タマゴのカラを割らないでっ!   作:すうどんたくろう

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1-1-2 セクハラ糞野郎

 「っ・・・・・・!」

 

 ははは、俺の部屋を見て息をのんでいるぜ・・・・・・ポスターやらタペストリーやらはクローゼットの中に保管しているからいいものの、何段にもなっているガラスケースに飾られている大量のねんどろいどたちはどうにもならない。彼女は俺のねんどろに目を向け、近寄ってまじまじとねんどろたちを見始めた。そうした後俺の顔を見て、血の気が引いていくような表情をした。

 

 「やめてっ!そんな悲しい目で俺を見ないでっ!」

 「だってさぁ・・・・・・ねぇ。・・・・・・それとも言葉で表現してほしい?」

 「・・・・・・いや、いいです。」

 

彼女は頷き、俺の椅子に座った。俺も立ちっぱなしはアレなので、ベッドの上に腰かけた。

 

 「まずは自己紹介からかな。」

 

そういうと彼女はかぶっていたフードを脱いだ。そのとき、どういう原理で隠れていたのか知らないが、肩くらいまでの横ポニがたなびいた。つか、よく見るとなかなか可愛い顔して――――いやなんだこの美少女!?本当に人間か?三次元もなかなかやるじゃんね。

さらに特筆すべきは彼女の服装だ。上はパーカー、下はミニスカートであり、パンストとかレギンスを身に着けているわけではなく、艶やかな生足が晒されている。少し細めのすらっとした太もも。ムチムチこそはしていないが、これはこれでスケベだなぁ。しかも、彼女は椅足組んで座っているからさ・・・・・・見えそう!あれが!アレが見えそうなんですよ!

でもっ・・・今から重要な話が始まるのにっ・・・・・・そんなよこしまな感情を抱いていちゃあまずい!俺のマグナムが反応してはまずいんだ!

 

 「・・・・・・ねえ君、どうしてそんなに体勢が低くなっているわけ?」

 「ちょっと腹筋のトレーニングをしたくて。」

 「なんか挙動不審ね・・・・・・まあいいわ。」

 

不審がっていたが、めんどくさいのかさらりと流した後は、それっきりだった。

―――――やばいやばいやばいやばいやばい、女性のブラックスポットを見たいがために姿勢がどんどん下がっていってしまったゾ!幸い彼女は事の真相に気付いていなかった。もし知られていたらどうなっていたことか・・・・・・考えるだけでも恐ろしい。

 

 「私は榊怜。苗字はあまり好きじゃないから怜って呼ぶこと。あと、下の名前はトキとも読めるけど、違うから。レイだから間違えないでよね。」

 「わかった。 俺の自己紹介っている?」

 「いや、ある程度の事は分かってるからいいよ。それよりも・・・・・・」

 

 怜は一泊おいて、大きく深呼吸をして、

 

 「あんた、来るの遅すぎ。おかげで肩はびちょびちょ、足だって濡れてるし・・・・・・スニーカーソックスだったからまだいいけど、二―ハイとかならもっと大変なことになってたわよ・・・・・・」

 「すまんな、雨があまりにひどくて足取りが重くなってしまった。」

 「まあしょうがないか・・・・・・ごめん、気持ち悪いから脱いで乾かしていてもいい?」

 「ファッ!?」

 「いや、気持ち悪いってあなたのことじゃないわよ?そりゃまあ、この部屋は気持ち悪いけども―――――そうではなくて、濡れた靴下はいてると張り付いて不快じゃない?」

 「ああ、そういう・・・・・・」

 

 俺はストーブに電源を入れ、彼女の靴下を受け取ろうと手を差し出した。すると、流されるまま怜は俺にそれを渡してきたので、靴下を丁寧に丁寧に広げてストーブの前においた。

 

 「いやなんか手を差し出してきたから思わず渡しちゃったけど、何もあなたにお願いするつもりはなかったし・・・・・・あと、ちょっと動作が気持ち悪いわよ。部屋もきもい、態度もきもい、ほんと、なんでこんなヤツの周りに女の子が集まるのかしらね。」

 「フヒヒ、サーセンwwwww」

 

 俺はキチガイスマイルを華麗に決めると、側頭部に強い衝撃が走った。一瞬何が起こったのかわからなかったが・・・・・・座っていたはずの彼女が立ち上がっていることから・・・・・・どうやら俺は蹴られたらしい。本来ならキレているが、不思議とそんな気持ちはわかなかった。この気持ちは何だろう。目に見えないエネルギーの流れが、彼女の足から伝わってきたのかな。

 

 「その顔すっごくイラってきたからブチかましてやってけど悪く思わないで・・・・・・うぇ、なんかあなた蹴られて喜んでない?」

 「そそ、そんなことはないぞ、俺はマゾじゃないからな!それより何か話があるんじゃないかな!」

 

 変な流れを作ってしまったから、強引に流れを断ち切った。ぶつ切りではあったが、彼女も早く話を進めたかったのか、またもや華麗に流してくれた。

 

 「じゃあ本題に移るわね。遼は昨日、神様とかいうひとから『周りの女性との関係がリセットされる呪い』の説明を受けた。年末までに彼女を作らないとその呪いをかけられてしまう。そこで、神様は遼の彼女づくりのサポートをするといった。ここまでは大丈夫?」

 「いきなり呼び捨てか・・・」

 「だってまだろっこしいじゃない。ダメだった?」

 「いや、別にダメではないよ。」

 「じゃあこれからも“遼”って呼ぶわ。・・・って、話がそれちゃったわね。 そして、サポートの一つである《告白券》の説明を受けて――」

 「ちょっとまて、説明なんて受けてないぞ。」

 「・・・はい?」

 

怜は目を丸くしている。そして数秒固まった後

 

 「ええええええええぇー!あの人説明してないの!」

 「だからそういってるだろ。なんなの、その告白券って。お前知ってんだろ?」

 「まあ、そうだけどさ・・・」

 

なんでこいつの顔が赤くなっているのだろう。そんなに恥ずかしいことなのか?

 

 「・・・わかったわ。私も腹をくくるわ。」

 「で、その告白券というのは?」

 「それはねぇ・・・」

 

怜はそういうと彼女のカバンから一枚の便箋を取り出した。淵にはきれいにイラストが描かれてあり、いたって普通な、どこにでも売ってそうなものである。

 

 「その便箋が告白券っていうものなのか。」

 「ええ、この便箋に相手の名前を書けば、『14日間、その相手はずっとあなたのことを好きなままでいる』という代物なのよ。」

 「・・・・・・・・・はあ。」

 

俺は素っ頓狂な返事をした。だってそうだろう?とある漫画みたいな、名前を書けば思いのままみたいな、そんな設定出されて。はいそうですねとはならないでしょうよ。

ただ、俺が返事をしたことに嬉しくなったのか、少し得意げな顔で怜は話をつづけた。

 

「理屈を説明すると、この便箋は相手の好感度を強制的に底上げするものなのよ。そして、ここに名前を書かれた相手からの好感度はよほどのことがない限りは下がらない。たとえば、好感度を数値で表すとして、告白権使用前のA子さんからの好感度が20とする。彼女になるために必要な好感度が150だとして、便箋にA子さんの名前を書けば、その好感度は300くらいまで跳ね上がるのよ。そして、効果が切れると、告白権によって底上げされていた好感度が差分ひかれる。つまり、300近くまで上がっていた好感度が20に戻るってことね。・・・・・・まあでも、2週間も過ごしていたらさ、常識的に考えてある程度は好感度が上がっていくでしょ。そのとき、今までの好感度+一か月間で増やした好感度が、ある閾値を下回っていたら相手側の記憶の消去が行われる。ただ、このとき消されるのは効果の続いた期間だけの記憶ってこと。逆に、閾値を上回っていたら記憶を保持するか消去するかどうかを選択することができる。まあこのシステムは親しくなった相手と今後も関係を保っていくためのものってことね。」

 

うーん、よくわからん。好感度の数値化なんて考えもしなかったからな。てか、そもそも相手の好感度を日々考えて生きている人なんて・・・・・・いやそれはいるか。

にしても気になった点がある。

 

 「記憶消去って・・・どういうこと?使用者との時間が消えるってことは、一緒に過ごしたその部分が消える。つまりは空白が生じるってこと?」

 「・・・ごめん、言い方をちょっと間違えたわ。記憶消去というよりは記憶の改竄って言ったらいいのかしら。イメージとしては、被使用者は使用者については白い靄がかかって思い出せなくみたいな感じかしら。具体的にいえば、街に遊びに行ったりしたけど、そばにいた人の事は思い出せない――――――みたいな感じ。コミックで例えるなら、ホワイトをかけたような感じかな――――――――――あと、このとき、記憶の改竄が行われるのは当事者たちだけじゃなくて周りにも作用、つまり、告白券使用者が、被使用者と交際していたという事実を知っている人たちすべてに作用するから。」

 「なるほど。」

 

告白権を使って仲良くなり、効果が切れた時、相手がすべての記憶を保持しているとなると両方において気まずい。それを何とかするための処置なのか。

などと考えていた俺の頭に、ふとあることが思い浮かんだ。

 

 「つうかさ、最初にいっていたけど、好感度がそんなに上がるってことは…それってかなりべた惚れじゃねえの?」

 「そうよ。名前を書かれた相手はでれっでれになる。」

 「つまり、ここにお前の名前を書けば、俺にべた惚れになるんだよな?」

 「そうだけど、激しく、激しく勧めはしないわね。」

 

急に血相を変えて念押しをした。

 

 「すまんすまん、軽い冗談だよ。」

 

怜は軽くため息をついて、

 

 「・・・・・・で、あくまでも告白券は交際のための練習なのよ練習。本番ではないの。一部の行動には対応していないのよ。」

 「ふうん、その行動とやらは。」

 「それはその・・・」

 

怜は縮こまった感じで口をもごもごさせて

 

 「え・・・・・・・・・エッチなこと・・・なんだよね。」

 「なになに、なんだって?」

 

難聴系男子を気取ったわけでなく、本当によく聞こえなかった。

 

 「エッチのことなの!!」

 

怜は真っ赤な顔で俺をにらみながらそう言った。

 

 「その・・・・・・男の人のアレが膜に触れちゃったら、その時点で告白券の効果は切れるのよ。それだけじゃなくて、相手の記憶から自分に関する記憶が破壊されるのよ。」

 「うおぅ・・・・・・そりゃあきっついな・・・・・」

 

女の人が膜とかアレとか言うのってすっごくエロくて、しかも恥ずかしながら言うのってさ、すっごくそそるよな。俺がまるで言わせてるみたいでさ、背徳感がやばいぜ。

にしても、また疑問がわいてくる。

 

 「でもよ、たとえ効果が切れてもさ、もう入れる寸前なんだから女性側としては抵抗できないんじゃ・・・」

 「そう。告白券の効果は切れているけど、もう寸前だからよっぽどのことがない限り挿れられるのは避けられないわね。」

 「ふうん・・・・・・その場合ってさ、女性視点からだとさ、いきなり知らない男に犯されそうになっているわけじゃない?そうなったら女性側があまりにも悲惨じゃないか?人権が守られてないっていうか・・・」

 

そのとき、怜は一瞬呆気にとられ顔をしていた。

 

 「確かに―――――そう――――――でもまあ――――――――犯そうとしている側は強姦罪で捕まるだろうし、私たちからの制裁もあるからいいんじゃない?」

 

な、なんかやけにあっさりしてるなこいつ・・・てかさらりと制裁とか言ったな。

 

 「男が強姦罪などで捕まる。これはあくまでも、この世界での制裁でしょう?神界での裁きがこれで済むわけないじゃない。」

 「な、なるほど・・・」

 

一瞬、オーラが、怜の身に、いや、覇気と言ったらいいのか、とりあえず恐ろしくて何も言えなかった。というかさらっと神界とか言ったぞ?そんな世界が存在していたのか?

でもまあ、突っ込むのもあれだし、確証もないし、スルーしとこう。

 

 「家畜の様にさせたくなければ、自分もひどい目にあわされたくないのなら、責任を持ちなさい。」

 「り・・・・・・了解!」

 

その場で敬礼してしまった。座りながらだけど。

 

 「ちなみに、あくまでも、膜に触れたら記憶消去だろ?てことは触れさせなきゃいいわけで……つまり、手コキ、足コキ、フェラ、素又とかはセーフなのカッ?」

 

そのとき、俺のみぞおちに右フックが直撃した。この威力・・・女の子のパンチじゃねえぞ?

 

 「がっ・・・!」

 「信じらんない信じらんない信じらんない!なんてこと言ってんのよアンタは!!」

 「何をするッ!俺は真実を知りたいだけだッ!」

 「オブラートに包んでものを言いなさいよ!」

 「おやおや、よく俺が下ネタを言ったことに気付きましたねぇ。ふんふむ、君はエッチな娘だなぁ~」

 「んなっ・・・あ、アンタって奴は・・・」

 

目じりに涙を浮かべ、顔がもうそりゃあ真っ赤になっていた。

 

 「す、すまん、調子に乗りすぎた。許してほしい。」

 「許さない、絶対にね。」

 「そんなあ!」

 「あたりまえでしょ!そこに正座してなさい!」

 

今は怜を落ち着けることが先決だと思い、言われるがまま床に正座した。床が固くてつらいぜ。

 

 「はぁ。もう話進めるわね。さっき言ったケース、ようは前戯なんだけど、被使用者がカウパーに触れるだけでもアウトになるわね。記憶の消去が行われるわ。手袋などで手を覆った状態で触れてもダメ。」

 「カウパーとか前戯とか言ってて恥ずかしくない?」

 「・・・・・・あなた、一年待たずに殺されたいの?」

 「ごめん。」

 「じゃあ次に移るわね。」

 「その前に質問、『彼女と一緒に満員電車でぎゅうぎゅう詰めになって、彼女の体や匂いに直に触れていたら、ムスコがどんどん固くなって、ズボン越しではあるけど、彼女の体に固くなった俺のムスコを押し当ててしまった』って場合はどうなるの?」

 「シチュエーションがやけに具体的・・・・・・まあいいわ、この場合もアウトになるわね。これを容認しちゃったら、ズボン越しから相手に触らせたりできちゃうし。」

 「き、きつすぎる・・・・・・でもわかった。とにかくヤるなと。」

 「そうね、そうなるわ。」

 「なるほどなぁ。」

 

ふと、とある疑問が俺の中に浮かぶ。その疑問を、何のためらいもなく怜に聞いていた。

 

 「なあ、質問していいか?」

 「何?」

 

 

 「これは処女にしか使えないのか?」

 

 

瞬間、怜は醜い豚を見るときの目で俺を見下げた。

 

 「オ   ブ   ラ   ー   ト   は   ?」

 

恐ろしい剣幕で、腕組みをして俺の前に立っていた。これもっと突き進んだことを言っていれば、きっと踏まれていただろう。生足で。それはそれでいいんだが。

 

 「あ、悪い。」

 「まったく。そう、そうよ。あなたの言うとおり、性行為をまだ経験していない人にしか告白券の効果がでない。だって、これは男性のための交際をするための練習なんだもの。女性の膜が破られるときは、愛し合っている異性との性交の時。つまりは、恋愛経験のある人ってことね。恋愛においての経験者は男性にとっての練習としては不適当。まだ恋愛経験の少ない……いや、性交をするまでの仲に至っていない女性がもっともふさわしいのよ。」

 「【それは違うぞ!】世の中にはなぁ!きれいなお姉さんに筆おろしされるという素晴らしいものがあってだな、そんな経験豊富な女性に教えてもらうことによって男は成長できるんじゃないのか?教育だってそうだろ?知識のあるものがないものに知識を与える。違うか?」

 「ええとその・・・・・・・・・それも間違いじゃないけど・・・・・・・・・」

 

やけに歯切れが悪いな。俺の勝利か?完全論破か?やったぜ!

 

 「と、とにかく!非処女だとダメなの!」

 

顔を真っ赤にして否定する怜は、それはそれはかわいいものだった。強気な女の子、好きになりそうや・・・・・・

 

 「てかあれ・・・・・・?この理屈だとさ、お前って処女になるよな?」

 

そのとき、怜の蹴りが俺の脛に炸裂した。さすがに場所も場所なので、自身の趣味嗜好を考えるより先に言葉が出た。完全な反射行動だ。 

 

 「ってえ!何しやがる!」

 「アンタが変なこと言うからでしょ!しかも…なっ・・・・・・何を根拠に言っているのよ!」

 「根拠?それはだな…ちょっと前に、『ここにお前の名前を書けばデレデレになるんだよな』って聞いたら、お前は『激しく、激しく勧めはしない』といった。もしお前が非処女だったら俺の言葉に対して動じたりはしないあるいは『書いても無駄だ』とか言うだろ。だけどお前はそれをしなかった。それは処女であることを裏付けるんじゃないのか?」

 「―――っ!!」

 

真っ赤な顔をして、こちらを睨んでくる。またも完全論破だぜ!

 

 「まあいいじゃないか。処女でも。むしろ俺は処女の方が好きだよ。ヤリマンよりは清純の方がいいじゃないか。ヴァージン最高!」

 

親指を立てて、俺はさわやかな笑みを浮かべながら、怜を励ましたのだが、怜はまたもや俺の脛を蹴ってきた。さすがに二度目は辛いぜ。

脛の痛みが和らいできたころ、もう一つあった疑問を聞いてみた。

 

 「あと、仮に告白券を使ったとして、相手が自分とかみ合わないってなったとき、相手はでれでれだからまとわりついてくるんだよな?しかも、それをやめさせるにはカウパーかブツを身体もしくは膜に触れさせるしかない。これって無理ゲーじゃね?」

 

怜は大きく、大きくため息をついて、

 

「いやいや、さすがにデレデレでもしつこくまとわりついては来ないから。もしあなたなら、意中の相手の嫌がることをしたいと思う?普通は思わないでしょ?・・・・・・まあ“好きだからこそ苛めたい”って人は例外だけど。」

 

それから怜は「まあでも・・・」と言葉を漏らした。

 

 「『俺にまとわりつくな』なんて言ったら普通は『どうしてそんなこというの?』と返ってくる。そんなやり取りが面倒臭いと思ってしまったとき、強制的に関係を終わらせる方法もるのよ。」

 「その方法とは?」

 「それは、『この便箋を破る』ことなの。その方法をとった場合、相手の記憶からあなたという存在は消される。」

 「お、これはなかなかいいシステムじゃないか!」

 「そう思えるかもしれないけれど、違うわ。『あなたの存在が消える』のよ。跡形もなく。つまり、告白権使用以前のあなたに関する記憶も消されるってこと。そうね・・・たとえば、ある特定の人物についての記憶が貯蔵されている一つのダムがあるとする。ちなみに、ダムが作られるのはその特定の人物を知った時、ダムに水がたまるのは特定の人物についての知識を得た時、ダムが決壊するのは、相手の事を記憶から完全に抹消した時、ただ、それは自らが死ぬ時の場合が多いわね。水がたまる…すなわち相手の事を知るとき――プロセスを説明すると、『現在進行形の相手の記憶・・・めんどくさいから遼についての記憶ってことにしよう。遼についての記憶の水がとある《水路》に流れ、とある《ケース》に一時的に貯められる、そのケースが水でいっぱいになると、ダムに水が移される。』ってとこかしらね。水路に流れる水は濁っていたり澄んでいたりする。濁っているか澄んでいるかは、その時の遼の行動や言動によるわね。この汚さや綺麗さが好感度ってことよ初めは酷く濁っているけれど、その人を知るにつれてだんだんと澄んでいくような感じ。そして、告白券を使用するということは、特殊な薬品によって洗浄し続ける装置を水路に設置する。この薬品を説明するのにはコロイドが一番いいかな。親水コロイドや疎水コロイドに電解質を加えると凝析、塩析を起こすのは分かるわよね?記憶の水の中はその人への不確定要素や嫌悪…すなわち不純物である多数の疎水コロイドが満ちていて、好感度という電解質をたくさん加えることで疎水コロイドを沈殿させ、それを取り除いていくことで不純物の少ないきれいな水へとなっていく。普通なら長い長いプロセスがいるのを、告白券の使用によって大幅に手間を省く。つまり好感度という電解質によく似た別の電解質を作用させるのね。代用すると言ったらいいのかしら。では水路の話の戻るわね。強制的につくられた、一切の汚れのない、クリーンな水がケースにたまっていく。これが、告白券使用時の状態。そして、洗浄が確認されたあと、ケースの外側を不透明なものでかぶせて、ケースの中身をまったく見えないようにする。ここから先はシュレディンガーの猫と同じ原理。猫の上に箱をかぶせて一か月放置、すると箱の中の猫はどうなっているのだろうか。死んでいるかもしれないし、生きているかもしれない。どちらの可能性も取れるから、どちらが正しいかを決めつけることができないってことね。要するに何が言いたいのかって言えば、洗浄が確認されてから覆っているから、対象者が遼にデレデレなのは明白。告白権の効果による洗浄装置は洗浄が確認された時点で撤去され、十四日立つと不透明な覆いが撤去される。ここで箱を開けるのよ。澄みきった水でいっぱいなのか、もしくは汚れた水でいっぱいなのか、この二つの可能性の一方を決める。・・・・・・・・・・さて、さっき私は、電解質が好感度、それの擬似的なものが薬品っていうたとえをしたわね?ふつう塩析したものが再び水和するなんてことはないけれど、この薬品はあくまで電解質の擬似的なものにすぎないので、2週間たてば性質が変化するのよ。リンで例えるなら赤リンが黄リンに変化するみたいな感じね。つまり毒性を持つものに変化するのよ。急に毒性のあるものに変化し、その毒は“遼の存在を隠す”もの。この毒がダム全域に作用することによって、記憶操作が行われるってことね。しかも、イオン結合は簡単にははがれないから、よほどのことがない限りその記憶は隠され続ける――――――――本来ならこれでいいのだけれど、最初に言った“記憶破壊”・・・これをシュレディンガーで例えるなら、猫にかぶせれられている箱を亜空間に放り込むみたいな?ダムの説明だと、ダム自体を破壊する。漫画で例えるなら原稿に黒インクをぶちまけるとか、要するにイレギュラーな行為。相手にはどんな障害が出るといえば、まず一緒に過ごした期間の記憶が完全になくなり、記憶破壊の反動で遼と過ごしてなかった時の記憶がかき乱される。正常に終了、普通に十四日間を終えればあなたとの過ごした日々は“思い出せない”のだけれど、今回のケースなら“わからない”のよ。これは記憶喪失と何も変わらないわ。しかも悪質なことに、記憶喪失以外に人格障害も発生する可能性もある。そこが恐ろしいのよ。そしてダム自体を破壊するのだから、そこに貯められていた遼に対する記憶の水は四方に流れ出す。記憶が貯められていたダムがなくなるわけだから、当然遼に関することは脳味噌から抹消される。―――――これでわかった?」

 

見て取れるほどドヤっている怜ではある。ふんすと気取っている。しかし、こんな長い説明、しかもたとえが多すぎてよくわからなくなっている。わかれという方が難しい。

 

 「・・・・・・わけがわからないよ。」

 「・・・え?」

 「まじです。」

 「はぁ・・・・・・一回で理解しなさいよまったく・・・・・・話すのもけっこう疲れたんだから・・・・・・」

 怜は見るからに疲れていた。まあ長い説明に加えて、それを理解されてないんだから無理もないか。まあそうやって俺が考えているのも問題ではあるが。

 「限定的な記憶喪失、人格障害の可能性があるから絶対するなってこと。」

 「おお、やっとわかった!てか最初からそう言えよ。」

 

俺はけらけらと指さして笑うと、彼女は鬼の形相になった。

 

 「・・・うるさいっ!」

 「ひぃっ・・・」

 

気圧されてたじろいでしまった。

 

 「まあほかにもまずいことはあるんだけど……このケースは絶対にありえないから説明は不要かな。」

 「ふう・・・ん?まあわかった。」

 

俺がそう言うと、怜は話疲れて、椅子にもたれかかってぐったりしている。

 

 「話したかった内容はこれだけ?」

 

怜はぐったりしていた状態のまま声だけ向けてきた。

 

 「これだけって・・・・・・これだけでこんなに疲れるなんて思わなかったは。あなた、なんなの・・・・・・いや、まって、もう一つ大切な話があったわ。」

 「ほう、それは?」

 

怜はカバンの中から一つの袋を取り出した。触らせてもらったが、ビニールとも何とも言えない不思議な素材でできているものだった。

 

 「何これ?」

 「まあ、見てればわかるわ。ちょっとコレ借りるわね。」

 

怜はそういうと、ガラスケースをおもむろにあけ、棚に置いてある初音ミクのねんどろいどを手に取って、

それを、袋の中にぶちこんだ。

 

 「ちょっ、おまっ・・・いきなり何してんだ!」

 「まあ見てなさいって。」

 

訝しげに見ていたら、突然、その袋が縮みだしてミクさんに形どられて、そして突然光りだした。すると―――――

 

 

 「やっと起こしてくれたか・・・・・やれやれ、待ちくたびれたよ」

 

 

腕を組んで呆れた様子で、

ミクさんのねんどろが藤田咲ボイスでしゃべりだした。

 

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