タマゴのカラを割らないでっ!   作:すうどんたくろう

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4-5-1 狐疑逡巡

8月27日 木曜

 

 

 先日あまりに多くのことがありすぎた。恐ろしい剣幕だった緋色会長と宮永部長の怜への詰め寄り、その和解、その晩における怜と竜崎との直接の対話、就寝間際の竜崎との念話・・・・・・。普段過ごしてきた日常からかけ離れすぎていて、現実味を感じられない、なんてことを半年前の俺なら思っていたであろう。しかしながら、魂をフィギュアに憑依させたことによりあちこち動き回っている竜崎を毎朝目にするのだ。嫌でも自覚させられる。いつ静乃が襲われてもおかしくない。俺だってその対象になることも・・・ということを思いながら、体の目覚めが脳の目覚めに追い付いていないまま、寝ぼけ眼をこすりながら制服に着替えた。竜崎は今日はついてこないようだ。というのも、もし俺が神前にやつを見せてしまうと、隠密行動をとる理由がなくなって、強硬策に出る可能性があるからだそうだ。だから、常にあいつと連絡が取れるよう、念話の準備はしておくこととした。

 のんびり着替えていたらすっかり飯の時間になっていた。いつもなら俺を呼びに有希が部屋に突撃してくるのだが、今日はそれがなかった。だからこそ、こんな時間になるまでボヤっとしてしまっていた。部屋を出て階段を下り、リビングに入ると、そこには有希と叔父さんの姿以外にもう一人――――――――――

 

 

 「おはよう遼!なんか早く起きちゃったから、さっさと学校行こうかな、でも記憶失ってあまり日が経ってないしまだひとりで学校行くのは不安だな、って思ってたんだよ。だから、早く家に行って、家の中で待たせてもらおうかと思って!」

 

 

聞いてもいない理由をぺらぺらしゃべっていたのは、昨日の話の中心にいた静乃本人である。ソファに座って、コーヒーを飲みつつテレビを見ていた。なんか、今日やけにかわいく見えるな・・・家の中にいるから?

 

 

 「いやー、有希ちゃん、このコーヒー凄く美味しいね。コーヒー淹れるの天才かな??」

 「そんな、普通に淹れただけですよ。それでも美味しいなら、きっといい豆だからですよ!」

 「だって、コーヒーをブラックで飲んで美味しいと思ったの、()()()()なんだもん。」

 「そしたら、やっぱり私が天才なんですね~~~~!!!」

 

 

そして、俺の返事を待たず有希に話しかけていた。なんとまあ自由というか・・・ん?コーヒーは飲めるんだな。脳みそだけが過去に飛んで、肉体は変わらないから、味好みは高校生のものと変わらないのか。

有希はご飯を食べながら、にこやかに静乃に微笑んでいた。・・・なんかやけに有希の物腰が柔らかいんだよな。飯食ってるとはいえ、声量もセーブされているし――――――――そうか、有希と静乃は精神年齢が3つも離れているんだもんな。そりゃ、小学生と高校生を比べたら、精神的な安定度合いは異なるか。

 

 

 「おはよう。体調とかは問題ないみたいだな。」

 「そうだね。ちょっとずついろんなことを思い出せてきているしね。」

 「え?そうなの?」

 

 

それはかなりの朗報だ。明らかに快復方向に向かっている。

 

 

 「うん。まあ勉強してたところとか日常生活の一部分というか。プライベートのところはまだあんまりなんだけど、どうメイクしていたのかとか、この公式の証明はどのようにしていたとか、そういったところはね。だからほら!昨日とメイク違うんだよ!」

 

 

そういってこちらに近寄って、顔を寄せる静乃。ちょっとこんなに近づくとドキドキしちゃうだろ。でも、やけにかわいく見えたのは納得した。そうか、メイクのおかげか・・・。あれ?いつもの静乃ってメイクしてたっけ。・・・・・・やばいな、あの目のインパクトが強すぎて、その周りをあまり見てこなかったな。

 

 

 「刹那ちゃんに教えてもらったメイクもいいんだけど、一回だけじゃやっぱ完全に覚えきれないね・・・。手慣れたほうでやっちゃった。―――――――で?どう?感想ほしいんだけど。」

 「あ、うん・・・・・・いいと思うよ。」

 

 

すごくかわいいと思った、までは言葉に出せなかった。こんな至近距離で可愛いなんて、なんだか気恥ずかしくて・・・。

 

 

 「――――――ふうん、まあでも、その顔見る限り、好感触ではあるかな。失敗はしてないみたいだね。」

 「だから言ったじゃないですか。よくメイクできてるって、めちゃくちゃ可愛いってあれほど言ったのに。そして兄さんは絶対照れて可愛いって言わないって。」

 「そうだぞ。遼は女性と会話はできてもコミュニケーションには難ありだからな。ちょっと静乃ちゃんも鍛えてやってくれよ。こいつに適切なコミュニケーションとはなんなのかってのをさあ。」

 

 

全てお見通しであった。しかし叔父さん、独身の中年がそんなことを言われたくはないよ・・・。

とはいえ、こんなことで時間をとっていられない。さっさと飯を食べなければ・・・。

朝から静乃に会えたのは好都合だ。さあ、ここからは静乃のそばにずっといてやらないと。あいつらが攻めてくるのは、もはや時間の問題なんだ。

 

 

 

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 静乃・有希と共に家を出ると、そこにはすでに怜が立っていた。しばらく学校を休んでいたため、久々の登校となる。ただ、その顔は初めて見た時のような可憐さは薄れていた。先ほど静乃とメイク云々のやり取りをしていたからより注目してみてみたら、眼の隈を消す程度のをメイクはしていたのがわかった。髪もいつものサイドポニーテールではなく、しばらずにおろしただけ。ストレートも悪くはないんだが、いかんせんあまりに顔が死んでいる。これじゃ前の静乃と同じだよ。

 

 

 「おはよう怜、ずいぶん疲れているようだな。」

 「本当ですよ!?数日見なかったですけど、とんでもないこと顔してますよ!?」

 「そりゃあ、昨日の今日だもの。しかも()()()()()()()()()のでしょう?」

 

 

怜の言うあのあと、というのは、俺が寝る前に竜崎に話した内容だろう。もう怜に話が渡っていたのか。・・・話したの、結構遅かったんだよな。それから怜に報告したとなれば、ただでさえあまり寝れてないのにさらに眠りを妨げられたのか。少し同情するな。

 

 

 「・・・おはようございます。病院ではすみませんでした。」

 

 

静乃はそうして怜に敬語で話しかけていた。――――――――そうか、怜は数日作業していて休んでいたから、久しぶりの再会なのか。

 

 

 「いえその、私も無神経な発言をしたわ。ごめんなさい。」

 「そんな、謝らないでください。いいんですよ。私の記憶のために一生懸命になってくれていたってこと、刹那ちゃんや結衣さんから聞きました。うれしいです。――――――――やっぱり同い年なのに敬語辛いや。ため口で行くね。これまでの私と友達だったんでしょ?これからもよろしくね。」

 

 

そういって静乃はずんずん前に進んでいった。怜とも和解できて、徐々に諸々の問題が解決していく。この調子で、根本の記憶の問題が解決すればいいのだが・・・

少々歩くと、そこには刹那が腕組みしてこちらを待っていた。こちらに気づくと、軽やかにこちらにむかっくる。ただ、その顔は近づくにつれ一気に険しいものとなった。

 

 

 「怜!?ちょっとひどい顔してますよ!?」

 「まあ寝てないだけよ・・・。本当にいろいろあったのよ。気にしないで。寝不足以外は大丈夫。問題ないわ。」

 「そういうならいいんだけど・・・」

 「そうそう!刹那ちゃんも気にしなくていいよ。怜ちゃん、こう見えて結構ぐいぐい私に話しかけてくるしね。人は見かけによらないんだね~」

 

 

人は見かけによらない、という言葉が静乃から出てしまったらもう刹那は何も言うことができない。これまでの静乃の見かけはひどいものだったからな・・・。一息ついた刹那は、学校の方へ向き、歩みを進めた。これでまた一人増えた。計5人の集団登校、朝に襲われることはあるまい。

 

 

 

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 何も問題も起こらず登校を終え、授業を受ける。これから起こるかもしれないことを考えると、とてもじゃないが、まじめに授業を受けることができなかった。気が付くと静乃の方を見ている。彼女は真面目に板書をとっていた。頷きながら書き写していく様を見ると、もう完全に順応しているのだなと理解できる。記憶を失った影響は、もう授業には表れていないのだな・・・。

 

 昼休み、昼食を取りに行くということで、静乃に何か変なことが起こらないかを見張るためにも、彼女と一緒になるべくいようと思っていたのだが・・・

 

 

 「静乃!一緒に食堂行こうよ。」

 「ああいいねえ!行こう行こう!刹那ちゃんも行くよー。」

 「そうですね。いきますか。怜も早く来てくださいねー。」

 

 

授業が終わると静乃の周りには女子たちの人だかりができていた。刹那だけではない。これまであまり交流して来なかったクラスメイトとも笑顔でコミュ委ケーションをとっていた。これから集団で、しかも多数の学生が集まる食堂へ行くのだ。変なことは起こるまい。今の静乃はかなりの目を引くから神前の目には留まるかもしれないが、あの女子の団塊をかき分けて入っていける程図太くはないとみている。怜もついているのだから、武力行使に出たとしても何とかなるだろう。俺にできることはない。

 

・・・月曜、火曜と薄々気づいていたが、今の静乃を見ていると、小学校の頃を思い出す。もし、彼女が小学時代に襲われさえしなければ、こんな高校生活を送っていたのかな・・・。もし、私生活に及ぼす記憶封印の影響が小さくなって、何も不自由がなくなった時、果たして記憶を復活させることにどれほどの意味があるのだろうか。確かに静乃を狙うやつらを捕らえることは最優先で行わなければならない。しかしながら、想起はどうだ?こんなに幸せそうな静乃を見ていると、無理やりトラウマを掘り起こさなくてもいいのではないか?もともと襲われたのがイレギュラーなんだ。異世界人のせいで本来なぞるべき未来を変えられてしまったのだ。5年間の記憶を失ったとしても、今の静乃なら、その5年分を取り戻す勢いで新たな人間関係を構築していきそうな・・・。卑屈で暗い、毒舌な前の性格よりも、誰にでも分け隔てなく交流する天真爛漫な今の性格の方が、多くの人から望まれて・・・・・・・・・

 

 

 

――――――――なあ静乃、お前は、トラウマな過去を思い出したいか?それとも、悲しい過去をすべて忘れて、新たな人生を歩みたいのか?

俺にはわからないよ。言ってくれよ。今までさんざん悪態ついてきただろ?――――――――ここにきて決意が揺らいでいる俺を詰ってくれよ。

俺は、常に笑顔でいる今のお前を見ていると、どうしたらいいのかわからなくなってくるよ・・・・・・。

 

 

とにかく誰かに相談したかった。とにかく、静かなところに―――――――――

俺は、亡者のように重い足取りで教室を出た。

 

 

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