部長の信じがたい言葉を聞き、俺はその場に固まってしまった。
【遼、怜、落ち着け。不用意な発言はするなよ。――――――――――――彼女らがそう思うってことは、何か我々に思うところがあるのだろう。まず、そこの掘り下げからだ。】
念話で竜崎は俺らに待ったをかけた。確かに、ここで俺が突っ込んだところで―――――――――
「いったいどうして―――――――」
「国広君、なんのために記憶を消したんですか?」
竜崎がしゃべる前に、会長は俺にそんな言葉を投げかけた。どうして会長が俺を疑う?記憶?消せるわけないだろ。それに、告白券を使ったのならまだしも・・・
「な、なんで俺が記憶を消した前提で話が進んで――――――――」
「へえ、
俺が少し動揺していたのを会長は見逃さなかった。眼光の鋭さは増す一方であった。
「―――――――ちょっと待ってもらおう。記憶を消す?どうやってそんなことするんだ。意味が分からない。」
竜崎が静止をかけたが、
「―――――――白々しい人形ですね。」
会長は立ち上がって、苦虫を嚙み潰したような顔で竜崎を見下げる。そうして竜崎に対して手を上げようと右手を大きく振り上げ――――――――――たところで、怜がその腕をつかみ上げた。
「ちょっと、今あなた――――――――」
即座に動いた怜も凄いが、ただ、それ以上に会長は凄かった。つかまれた腕を即座にそのまま投げに利用して、ソファの後ろにたたきつけた。そこから寝技に転じ、怜をきつく締めあげる。その動きはとても一女子高生が取得しているものではない。何か武術でもやっていないとこんなことはできないだろう。
俺と部長は驚いて、慌ててそちらに駆け寄った。
「かっ・・・・・・」
「―――――――――ふうん、見た目以上に
それは着やせするタイプだって意味ではもちろんない。よく締めあげられた箇所を見る。会長の腕と怜の体の間に、隙間が見える。緩く締まっては全然見えないのに・・・。
「こうして目にすると、流石に信じざるを得ないね・・・。透明なジャケット?なにそれ。」
「って、いい加減にしなさい!」
怜は体から大きな音を出して会長の拘束から抜け出す。左腕がだらんと垂れていた。右腕は透明なジャケットの中に突っ込むように見え、そこからあるものを取り出して会長に向けた。親指を立て、人差し指が軽く曲がり、中指から下で何かを強く握って――――――――
「――――――――まさかここまでさせるとはね・・・」
「怜ちゃん!?」
「怜!」
俺と部長は叫ぶだけで、その場から動くことができなかった。怜の眼は本気だ。
一方会長は目を見開くと、両手を上に上げた。
「――――――――まいりました。けれど、私の推測は当たっていたみたいですね。」
その表情は、さっきまでの冷酷無比なものではなく、いつもの穏やかなものであった。先ほどまであんなに疑ってかかった人とは思えないほど、あっさりと引き下がる。これは別に、自分の身を案じたから引き下がったというよりは、
「――――――――怜、国広君、これは一杯食わされた。正直に話すしかあるまい。」
竜崎がそのようにこぼしたとき、怜はハッとして、右腕をゆっくりと下げ、その場にへたり込んでしまった。ゴトっと大きな音がなり、右手に持っていたと思われるものが転がった。
【申し訳ございません。一般人かと思って油断していました。逆にこのままでは、自分の身が――――】
【怜、起こってしまったことはしょうがない。まあ私の推測が正しければ、彼女らはシロと考えられる。おそらく、萩原静乃を思ったが故の行動だったんだろう。国広君も、もう隠す必要はない。】
さっきまでの緊迫した空気と打って変わり、いつもの和やかな雰囲気に戻った。正体がばれたことへの気まずさではなく、正体を隠す必要のなさへの安堵。
「ああもう、すごい緊張しちゃった。まさかここまで準備していたとは・・・。もし怜ちゃんがソレを使ってたらと思うと・・・。」
確かに、どう考えてもあれはハンドガン。怜はこの世界の人間ではないとわかってはいたから、なにか想像のつかないものを持っていると思ってい吐いたが、まさか現代の銃器を持っているとは・・・。
こうして考えると、竜崎たちの存在は非常に危ういように思える。おそらく、まだ俺が知らないだけで何か恐ろしい兵器を持っていてもおかしくない。ならば・・・同じ存在と思われる神前も・・・なにか危険なものを隠し持って・・・
「・・・そんなの持ってるなんて、流石にそれは俺も知らなかったゾ。」
「逆に、国広君はどこまで彼女らのことを知っているのですか。」
ふと俺に視線を移す会長。とはいえ、全てがすべてをしゃべるなんてできない。そもそもこいつらの目的は俺に恋人を作らせること。その先の目標は抽象的な話ばかりで話辛い。てか、恋人づくりなんてこと、俺の口から異性に言えるわけないじゃん!もしかしたら会長や部長が相手になることも―――――――――――――――――いや、会長は高嶺の花だし、部長はそういう目で見てこなかったしな・・・・・・。
なんて、思いながらポリポリ頭を掻いていた時、竜崎が口をはさんだ。
「宮永龍華と緋色結衣、貴方たちに私のことを話そう。加えて、これから話す話は他言無用でお願いしたい。」
竜崎はテーブルのど真ん中に立ち、真っすぐ彼女らを見据えた。
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改めてソファに座りなおした一同。怜は左腕の関節を外していたのだろうが、気が付いたら元に戻っていた。関節自在に外せるって、特殊工作員かな?いや、もしかして本当に特殊工作員なのかもな・・・。
一応怜のことを気遣い、俺はみんなの分のコーヒー―を淹れた。この家にはお茶がなく、コーヒーしかないのでしぶしぶそれにしたわけだが、時間がかかるからできれば避けたかった。
竜崎はソファを挟んで位置するテーブルの上、その端に立ち、全員に体を向けて話し始めた。
「我々は国広君の恋のキューピットなんだ。」
俺は口にしていたコーヒーを盛大に吹き出してしまった。幸い正面に座っていた部長までは飛び散らなかった。
「うわ、大丈夫国広?」
「まあ、そんな風に言われると驚くよね・・・」
周りのみんなは俺を汚物扱いせず、気遣ってくれた。なんて優しいんだ・・・ここの人達は・・・。けれど、竜崎、他に言い方ってものがあるだろう?
「―――――――――じゃあ、なぜ自称恋のキューピットが拳銃や透明なジャケットなんて物騒なものを持っているのですか。」
竜崎がボケ?をかましたのにもかからわず、会長はいたって冷静であった。そして、会長がそのように疑うのももっともである。というか、俺もそこは不思議に思った。改めて、竜崎たちの得体の知れなさを思い知った。怜とまともにやり合ったら、絶対に俺は勝てない。銃を持ち出せるくらいだから、殺そうと思えば殺せてしまう。となれば、おそらく怜と同じ世界の住人である神前も・・・いや、神前はレイプを主導するくらいだ。手段なんて択ばず、俺が邪魔とわかれば、容易に殺してしまうかもしれない。————————これはますます、神前のことをしゃべるわけには・・・。
「それは自衛のためだね。・・・まあ、まずは話を聞いてほしい。————————我々はこの世界の住人じゃなくてね。そりゃ、現代科学でこのように自在にしゃべる人形なんて作れないだろう?」
確かに、と頷く一同。
「でだ、じゃあなぜ異世界にいた我々が、この世界に干渉しているのかを説明しよう。国広君って、なぜかよくわからないけど周りに女性が多いだろう?けれど、それなのにもかかわらず本人の糞さのせいでいろいろなチャンスを棒に振っている。それがあまりよくなくてね、なんとか彼に彼女を作らせようといろいろな技術を使って画策しているわけ。」
ぽかんとする先輩方。そりゃ、わけわからないだろう。俺もわけわからない。
【怜、ここから先の話は幾ばくか突拍子の無い話も混ざっているが、気にしないでくれよ。具体的には、ここ数日気味にやらせていた件だ。そして国広君、君のことも少し真実から遠ざけて話をしようと思うが、許してほしい。】
【ああ、あれですか。————————ええ、わかりました。】
【初めから断っておいてくれるなら、しょっぱなのあれもなんとかしてしてほしかったゾ・・・。】
念話で念押ししてきた竜崎を一瞥して、再び俺はコーヒーに口をつけた。
「ただ、ここで問題があって、我々の世界の別の人間が、国広君の彼女づくりを阻止しようとしているのさ。」
「はあ、正直ここまでずっとわけがわからないのですが・・・。まあ、それはそれとして、具体的にどう阻止しようと?」
「国広君って処女厨なんだけども――――――――」
俺は再びコーヒーを吹き出してしまった。今度も部長に飛び散りはしなかった。飛び散りはしなかったが・・・
「国広・・・それはちょっと夢見すぎというか、心にゆがみが生じているんだけど・・・」
「国広君、流石にそれは引きますね・・・。たとえそう思っていたとしても、他人に言わないほうがいいですよ。」
「遼、あなたまさかそんな趣味があったとは知らなかったわ。—————————あ、だから初対面のあの時――――――」
その時、怜に初めて会った時のことがフラッシュバックした。そういや俺、怜に対して告白券を使えるかどうかの時処女いじりをしていたような・・・。どうして俺は・・・あんなセクハラを・・・。
「え?国広前科あるの?じゃあ、竜崎さんのいうことは冗談じゃなくてガチなんだ・・・」
怜の一言のせいで、周りの人間がドン引きしていた。竜崎、流石にこれは許せないゾ・・・
何とか言い返したかったが、コーヒーでむせてしまってそれどころじゃなかった。
「――――――――まあ、言ってしまえば処女じゃなくなれば、国広君の好みから外れるわけ。つまり、国広君の彼女候補の女性を片っ端からレイプしていけば、彼女づくりは阻止できるって話だ。」
これまで俺をゴミを見る目で見ていた一同が、竜崎のその一言を聞いた時、竜崎に視線を移した。場の空気がぴりつくように感じた。
「――――――――にわかに信じられませんが、私たちの世界の常識・倫理でものを考えてはいけないのかもしれませんね。わかりました。ひとまずは信じましょう。国広君の気持ち悪い性癖は、できれば信じたくはないのですが。」
会長、どんどん静乃のように俺の扱いが辛辣になってきてませんかね・・・?
「てか、もし相手がレイプ魔だったら、私たちも国広と知り合いだから危ないんじゃ・・・。いや、結衣はいいかもしれないけど私は絶対勝てないよそんな相手。」
「部長、その発言は部長も会長も未経験だって白状しているものでは・・・?」
「――――――――国広君、そういうところが糞だって言われるんですよ?」
会長の眼は、何も笑っていなかった。やってしまった、と思った。まじでやっちまった。バッドコミュニケーションを永遠に繰り返している。何も学ばないのか俺は。
「でだ、そのレイプ方法が力任せだったら緋色君のような武術経験者は返り討ちにできるんだが、我々の世界の技術を悪用して意のままにしてしまおうとするんだ。相手が武術経験者かどうかは、あまり関係がないんだ。いわばマインドコントロール、こちらの意思なんて関係ない。そして、あいつらの標的はより国広君に近ければだれでもいい。」
流石に告白券というワードは、出す必要がないか・・・。にしても、あの告白券、ある意味洗脳だよな・・・と思っていたから、竜崎の口からはっきりそう言われると、やはりうかつに使っていい代物じゃないと自覚させられるな。
なんて思っていたら、部長が緊迫した顔つきで竜崎を見ていたことに気づいた。
「・・・もしかして、その相手ってもしかして・・・?」
「ああ、萩原静乃が、奴らの標的となったのだ。ただ――――――――――――」
「―――――――うまくいかなかったと?」
会長が竜崎の話にに口をはさんだ。
「おそらくは、マインドコントロールを試みたが、うまくいかなかったのだろう。どうしてうまくいかなかったのか。そもそも決行したのはだれなのか。そこはまだわかっていないんだ。私も怜も、ここ数日そこを調査していたのだが・・・。いずれにせよ、マインドコントロールは相手の脳に付加をかけることは間違いない。その過程で、おそらく萩原静乃の記憶封印が起こったのだろう。そして、中途半端に行われたマインドコントロールをそのままにしておくとは思えない。あいつらにとって萩原静乃に対するだから――――――――」
竜崎は一拍置いて、2人の先輩方に言葉を告げた。
「萩原静乃の記憶の封印解除と身の回りを守るため、彼女と一緒に行動してほしい。」