家に戻ると、見慣れない靴が二足あった。一つは大きく、一つは小さい。一瞬誰だろうかと思ったけど、ふと、先の静乃の言葉を思い出した。
「まさか両親が帰ってきた…?」
恐る恐るリビングの扉を開けると、そこには…
「おおー遼!会いたかったぞ!久しぶりだなあ!元気にしてたか!」
案の定、俺の父がそこにいた。ソファには叔父さんが、そして俺の母が座っていた。
「本当久しぶりだね。何ヶ月ぶりさ。」
「3月末以来会ってないから約4ヶ月半?多分それくらいね。」
久しぶりに聞く母の肉声。懐かしさを感じつつ、俺はアイスを冷凍庫へと入れた。
「遼、有希たちは部屋にいるぞ。」
叔父さんの言葉を受け、なるほどと思った。確かに親族がいるのにもかかわらずリビングにいる道理はないわな。むしろいれんやろ。
「そうか。わかった。…あ、叔父さんのアイス、冷凍庫にいれとくね。有希とその友達が選んだ後の残りになっちゃうけど。……父さんと母さんの分はないよ。帰ってくるって知ってたら買ってきたのにさ。」
「…驚かせてやろうと思ったのさ。」
「……だろうね。ま、積もる話は後でね。」
俺はそう言ってリビングを出て、二階へと上がった。
別に仲が悪いわけではないんだ。
ただちょっと、距離感がつかめないんだ。
イギリスと日本はあまりに離れ過ぎてるし、心の距離も…
コンコンと有希の部屋をノックして、有希の部屋の扉を開けた。
「あ、兄さんお帰りなさい。」
「おかえりです、先輩。」
「うむ。…アイスは冷凍庫に入れてあるから、食べたい時に言え――――――ああいや、有希が取りに行けばいい話か。いやその、走って帰ってきたとはいえ、数分間クソ暑い中に晒してたから、幾ばくかは溶けてるだろうからさ。…あと、俺の親が来てるってのもあっておりづらいだろうし。」
「うん。わかった。」
「オッケーです。」
俺はその言葉を聞き、もう用はないなと思って、扉を閉めた。
部屋に戻ると、そこにはダンスに熱中している竜崎がいた。なんか机の上に変な装置作ってるし、どんだけ気合入ってんだよ。
「おかえり。…なあみてくれよ私のキレッキレのダンス!」
「あのさあ…いやまあいいけどさあ…」
俺はベッドの上に腰を下ろし、竜崎の方を見た。竜崎はなにやらモニタを表示させてぽちぽちと押していて、大きくタンっとパネルを押した時、俺の部屋は一変した。真昼なのに部屋は真っ暗、暑すぎた室温も急激に下がり、むしろ寒いくらいだ。そして、曲が鳴り始める。曲が鳴り始めると同時に、ステージがライトアップされる。そこには、魔法使いの白い帽子、白いマントを羽織ったミクさん。そして、まるで絵本の中の魔法の国の雪国のようなステージ……流れる曲はのぼる↑さんの楽曲"白い雪のプリンセスは"だ。
「鏡よ鏡よ鏡さん♫」
って歌も歌うのかよ!
驚きの連続に、開いた口が塞がらなかった。
「どうよ!」
「いやあほんと、素晴らしいもんを見れた。普通にすごいな。」
素直に感嘆する俺を見て、竜崎は素直に喜びの顔を見せていた。ちなみに、すでに部屋は前の明るさ、暑さを取り戻しており、竜崎自身ももとの姿に戻っている。…いやほんと暑いな。窓も扉も全開にしとこう。
「数日前この曲を聴いた時ビビってインスピレーションが湧いてね、ちょっと私の中のクリエイター魂が燃えてさ。セットから振り付けまで頑張っちゃったのさ。」
「なるほどなあ。確かに、この曲は俺も好きだ。可愛らしい歌詞に秘められたドロドロとした意味、心地よいギターサウンド、ううむたまらん。」
「…ん?ドロドロとしてたか?白雪姫を現代風にしたような歌詞じゃないの?」
「この曲の歌詞はいろんな解釈がされてんのさ。一応俺の解釈としては、ある夫婦の娘が父親に好意を向けて、父も娘を世界で一番かわいがるもんだから母が嫉妬に狂って娘を殺めるーーみたいな?歌詞の中の7つの小人っていうのは、7歳の子供って意味かな。」
「……なるほど。その方向性で私も歌詞の意味を再考してみよう。」
竜崎はふんふむと頷いた。
…まさかミクさんのフィギュアとミク楽曲について語り合う日が来るとは思わなんだ。こんな光景、知り合い以外には見せられなーーー
「…そういや、竜崎は今日下に降りたのか?」
俺はベッドから立ち上がり、竜崎に向かいたってそういった。
「いや、昼食以来降りてないが…」
「実はいま、俺の両親がイギリスから帰って来てるのさ。」
「なんと!」
「でだ、普通フィギュアは喋らないんだ。」
「なるほど。つまり私は両親の前では黙っていればいいんだな?」
「物分りがいいではないか。ではそれで。」
「ああわかった。―――――――――もっとも、その話は扉を閉めてからするべきだったな。」
「え?」
俺は慌てて振り向くと、そこには目を見開いた俺の父親が立っていて…
「遼・・・・・・ごめんな・・・・・・。お父さんたちが関わってやれないばっかりに、ついにはお人形さんとおしゃべりするようになってしまうとは・・・・・・・・・」
「あ、あはは……」
俺はもう笑うことしかできなかった。