8月26日 水曜
先日宮永部長から提案された、緋色会長と怜、竜崎を交えて静乃のことで話をしたいとのことで、放課後、静乃を刹那に預けた後、会長部長俺の3人はその足で現在怜の自宅へ向かっている。怜はといえば、今日も学校を欠席している。連絡自体は取れたが、体調があまりすぐれないとのこと。体調不良なのにわざわざ集まるってのも・・・と思ったりもしたが、体調不良の原因が寝不足らしいので、まあいいんだろう。
にしても、なぜ会長たちは怜と竜崎を混ぜて話をしたかったんだろう。二人はいらないんじゃないかな?そんなことを思いながら帰宅していた。2人は俺の後ろをついてきて、他愛もない話をずっとしていた。まあ部長が一方的に話してる感があったけれど。
「さ、怜ちゃんの家に着いたねえ。」
部長が大きく伸びをしてそう言葉をこぼした。
「じゃあ、国広君はあのねんどろいどを連れてきてください。」
「うっす。」
会長に言われるがまま、俺は隣に位置する自宅へ入った。玄関には靴がなかった。有希はまだ帰宅していない模様。叔父さんもどこかへ出かけているのだろう。俺はまっすぐ自室へ向かい、竜崎がいるはずの小部屋を覗き込んだ。
「やあ、お迎えかな。」
「そうだね、じゃあ行こう。」
「おっとその前に・・・」
竜崎は指を耳元に当ててくるくるさせていた。多分これ、念話のことだよな・・・
俺は例のイヤホンを耳に着けた。
【よし、受信はできたみたいだね。もう外していいよ。】
【ええと・・・わざわざこんなことする理由って?】
【まあそうだね・・・口裏合わせるときがあるとき便利かなって。】
はあ、とこぼし、竜崎を俺は掬い上げ、肩に載せた。
「よし、じゃあいきますか!」
竜崎は元気よく声を上げた。さあ、静乃の情報を聞き出すぞ・・・
俺は決意に満ちていた。
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「怜ちゃん・・・・・・ひどい顔してるよ・・・」
久しぶりに会った怜の顔はひどいものだった。睡眠不足と聞いていたが、眼の下の隈はくっきりと残り、あの象徴的な横ポニは雑にくくっただけのもの。髪もボサボサ。服装だけがいつもを取り繕っていたので、どうしてもそのギャップを意識してしまった。
リビングには怜の隣に俺と竜崎、対面には会長と部長が座っていた。細テーブルで仕切られており、手を伸ばせば届く、そんな距離にいた。
「まあ・・・いろいろありまして・・・」
「それは静乃関連のことで?」
会長がじっと怜のことを見据えていた。その瞳は冷徹で、少し背筋がぞっとした。
「――――――――ええ、そりゃあ、友人があんなことになるんだもの。自分に何かできることはないか、思い悩みもするわ。」
「へえ、怜ちゃん”も”そんな風に思うんだ。」
少し言葉にとげを感じるような、そんな返事が部長から飛んできた。怜の言葉に驚いているように見えるけど・・・
「私たちも何とかしたいと思ってるんだ。こんな悲しい事態、何とかしてやりたいよね。」
「そうそう、だから有益な情報を何としてもかき集めて、役立てていきたいんですよ。」
俺は何とか相槌をはさんだ。この集まり、やけに緊迫している。いつもなら相槌打つのにこんなにつらさを感じないのに・・・。
「本当、誰のせいでこんなことになったのでしょうね。」
会長は腕組みをしてため息をついた。その目は変わらず冷徹であった、
「それが――――――――――――」
そこで、俺は言いとどまった。
ちょっと待て、何かがおかしい。
”誰のせいで”?
いや、確かに俺たちはこれが人災だと思っている。けれど、2人は違うだろ?記憶喪失が誰かによって引き起こされるなんて、普通考えもしないだろ?疑うにしても、”何がきっかけで”じゃないのか?
そんなことを一瞬でも思った俺のことを、2人は見逃さなかった。
「それが――――――――――どうかしたの?」
部長の目がこんなにも据わってるなんて、俺は知らない。俺は部長のことをそこそこ見てきたつもりだったけど、そこから分かった情報は氷山の一角だったのかもしれない。
「いや・・・・・・その・・・・・・」
俺は部長の初めて見る姿にたじろいでしまい――――――――
「それが――――――――男子たちの中で知れ渡っている〈クールビューティ緋色会長の腕組みおっぱい〉なんですねえ!」
心に救うHENTAIの精神でごまかしてしまった。指摘された会長は、腕を組んだまま視線をゆっくり胸元に下げ、その後俺に視線を向けたままゆっくりと手を膝の上に置いた。口は笑っていたけど目は笑っていなかった。
【遼、ゴメンね。】
脳内に直接怜の声が響く。その声を聞いた瞬間、怜の鉄拳が頬を直撃した。
「アンタばっかじゃないの!?」
「国広、流石に今のは酷いよ・・・」
「・・・・・・え?男子たちそんなこと思ってたんですか・・・?」
じわじわとことを認識し始めたのか、少し顔に赤みが――――――照れが生じ始めた。俺は殴られた頬がきっと赤みを帯びているよ。
「まあまあ、結衣に限らず世の中の男たちは巨乳に弱いからさあ。静乃ちゃんなんてみんないつも釘付けだよ。」
「とくに、最近の静乃は昔そのまま、明るかったころの天真爛漫な状態ですからね・・・。まだ登校して3日目なのに、取り巻きができてますよ。クラスの男子なんて手のひら返して可愛い可愛い言ってますからね・・・。」
「・・・そう、その昔の明るかった頃の萩原静乃が、どうしてあんなふうになってしまったんだろうか。」
ここで、ずっと黙っていた竜崎が口を開いた。そうか、一応静乃の記憶封印解除の船頭を仕切ってるのは隠しているのか。だから何も知らない体でしゃべっているのか。
ただ、体を張って空気をやわらげたにもかかわらず、すぐまた背筋が凍るような空気に―――――――――
「・・・へえ、どうして貴方がそんなことを気になるのですか。」
「いやその、単純に好奇心だよ。私がよく知る彼女は覇気のない暗い少女だった。けれど、今の彼女は真逆なんだろう?何が彼女をそうさせたのか、すごく気になる。」
「ふうん・・・・・・。」
「そうだ、あなた方は萩原静乃の記憶を一部戻したのだろう?いったいどのようにしてやったんだ?」
「ええと、国広君から聞いていないんですか?国広君は話していないんですか?」
少々困惑気味に会長が返事をする。たしかに、少し白々しかったかもしれない。
「あらましはしゃべったんだけど、細部はむしろ俺も知りたいんだよ。てかそれを話すのが今日の目的では。」
俺はそう会長に答えた。会長は納得すると思いきや、むしろ少しにやついて返事をした。
「へえ、一昨日の話、私と部長は誰にもしゃべってないのに知ってるってことは、国広君は静乃さんから聞いたんでしょうね。で、その情報を国広君の口から昨日聞いた、と。」
「そりゃあ、貴女方が私とも話をしたいというから、なぜ?と思うのは自然だろう。事の成り行きを聴くのは当然だろう。何か問題でもあるかな?」
竜崎も竜崎でバチバチをかましていた。
「いえ、何も問題はありませんよ。」
「怜ちゃんも大変だったよね、
部長がにっこり怜をみつめた。
――――――――目が何も笑っていない。
それになんだ?記憶喪失の原因探し?寝不足ってそれが原因だったのか?
「・・・先輩方、何か私に言いたいことがあるんですか?」
この雰囲気に耐えかねて、ついに怜がしびれをきらした。
「いま言ったじゃない。」
「・・・原因を考えても、何もわからなかったわよ。」
「ほんとうに?」
「―――――――――――――――――宮永さんは何を言いたいんですか?」
「あーもうめんどくさくなってきたじゃあ単刀直入に聞くね。」
部長は頭をポリポリと掻くと、きっと怜を見据えてこう告げた。
「静乃ちゃんの記憶消去、あなたたちがやったんじゃないの?」