告白券。竜崎らが俺に渡した、彼女を作るためのアイテムである。ここに彼女にしたい名前を書けば、一定期間好感度が非常に高い状態でその人と話すことができる。だから、意中の人と恋愛ごっこができるというわけだ。しかしながら、あくまでも一定期間のため、それがすぎると相手から俺の記憶は消され、”なかったこと”となる。もし期間中好感度をさらに上げることができれば、記憶を残したまま期間後も恋人を続けることができる。(もっとも、告白券によるチャームが切れていることに間違いはないから、普通にフラれることもありうるのだが。)
そんな告白券が、なぜ静乃の記憶喪失という話題で出てくる?あいつらの世界のシロモノなのに、静乃は俺と怜と竜崎の関係を知らないのに、ましてや竜崎たちにとっても静乃とそういったかかわりがないのに、いったいなぜ?
俺はただただ混乱するばかりだ。しかし、質問に答えることは容易い。イエスかノーかで答えるだけだからだ。
「そんなの・・・使ってるわけないだろ。なんなら、7月のあの日が最初で最後だ。」
あんな洗脳アイテム、使ってはいけないと思ったんだから、それ以来使うわけがなかろう。
「そりゃあ、そうよね・・・」
怜はそういった後、一つ小さなため息をつき、指を顎に当て神妙な顔つきで何かを考えていた。
「・・・けれど、やはり静乃に対しては告白券が使われたとしか考えられない。告白券の“誤った使い方をした時の結果”に、あまりにも似すぎている。」
「ちょっとまった、“誤った使い方”ってなんだ?」
怜の引っかかるセリフに、突っ込まざるを得なかった。告白券の誤用ってなんだ。名前書いて終わりじゃなかったのか。
「私が以前告白券の使用方法を伝えた時、対象の相手ともう関わりたくないって時にはどうしろって言ったか覚えてる?」
2か月ほども前の話だ。正直あまり覚えていないが・・・確か・・・
「・・・告白券を破るんだっけ?」
「そうね。正解。そして、その時、実ははっきりとは言わなかったんだけど、他にもまずいことがあるってちらっと言ったの。ありえないケースだから言わなくていいかなって。けれど、今回の静乃の異変は”それで”すべて説明できてしまう。」
怜はその”ありえないケースを”一言一言重く話し始めた。
「告白券は一種のチャーム掛けのようなもの。相手の好感度を無理やりに跳ね上げさせる。そうして、期限が来た時にチャームの効果が切れ、その時点での好感度が閾値を上回ると、覚えていてもらえる。けれど、そうでない場合、記憶操作が行われ、それまでの記憶はもやがかかったかのように思い出せなくなる。これって簡単に言っているように見えるけれど、対象者の脳をいじっている、実は非常にデリケートなことなの。」
近くの椅子に怜は足を組んで座った。そうして、竜崎の方をちらりと見、再び俺を真っすぐ見据えて話を続けた。
「でね、便箋を破ったら、記憶消去というよりは、記憶破壊が起こると、私は当時説明したんだけど、それは覚えているかしら?」
「――――――――いわれてみればそんなことを言っていたような気がする。」
「覚えているなら話が早いわ。―――――で、破るとチャームが消え、使用者に関する記憶がすべて破壊され、その人に関連する記憶が全く分からなくなる。そうすると、記憶の齟齬でさらなる混乱を生み、2次災害が起こる。普通に期限が切れるだけでは、チャームがかかった以降の記憶を思い出せなくなるだけだけど、それ以前の記憶も消されるし、何より脳へ多大なる負荷をかけることになる。だからまずい。――――――――それで、それとは別系統でまずいのが、”便箋を破らずに便箋を傷めること”。・・・どんなものか想像つく?」
”破らず傷める”?
そういきなり言われても、紙を傷める方法なんて・・・・・・
「え?燃やすとか?」
何もそれらしいことが思い浮かばなかったので、ふとそんなことをつぶやいた。しかしながら、どうやらこれは当たりらしい。
「そう。切断のように一気に傷めるのではなく、燃やす、もしくは水中でグズグズにするなど、じわじわと傷める。これが一番まずいのよ。便箋がじわじわと傷められることでチャームがかかったりかからなかったりを繰り返す。その結果、脳に大きな負荷をかけることになるの。――――――――でね、脳にそのように断続的に負荷をかけるとどうなるか。簡単な話よ。破壊されそうな記憶を守ろうとするの。なにか刺激を受けた時、人間は脳を経由する”反応”か、経由しない”反射”を起こす。それと似たようなことが脳内にも起こるわけ。一気に起こる刺激に対し、関連する記憶をすべて破壊することで脳を守る反射。逆に、断続的に刺激が来るおかげで記憶の破壊ではなく、逆に”すべての記憶に蓋をする”ことで脳を守る反応が。」
「記憶に蓋・・・?」
「よく、『臭い物に蓋をする』というじゃない?ようは、脳に刺激を与える良くない原因を、見なかったことにするの。断続的に来るおかげで、蓋をするのが間に合ってしまう。ゆえに、チャームにかかった以降の記憶全てを思い出せなくするの。全く。だから、”あるときの一点からの記憶が一切なくなるの”。」
そこまでいわれて、ようやく俺は理解した。
もしかして、静乃は・・・・・・
「――――――――察した顔をしてるわね。そう、おそらく、静乃は誰かに告白券を使われた。そして、焼かれたかなにかして便箋を傷められた。その結果、”記憶封印”が起こった。」
確かに、そういわれたらすべて納得のいく。けれど・・・・・・おかしくないか?
「――――――――今度は納得いかない顔をしているわね。・・・わかるわ。だって、告白券の期間は2週間。どんなに記憶を封印されていたとしても、2週間前が限界のはずだって。小6からってことは、”そのときからずっとチャームにかかっていることになる”。それが、この記憶封印と思われる一連の事件の不可解な点なのよ。だからこそ、あなたには静乃の記憶封印が起こったと思われる当時の状況を聞き出してほしいの。」
・・・なるほど、記憶封印の原因を探れと。流れはわかる。けど・・・
「――――――――封印ならさ、解けるのか?それは。」
「ええ、ただ・・・・・・それこそ、過去の記憶を掘り起こすような大きなイベントが起こらなくては・・・。」
「・・・なるほど、戻る可能性があるなら、それで十分だ。」
なんだよ。病院では竜崎は二度と記憶が戻らないなんて言って脅すからびっくりしたけど、いけそうじゃないか。
俺は強く返事をして、後ろのドアに手をかけた。
「じゃあ、俺には俺のやれることをする。」
そうして、俺は部屋から出ようと――――――――――――したところで、竜崎に止められた。
「いやいや、ちょっと待って、そもそもここに来たのはその報告をするだけじゃないだろう?」
そうだった。ブツをもらいに来たんだ。
怜もハッとして、椅子から立ち上がり、俺の方に近づいてきて、ドアに手をかけた。
「じゃあ、ちょっとこっちに場所を移しましょう。」
「はいこれ、私たちと連絡とる別の手段として、渡しておくわ。」
そう言って渡されたのはBluetoothイヤホンのようなものであった。
「使い方なんだけど、ちょっと耳に着けてみて。」
言われるがまま、イヤホンを耳に着ける。すると――――――――
【―――――聞こえるかしら?】
「え?なんだこれ?」
【ええと、念じるだけで話せるはずよ。私の方を見て。口が開いてないでしょう?】
そういわれ怜をみたら、確かに口が開いていない。
【こいつ・・・直接脳内に・・・・・・】
【次に、イヤホンをとってみて。】
俺は言われるがままイヤホンをとる。すると――――――
【それでも聞こえるわね?一度受信してしまえば、あとはつけなくてもいいの。これから、私たちと内密な話をするときは、これでやり取りすることにするわ。ちなみに、他の人には使えないようになっているし、そちらからこちらに話しかけることもできない。だから、話をしたいときは・・・・・・そうね・・・・・・「ご飯を○○時○○分に食べる」という暗号にして、その時にこのイヤホンを耳に着けていてほしい。いいかしら?】
【了解。】
【ちなみに、竜崎さんの言伝で、こっちと話すときはもう1つのイヤホンをつけてとのこと。暗号は「あのyoutuberの新着動画○○時○○分に投稿だって」とのことよ。】
【なんか・・・・・・俗世間に染まってるな・・・・・・まあいいや。了解です。】
直接脳内で語り合うなんてガンダム顔負けの精神世界に足を踏み入れたみたいで少し興奮するな。けど、茶化してる場合でもない。
静乃のことはデリケートな話なんだ。これもつかって何とかやっていくぞ。
俺はそう強く決心して、怜の家を出た。さて、月曜日は気合を入れるぞ。
「彼に記憶封印の真実を話さなくていいのかい?」
「・・・なに当たり前のことを言っているんですか。あの情報は不必要でしょう。」
遼が家から出た後、残された私と竜崎さんは2人でミーティングをしていた。
「君の判断は正しい。それに・・・・・・あの話をすると、話がややこしくなる。・・・・・・じゃあこの件について、怜には指令を与える。」
竜崎さんのこの話は事前にされていた。だから、どんなものが来るのかと覚悟をしていたが、想定以上のものが襲い掛かってきたのであった。
「5年前に違法アップロードされた小学生のレイプ動画に件の“次元犯罪者”が出ていないかを片っ端から調べ上げるんだ。」