8月25日 火曜 ~怜side~
『5年前に違法アップロードされた小学生のレイプ動画に件の“次元犯罪者”が出ていないかを片っ端から調べ上げるんだ。』
数日前竜崎は確かに私にそういった。……こんなことを命じるってことはつまり……静乃は……いや、そんな最悪の結末は考えないようにしよう。ただ、見つからなかったら静乃の記憶消去の解決は遠のく。みつかってほしいけどみつからないでほしいという矛盾を孕み、私はキーボード上で指を走らせていた。過去に消去されたファイルを復元したり、サイトにハッキングをしかけたりすることは、私にとっては造作もないことであるが、調べる量が半端ではないので、もう何日もかかっている。もう私は、心身ともに疲れ切ってしまっていた。まだまだ幼い少女をレイプしている動画を見続けるなんて拷問、もう耐えられない。世の中の男はどうしてこんなものを見て愉しんでいるのか、全く理解できない。途中、あまりにえげつないプレイをしている動画を見つけて、吐いた。普通に犯すならまだいいんだ、ただ、もはや異常性癖と呼べる類のもの――――――――
腹パンや、
精液をぶっかけた食事を摂らせたり、
異物を恥部に挿したり、
貼り付けにしてモデルガンで乱射したり、
熱湯風呂に押し込んでいたり、
うつ伏せに固定して背中に針を通して皮膚で受け皿を作って沸騰した油を流したり、
斧で両足を乱暴に切断したり、
首絞めながらシたり、
目玉や脳味噌に男根をいれたり、
ドラッグを使ったり、
身体を切り刻んで食べたり、
………とにかく色々みた。ありとあらゆるプレイをみた。本来どこにも明らかにされようのない個人PCからもハッキングして掘り起こしているため、ネットの闇に消えていたものも含めてゲテモノを避けることはできるわけもなかった。もちろん、静乃は今も五体満足に生きているから―――――――――――
なんてことを想像してしまい、また吐いた。ひたすらこの繰り返し。考えないようにすればするほどまた考えてしまう。八方ふさがり。フラッシュバックのようにあの光景がよみがえる。そして、また吐く。・・・・・・この数日間で5キロ痩せた。髪もボサボサ、目元のクマもひどい。服はその辺に散乱している。……竜崎からの命令が解除される、あるいはお目当ての動画を見つけるまで、この地獄は終わらない。ただ……カタカタ指を動かすのはもう疲れた。土曜から始めてるけど・・・今何時だ?・・・・・・一度風呂に入ろう。そうだ、次の動画をチェックしたら、一旦止めだ。ろくに寝ず、ろくに食べず、さすがにもう続けられない。
私はある個人PC内に保存されていた最後の動画をクリックした。すると……
「………待ってよ、なんなのよこれ……。」
食い入るようにその動画を見る。中身としては普通のセックスであった。勿論、相手は幼女なので、常識的に考えて異常であることに変わりはないのだが、ゲテモノを見続けてきた私はもう、慣れてしまった。けれど、画面に映っている一本のビデオ、そこに出演しているのは探しつつけていたある男、そして……………そして、出したくなかった結論を……、わかっていた、けれど見ないことにしたかった事実を認めざるを得なかった。
「うっ……」
やばいもう吐きそうだ。
私はすぐにビニール袋を探したが、ちょうどさっき吐いたのが最後のストックであった。急いで立ち上がり、トイレに駆け込もうとしたら、足元の服に足を滑らせ、そのまま前に倒れこむ。その時の衝撃をもろに腹に受け――――――――
「う゛お゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!!!」
我慢できることもなく、丸くなったまま、床にゲロをぶちまける。何度もはいていたから、胃袋には当然何もなく、胃液をそこにぶちまけた。すえた匂いと画面から聞こえる少女の喘ぎ声が部屋に充満して、混沌と化していた。
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重苦しく体を起こして動画を保存したあと、部屋を掃除して、ゆっくりと風呂に浸かり、無理やりパンを食べ、ソファに寝そべって仮眠をとった後、私はソファに座りなおして、竜崎のナンバーをコールした。3コールもたたないうちに眼前にウィンドウが表示され、いつものフィギュアの顔が出てくる。
『…ずいぶんやつれたな。ただ・・・こうして連絡を取るってことは、なにかわかったんだな?』
「ええ…」
私は一旦深呼吸をした。そして、キッと竜崎を見据えた。
「例の”男”を発見しました。それと……"萩原静乃"の姿も……発見しました……。彼女は……彼女は、シロです。」
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『ところで、君は自分のスマートフォンを確認したかな?』
一連のことを報告したのち、竜崎さんはそんなことをふと話してきた。
「いえ・・・それどころではなかったので確認なんてしていませんが・・・」
『なるほどね・・・そしたら簡潔に説明するが、明日君の家に国広君と緋色結衣に宮永龍華が来る。そして私もだ。』
「はあ・・・・・・え?いまですか?」
あまりに唐突な話で、すこしあっけにとられてしまった。いかんせんこの数日まともに寝ていなかったから、頭が全然働かない。
『彼女らの力によって萩原静乃の記憶が少し戻ってね、それに伴って少し話したいことがあるそうだ。どうやらとある楽曲を聴いたところ思い出したみたいなんだ。曲を聴いただけで記憶が戻るなんて、よほどその曲が人格形成に関わってでもない限りそんなことは起こらないだろう。もしかすれば、君が仕入れてくれた情報の裏付けにもなるやもしれん。』
「流れはわかりましたけど・・・それ、私と竜崎さんっていりますかね?」
『そこは少し私も不可解だ・・・。記憶を呼び戻すためのキーマンとして国広君が呼ばれるのはわかる。けれど、怜はまだしも私はいらないだろう。ただね、緋色結衣と宮永龍華のどちらかが”クロ”なら話は別だ。クロなら、我々を含め国広君を処理したいはずだ。』
竜崎さんのいうクロ・・・そう、静乃に告白券を使おうと”指図した”張本人であろう。竜崎さんは今回の一件について多くを語ってくれてはいないけど、流石に私も想像がつく。私以外に告白券を持っているとすれば、まず遼の鍵穴相手である、私と同次元の存在。しかし、使う理由が一切存在しない。となれば、第三者になる。遼が告白券の横流しをする理由もないから、私が知らないだけで他にも同次元の存在が移り住んでいることに・・・。いったいなぜ?送り込むのは私だけと機関から聞いている。――――――――竜崎さんの組織が新たに送り込んだ?もしそうなら、”告白券で静乃をレイプする”なんて強硬策に方針変更したってことに・・・・・・いや・・・・・・でも・・・・・・それならクロってわざわざ言わないよね・・・・・・。――――――――――――――――結衣さんと龍華さんの片方が、私と同次元の存在で、私の与り知らない機関に属していて、その機関が強硬策を講じてきた?龍華さんはともかく結衣さんは謎に包まれていることが多く、私も解明できてない情報があるけど・・・まさかね・・・
「・・・とりあえず、わかりました。私も万全の状態で彼女らを迎え入れようと思います。竜崎さんも、”準備”お願いしますね。」
『了解だ。』
そういって、通話が切れる。
私はPCのある小部屋に行き、床下を開けた。
「竜崎さんと違って私の言葉は記録されない。それに、この部屋は防音。この部屋に招き入れるのが、我々にとっても安全なのかもしれないわね・・・」
奥にしまい込んでいた、使うことがないと踏んでいた防刃ジャケットに、ハンドガンを取り出した。
「お願いだから、嫌な予感は外れて頂戴。」
私はそれらを身に着けた後”透明化”を施した。さあ、あとは迎え入れるための掃除をしなきゃね・・・・・・