6月12日 金曜
「ははは、もう駄目だ。あははははhhhhhhhh」
「ど・・・どうしたっ・・・・・・?」
カイジが教室に入ってきた途端、すぐさま心配された。ちなみに、俺は自分の席に座っていて、周りには静乃やら怜やらが取り巻いている。
「朝からずっとこの調子なんだよね。道でであったとき、あまりの気持ち悪さに声をかけちゃったよ。いつもなら無視していたのに。」
「この狂いっぷりただ事じゃなさそうですね。」
「いったい何があったのかしら。」
「そうだな・・・・・・・」
静乃は長考した後、
「ぼくは、なんかのゲームで舐めプレイをしていたとき、逆にぼこぼこにされたと考える。」
「hhhhhhhっはははhっはは・・・・・・御名答。」
場に、木枯らしが吹いた気がした。
「自業自得ですね。笑えます。」
哀れなものを見るかのように刹那に貶された。
「救いようがないわね・・・。」
手を額に当てて怜に呆れられた。
「ハッ。予想が当たっていたことにびっくりだ。」
静乃に鼻で笑われた。
「馬鹿かっ・・・お前はっ・・・そんなんだから足元をすくわれるんだよっ・・・・・・・・・!」
カイジに力説された。
「だからフラグフラグ言っていたのに・・・」
「そこまでいうかよ!」
まさか四人もの人から罵倒を浴びせられるとは思ってなかったよ。
・・・て、
一同 「「ん?」」
ちょっとまて、一つ場にそぐわないものがなかったか?なにやら俺のポケットから可愛らしい声・・・そう、例えるなら藤田咲の声が聞こえたんだが・・・幻聴だよね。まさか、そんなことが・・・。
恐る恐る視線を下に向けると、ポケットは『空』だった。
「遼っ・・・!なんだこれはっ・・・!」
「へ?」
「だからっ・・・・・・・机の上っ・・・・・・!」
机の上には、ミクさんのフィギュアが立っていた。最初からそこにいましたと言わんばかりの無駄に堂々とした態度で。
このとき、カイジらは目を丸くして、俺と怜は目をそらした。
「・・・・・・・・・なんで遼君のポケットに入っていたフィギュアが机の上にあるんですか?」
「・・・・・・・・・・落ちたんじゃないかなー。」
「椅子に座っているのにか?」
「あはは。」
俺は怜に緊急要請を出した。目で訴えようとした。その真意をくみ取った怜は
「まあ、こまかいことはいいじゃない。それより―――。」
そう言いかけたところで、
「君はもっと私の言うことを聞いた方がいい。あんなことでは達成できないぞ?」
机の上から聞こえたその声が怜の話題転換を遮った。
「あ、あはは、ちょっとトイレ行ってくるわ!」
俺は右手で怜の腕を引き、左手では竜崎を鷲掴みにして教室を出た。
「あんたバカぁ?」
普段の俺なら、今の発言には思わず、『お前はアスカかっw』と突っ込みたくなるが、そんな余裕はなかった。なぜなら俺は廊下の隅、一目の付かないところで正座をさせられていたからだ。理由は語るまい。
「私をあの場から連れ出したのはいい判断ではある。だけれど、やり方ってもんがあるでしょ?ましてや、トイレに行ってくるだなんて・・・あからさまもいいところよ。」
「返す言葉もありません。」
「はっはっは、君は実に愉快だなあ。」
「あんたは少し黙ってなさい。」
怜はミクさんにベアークローを決めた。無論、相手はフィギュアだからベアークローというよりは野球ボールを握りつぶす感じか。
「ごめんごめんごめんごめん、わかった。わかったから一回離してくれぇ!」
怜は力を緩めると同時に床に放り投げた。ミクさんは柔らかいのか、ぽよんぽよん跳ねている。ああ、微笑ましいなぁ・・・。
「まあいいわ。竜崎さん、人前で話すと厄介になるとか言っておきながら、さっきのアレはなんだったんですか?」
そんな話してたのか・・・俺はアドアーズに行ったとき竜崎とそんな話したけど・・・まさか、神の視点とかで俺らの会話を聞いたとか・・・って、まさかね。
「えっと、なんかめんどくさくなっちゃった。てへぺろ☆」
このとき、可愛いミクさんを見て心打たれた俺に対し、怜には木枯らしが吹いていた。
「・・・はぁ。もう疲れたわ。あと勝手にして頂戴。責任はとらないからね。」
怜は重い足取りで教室へと向かっていった。
「にしても、本当に大丈夫なの?」
俺は竜崎に問うてみると、
「奇異の視線を受けるのは、私は一向に構わない。だけど、君が受けることに対してはためらいがあった。さすがの私でも、変に陥れたりはしないよ。でも、君の友達を見ていると、そんな心配はいらないってわかったんだよ。まあ、私自身、ただじっと黙って動かないのは疲れるし、暇だからね。」
こいつなりに俺の事を気遣ってくれていたのか。まあ、確かに、普段から変なことしでかしている俺からしてみれば、これくらいの変化はなんてことないのだろうと考えたのだろう。てか暇って何だよ。お前はこっちの世界に来て仕事をしに来たんじゃないのか。
「――というわけで、なんかミクさんがしゃべり始めたんだよ。」
「何が、『というわけで』だよ。」
「そんな不思議なことがあるんですね。」
「可愛いからっノープロブレムだっ・・・・!」
詳しい話を話すわけにもいかなかったので、適度にぼかしながらみんなに説明した。
静乃は素直に驚いていた。カイジは目が光り輝いていた。こいつの思考が単純で助かったぜ。二人ともさほど気にしてはいないように見えたのだけれど、静乃に至ってはそうではなかった。手を額に当てて一見やれやれとでも言いたそうな風貌であるが、長年の経験からして、おそらくこれは考え事をしているのだろう。なにかとこいつは勘が鋭いからな。
「・・・・・・・・・大方、怜が関与しているんでしょ?」
予想は的中したようだ。
てか、さっきあからさまに怜を連れ出したからむしろ勘付いて当たり前か。これは誤魔化そうか、いや、それとも・・・。
視線を横に流したら、怜は俺に対して無表情であった。だが、『だからいったじゃない。』という思いがオーラとなってひしひしと伝わってくる。本当に申し訳ない。
静乃は、かるく挙動不審になっていた俺を見かねたのか、優しい表情になった。
「まあ、詳しいことは聞かないよ。なんか長くなりそうだし、聞いたら不味いことなんだろ?さっきのあからさまに怜を連れ出す様といい、説明不足なことといい。」
すべてお見通しってわけか。でも、詳しいことは聞かないって言ってくれてるし、本当、静乃には感謝だな。
軽く安堵の息を漏らした俺であったが、その息はまるで砂漠から雪山に放り投げられたかのようにすぐさま凍りつくこととなってしまった。
なぜかって?それはだね・・・
「兄さん!今日の栞ちゃんの様子がおかしかったんだけど、なんでかわかる?」
帰宅後、部屋でテスト勉強していた(部活は部長の諸事情により中止)ところに有希が扉を横に開けるような勢いで部屋に入ってきた。
「ああ――・・・ぶっ壊れてた感じ?」
「そうそう!まるで死人のように椅子の背もたれに寄りかかっていて、『栞はダメな子です。栞はダメな子です栞は(ry』って感じで呟いてて、目の焦点は定まってなくて、呼びかけても応答なし。激しく揺さぶってやっと意識を取り戻しましたけど、それからもずっと『私はもう駄目ですぅぅぅ~・・・』って縮こまっちゃって・・・。」
「やっぱりか。」
そりゃあ、俺だって昨日の大敗がショックすぎてぶっ壊れてたからな!
「え?やっぱり何か知ってるの!?」
「ああ、ちょっとな、昨日事件があってな。」
「事件――――――――はっ!まさか兄さん・・・・・・・酷い!栞ちゃんに乱暴するなんてっ―――――しかもあんなになるまで――――――通報してやる!」
「はいはい、一回落ち着け。」
「兄さん、ここは無法国家じゃないんですよ。やっていいことと悪いことが―――――」
なんか長く続きそうだから、放置しとくか。てか、有希は叔父さんに対しては『下品なことを言わないでください!』とか言っておきながら、自分も危ない発言をしているってことに気付いているのだろうか?
「ねえ聞いてる?もしかして頭はお留守なんですか?お留守なんですかぁ?ねぇ?」
ちょっと有希のうざさが増してきたなぁ・・・てか、かなりうぜぇなぁ・・・ああもう!
「だあああああああうるせえええええ!!!」
さすがの大声に驚いて――――――はいなかった。びくついているわけではなく、むしろ堂々としていた。
「男の人はすぐこれだ。大きな声で怒鳴りつければいいと思ってる。そこが知れるね。サイテー」
「あのな、まずな、俺は柄谷に乱暴はしていない。お前が朝見た柄谷がは、ゲームで大敗したからぶっ壊れていたんだ。これでおk?てか、今かなり疲れてるからここで理解してほしいんだが。」
「あぁなんだ、ゲームか。起こって損した。疲れたから寝るね。」
呆れた表情を浮かべて有希は部屋から出て行った。
「まったく・・・人騒がせなやつだ。」
それにしても、今日は一刻も早く寝たい。だけど寝れない。試験勉強しなきゃならないから。悲しいな、学生というものは。
ふと今日あったことを思い返してみる。なんと竜崎がみんなの前で『なんかきゅうにしゃべれるようになっちゃったんだよね~』とサラッと言ったのだ。人間がそんなことを言えば、信じないのは当たり前であるが、今回はそうではない。なぜならフィギュアがしゃべっているからだ。だからこそ、みんなはこの話をすんなり信じた。というか、信じざるを得なかった。もっとも、竜崎が神で、俺に呪いをかけに来た存在だとかは言っていないが、それについてお隣さんとなった怜と一悶着あったとは言っていた。まあ間違いではない、間違いではないが・・・。
まあそれのおかげで、なんとかあの場を乗り切ったのである。
6月13日 土曜
「まったく、俺のライフポイントはどんどん減り続けていくぜぇ・・・」
俺は愚痴を一つこぼした。というのも、今俺はバイト先で給仕にいそしんでいる。ただ、テスト前の貴重な休みの時間をバイトに割くのはかなりきついものがある。しかも、土曜は午前午後だからな、体力面と精神面でLPがどんどんなくなっていくのも無理ないよ。うん。まあ、単純に休みのシフトを入れればいいのだが、完全にタイミングを逃してこうなってしまっている。自己管理の甘さにあきれるばかりである。
「それにしても・・・」
まったく、疲れひとつ見せないで先輩は料理を作っている。先輩はなんでこんなにもいろいろな意味で余裕なんだ?生徒会長なんだから俺よりも時間がないはず。加えてテスト期間ゆえに勉強時間を増やさないといけないはず・・・・・・・なんか時間を有効に活用する方法とかのコツでもあるのか?ちょっと聞いてみようか・・・
「先輩、ちょっといいですか?」
「はい、なんでしょう?」
先輩は視線はこちらを向けず、目の前のフライパンに集中させている。
「なんで、時間ないはずなのにそんなに――」
「ああ――――――――その手の話は仕事に少し余裕ができたら願いしますね。」
まあ、当然っちゃ当然の対応であった。
「さっきの話なんですけれど―――――」
俺は客が減るのを待っていたのだが、俺の願望とは反して客はむしろ増え続けた。結局、休憩時間まで待つこととなり、現在、休憩室でで先輩と二人きりで机を間に対峙し、先ほどの話に入ろうとしているところである。
「簡単な話、テスト前に困らないほどに毎日勉強しているからですよ。」
「そりゃそうっすよね・・・・・・。でも、バイトとかあるのに、そんな勉強する時間ってあるんですか?趣味の時間とかもありますし。」
それを聞いた先輩は『確かにそう・・・ですねぇ―――――――』と適当に相槌をし、それから指を組んで肘を机の上につき、指の上に額を乗せるようにして下を向いて黙り込んだ。口を開いたのは、それから数十秒たってからである。
「バイトや仕事やらで、確かに私は家での時間は全然ないですが。まあそうですね、あえて貴方の疑問に回答するならば、合間の時間をぬかりなく使っているってことでしょうか。たとえば、登下校の電車の中、学校の休み時間、自分のシフトまでの時間とかですかね。時間は皆平等に分け与えられています。ただ勉強する時間を創っているってわけです。」
「なるほどなぁ。」
俺は感嘆した。時間を使うというより創るといっていることに感嘆した。
確かに、俺は電車通学ではないから先輩が言うように登下校では勉強でいない。でも、バイトに向かう際に電車を使うときはできそうだな。
「まあ確かに、君は無駄な時間が多すぎるからなあ。」
「なんと辛辣な――――――――って、ん?」
なんだか昨日のデジャブのような―――――――――
かわいらしい声の聞こえた方向を見ると、テーブルの上に俺のカバンから抜け出した竜崎がたっていた。
「・・・・・・どうしてそんな話がめんどくさくなりそうなことをするの????」
どっと疲れが押し寄せてきた。案の定、会長は竜崎の方を見て固まってしまっている。
口を開いたのは、数十秒経ってからであった。
「・・・国広君の腹話術?にしては、フィギュアの口元動いてましたよね・・・なんですか、このオカルトは。」
「なんなんでしょうね。僕も疑問です。ある時急にしゃべりだしたというか・・・なんかこいつどこにでもついてきたがるみたいなので、仕事場にも連れてきてしまいました。カバンの中に入れていたはずなんですけど、無理やりはい出てきたみたいで・・・やっぱりまずかったですよね・・・。」
「いやその、ホールとキッチンに入らなければどうでもいいですよ。とりあえず、こんなオカルトもあるんですね・・・」
会長は無理やり納得してくれたのか、この話題はこれきりにして、休憩室から出ていった。ああもう、めんどくさ・・・どんどんいろんなひとにしられていく・・・。
俺はもう、働く元気がすっかり抜け落ちて、その場に突っ伏してしまった。
・・・・・・そういえばさっき先輩、『バイトや仕事』って言っていたけれど、これって同じことだよな?単なるいい間違いかなぁ。