8月13日 木曜
「んあー暑いぞ…」
「ねー……あー上も下も一枚なのにー…」
バイトも休みで、勉強する気にもなれなかったので、こうしてぐうたらリビングに寝転がっている。俺は半袖短パン、有希はパンツルックにノースリーブというなんとも大胆な格好である。というか、有希も寝転がっているから、大事なところがチラチラ見えてるんだが、さすがの俺も家族には欲情しない。そう、俺は鉄の心を持っているのだ。けれど、そんな鉄の心を持つ俺も、他の女の子にはちと弱い。そう、例えば、もう一人の女の子の柔らかな肢体をじっくり眺めることができるベストポジションを取ってしまったりだな……
「………ねえ、私が遊びに来ていること、忘れてませんか?どちらもだらしなさすぎじゃあ……」
そう、有希が呼んだことにより、柄谷がこの場にいるのである。有希が暇を持て余しすぎて、試しに声をかけてみたら、あいつも暇を持て余していたそうで、この通り。最初はゲームしたりしてたのだが、一時間で飽きて、今に至る。彼女はソファの上でぐでっとしている。けれど、有希と違いワンピースを着ているので、脚は晒していない。けれど、腕は晒している。ーーーそう、脇を晒しているのである。俺は脇フェチではないが、嫌いではないジャンルだ。ゆえにこうして、奴に不審がられない程度に視線をチラチラと向けている。くう〜〜眼福!この思いが知られたらいろんな人に社会的に殺されるね。
「いやーほんと、こんな格好は栞ちゃんくらいにしか見せられないな〜」
「……先輩はいいんですか?」
「あーね、いちいち気遣ってたら私の身が持たないというかめんどいというか、だから、考えないことにしたのさ。誰にでも欲情する変態ならともかく、流石に家族に欲情するような人ではないでしょ。もしそんな人なら、私の下着とかがいつのまにかなくなってたりするわけだし?けど、そんなこと今までなかったから、きっと大丈夫……いやさすがに、裸とか見られるのは嫌だけど。」
「有希、俺の特性をわかっているじゃあないか。えらいぞ、褒めてやろう。」
ナデナデでもしてやろうかと思ったが、そんなことすると有希は本気で嫌がるだろうし、何より暑すぎることによって何もかもが面倒臭く思え、結局声だけ飛ばした。
「うっわ気持ち悪い。褒めなんていらないよ。……あー暑い。暑いからもうどうでもいいや。兄さん、アイス買ってきてよ。」
「いいですねー…私、ガリガリくんで妥協しますよ。」
なぜ俺がおごる前提で話が進んでいるのか。それになぜ柄谷は奢られる身なのにこんなに上から目線なのか。いろいろ思うことはあったのだが、思考の果てに行きつくのは“めんどくさい”という感情。
「………だるい。だるいが………今日は柄谷が来てるから……行ってやろう。可愛い後輩のためだ……」
「かわっ………うーんもうどうでもいいや。とりあえずお礼言っておきます。ありがとうございます。」
俺はぬるりと立ち上がり、リビングを出た。
コンビニは歩いて10分弱の所にある。雲ひとつない空から太陽光が届き、加えてアスファルトでその光を反射させ、溶けそうなほど外は暑かった。いくらめんどくさいとはいえ、こんな灼熱地獄にいたら茹で上がってしまう。初めてめんどくさいから何とかしたいという気持ちが上回り、ここから抜け出したい一心で、俺は駆け出し、結局5分で着いた。コンビニ内は冷房がガンガンかかっていて、かいた汗が急激に冷やされ、むしろ寒いくらいであった。アイスを買おうとアイス売り場に向かうと、そこには見慣れた人がいた。その人は俺に気がつくと、まさかこんなところであうとは、と嫌そうな顔をしてこちらに話しかけてきた。
「そのセリフは昨日も言われたんだよなあ静乃さんよ。」
昨日のアミューズメントパークに行くとき、静乃と駅で待ち合わせしたが、結局駅までの道のりは同じだから、途中で出くわしてもおかしくない。ゆえにばったり集合場所よりもっと手前側で出くわしたのだった。ちなみに、昨日のきれいな恰好とは打って変わって、静乃はTシャツにジーンズという究極にリラックスした格好であった。・・・・・・これってつまり、昨日の格好はよそ行きの格好というか、おしゃれしてたってことだよな?俺と出かけるときはまともな恰好をしようという気持ちになっていただけあって、俺は多少うれしくなった。ぞんざいに扱われていないからであろう。
「あれは…まあいい。」
そういうと静乃はアイスケースに視線を戻した。右手を唇に当て、左手は右ひじに当て、唸りながらアイスを選別しているその様は、まるでケーキ好きの女の子がどのケーキにしようか目をキラキラさせて眺めている構図によく似ていた。まあ奴の場合目は腐り切って――――――――まあ昨日の今日だからましにはなっていた。でも一晩立てば戻るもんなんだなと改めて思った。それだけ眼を腐らせる事件が重かったということなのだろうか。―――――目はさておき、表情のそれ自体は悪くなかった。なんてことを思うのは、俺が静乃のことを知らずのうちにまじまじと見ていたからである。無意識の行動であった。―――――そして、そんなにジロジロ見られると、奴も気づくのである。静乃は再びこちらに向き合った。
「……なんかぼく、おもしろいことしてた?」
「いや、なんでもない。ぼうっとしてただけだよ。」
そういって誤魔化し、俺もアイス選びをすることにした。なんで俺はまんじりと彼女を見ていたのだろうと思いつつ。
静乃は何を買うのか決めたのか、アイスケースの引き戸を開けて、一個、二個、三個と…
「って、随分買うのな。」
「ん?ああ、親戚来てるからその分買おうと思ってさ。ほら、お盆でしょ?墓参りから戻ってきて、いっぱい人がいるのさ。」
「あーなるほど。もうそんな時期か。てかもう戻ってきたの?お墓ってこの辺なの?」
「そうだね。午前に行って昼に戻ってきたんだ。せわしなくて仕方ないよ。親もぼくをパシリにつかうんじゃなくて、千歳さんあたりを使えばいいのに・・・・・・」
「ああそっか、千歳先生親戚だもんな・・・・・・」
他愛もない話をしながら俺も自分、有希、柄谷、叔父さんの分を買って…もう一つ買った。
てかお盆か。もうすぐ俺の両親もイギリスから帰ってくるんだな。こんな直前になっても連絡一つよこさないけど。
二人してコンビニから出た時、むわぁと太陽が俺らを溶かしにかかり二人とも大きなため息をついた。そこで俺は、一つ多く買ったアイスをコンビニ袋から取り出して、開けた。
「お前、家に着くまで用のアイスとか買ってないの?」
「え?なにそれ、考えたこともなかったよ。」
「と思って、ほれ。」
俺は自分のアイスの半分を静乃に差し出した。ーーーパピコとは、二人で食べるものだからな。一人で二人分食べるのは切なさが残るからね。
「…いいの?」
「パピコは二人で食べるものだから……」
「……くれるのなら、ありがたくもらっておく。…ありがとね。」
そういって静乃は微笑して、とてとてと走って帰っていった。
・・・・・・いつもなら俺はこんなとき、パピコではなくガリガリ君を買っていくのだが、せっかくだから、と思ってのことである。今こいつは家に着くまで用のアイスなんて考えたこともないといった。つまり、アイスは外で食べるものではなく家で食べるものと認識してるはず。もし今ガリガリ君を食べたとしたら、きっと食べきる前に溶けてしまうだろう。その点パピコはビニールに保護されてるし、溶けてむしろ食べやすくなる。
俺は片手にパピコ、片手にレジ袋を持ちつつ、家に向かって駆け出した。
「もうけものをしたなあ。」
実際はパシリでなく気を利かせてコンビニに出かけたわけなので、自分になにも得は無いと思ったら、まさか別の方向から得をするなんて思ってもみなかった。遼のやつ、なかなかやるじゃん。ぼくはパピコの先端をちぎり、コーヒーカラーのアイスを口に流し込んだ。
「…あーおいし。」
まさか夏休み入ってもこんなにあいつと会うとはね・・・・・・。ここ最近の頻度はすごい。先週も昨日もあってるし・・・。
「って、早く行かなきゃ。」
ぼくは片手にレジ袋を持ちつつ片手にパピコを持って、急いで家に向かった。ぼやぼやしてたらアイスが溶けてしまう。―――――――なるほど、パピコなら溶けても心配ないのか。気が利くじゃないか。
「…本当、ありがとね。」
自分の中の遼の心内評価が少し上がった。昔と比べて、今どれくらいの位置にいるのか。その変化量を知るすべはないが、大きいことはもはや否定できないだろう。