〜怜side〜
みんなとプールを楽しんだあと、色々なアトラクションをやり、最後に私は静乃と2人でマッサージルームにむかった。正直なところ、プールくらいしかまともに楽しめていなかった。というのも、この世界の娯楽と私のいた世界の娯楽とはやはり違っていて…勿論、新鮮味はあったけど…
そんな思いがあったから、マッサージルームがあると聞いて嬉しかった。どんな世界であれ、体の疲れを取り除くことは共通であると思ったからだ。だから、私はそこに向かった。休養できるチャンスを得たのだと……
加えて、仕事の進捗のチャンスも得た。休みたがっていた静乃もついてきて、彼女と2人きりになることができたのだ。私は遼に恋人を作らせないといけない。加えて、“その恋人が誰であるか”を把握しないといけない。今日、私や会長たちがプールで遊んでいる最中、2人がいない時間帯があった。そこで何か好感度の変動が起こったかもしれない。バラバラに行動していたとは思えないしーーーもしそうだったとしても、彼女の遼に対する思いがわかるかもしれない。このチャンスはものにしないといけない。
私たちはマッサージチェアに座ってリラックスしていた。私の世界のマッサージとはかけ離れていて寂しさを覚えたが、これもなかなか気持ちよかったのですぐにそんな思いは吹き飛んだ。ちらりと静乃に視線をやると、目を瞑って恍惚な表情をみせていたのがわかった。その姿はあまりに美しく、このとき改めて彼女の失われた魅力を認識した。
「ほんと、目を閉じていれば可愛いのね…」
「…それ、よく言われるよ。」
「ああいえ、ごめんなさい。決して目を開けるとダメだとかそんなんじゃないんだけど…でも、その目ってどうにもならないのかしら?すごく勿体無いと思うわ。」
「別に好きでこうなったわけじゃ…前までは直そうと思ったさ。でもだめなんだ。何しても治らなかった。きっとストレスが原因なんだろう。でも今は治らなくていいとは思ってるよ。ぼくの目が腐っていたら、厄介ごとも飛んでこないのさ。それこそ、小学生の頃なんてこんな目じゃなかったから、面倒ごとがたくさん降ってきてね…」
「その口ぶりってことは、そんな目になったのは中学から?」
私がその質問を投げかけると、静乃はうーんとうなり、それからしばらく何も言わなかった。
「まあ、そんなところかな。」
それから会話はストップした。きっと踏み込んで欲しくないことなんだろう。そう思ったから、ここで深入りするのはやめておいた。遼の恋人作りは長期戦だ。それに、彼と親しい人が恋人候補であることは間違いない。今ここで彼女と私の中にひびが入るのは避けたい。ひびは、たとえ接着しても、再度負荷がかかると同じところからひびは進展する。だから、深入りはしないんだ。
マッサージを終え、近くのベンチに私たちは座っていた。だんだんと眠気が私を襲い始めた頃、
「…楽しかった?」
静乃はふと私にそんなことを聞いてきた。
「…本当に、本当に楽しかったわ。静乃は?」
「ぼくは…うん。楽しかったよ。普段のだるがりのぼくなら、こんなとこ絶対来ないだろうしね。いい経験だった。」
そう声を漏らした静乃からは、ふだんの気だるげな気持ちに加え、別の気持ちが混ざっているように感じた。
「……さっきね、この目を治すつもりはないのかっていったよね?昨日まではさっき言ったように思ったさ。でも、今日ここにきてちょっと考えが変わった。プールにいたとき、ぼくは周りから関わって欲しくないと思ってサングラスをかけ目を隠していた。サングラスをかけた人間にズカズカ話しかけてくるなんてないって思ってたけど…するとどうだろう、人が寄ってくるじゃないか。不快な気分になったが、そのおかげか、意外なやつの意外な一面も見ることができた。悪いことばかりじゃない。そう思えたから、多少はましにしたいな、なんて思ったりもした。一瞬だけだけどね…」
それは長い独り言のようだった。私はかける言葉が思いつかなくて、しばらく考えていた。そして思いついて話しかけようとしたとき、肩に静乃がもたれかかってきた。すやすやと寝息を立てていて…そんなに疲れていたんだ
私はみんなが迎えにくるまで寝かせてあげようと思い、彼女を起こさなかった。彼女の先の口ぶりからして、プールで何かあったんだろう。そして、それには遼が関係している。進捗は見られたのだと思うと、安堵が私をつつんできた。ただそんな中ある楔が私をチクチク刺激する。静乃のこの目、一体何なんだろう?隠すだけで人が来る。逆に開いていれば人を全然寄せ付けない。何が彼女の目をそうさせたのだろう。そんな疑念の楔が抜けぬまま遼を待つこととなった。