以前叔父さんに竜崎を見せた時、驚きはしたもののすぐ慣れた。その時と同様に、父もすぐ慣れた。こんなところまで兄弟で似る必要はないだろうと思った反面、面倒なことにならずに済んだ安心感を得られた。事情を説明したところ、そういうこともあるのかと納得してしまったのである。それから馴れ馴れしく竜崎に話しかけているあたり、この兄弟の適応力は計り知れないな、何てことを思った。竜崎はいま、ソファの前の長テーブルの上で動き回りながら、俺の父と叔父さんと談笑している。俺はそれを遠巻きに見ながら、食卓の椅子に座ってテレビを見ていた。別に用もないから部屋に戻っても良かったのだが、竜崎を一人ここに残しておくのはなんとなく嫌だったのと、久しぶりに両親に会ったのだから―――――――――特に話すこともないけれど、同じ空間にはいようという思いがあり、残ることに決めた。
「・・・学校の方はどう?」
食卓テーブルの真向かいに座っている母が俺に話しかけてきた。差しさわりのない話題。薬にも毒にもならない。そんな話題。
「まあ・・・・・・普通だよ。とりわけ変わったことも・・・・・・ああいや、あいつの存在があるから変わったことはあったか。あと隣に新しい人が引っ越してきたくらい。」
「へえ、そうなの。」
母はそう相槌をして、それきり会話が途切れてしまった。・・・俺もそうだが、こんなに合わない日が続くと、普通お土産話で盛り上がるものなのだが、そうはならない。ならない理由にはそもそも仲があまりよくないというのがある。俺をイギリスへ連れていきたい親の気持ちを振り切って日本に残ることを選んだ。かなり無理を言ってこうなっているので、それからギクシャクとした関係が続いてしまっている。もちろん嫌いになったわけじゃない。けれど、適切な距離感を―――――親と子の距離感を見失ってしまったのは否定できない。
「その隣のひとも結構変わっていてね、竜崎と同じように特殊な人なのさ。ここと同じくらい大きな家だけど、住んでいるのはたった一人、しかも俺と同じ年の女の子。」
「確かにそれは不思議ね。」
またしてもそこで会話が途切れてしまった。話が続かない。コミュ障同士の会話だ。
「それはそうと、ロンドンの生活はどう?」
「そうね・・・治安がそれほどよくないから、手荷物をひったくられないように気をつける・・・・・・くらいかしら。」
「そうか。」
俺も思わず、適当に相槌をしてしまった。・・・・・・だって、その話は3月にも聞いたよ、聞いたんだよ。
俺はもう気まずい空気に耐えられなくなって、席を立った。
「じゃあ俺、勉強しに部屋に戻るわ。」
「そ、そう。わかったわ。勉強、頑張ってね。」
ぎこちなく返事をする母を置き、俺は自室に足を向けた。
・・・・・・相手の心にどこまで踏み込んでいいのか、互いに手探りの状態。それはあたかも、初対面の人であるかのように・・・・・・。
部屋に戻ったが、実際はとても勉強する気になどなれなかったので、俺はベッドに寝転んだ。
「・・・明日か明後日には墓参りか・・・」
有希は大丈夫だろうか、と、ふと思った。なんせ墓参りのメインは・・・
もやもやしてても仕方ないと考え、諦めて寝ることにした。寝てしまえば、すぐに時間は過ぎていく。ゲームやったりアニメ観たりしてもよかったけど、そんな気にもなれなかった。何も考えたくなかった。早く時間が過ぎてほしかった。
目を覚ました時、部屋は真っ暗であった。携帯を開いて時刻を確認すると、9時とある。夜の9時なら、こんなにくらいのも当然だな、それと変な時間に起きてしまったなと思いつつ、体をむくっと起こした。
リビングに降りると、そこには酒を飲みながら話にふけっている叔父さんと父と竜崎がいた。ミクさんの姿で酒を飲んでいるのはちょっとどうなんでしょうかね・・・というか、竜崎って酔っぱらえるのか?マジでどういう仕組みになってんだろう。
「おはようさん!いやあ長い昼寝だったなあ!」
その叔父の声は普段の2倍くらい出ており、なれなれしく肩を組んできた叔父からはアルコールのにおいが広がってきた。そこから脱出するのに少々手間取り、やっとの思いで逃れてソファに座ってぐったりしてると、まだそこまで酔いの回っていないと思われる父が
「遼、墓参りは明後日ね。」
なんてことをいってきた。俺は適当に相槌し、明日が暇になったので何かしようかなと思ってた最中、ふと気になったことがあった。
「…そういや有希は?まだ部屋?」
両親が戻ってきてから、まだ有希の顔をみていないのである。
俺はすぐ近くにいた母に問いかけた。母は全く酒を飲んでいないようで、素面だった。
「ええ、有希の友達が帰ったあと、ずっと部屋にいるわ。夕飯食べに一度降りてきたけど、すぐに上に戻ったの。」
なんとなく察した。おそらく、誰とも喋りたくないのだろう。・・・もうすぐ墓参りとなると、避けては通れない話題があるから・・・・・・。
俺は適当に返事をして、食卓テーブルに向かった。そこには、ラップのかかった料理の品々。俺はラップを剥がし、ご飯とみそ汁を盛った。
「いただきます。」
ひとまず飯を食おう。有希のことは、そっとしておいておこう。今は触れないことが大切だ。