの上からカトル先輩が来ていたようなノースリーブのパーカータイプのものを着ていた。どんだけパーカーが好きなのさ。
まあそんなことはともかく、俺はあることを思っていた。
……これは探しに行って、学校での刹那のように魔除けになるしかないのか?
……いや、それはおせっかいだろうか。あいつは望んで1人になりにいったんだ。あいつの気持ちを尊重してやるべきか?
……でも……だがしかし……ううむ……
「……やることはひとつなんじゃないかしら?」
いつのまにか、怜が俺の近くに寄っていた。ハッとして怜をみると、彼女は呆れた眼差しをこちらに向けていた。そして、周りには俺らしかいなかった。
「って、他の奴らは?」
「はぁ?何言ってるの?そこで遊んでいるじゃない。」
怜が指差す方向に、プールに入って遊んでいる有希たち後輩とカイジ達に部長。それを眺めるように会長とカトル先輩がプールサイド近くの椅子に座っていた。…え?カトル先輩いつの間に?
「手を顎に当ててかれこれ5分近く経ってるわね。声かけても反応ないから、私が残って他の人には先に行っててもらったのよ。」
「そんなにか…」
声をかけられているのにも気付かなかったから、よほど集中していたのだろう。…いや、改めて考えてもよほど考え込んでいたんだな。声かけられて気づかないとか相当でしょ。俺は難聴じゃないんだぞ。
「よほど静乃のことが気になるのね。」
「え?」
「だって、静乃の話題になってからずっと黙りこくっているじゃない。」
「………いや、そんなことはーー」
「あるでしょう。なんで否定するの?」
……言われてみれば、なんで俺は今否定しようとした?認めるのをどうしてためらった?
……認めてしまうと俺は静乃のことばかり考えているということの裏付けになるから?
……いや、それだと、どうしてそうなるとまずいのかって話になるよな。
……俺が静乃ことを想っていることになるから?
いや、それはないだろ。今更そんな風に思うことなんて。惚れる要素がねえよ。
「そう悩むくらいなら行ってみたら?いかないで悶々とするくらいなら、行って蔑まれた方が気持ちいいんじゃないの?」
クスクスと怜はこちらを見て笑ってきた。
「いや、気持ち良くはねえよ。」
まあでも、怜の言うことには一部納得できる。ここで行かないことを選んだら、そのことが心残りとなって楽しむに楽しめなくなりそうだ。せっかくの休日なんだ。楽しみたいさ。
よし、と心に決めると、俺は静乃が消えていった方角に足を向けた。