タマゴのカラを割らないでっ!   作:すうどんたくろう

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1-2-2 初心者狩りとプロの犯行

6月11日 木曜

 

 

 一足先に有希が出て行ってしまった。俺の準備が遅いから大抵有希は俺を置いていく。一緒に行くこと自体が稀である。いつもと変わらず家を出たその先には怜が待ち構えていた。これはいつものことではないが、きっと、“いつものこと”になるのだろう。

 

「おはよう。」

「おう、おはようっす。」

「竜崎さんもおはようございます。」

「ああ、おはよう。」

・・・ミクさんに憑依してるやつの本名、竜崎っていうのか・・・

ミクさんもとい竜崎に視線を移していた。ふと怜の方を見ると、妙に笑顔であった。

 

「今日から朝はよろしくね♪」

「・・・はい?」

「だからぁ、今日から朝は一緒に学校行こうねってこと!」

「・・・ああ――」

 

まあどうせ、サポートとか何やらそれ関係で同行するってことか。ミクさん(以下より竜崎と表記)との意見交換もしたいだろうし。

 

「わかった、これからよろしくな。」

 

怜は軽く首肯して

 

「じゃあ、学校行こっか。」

 

俺ら二人(三人)は学校へ向かうのであった。ああ、家をでてから美少女と登校なんてリア充みたいだな・・・なんてことを胸に秘めながら・・・

   

 

 

 

 

「――てことがあったんですよ~(泣)」

 

俺はゲー研の部室内で、顧問の先生である梓先生に今朝の出来事を愚痴っていた。俺は内心ウキウキしつつ、けれどそれを怜に悟られないように冷静に装いつつ学校へ向かっていた。そしたらタイミングよく静乃とばったり出くわして・・・通過儀礼のように俺をなじってきたら、怜もそれにのってきて俺をなじるから、結果朝のウキウキタイムはただただ疲れる時間となってしまったのだ。

 

「それは災難だったね~。」

 

梓先生は身長が150cmくらいで小柄な女性で、愛くるしい姿から生徒からの人気が高い。マスコットか何かに思われてしまっている。ゆえに教師の威厳もなく、完全になめられてしまっている。授業が非常にわかりやすいので、荒れる理由もなく、平和にやれているが、ここが進学校じゃなければ、きっと授業になってなかったんだろうなって。そんな梓先生は割と頻繁に部室に来る。こんなゲームするかだらだらしゃべるか勉強するかしかしてないお気楽部活に来る理由があるのかと思うが、先生曰く一番落ち着ける場所がここらしい。まあ実際は、嫌な職務から身を隠すための逃げ場としか思われてないのだろう。ここに来た時の先生の愚痴から、何となく想像できてしまっている。生徒に教師の汚いところ見せるなよな・・・

 

「まあ結局、なんとか無視されるのは止めてもらいましたけど、それでも彼女らの視線が冷たくて冷たくて・・・ひどいと思いません?」

「・・・それはあなたに問題があったんじゃないの?私だって、軽く引いてるんだけど。」

「そ、そんなことは。」

「ぐぐもったってことは思い当たる節があるってことでしょ?」

「ぐぬぬ・・・」

 

正直もうどうしようもない。何も言いえせなかったが、かまってほしかったのでダルがらみをつづけた。ちなみに、柄谷とハムはFLDをゴリゴリやっており、部活動に励んでいた。部長はPCとそこにつながれたキーボードを使ってでなにやら作曲をしていた。部長は文化祭の時とか学校紹介の時とかのBGM作成に一役買っているので、今回もそれに関することだと思われる。正直すごい。

 

 

 

「じゃあ、今日はここでかいさーん!」

 

部長の掛け声とともに、今日の作業が終わった。ちなみに、時刻は6時半。文化系の部活動でここまで残っているところはそうそうないだろうな。

ちなみに、グラハムは急ぎの用があるとかですでに帰ってしまったため、この部室の中には俺、柄谷、部長、そして梓先生が残っていた。

 

「じゃあ、帰ろうか。」

「ですね、テストも近いから勉強しないと…はぁ…」

「栞ちゃ~ん、そんな鬱になること言うんじゃないよ。私なんて完全に忘れていたのに、思い出しちちゃったじゃない。」

「いやいや、そこはむしろテストの事を思い出させてあげた柄谷に感謝でしょ(笑)」

「そうだよ!私の科目で赤点とったりしたら許さないからね!」

「はいはい。」

 

部長は先生を軽くあしらった。

何気に来週の金曜からだったよな。細かいところを詰めていかないとな・・・・・

 

「あの~先生。一ついいですか?」

「何?テストの内容を教えるとか、そんなこと以外なら何でも聞いて。」

「・・・・・・やっぱいいです。」

 

先にくぎを刺されてしまったようで、部長は萎れていた。つか、結果なんて目に見えているのにな~

とりあえず、帰ろう。

 

「じゃあ梓先生さよならっす。」

「梓ちゃんさよなら~」

「布良先生、さよならです。」

「うん、じゃあね~。――てか、宮永さん!ちゃん付けはやめてっていってるでしょ!」

 

俺らは梓先生を一人残して、部室を後にした。最後の方何か言っていたが、そんなことは気にしないことにした。

 

 

 

 

帰宅後勉強計画を練っていた時、勢いよく扉が開かれた。もちろん、開けたのは有希だ。

 

「・・・・・・・・・何?」

 

じとっとした目を俺は有希に向けたが、どうやら勉強を教わりに来たわけではないらしい。手には何も持っていなかったのだから。

 

「兄さん!ちょっと玄関に降りてきて!お客さんだよ!」

「・・・・・・?俺に?こんな時間に?」

「いや、兄さんにってわけじゃないけど、叔父さんが呼んで来いって言うからねぇ。つい最近引っ越してきた人が挨拶しに来たんだって。」

 

・・・・・・なるほど、あいつか。

 

「わかった今から降りる。」

 

椅子から立ち上がろうとしたとき、ミクさんから「そういうことなら私も連れて行ってくれ」と声がかかったので、ミクさんを連れて俺は玄関に向かった。

 

 

 

 

玄関では既に叔父さんと怜が何やら会話を始めていていた。

 

「おおっ、遼。やっと来たな。こいつが甥の遼だ。」

 

俺は軽くお辞儀をした。すでに見知った仲であったので、初対面のふりをするのはなんか違和感を感じたが、しょうがないよね。

 

「あ、遼、教室以来ですね。」

 

まさかの知り合いであることを隠さないという。てか、少しは動揺しろよ。あたかも最初から俺がここにいることを知ってたみたいだろ?叔父さんたちに勘付かれたら…

 

「おおなんだ、既に知り合いであったのか。」

「そうならそうと早く言ってよ。」

 

そんな心配はいらなかった。

 

「知り合いと言っても、昨日の夜知り合ったばかりですが・・・。」

「まあ確かにそうだな~」

 

このとき、叔父さんたちに変に勘ぐられないかどうかということにだけ気を取られて、今の発言がかなりアウトなことに気がついてなかった

 

「昨日の、夜、だとぅ?・・・・・・・・・・お前、まさか本当に女を連れ込んだのか!」

「ちょ・・・違う違う!」

 

何も違わないのだが、その場しのぎの言い訳をしていた。

 

「兄さん・・・私たちが買い物に行っている間になんてことしてるのさ!」

「お前まで何言ってんだよ!てか、なんで俺が連れ込んだ前提!?」

「どうりでリビングや兄さんの部屋から女の匂いがしたんだよ!妹として恥ずかしいよ!」

 

頼む、助けてくれと怜に視線をよこしたら、それに気づいたのか助け舟を出してくれた。

 

「すいません・・・誤解を招くような言い方をしてしまって。実は昨日は引越しの手伝いをしてくれただけなんです。」

「おおなんだ、普通の事じゃないか。でもまあ、御嬢さんもこいつの毒牙にかからないように注意しろよ?」

「そうですよ、兄さんに襲われそうになったらすぐに警察に通報ですよ。」

「てめえらなんてこといってやがる!」

「肝に銘じておきます。」

「お前も鵜呑みにしてんじゃねー!!」

 

ワタワタしつつも、特に大きな問題も起こらず、挨拶は終了した。

 

 

 

 

 

 

有希に中断された勉強計画を完成させると、俺は思むろにパソコンの電源を入れ、テレビの下の棚にしまわれていたコントローラーを取り出した。待ちに待ったフルドタイムである。ちなみに、このコントローラーはゲーセンさながらの仕様となっている。つまり、本番と同様の練習を行うことができ、非常に助かっている。値段は張ったが・・・。

 

「さて、みんなはインしてるかな~。」

「インってなんだい?」

 

竜崎が暇そうにこちらに声をやる。

 

「ログインしてるかってこと。ゲー研のみんなとよくやるからさ。テスト期間だからきっと少ないとは思うけど―――あ、一人いた。」

 

俺らのギルドのログインリストには<Carat>と表示されている。これは柄谷のアカウント名であるため、彼女が今ログインしていることになる。

とりあえず話しかけよう。一人しかいないんだし。ちなみに、俺のユーザー名は<Norris>である。

 

 《まったく、テスト勉強はしなくていいのか?》

 《ぅおぃ!いきなりびっくりした。ううぅ、息抜きなんですよ今は。ていうか、先輩も勉強しなくていいんですか?》

 《俺はもう今日のやることは終えたんだよ。》

 《・・・先輩なんて嫌いです。見損ないました。》

 《なんでそうなるんだ・・・・・・まあいいさ。とりあえず、対戦しに行くか。》

 《ですね~。レートそれともランダムにします?》

 《そうだな。大会も近いし、レートにしよう。》

 《了解です!》

 

レート対戦は勝つことで数値が上昇していくため、数値の大きさが単純な強さに直結する。負けると数値は下がるため、ガチでやり合うときはレートがよくつかわれる。

柄谷と相手を狩りつづけて暫くたった。

 

 《今何連勝中だっけ?》

 《わかんないです・・・・・ただ、10回以上は間違いないかと。そろそろ眠くなってきたので、次でラストにしましょう。》

 

 画面に表示された新しい対戦相手のユーザー名は<nameless1><nameless2>と表示されていた驚くことに、そいつらの使用MSは初期装備に近いビーム兵器、簡単な拘束兵器、援軍要請(事前に技を仕込んである味方を一瞬だけ出す)そして、なによりランクが“C”であった。俺らは二人ともA。お話にならないだろう。相手が悪かったね・・・。

 

 《これは・・・初心者ですかね?》

 《ラストにしては味気ないな・・・さらりと勝ってもう一回やるか。》

 

このとき、ずっと黙って俺のプレイをみていた竜崎が初めて口を開いた。

 

「それは、死亡フラグでは・・・?」

「あ?確かにそうだけど、ランクが低いからそんなことないだろ。ぼっこぼこにしてやる。」

 

竜崎の「その言葉もフラグじゃ・・・」という言葉が聞こえていなかったほど、俺は油断していた。

だからかな、

 

攻撃を与えられず、こいつらに敗北してしまったのは。

 

結論からして、これは明らかにプロの犯行としか思えなかった。俺らの攻撃はすべてガードされる、そして、攻撃に急ぐ俺らの隙をついてじわりじわりと体力を削っていく。1戦目、2戦目共々。

こうして、惨めな敗北感に包まれたまま、今日という日は終わりを告げたのであった。

 

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