俺は彼らが俺の近くから離れていくまでベンチに座ったまま、新聞で顔を隠して動かなかった。彼らがこちらに目も向けなかったのは幸いであった。彼らがいなくなったことを確認すると、俺は反対方向に歩き、今いた場所から離れたファミレスに入り、できる限り人目のつかない一角に腰を下ろして、先のことを考え始めた。
告白券は、竜崎のいる世界の物であり、この世界には存在しない。それで、この券の存在を知るためには、竜崎のいる世界の人から受け取るしかないわけで・・・。それなのに、目の前のあの男、神前はそれを持っていて、しかも隣にいるデブに渡している。
これは一体何を意味するだろう?
神前はこちらの世界の人間ではない?
それとも、彼はただの一般人で、竜崎が彼に告白券を渡した?
前者なら、この世界には竜崎以外にも別世界の人間がいることになる。口ぶりからして竜崎と同じ世界の人間だとは思うが、竜崎の世界とはまた違う世界ということもなくはない。異世界が1つと誰が決めた?
後者なら、竜崎は裏で何か行っている?・・・いや、それは信じたくない。もしそうなら、俺が病院に行った日に竜崎が言っていたこと全ての信憑性がなくなってしまう。竜崎は少なくとも、信頼に値する人だと思う。
―――――――ってちょっと待て俺!
病院に行った日、竜崎はこう言った
【怜の機関の人間がこちらに移り住んでいるみたい】
それが神前なのか?
拡大解釈すると、これって怜の機関の思惑になるのか?
ここでふと、今日静乃のことに手いっぱいで、完全に思考の外にいた怜のことを思い出した。彼女は今日、学校に来ていない。土曜日は元気そうだった。日曜日に会えていないが・・・
・・・いや、怜を疑うのはやめよう。それに怜の機関の仕業としても、彼らのしたいことがまるでわからない。ただ、頭のなかでぐるぐる考えていてもきりがない。
「一旦状況の整理をしよう。」
俺は紙とペンを取り出し、俺が思い出せる限りのことを箇条書き―――――――――する前に、ドリンクバーに向かってアイスコーヒーを注ぎ、戻って一気にそれをあおったあと、箇条書きした。
・年内中に彼女を作らないと俺もしくは俺のまわりの女の子が殺される
・告白券
・俺は後天的にさせられた鍵、竜崎のいる世界から来た鍵穴となる女性がいる
・竜崎は俺を竜崎の世界へ連れて行きたい
・竜崎と怜以外にも異世界人が、少なくとも2人いる
・その片方は神前の可能性大
・神前はデブにとある人を犯すように命令していた。そして、それは一度失敗に終わっている。
・怜の機関の人間が不穏な動きを見せている
・竜崎と怜のいる期間ではある目的を達成するための手段が異なっているが、怜自身は現在竜崎のやり方に従っている
羅列し眺めること数分、ふと、思い違いであってほしいが、とある事実を一番うまく説明できてしまうことを思いついてしまった。
―――――――そうか、皆殺しにするという話と、俺が竜崎の世界に行く話、俺がいる世界から鍵もしくは鍵穴が居なくなるという点で、一致しているのか。これって、どういうことなんだろう?竜崎の目的は、俺に彼女を作らせるということ。しかしそれはゴールではなく、むしろスタートラインである。接触を図ろうとしたきっかけは、鍵穴となる存在にある程度の目星がついたから。これらに何の関係がある?彼女を作って終わりではないとは聞いたが、具体的に彼女を作ったあとの話を俺は聞いていない。・・・鍵と鍵穴という言葉にどうしても引っかかる。そんな例えをするってことは、鍵穴と鍵が合わさると、きっと、何かが起こるんだろう。もし仮に、仮にだ、その鍵穴が俺と近しい人間であるとして・・・そうだな、静乃とか?だとすると、普通に会っているが別段おかしいことは起こっていない。となると、トリガーは別にあるということになる。じゃあそのトリガーは?いずれにせよ、鍵と鍵穴を引き離したいのは事実なんだろう。そしてそのリミットがおそらく年末・・・。これの意味するところは何だ?
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
ダメだわからん。まったくわからん。わかりそうでわからないモヤモヤは晴れることはなかった。おそらく30分くらいいただろうか、定かではないが、今できることがなくなったので、たまたまカバンの中に入っていた夏休み前に受けたテストの取り出して、復習に勤しんだ。
数時間が経ち、店員が迷惑そうに俺の方を見ていたのに気づいて、ファミレスを出た。そしてそのまま、家へと向かった。
だいたい7時に家に着き、玄関の扉を開け、靴を脱ぎ、リビングに入るとそこには有希がソファの上に寝転んでぐうたら寝息を立てていたのが目に入った。そして同時に、テーブルの上に散乱する工具と一つの木箱、そしてテレビの前には片付けをしないで放置されているプレステと2つのコントローラーがが目に入った。多分柄谷あたりが遊びに来ていたのかな?また、放置されている箱に見覚えはなく、おそらく有希の物であると考えられる。さしずめ、こじ開けようとしていたところだったのだろう。俺はその箱を手に持って、ぼんやりそれをみる。四角い升に正方形の蓋をした構造をなしており、箱の裏面には"5.18"と書いていて、蓋の役割を担う正方形の四角のネジがひどいことになっていた。
「・・・・・・こいつ、合わないドライバーで無理やり開けようとしたな?」
ネジという物は脆い。適切なドライバーを用いずにネジを回そうとすれば、先端がうまくはまらず滑って、やればやるほどネジは"ばか"になる。少し考えればわかることなのだが、どうしてあいつはそうなる前にやめなかったのだろう。そんなふうにばかになったネジでしめられた箱は、その箱をぶっ壊さない限りあかないだろうが。
俺は箱を置き、呆れた眼差しを有希に向ける。当然、やつはスヤスヤと寝ているので、気づかないわけなのだが、思わずそう見ずにはいられなかった。
部屋に戻って、俺はふと、今日の出来事を思い出していた。―――もし、放課後町に行かずに、家に帰っていたら、どうなっていたのだろう。そう思って、俺は軽く埃がかかっていた竜崎からのサポートアイテム『差分回収装置』を手にとって、頭にはめた。何気にこれを使うのは4度目くらいである。(1度目のような選択肢が、2度目と3度目には画面上に表示されなくて、それっきりやっていなかったのだ)
「お、今日は国広君はやる気だねえ。」
竜崎がとてとてと俺の方によってきた。部屋にボカロ楽曲が流れていたことから、きっとまたダンス練習してたんだろうなあ・・・。静乃の記憶が飛んでいるというのに呑気なやつだ、と、俺は一瞬思ったが、俺もゲーセンに行ってた身なので、そのことについては何も言わないことにした。とはいえ、神前の件は報告しないといけない。ただ、これは恐らく超重要な機密事項。それこそ、土曜にもらった脳内に直接語り掛けるイヤホンを使ってじゃないと・・・。なので、ひとまず事実確認をするためだけに、この装置を使う。
「ちょっと気になることがあってね。」
そうして俺は、IF世界にダイブした。
2,3回目にこの装置を使った時には出なかった分岐、しかしながら、今回画面上には分岐が存在していた。
1.気にせずゲーセンに行く
2.一旦家に帰って竜崎に報告だ
勿論2を選択した。そうして、話を読み進める。ちなみに、俺が前に懇願したおかげで、実写ギャルゲーではなくなった。以前は画面に立ち絵が表示され、下にテキストが表示されていたが、何でもこれはダウングレードしていたらしい。俺がオタクだからわざわざ合わせてくれていたらしいが、やはり違和感が強く残るので、戻してもらった。その結果、一本道のリアルVRゲームのような感じになった。
【俺はそのまま家に帰ると、玄関には見慣れない靴が一足置いてあることに目が留まった。恐らく、柄谷であろう。もっとも、俺がそう判断したのは、有希が柄谷以外の友達を家にあげたことがないのという統計的な理由ではあるが。リビングに入ると、そこには案の定柄谷がいて、とある箱をまじまじと見ていた。
「あらいらっしゃい。お前ら、なにしてんの?」
「あ、先輩こんにちは。実はこの小さな箱を訳あって開けたいんですよ。それで、今有希ちゃんがドライバーを探しているところなんです。」
なるほど、だから有希がこの場にいないのか。―――って、あいつドライバーの場所ってわかるのか?
俺は柄谷が持っていた小箱を手にとって見てみる。箱が小さいせいか、ネジも小さいものであった。このサイズに合うドライバーって、確か俺の部屋にしかないんじゃなかったか。
「あーこのネジに合うドライバーは俺持ってるわ。ちょっと待っておくれ。」
俺は小箱を柄谷に手渡し、自室へと向かった。】
ほほう、やはり柄谷が来ていたのか。あ、でも、あの箱が誰のものかとは一言も言ってないな。まあどちらでもよいが。
俺はテキストを読み進めた。
【小ネジ用のドライバーを持ってリビングに戻ると、既にそこには有希がいて、大きいドライバーを手に持って箱をこじ開けようとしていた。
「おいばかやめろ!ネジがばかになる!」
「あ、兄さん帰ってたの?」
声だけこちらに飛ばし、ネジを回す手を止めなかったので、俺は無理やり奴からドライバーを奪い取った。
「ちょっ!何さ、開けようとしてたのに…」
「サイズの合わないドライバーでネジを回すとネジがばかになってネジを回せなくなるんだって。ちょっと考えたらわかるだろ。――――――――ほらみろ、既に少しネジ穴の十字の角が削れてる。」
「おおーなるほど」
「あーもう貸せ、俺が開ける。そもそも、こうまでして開けたいものなのかこれは?」
「うん。私の部屋の隅に置いてあったからさ。正直中身をよく覚えてないんだけど、栞ちゃんも気になってるし、それなら、この手作り感満載の、四方を塞がれた木箱を開けてみようかなって。」
ふうん、と俺は相槌を打って、ドライバーをきりきりと回した。正方形の四角のネジを全て外し終わり、俺はその木箱の蓋を開けた。するとどうだろう。中には枯れた四葉のクローバーや蝉の抜け殻、しまいにはよくわからない虫の死骸など、ゴミしか入っていない。蓋を開けた瞬間異臭がして、思わず顔をしかめてしまった。
「お、開いたんだね!どれどれ……あ、これは・・・おえっ、気持ち悪い・・・」
「うわぁ・・・有希ちゃんこれ、あけない方が良かったんじじゃ・・・」
「うん・・・。これ、ゴミ箱に捨てといて。」
言われるまま、俺はゴミ箱へ向かって、このゴミをゴミ箱へぶち込み、木箱を別のゴミ袋へと捨て――――る時、ふと、木箱の蓋を見た時、裏側になにやら文字が書かれていることに気づいた。そこには"⚪️⚪️山で見つけたもの!"と、汚い字で書かれていた。】
俺はそこまで読み進めた時、装置を頭から取り外した。そうか、あれは有希が小さい頃集めた・・・まだ山が好きだった頃の宝物箱だったのか。けれど、今となってはゴミの詰まったゴミへとなってしまった。・・・有希が捨てろというから俺は捨てていたが、これは捨てないで――――――――いや、そもそも開けないでおいた方がよかっただろう。これは有希が非常に小さいころの宝箱だ。もし開けなければ、俺がそれを教えていれば、有希はこの箱を思い出の詰まった箱として捉えて、ずっと大切に保管していたかもしれない(もっとも、何が入ってるか本人も理解できてなかったから開けようとしていたのだが。)”無理にこじ開けようとしてネジを馬鹿にさせてしまったおかげで"思い出が守られるとは、なんとも――――――――
ん?
ちょっと待って?
なんか、これに近いこ と が・・・・・
「あっ・・・ああっ!」
まさに天啓のひらめきであった。
「そうだよ!放課後のあれだよ!」
奴らは、告白券を使って無理やりとある人を犯そうとしていた。告白券を持っているのは竜崎の世界の人間であり、以前、竜崎は怜の所属する団体と手段は違えど目的は同じという。しかし共通する目的はおそらく、鍵と鍵穴を離すこと。鍵と鍵穴に例えた理由は、俺によって彼女のナニカが解放されるから。その解放されるものはおそらく、良くないものなのだろう。だから、鍵である俺自身をこの世界から遠くへやる、もしくは、鍵穴かもしれない俺の周りの女性を皆殺しにする、なんて話が出たんだ。じゃあなぜ竜崎は俺をさらうなりなんなりせず、俺に彼女を作らせるなんて一見関連のなさそうなことをさせたのか。
・・・・・・予想はついている。ただ、確信は持てない。しかし、俺のこの予想が正しければ――――――――