タマゴのカラを割らないでっ!   作:すうどんたくろう

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4-3-2 質問対応

 おそらくこの秋ごろから静乃は変わってしまったんだ。これがわかっただけでも、大きな進歩といえよう。これは怜に報告できそうだ。今の静乃は陰鬱になる前の静乃だ。ということは、陰鬱になるきっかけのこと、そしてそれ以降の記憶をなくしていると言えよう。しかしながら、あくまでこれは推測だ。本当にそうかを確かめるためには、静乃本人と、その両親に事情を確かめるしかない。

・・・けれど、静乃本人はさておき、両親に聞いて果たして答えは返ってくるか?怜と竜崎は超越した存在であり、ゆえに彼女らからのアドバイスはある程度の信頼に値する。しかし、そう考えることができるのは、そういった存在だとわかっている俺だけであって、そういった背景の知らない一般人が同じ言葉を聞いて、信用するとは思えない。『治療のカギとなるから昔の静乃を教えてください』なんていって、もしトラウマをえぐるような話ならどうする?

・・・いや、えぐってもいい。精神年齢が小学生に戻ってしまった静乃の心をえぐってしまうと詰みだが、親は大人だから話は別だ。昔のことを聞くことで静乃の両親が嫌な顔をしても、やるしかない。考えうる限りの理論武装をして、昔の静乃の情報を聞き出すんだ。今やるべきは、静乃と話して記憶喪失の様子を知ることと、親に昔の静乃のことを聞くことだ。

 

 

俺はアルバムを棚に戻し、時刻を見た。

気が付いたら、もう夜九時を回っている。さすがに今から電話をかけてアポを取るのは迷惑だろうし、明日行動に移そう、そう思っていた時、横の方から何やら動くものがちらつくため、そちらに目を向けると、そこには竜崎がこちらに向かって手を振っていた。

 

「・・・やっと気が付いた。すごく集中していたから、話しかけるにもためらわれてね。」

「・・・そうだ竜崎―――――――――」

「ストップ。」

 

竜崎は手を前に突き出して俺の言葉に待ったをかけた。

・・・そうだ、彼は監視されているんだ。俺が不用意な行動をとると、彼の立場が危うくなるんだ。

NGテーマは、異世界人がほかにいるかどうかに関して、それなら・・・・・・静乃の記憶について聞くのはセーフなのか?

 

「萩原静乃は・・・どうだった?」

 

ビンゴ、このテーマはセーフだ。

 

「小6までのことは覚えていたみたいなんだけど、それ以降はわからないみたい。いや、あまり聞けてないんだけど・・・。刹那とかは忘れていて、俺と彼女の従妹については覚えていた。親ももちろん。小6に戻ってしまったみたいだ。」

「なるほど。了解した。」

 

そういうと、竜崎は手を顎に当て、その場をぐるぐる回り始めた。しばらくすると、真剣な顔つきで俺と向き合った。

 

「彼女の記憶喪失の原因は、おそらく分かった。が、決め手に欠けるし、確証のないまま動くことは無駄を生む。ちょっと待ってほしい。もう少しで私のところに“怜から物資が届く”。それまで身動きが取れないから、そのあとしっかり話を詰めよう。なに、土曜日には届くさ。」

 

 

竜崎は、じっと俺を見た。怜から物資が届く?いったいどういう・・・・・・そういや、電話で俺のところに怜からブツが届くと言っていたな。もしかして、それのこと?もしそうなら・・・婉曲表現を使わないといけないわけで・・・それはすなわち・・・異世界人の関与があるってこと?

 

「とりあえず了解したよ。じゃあ俺は明日もう一度お見舞いに行くかな。大勢で言ってもあれだし、“一人で行ったほうがいいかな?”」

「そうだね。むしろ、今の静乃はまともに覚えているのは君くらいだし、君だけならいろいろ話も進むはずさ。“一人で行くべきだ。”」

 

竜崎が頷くと、俺も頷いた。なるほど、そういうことね・・・。

話が済んだと判断したのか、竜崎は自分のルームへと戻っていった。俺はシャワーを浴びに行き、そのあとすぐにベッドに行き、少し早めの就寝をとることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

8月21日 金曜

 

 

「え?お見舞いには行っちゃだめって?」

 

俺は登校してすぐ、刹那にそう告げた。静乃の昔の情報を引き出すには、知らない人がいちゃいけないんだ。

 

「想起によって記憶をもとに戻せるなら、ようは昔のことを思い出させればいいわけじゃん?それなら、彼女の小学生時代を知っている俺が行ったほうがいいんじゃないかって。それに・・・」

「いや、大丈夫です。わかりました。」

「あれ、案外あっさり引くんだ。てっきり刹那なら『それでも行きます!』とか言いそうだなって。」

「いやその、もし強行して彼女に嫌われでもしたら、もう私はやっていけませんよ。なので、あなたに頼みます。なんとしても、静乃の記憶を呼び戻してください。」

 

悲しさとあきらめが混ざったような表情を見せる刹那。そんな彼女に俺は・・・

 

「任せておいてくれ。」

 

そう力強く答えた。答えたのだが・・・そのあとすぐのHRで、担任の東雲先生が『萩原の親御さんの方から連絡があって、月曜には復帰できるそうだ。それと、今はなるべく多くの人と会うのは避けたいとのことだった。』と全体にアナウンスし、HRが終わった後先生直々に『ああは言ったけど、なんでも両親曰く、萩原自身は国広には来てほしいみたいなんだ。国広、いけるか?』といってきた。なんだよ、既定路線じゃないか。

 

 

 

 

 

 

再び病院に行き、静乃と面会する。静乃のいる病室に入ると、そこでは椅子に座りながらテーブル上に肘をたて頬杖を突き、窓の外を見ている静乃がいた。

俺が入ったことにも気づかず、ずっと見ていた。

不謹慎ながら、かすかに見えるその横顔は非常に美しかった。

 

「あれ、遼じゃん!また会ったね!といっても、“私”がお父さんにお願いしたんだけどね・・・」

 

たはは、と笑う静乃。一人称が“僕”じゃない。明らかに俺がよく知る陰鬱な静乃ではなかった。

 

「どうしたのさ?」

「いやその、私が覚えているのは小6までじゃない?あれから5年たっちゃったからさ、さすがにギャップがあるんだよね。お父さんたちに聞いても言葉を濁すし、まだ家に帰れてないから卒アルとかも見れないしさ。女の子の友達に連絡しようにもなぜか電話番号すらわからないらしいし・・・そうなると、もう遼に聞くしかないんだよね。」

 

・・・完全にその可能性を忘れていた。静乃にとっては気が付いたら年が飛んでいるんだ。まるでこれはタイムスリップしたように思えるんだ。なら、当然空白の期間を聞きたがるだろう。そいて、そう聞かれたら、“内容を教えないだろう”。両親が静乃の中学時代を伝えてないということは、やはり伝えるのもはばかるものなのだろう。学校で見る静乃は暗いだけだったが、家の中ではもっとひどいのかもしれない。もしそうなら、正直に伝えずはぐらかすか、うそを教えるに違いない。小学の友達の連絡先がないのはおそらく嘘だ。本当はあるけど、みんな静乃から離れていってしまったんだ。昔の友達からしてみれば、腫物のようであろう。

 

「なるほど・・・それなら全然教えるよ。でも、俺も静乃の昔のこと聞きたいんだよね。それでどう?」

「えーそんな聞かれるようなことあるかな・・・じゃあ、こうしよっか。一つずつ互いに聞いていこう!なんだかゲームみたいだね。じゃあ先行は私ね。えっと・・・・・・中学生の私はどんなだった?」

 

まずその話からか・・・。うそを言ってもいいのだが、ばれるうそはつきたくない。できる限り、事実とそぐわない言い方をすると・・・

 

「ええと、今は割と元気な感じじゃない?それが少し落ち着いてクール系な印象があったね。」

「へえ、私ってそんな感じになるんだ。・・・いったいどういう心境の変化があったんだろう。まあいいや、じゃあ次は遼のばんね。」

 

きた。静乃に聞きたいことはいろいろあるが、まずは・・・

 

「じゃあ聞くけど、静乃って寝て起きたら年がたってたって感じなんだよね?それなら、寝る前は何月何日だったかって覚えてる?」

「えーそんな質問?もっと楽しい話がしたいんだけどなあ。」

「いや、俺にとっては割と楽しいんだけど・・・」

「まあ、しゃーないね。たしか10月1日だったはず。普通に学校から帰ってきて・・・そして・・・・・・・・・・・・」

 

それきり、静乃は黙ってしまっていた。なぜこの日までありありと覚えているのか、そのきっかけはつかめさえすれば・・・

 

「・・・まあいいや。じゃあ次の質問していい?中学生の私は“幸せそうだった?”」

 

核心を突いた質問に、思わず息をのんだ。こんな質問するなんて、ダウナーになるきっかけを覚えていないと絶対に出ない。てことは、静乃の記憶は陰鬱になるきっかけまで覚えていると考えてよい?

 

「・・・うーんどうだろ、口数減ったからなあ。遠くから見る分にはそうは見えなかったけど、親友といっていい人とずっと仲良くしてた。ほら、昨日お見舞いに来てくれたツインテールで、頭に白いヘアピンつけてた女の子いたじゃん?あの子だよ。」

 

うそは言っていない。おそらく、外面も内面も幸せではなかったんだろう。しかし、そんな中刹那はずっとついていてくれた。それは間違いないんだ。

 

「わかった。・・・・・・うんそっか、あの女の子、私の親友だったんだ。それなら、昨日は少しひどいこと言っちゃったな・・・」

 

しょんぼりする静乃、覚えていない友達のことを気遣ってやれるなんて、人格というか、人となりは昔から形成されていたんだな。

 

「まあ次あった時に仲良くしてあげればいいさ。昔―――――ああいや、静乃にとっては2,3日前の話か。話しかけてあげるだけでも彼女はうれしいはずだよ。」

「―――うん、そうだね。じゃあ月曜・・・いや、日曜に遊ぼうかな!退院は日曜だし、その日の午後なら時間あるからね。」

 

 

ぱあっと明るくなった。本当に感情豊かで、別人のようだ・・・。

それからしばらく、他愛のない質問を互いにし合った。俺の中学、高校の話、世間の話・・・なにもかも、静乃にとっては初めての話なので新鮮に聞こえることであろう。

俺も核心を突くような話ではなく、世間話を続けた。記憶喪失のきっかけと思しき事実を避けながら。

しかしながら、必ず聞かなければならないことでもある。しかし、聞くタイミングは今なのか?それとももっと落ち着いてから?

日はもう暮れはじめている。もう帰らないとならない。だから――――――――――――

 

 

俺は静乃に―――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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