ぼくは思わぬ状況に、指に挟んでいたタバコを落としそうになったが、必死で平静を取り繕った。ぼくを知る人にこのことがばれた。ということは、ぼくは今後……。破滅願望を抑えるためのニコチンチャージ、だから実際に破滅したいわけではない。だが、今までやってきたことを考えれば、当然の結果だろうか。ああ、やってしまった……
「……?どうしたんですか。吸わなくていいんですかそれ、先が幾分灰になってますよ。」
「え、あ、ああまあそうだね…」
ふとタバコの先を見ると、4分の1が灰になっていた。やはり動揺していたのか、灰を落とすのを忘れタバコを口に運ぶ。案の定、灰はその動作の過程で落ち、衣服についてしまった。いやな考え事をしながら吸うタバコの味は、よくわからなかった。
「にしても他に吸う人がいてよかったです。なぜだかみんな吸わないので……」
「え、キミ何を言って……」
彼…神前鬼道はそういうと、ぼくの隣に座り、さも吸うことが当然かのように制服のポケットからタバコを取り出し、何食わぬ顔で吸い始めた。そのタバコの箱は見たこともないものであった。
「―――――うん、やっぱり夜に吸うこれはたまりませんね。……萩原先輩も同じ趣味があったなんて嬉しいです。」
「いやまあ、この年で吸っている人なんてそりゃいないもんね……って、一つ聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
「なんでしょうか。」
「ぼくと君って初対面のはずだよね?―――ああいや、ぼくは君のことを一方的に知っているんだけど。あの生徒会の一年生となるとね。でもなんで君はぼくのこと知ってるの?」
「…………まさか、萩原先輩って自分の置かれている状況をうまく把握していないのですか。あの人気の会長と仲良くご飯を食べている。加えて人気のある中河先輩の親友となると、意外と知られるものですよ。一年生の間でも、名前だけは知っている人とかそこそこいますよ。」
……確かに、そりゃあ緋色先輩と刹那と仲良くしてるけど、まさかぼくまで名前が知られていたとは……。不気味に感じていた部分が晴れ、加えて彼もスモーカーであったことから安心したのか、先ほどよりもタバコの味が格段に良くなった。
「まあそれと、会長のご趣味と同じものをどうやらされているみたいなので……ほら、会長って動画投稿サイトに楽曲投稿してるみたいですよね?」
「……そのことは会長から聞いたのかな?」
「そうですね………利害の一致といいますか、自分も似たようなことをしているので。それに、近々会長があなたを紹介してくれるみたいなことをおっしゃっていたので…」
会長が自分のやっていることをしゃべるなんて、よほどのことがない限りない。この男は、そのよほどのことをさせるだけの何かがあるらしい。てか、会長がぼくを紹介するってどういうことだ。―――――いや、そんな話もしてたな。たしかなかなかのドラマーを紹介してくれるみたいなことを…
「…………じゃあきみがドラム君?」
「………まあそんな認識でいいと思います。」
「ああーなるほど理解した。会長が言うほどの腕前、今度見せてもらうよ。よろしくね。」
「こちらこそよろしくお願いします。萩原先輩。」
「では友好のしるしといったわけではないけれど…」
ぼくはそういうと自分のタバコの箱から一本取りだして、
「そのタバコとこれ、一本交換しない??そっちのも吸ってみたくて。」
どう考えてもJKのセリフではない最低な取引を持ち掛けていた。
ドラム君のタバコははっきり言って旨すぎた。今までのタバコは害のあるものだが、これに関してはむしろ健康にいいのではないかと錯覚させるほどのおいしさだった。そんなおいしさに慣れていたのか、ドラム君はぼくのタバコを吸ってせき込んでいた。だけれども、「意外とありだな…」とつぶやきが漏れ、結果フィルターのぎりぎりまで吸い尽くした。ぼくたちはやっている趣味が似ている部分があり、意外と話が弾んでしまった。ドラム君は壇上では無口な印象を受けたけど、実際話してみると全くしゃべらないわけではない。まくし立てて話すタイプは苦手な人種だが、そうではなく、適度な沈黙がうまれるため、非常に心地よかった。クールにしゃべるその姿は、悪いものではなかった。
「……そうだ、連絡先教えてもらってもいいですか?今後のことを考えて。」
「いいよ。何がいい?メアド?LINE?」
「それでは…メールのほうでお願いします。LINEはやらないので。」
へえ、と思った。スマホを使ってるくせしてLINE使わないんだなと。なんでなんだろ、既読システムが嫌いなのかな。確かにメールなら、読んだか読んでないか全くわからないからね。なんてことを思ったとき、ふと昨日のことを思い出した。遼も無視したわけじゃなく、見てないだけなのかもしれない。もっとも、確かめる手段はないが、ぼくも変に凝り固まっていた。反省すべきかもしれない。でも、5日のことが解決したわけではない。早く解決させないと………ってそうだ。有希に聞けば簡単じゃないか。さっさとそうしときゃよかった。
メールアドレスをドラム君に見せている間、ぼくはそんなことを考えていた。家に帰ったら、有希にLINEで聞いてみよう。
「……よし、これで完了です。ありがとうございました。ではまた後日メールしますね。」
そう言い残して、ドラム君はここから去ろうとした。なかなかに楽しい時間だった。
―――――――――あれ、ちょっと待って。
冷静に考えておかしくないか。いま夜の10時だよね?生徒会はないはずだし、てかそもそも夏休み期間だから……
不自然極まりないこの状況に、冷や汗が出、気が付いたら彼の腕をつかんでいた。
「……どうしました?」
「いまさらなんだけども、なんでこんな時間に制服着てこんなところに一人で来たの?タバコ吸うだけなら喫煙所でもできたよね?わざわざなんで……?」
「………………」
一瞬、彼の眼が鋭くなったように見えた。が、先ほどのすまし顔に戻り
「………夜の散歩、割と好きでやってるんです。たまたま知ってる人がいて、おかしなほうへ進むもんだから、ついて行ってみただけですよ。制服だったのは、学校に忘れ物があったのが、一週間後初めてわかってとりにいったからですよ。………ね?大したことじゃないでしょう?」
思いのほか普通だったので拍子抜けしてしまった。
「そっか……でも、そうだね、尾行はよくないと思う。一歩間違えればストーカーだから注意したほうがいいよ。もっと早くに声かけれくれれば、こんな汚い部分を見せずに済んだのに……まあいいや。話は変わるけど、タバコに関する話はほかの人に絶対しちゃだめだよ。なんでかしらないけど、どうやら君にはその辺の常識が欠けているみたいだしね……」
「……肝に銘じておきます。それでは―――ああいや、先輩は帰らないんですか?途中まで一緒に行きましょう。さすがにこの時間で女性一人はよくないでしょう?」
彼はそういうと彼の腕をつかむぼくの腕をつかみ、引っ張り上げた。力は意外とあって、簡単に引き上げられてしまった。
「……なら、途中までね。」
ぼくは暗い公園を彼と二人で並んで歩いた。結局、彼は家まで送ってくれた。
ぼくは手についたタバコのにおいを落とすため、手洗いを済ませた後、机に向かい数時間勉強して、眠りについた。
家に帰って何かする予定だったはずだが、そんなことは忘れてしまっていた。