タマゴのカラを割らないでっ!   作:すうどんたくろう

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4-4-6 読めない漢字は書けない

8月25日 火曜

 

 

翌日、まともに眠れぬまま朝を迎えた。朝起きてすぐ頭が覚醒しないのはいつものことだが、今日は最悪であった。一晩中あのデブのこと考えていた。恋する乙女かっての。何が楽しくて男を、それにあんな・・・・・・・・・。静乃のために、俺はいったい何ができるのか。それをどれだけ考えていても、悲しいことに、なにも思いつかなかった。仮に、静乃を見張っていたとしよう。しかしながら、相手が告白券を使おうとするなら、静乃の意思など関係なく一方的にヤられてしまう。そもそも、あのデブを押さえつけても、本元の神前を止めないことには脅威が去らないことには変わらない。じゃあ神前を止める?でも神前は怜の側の人間の可能性が高いんだ。なにを隠し持っているかわからない。俺の常識の範疇から外れた何があったらどうする?そもそも、竜崎と怜の目的のおおもとは俺をこの世から消してしまうことで、それならば神前は俺に対してどんなアクションをとる?

 

 「下手に動くと・・・・・・最悪・・・・・・」

 

死ぬな、といいかけて、止まった。

何も、守ることが俺の役割なわけじゃない。俺が竜崎から言われたのは、記憶封印の原因を探ること。そのためにあいつと話す。――――――――カウンセリングをしないといけない。そこから外れたことは、竜崎は望んでいないはず。当の竜崎は小部屋の中でぐっすり眠っていたようにみえた。くっそ、あいつはあいつで大変なのはわかるけど、こっちもこっちでよ・・・・・・

 

部屋を出て飯を食いに行ったところ、既に有希と叔父さんが飯を食べ始めていた。変わらずの2人を見ていると、少し安心した。

制服に着替えて家を出た時、いつも待っているはずの怜はまたもいなかった。昨日に引き続き、今日もいないのだろうか。しかしながら、怜が待つその定位置に、人影自体はあった。

 

 「おお、遼!おはよう!」

 

静乃である。昨日は放課後、静乃は会長と部長に連れられてどこかへ向かっていった。こうして会えたということは、昨日は何事もなく終わったのだろう。まあ、会長らがいて不穏なことは起こるわけもないだろう。

 

 「おはよう、昨日はどうだった?」

 「それがねえ、私って実はすごい人だったみたい!」

 「はあ。」

 「結衣さんと龍華さんに黙っててって言われたから言えないんだけど・・・どうやら本当にすごい人みたいなんだ!」

 「はあ。」

 

嬉々としてしゃべるその様はあまりに新鮮で、天真爛漫な笑顔は、今までの静乃とも、昨日朱鳥と話していた時とも全く異なっていたため、気の抜けた返事しかできなかった。今までの悩みも一時的に忘れるほどの破壊力であった。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 「でね、昔のこともちょっと思い出せたんだぁ。」

 

並んで登校してる最中、ずっと他愛のない話を・・・一方的に聞かされていたが、そこで突然、彼女はそんなことを切り出した。

 

 「え?マジ?どんな話?」

 「いや、中学と高校の私が遼にしゃべってるかわからないんだけど、私の部屋にギターとベースがあってね、なんでそれを買ったのかは思い出せないんだけど、それでやってきたこととかは思い出せたんだ。」

 「――――――ああーあれか、確かに俺も演奏何度も聞いたよ。ほんとプロ並みだよなあ。」

 

嘘である。そんな事実、俺は知らない。けど、そこでもし俺が初耳だってしゃべった時、この話題が途切れてしまう気がした。だって、会長と部長に口止めされた”何か”が静乃にはあるんだ。もしギター関連の話がしゃべっちゃいけない話題だと思ってでもしてみろ、何をきっかけにして思い出したかすら聞き出せなくなるかもしれない。もっとも、会長らに聞けば教えてくれるかもしれんが・・・・・・

 

 「えーなんだ、遼も知ってたんだね。私自身信じられなかったんだけど、意外と周りにしゃべってるのかなあ。」

 「うーん・・・いや、まともに知ってるのは俺と会長部長くらいじゃないかな。静乃の知り合い関係だと。」

 「・・・じゃあなんで遼には教えたんだろ私・・・・・・」

 「まあ、そこはおいおい思い出していけばいいんじゃないか。それこそやりがいがあるってもんでしょ。」

 「もう!もったいぶらないで教えてよバカ!」

 

ぷーっとふてくされている静乃。アカン、可愛すぎる。なんだこの生き物。

 

 「にしても、かいちょ――――――――結衣さんと龍華さんと一緒に昨日はどこに行ったの?」

 

俺は本題に切り込んだ。さて、静乃の記憶封印の原因を探るのが必要だが、多分、静乃が倒れて目が覚めた後の錯乱が鍵になってる。でも、このまま聞いてもきっと教えてもらえない。『治療に必要なら―――――』と本人は言ってくれているが、それは最終手段にしたい。

 

 「えーっとね、ギター弾けるところに行ったよ。住所と名前はわからないんだけど。」

 

ギター弾けるところといったら・・・・・・ライブハウス?スタジオ?よくわからん。俺に音楽の世界は・・・・・・

 

 「なるほど、そこでギター弾いたら思い出したと。」

 「いや、ギターはその時弾いてなかったかな。結衣さんと龍華さんがいろいろ曲を聴かせてくれて、そして最後、ある曲聴いたら思い出したんだ。ギター関連のあれこれを。だからもう、いろんな曲弾けるよ!」

 

曲聴いただけで思い出しただって?いったいどんな曲をこいつは聴いたんだ。というか、”会長と部長はどうやってそんな曲を割り出したんだ?”

 

 「おお、それはすごいじゃん!で、ある曲ってどんなタイトルとか思い出せる?」

 

もしかしたら手掛かりになるかもしれん。はやる気持ちで聞いたところ、静乃の表情はあまり芳しくない。

 

 「それがねえ、わからないんだ。」

 「どういうこと?」

 「漢字が難しくて・・・」

 

そ、そういうことか~~~~~~~~~!!!!!!!!

 

 「なるほど・・・多分、それを書けって言っても難しいんだもんね?」

 「うん。あんな熟語、小6で習ってないよ。・・・・・・・・・当時の私はいったい何を思ってあんな――――――――いや、なんでもない!それより、ちょっと遅れそうなんじゃない?早くいこ!」

 

静乃は何か言いかけたが、何もなかったかのように足を速めた。・・・・・・これは、会長と部長に話を聞かないことにはいかなくなった。封印解除を成し遂げた彼女らに・・・

『当時の私』と彼女の口からこぼれたワード。俺は聞き逃さなかったぞ。このギター関連の話、あいつの人格形成に多少なりとも絡んでいそうだ。

俺は速足で先を進んでいる静乃に駆け寄り、追いつけ追い越せで学校へ向かった。

 

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