怜は俺を鼓舞するようなセリフを吐いた。確かに、静乃の小学生時代を知っているのは俺だけだから、怜のいうことは一理あるかもしれない。
――――――――でも、本当にいいのかこれで?
正直な話、静乃の記憶喪失と竜崎のカミングアウトのせいで、正常な判断ができる自信がない。ましてや、竜崎と怜は密接なつながりがあるわけではなく、あくまで仕事上の付き合い。怜の思惑と竜崎の思惑には食い違いがある可能性がある。そこで、怜の話を全て信じて、果たして本当に解決するのか――――――――――――
「・・・・・・わかった。なんとかやってみる。」
俺は気が付いたら、そんな返事をしていた。確かに、疑わしい部分はある。けれど、今日の怜のひどく陰鬱で辛そうな様子は、俺には嘘に見えなかった。これは本気なんだ。本気で彼女を何とかしたいと思っているんだ。これが演技なら、俺は何も信じられない。けれど、まずは自分を信じたい。正直、記憶を取り戻す具体案が見つからない以上、藁でも蜘蛛の糸でもなんでもいい。すがりたかったんだ。
「ひとまずは、静乃の病院に通って、話してみるよ。どこまで覚えているかを聞けばいいんだな?」
「ええ。―――――――けれど、注意して。静乃の発狂したときの様子から推測するに、きっと思い出したくない記憶で止まっている可能性が高いわ。あなた、静乃が小6の時なにかひどい事件とか起こったりしなかったか覚えてる?それで静乃に何か精神的な障害が残ったりとかはなかった?」
深刻な顔つきで彼女はそう告げた。思い出したくない記憶。ひどい事件。―――――――――静乃は小6のある時を境にだんだんと暗くなった。おそらく、静乃の記憶は、その境までなのだろう。あくまで予想でしかないが――――
「・・・少なくとも、彼女の口から何か聞いたことはない。けど、思い当たる節はある。ある時を境に明るい静乃から今みたいな静乃になっていったんだ。多分、そこら辺までじゃ・・・」
「――――了解したわ。」
怜はそういうと、手を俺の肩から離し、帰路へと足を向けた。
「遼は、そこのところを丁寧に聞き出してちょうだい。私は私でやれることをするわ。いつでも連絡取れるように、携帯の電源は入れておいてよね。」
そして怜は、俺に手を軽く振って走って帰っていった。
「確かに、携帯の電源は入れておかないとな・・・昨日今日で切りっぱなしだったし・・・」
そういって、俺は何気なくスマホを取り出した。そうして、ラインの通知が来ていたことを思い出して、ふとラインを開いてみた。待機画面で確認したポップアップは『新着メッセージがあります』と表示されていた。朝ですでに数件あったから、これまででさらに増えたことになる。誰から来ていたかはわかっていなかった。
――――――――そう、わかっていなかった。電源を落とし、一日見なかったライン。その行為が、どんな結果を生むかも――――――――
中は公式メッセージが画面上部を埋め尽くしていた。そうして一つ一つどうでもいいメッセージを消してスクロールすると、一番下には公式じゃないメッセージが来ていた。その相手が・・・・・・
「・・・・・・静乃からのメッセージだ。」
俺は急いでトーク画面を開いた。そこには3つだけ。昨日の夕方4時ごろと、夜中の3時ごろにひとつづつ。そして、今朝に・・・・
[ 遼、体調悪いって本当?
ぼくを誘っておいて君が休むってそれってどうなの?
これ見てるんだったら、早くこっちに来てよね。 ]16:02
[ ・・・どうやら本当に体調が悪くて寝込んでいるのか
それともぼくのことが嫌になって無視してるのかな?
もし何か気に障ることをしていた
・・・いじりの度が過ぎていたら謝るよ。 ]2:57
[ 話したいことがあるんだ。
遼はぼくに対して起こっている(?)から
会いたくないかもしれないけど・・・
電話でもいいけど、できれば直接話したい。
今日、早めに来てくれないかな?
教室で待ってる。 ]7:30
俺は馬鹿だ。
なんだこのメッセージ?
なんで俺はこれを無視したんだ・・・?
自分のエゴで、傷つくことを恐れて、不快な思いに蓋をして・・・その結果が周りにどんな影響を及ぼすかなんて、何も考えてなかった。
だから、こんな結果を生んだ。たった一日スマホを見ないせいで、取り返しのつかないことになった。やけに静乃が早くきていたのも、そしてずっと眠りに落ちていたのも、すべては俺のせい・・・
メッセージに返信をすることはできる。けれど、もう“静乃”に返事を送ることはできない。
俺は、あまりの自分の情けなさに、気が付いたら涙していた。けれど、手の甲でそれをぬぐって、帰路へ足を向けた。
絶対に、静乃は俺が何とかする。これは、俺のけじめだ。