7月19日、俺はキモタク先輩とオタクショップを練り歩いていた。特にほしいものはなかったため、何か目新しいものはないかを見て回るだけであった。疲れ果ててとある喫茶店に入ってアイスコーヒーを飲んでいた時、ある女性グループが店内に入ってくるのが見えた。俺はキモタク先輩が気付く前に彼女らをなめまわすように観察していた。黒髪ロングのクールな女性、ツインテニーハイのオタクを殺しに来た格好の女子、金髪サイドポニーのインテリ系女子、活発元気っ娘、文学少女っぽい娘、あっけらかんとしたサバサバ系女子。そんなハイレベル集団の中に紛れる――いや、むしろ軽く浮くくらい異彩を放つ、ダウナーな雰囲気を出している陰気くさい女子がいた。なにより目が死んでいる。なにか心に深い闇を抱えているのかと思うくらい生気がない。だからか知らないが……やけに気になった。それに、目は腐っているがそれ以外は上玉に見えた。ファッションやスタイルは俺好みだった。でも――あの中ではやっぱり黒髪ロングの女性が一番好きだな。
俺がなんて結論を出したくらいに、キモタク先輩があの集団に気付いた。キモタク先輩は典型的な童貞オタクだ。童貞を殺す服を着たエロマンガなんてみた日にはごみ箱がシコティーでパンパンになるくらいである。だから、案の定ツインテニーハイの女の子に目を奪われていた。俺はキモタク先輩を利用して彼女らに近づけないかと思いつつ、キモタク先輩の話に耳を傾け、かつキモタク先輩をそそのかしてその気にさせた。
作戦を決行したが、キモタク先輩は謎の男に蹴り飛ばされ、俺は狙ってた女性になにかされて、意識を失った。目を覚ましたとき、眼前には不敵に笑うその女性がいて、本能的に逃げていた。そのさなか、背中がやけにジンジンしていたから、多分”物理的に”投げられたんだろうと、自信に起こったことを考えていた。あの時の事は忘れたくても忘れられないだろう。
7月29日、俺は友達のつてで、新規開店するアミューズメントパークのスタッフとして働いていた。もともと別店舗で働いていたが、ここに新規開店するとき、平からバイトリーダーへとランクアップして赴任したのだ。この日、オープン記念ということで非常に込み合い、仕事に明け暮れていたのだが、マッサージルームの見回りに来ていた時、ふと非常に可憐な女性に目が留まった。白に近いグレーの髪色を持つ、色っぽい女性が、金髪ロングヘアーの頭のよさそうな女性にもたれかかって寝ていた。長時間見ていると怪しまれるので、俺は速やかに自分の作業に戻ったが、それでもちらちら目で追ってしまっていた。この時、ある既視感を覚えた。どこかで見たことがあるような――――
気のせいだ、と思いこの場を去り別のフロアの見回りに行こうとしたとき、ある男が彼女らのところに向かっていった。眠っていた女性は目をこすりながらゆっくり男の方を見た。その瞬間、俺はすべてを思い出した。
「あの女……俺がナンパしたグループの中にいた陰険な女じゃないか……」
ぽつりと思わず声が漏れる。俺ははっとして、すぐにこの場を去った。道中、じっくり彼女らを見ていた大柄なおっさんがいたため、視線を離させるために無理やり声をかけた。
「何かお困りなこととかはございますでしょうか?」
「ん?いえ……いえなにも」
おっさんはそういってこの場を後にした。これも仕事の一つ。さっきの男、何気にこのおっさんの事を見ていたしね。お客さんが喜ぶことをしてあげよう。なんて、バイトのくせして社員みたいなことを思って、別のフロアに移動した。
「……目を瞑っていれば美少女なんだ。俄然興味がわいてきた。いったいどんな人なんだろう。後で友達に頼んで、会員証から本名と住所を割り出そう。男直紀、一度話してみたい。」
俺は最低の職権乱用を思い立ち、シフトの終わりまで働いた。
しかし、彼女の会員証のデータは見当たらなかった。おそらく彼女は会員証の要らないタダ券でやってきた客なんだろう。
俺の最低な思惑は不発に終わり、嬉しいやら残念やらで複雑な感情を抱いて、パークを後にした。
――今思えば、これが、あの不敵な男の誘いに乗って、あんなことをしようと思ったきっかけだったのだろう。