4-1-1 想定外と想定内
8月19日 水曜
今日から登校日である。長いようで短かった夏休みは終わり、また勉学の日々が舞い戻る。もっとも、俺は勉強すること自体は嫌いではないので、別に学校に対して嫌気がさしているわけではないが、それでもやはり休みの方が精神的に楽ではあるので、どんよりとした気持ちになるのは否定できない。それは有希も同じようで、今朝の有希のブザーでの起こしはなく、むしろ俺がやつを起こしに行くまでであった。それはもう幸せそうな寝顔で、起こすことを少しためらったが、やらないといけないことだと感じ無理やり決行した。寝ぼけた顔から、徐々に事態を把握しつつあるときの、あの有希のやってしまった感あふれる顔は、なかなかに面白かった。
通学路が同じだから、静乃あたりに出くわすのかと思ったが、どうやらそれはなかった。学校に到着し、教室に入るとそこには突っ伏している彼女がいた。少し早く家を出ていたのであろう。いちおうあいさつでもしようかと思ったが、寝てたとしたら起こしたとき面倒になりそうだったのでやめた。チャイムぎりぎりにカイジがやってきて、ぼさぼさの頭に乱れた制服、どう考えても寝坊しかけて急いできたんだなというのが感じられた。
東雲先生のHR後、1時間目は始業式が行われた。そこで校長の長い話を聞いた。もちろん、こんな話をまともに聞いている人は少数だろう。話が終わると、生徒たちは少しざわつき始めた。不審に思ったのか、隣にいた怜が俺に話しかけてきた。
「校長の話が終わるのがそんなにうれしいの?たとえそうだとしても、ちょっとざわつきすぎではないかしら?」
「ああそうか。怜は知らないんだもんな。」
首をかしげる怜。・・・・・・そう、怜は知らない。この学校の始業式では、とある行事があることを・・・・・・
壇上の校長が戻ると、代わりに進路指導主任の先生が壇上に上がった。
「ええと、皆さん待ちかねているみたいなので、早速本題に入りましょう。第一回実力テストの、校内の偏差値の最上位者を発表します。」
体育館内のざわつきがより大きくなった。そう、この学校、実力テストの偏差値の最上位者は、校内掲示に加えて始業式時に発表までするのである。もちろん、勉強に興味のない人はだからどうしたといった話なのだが、やはり進学校なのか、こういうことは気になるたちらしい。さらに、ここ数年は壇上に上がる人の顔面偏差値も高いことから(主に緋色会長であるが)一種のイベントと化しているらしい。
「なるほど・・・・・・そういやそんなテストあったわね。」
「ふっふっふ、俺は悪くはないぞ。ちなみに、怜のできはどうだったの?理数が得意だったよね?テスト当日はコメントを控えていたけど自信なかったのかな?ねえどんな気持ち?こんな奴に負けてどんな気持ち?」
「なにうざいこと言ってんのよ。何も言わなかったのは・・・・・・そうね・・・・・・どうだったかしらね・・・・・・すべて埋めはしたわよ?けれど、あっているかどうかまではわからないわね。」
その顔は、自身に満ち溢れていても、やけになって言っているわけでもなく、単にどうでもいいといった風であった。まあ、怜の世界と俺の世界じゃ常識もいくらか違うだろうしなあ。
なんてことを思っている間も、教師の話は続いていく。
「まず、教科ごとの最上位者を発表します。一年生は国数英の3教科、二・三年生は理系なら国数英に理科2科目の4教科5科目、文系は国数英に地理・日本史・世界史・倫政から2科目の4教科5科目になります。それでは、今回の最上位者の発表に移ります。呼ばれた生徒は壇上に上がってください。――――――――――――――――3年3組、緋色結衣さん。」
会場が拍手に包まれる。偏差値も顔面偏差値も高いなんて、神は二物を与えてしまっていてずるいなとおもった。けれど、これは想定内。会長は抜群のセンスを持つ努力家だから、これはある程度予想できたことだった。
「なあ、お前もそう思うよなあ怜。」
「はあ?何の話?」
「いや、神様は人に二物も与えてずるいなって。」
「あーはいはいそうですね。」
怜に軽くあしらわれてしまった。ひどい、怜も神の一種のはずなのに・・・・・・
会長が壇上に上がった。その姿は堂々としていて、怖気づいてしまうことなくするのはさすがと思った。通常、教師がここで会長に一言頼むはずである。しかし、そうしなかった。想定外のことが起こったのである。
「通常ならば、偏差値の最上位者のみを発表していたと思うのですが、今回は発表のもう一つの規定を満たしている生徒がみられたため、該当科目の最上位者の発表も行いたいと思います。」
会場のボルテージがさらに上がっていくのがわかった。それもそのはず
「え?なんでこんな盛り上がってるの?」
「俺もさっぱり・・・・・・」
「満点者がでたんだよ。」
怜の後ろにいた静乃が、こちらの話に入ってきた。
「え?あのテストで満点?だって平均が200点満点中60点とかでしょ?そんなこと起こりうるの?」
「いままで起こってないから発表もなかったんだよ。でも今回は起こってしまったってことだね・・・・・・」
どこもかしこもその話題で持ち切り。気づいたらすっかり、列なんて乱れ生徒がいろんなところを行き来していた。それだけ誰であるかが気になるのであろう。
「学年は2年生、科目は数学物理化学。すべて同じ人が基準を満たしました!」
ここはライブ会場か?そう思うくらいにはもうみんなざわついていた。すべて同じ人?しかも3科目で?2年の一体だれが・・・・・・
「それでは・・・・・・2年6組、榊怜さん。壇上までお願いします。」
一拍、静寂に包まれたが、すぐに体育館内は歓声に包まれた。おそらく、誰のことを指しているのかわからなかったのだろう。3年や1年にとっては、新入生の怜は知られていない。かわいい女の子がいるという情報は回っていたらしいが、刹那や会長のような有名人がすでにいる以上そこまで大きく知れ渡ることはなかった。けれど―――――
「どうやらよばれてるみたいね。散々私をあおっていた遼君?あなたってエンターテイナー?体を張ってピエロになってくれているのね。大変面白かったわよ。」
「・・・・・・怜、お前ほんとに神様なのかな。理系学者だったりしない?神様ってポンコツなのが世の常じゃないの?」
「なにいってんのよ・・・・・・まあいいわ。呼ばれてるし、行くしかないわね。」
そういって怜は俺の隣から抜け出て、壇上へと向かった。その姿はあらゆる生徒の目を引いた。
「なんだあの金髪美少女!?」
「たまにみかける金髪の娘じゃん。頭良かったのか。」
「頭もよくてかわいいとか最高かよ」
「あの子しってるよ。夏場でもパーカー着てるすごい寒がりの子だよね。」
「いや、どうやらあのパーカーは涼しくさせる効果あるらしいよ。」
そりゃあ、そんな感想出るわな。金髪なだけで目立つのに・・・・・・
怜が会長と並んで壇上に立つ。会長は清楚な模範的学生、たいして怜は一般的女子高生、それもギャルに寄った風貌。対比がすごくて、それはもうくらくらする魅力があった。美しい観た時の驚き、感動が俺を襲った。
「それでは、一言ずつお願いします。」
教師が会長にマイクを渡した。会長は無難な挨拶をこなしたが、怜の挨拶は少し波乱を呼んだかもしれない。
「正直ぬるいですね。次のテストでは、私に満点を取らせないような問題に期待します。」