~静乃side~
ナンパから逃れるとはいえ、遼を彼氏代わりに使ってしまった。申し訳なさはないが、過去に似たようなことがあったような…。奴とは腐れ縁で、小学生のころからその姿を見てきている。当時と比べたら、見た目こそ成長して大きく変わったが、内面は大きく変わってはいないように思える。そうだ、小学校も中学校も本当に困っていた時はこうして助けに来てくれたことがあったっけ。オタ趣味で心底腐ってしまったが、性根は腐ってしまってはいないんだろう。だからまあ、感謝の意を込めて、多少のスキンシップ位させてやろう。どうせ女の影は奴にないんだし、こんな汚れたぼくでも、スタイルは悪くないから、多少は嬉しいだろ……
静乃をナンパから助け出してから、俺はどこかぎこちない思いを抱いたまま、プールサイドのベンチにずっと座っていた。静乃も俺の隣に座っていた。静乃はベンチ横の肘掛けに肘を預け頬杖を突き、ぼんやりとはしゃいでる人たちを見ていた。俺はそんな姿を横目で見、すぐ目線を先に戻す。そんなことを繰り返していた。
……複雑な気持ちである。静乃に対して、こんな変な気持ちになることは今までになかった。小学校の時は親しい友人という認識で、それ以上もそれ以下もなかった。中学校では彼女のその様子から憐れみと心配の気持ちでいっぱいだった。
……俺にとっての静乃は何だ?つい心配してしまう守ってあげたい存在?いや、あの毒舌ダウナー糞野郎に限ってそんな存在にはなりえない。じゃあ…………そうか、つり橋効果みたいなものか。いつもと違う格好、ナンパから助け出すテンプレ展開に心が動かされただけだ。それしかありえない!
俺はすっくと立ち上がり、静乃に呼びかけた。
「いつまでも座ってらんないぜ。俺はみんなのところに行くぞ!お前もついてこい!」
「はぁ…?急にどうしたの?」
あんなことがあったのに静乃はまったくかわらないテンションで―――とどのつまりけだるげに返事をした。
「折角こんなところに来たんだ。遊ばなきゃ損だぜ。めんどくさがってちゃ始まらないさ。静乃ひとりじゃ絶対来ないんだし、来たからには楽しまなきゃ!」
「いやまあ確かに言いたいことは――っておい!手を引っ張――わかったわかった!行くから、行くから手を引っ張るな!」
俺は静乃の、頬杖をついていない手持無沙汰な手を引っ張りあげた。そうして、先輩たちのいるところに向かった。勿論、引っ張り上げた静乃の手は、静乃自身によってふり払われた。
それからはあっという間に時は過ぎた。超はしゃぐカイジと朱鳥、後輩たちに、何もしなくてもお姉さん方から声をかけれられるカトル先輩。周囲を威圧するオーラを放ち男を寄せ付けない会長と部長、思いのほか楽しんでいる(ようにみえる)刹那とハム。ああこんなに愉快な面子と遊びに来ているなんて、後にも先にももうないんだ!そんな気持ちでいっぱいだった。
プール後はリラックスしたい怜や静乃はマッサージを受けに、ゲーセンで楽しみたいゲー研の面子と生徒会の面子はフルドをやりに行った。代表選手が8人集まっているものだから、取り巻きが集まるものだと思いきや、そうはならなかった。チケットを買ってわざわざここにきている人たちはウェイや大学生が多いものだから、こんなアングラなゲームじゃなくて、プリクラや体動かす形のゲームをやりに行っているのだ。まあ、それはそれでいいんだけど。
遊びつくしたと感じた時、時計を見ると夜七時となっており、さすがに疲れたということでお開きとした。本当に楽しかった!こんなに楽しいのはもう後にも先にもないんじゃないかと思うくらいには楽しんだ。強いて嫌な気持ちになったのを上げるとすれば、マッサージを受けた後寝ていた静乃を起こす際、視界に近寄りがたい大柄な男がちらついたことくらいだろうか。男は静乃をちらちら見ていた気がするし、危険だなあとは感じた。寝ている静乃はそれこそ、バッドポイントの腐った目が閉じられているため、美少女そのものである。静乃が起きた時、いくら隣に怜がいるとしても、無防備な姿をさらさないようきつく言っといた。
家についた時、有希と俺はリビングに寝転んだ。あまりにつかれた、寝させてくれ…と心の中に思いつつ。さすがに叔父さんにたたき起こされ、自分の寝室にふらつきながら戻った。部屋に入ると、竜崎がなんかにやにやしながらこっちに向かって何か言った気がするが、よくは覚えていない。
「今日はいいことあったよね。明日はもっといいことあるよね、ハム太郎?」
「誰がハム太郎じゃ」
そんな糞みたいなやりとりをし、俺は眠りに落ちたのだ。